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戦国小町苦労譚 作者:夾竹桃

天正五年 東国統一

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千五百七十八年 五月中旬

信忠が指揮を執る北条征伐は順調に推移していた。盤石な兵站を背景に、決して無理をしない慎重な攻略を続けることにより、ゆっくりではあるが着実に北条氏を追い詰めつつあった。

ことに北条側の支城間の連係を破壊する工作は予想以上の成果を上げる。隣り合う三か所の支城があれば、圧倒的攻撃力で中央の支城を瞬く間に制圧してしまい、各支城が孤立するように仕向けたのだ。

互いに(かば)い合えない距離となった支城の城主は、亀のように首を(すく)めて守りを固くすることに終始する。

こうなってしまえば城外の情報を得ることすら容易では無くなり、斥候を放とうにも待ち伏せしている織田軍によって捕らえられてしまい、誰一人として戻ってこない有様となった。

刻一刻と減っていく兵糧の備蓄を前に、支城の城主たちは焦り始め決断を迫られることとなる。彼らが取りうる選択肢は二つ、援軍が来ることを信じて籠城を続けるか、条件の良い間に降伏するかだ。

そして一向に好転しない戦況を(かんが)みた城主たちは後者を選択することとなった。


「若様、ご下命のあったほぼ全ての支城が陥落しました」


「ほぼ全て? 報告に当たっては具体的な数値で表現するよう申し渡したはずだ」


伝令兵の曖昧(あいまい)な物言いに信忠が注意する。指摘を受けた伝令兵は襟を正して正確な報告を述べた。全てを聞き終えた信忠は一つ頷くと伝令兵を労って下がらせる。


各支城の連係を切る戦略をとっている関係上、緒戦が最も挟撃を受ける可能性が高く、攻略が進むにつれ各支城間の距離が離れるため攻城が楽になる。

房総半島より侵攻を開始した関係から関東平野全域に点在する城々を手中に収め、現時点で織田軍が把握している約30にも及ぶ城の内、実に七割を超える23までをも支配下においていた。

残り三割についても、支城として機能し得るのは沼津(ぬまづ)城、山中城といった小田原城以西の物が中心となり、他は分断されたまま積極的な攻勢など望めない状態となっている。

もはや北条は俎板(まないた)の鯉と言っても差し支えない状況となり、信忠は静子や信長が常々口にしている『戦う前に勝つ』という言葉の意味を噛み締めることとなった。

今になって対武田戦を振り返れば、いかに自分が準備不足であったかを痛感してしまう。また入念に準備をするだけの余裕を生み出している兵站及び諜報の重要性は言うまでもない。


「生き恥を晒す前に忠告してくれれば……と思わないでもないが、当時の俺は果たして聞き入れただろうか」


信忠は悔恨を込めて独り()ちるが、今は過去に囚われるべきではないと頭を振って雑念を払う。そして信忠は招集した諸将を前に宣言する。


「北条はもはや虫の息よ。皆の者待たせたな、ついに時は満ちた!」


信忠の言葉に諸将たちは沸き立った。第二次東国征伐は異例の大規模遠征に加えて、長期に及んでいるため諸将たちは焦れていたのだ。


「北条どもはことがここに及んでも、未だ我らに勝利できると思いあがっておる。ならばその増上慢(ぞうじょうまん)を真っ向から叩き伏せ、天下に我らの覇業を示そうではないか! いざ小田原へ!」


信忠の号令一下、諸将たちが気炎を上げる。北条氏にとって小田原城は繁栄の象徴であり、小田原城が健在である限り彼らの心が折れることは無い。

また小田原城は総構(そうがま)えと呼ばれる構造を持っており、小田原城とその城下町を丸ごと囲い込む外郭(がいかく)で守っている。

つまりは補給線を丸ごと内部に抱え込んでいる要塞都市であるため、兵糧攻め等が通用しない。

史実に於いて、秀吉が小田原征伐を行った折には、総距離9キロメートルにも及ぶ大規模な堀と土塁によって要塞化されていたと言う。

そんな小田原城だからこそ信忠は入念に準備を続けてきていた。焦れる諸将を抑えてまで、徹底的に周囲の支城を潰して回ったのは小田原城を外界から切り離し、完全に包囲するためであった。

こうして外と連携できなくなった小田原城に対し、信忠は外郭に存在する出入口である各虎口(こぐち)に自軍の将兵を布陣させた。

小田原城のほぼ真南に位置する早川口から時計周りにぐるりと真東の山王口までを織田軍または同盟軍で取り囲む。空いている南東方面は海に面しているため、九鬼水軍及び長宗我部の水軍が受け持つことになる。

早川口から水之尾口に至るまでの西方面には総大将となる信忠本軍を置き、荻窪口から久野口が存在する北方には柴田軍が、井細田口や渋取口がある東方は上杉軍及び徳川軍が陣取る構図だ。

当初、徳川家の出陣予定は無かったのだが、機を見るに敏な家康は軍を率いて駆け付けたため参陣を許された経緯がある。


五月も中旬に差し掛かろうかという頃に、この小田原城包囲網が完成した。北条氏としても陸海ともに完全封鎖されることなど未経験であるため、北条軍全体に動揺が走る。

信忠は北条軍が動揺から立ち直る前に次なる手を打っていた。小田原城の包囲が完成した日の夕刻に、信忠が何処かへ伝令を放つと、翌朝には驚くべきことが起こる。

信忠本軍が布陣している西方面の更に西、小田原城を見下ろすように(そび)える笠懸(かさかけ)山頂に突如として真新しい城が出現した。

北条側からすれば、まるで一夜にして城が出現したように見えたことだろう。その悪夢のような光景を生み出したのは、史実に於いて秀吉が実行したものと同じ策であった。

事前に笠懸山に築城を命じておき、その建築中の様子が見えないよう山林の様子に合わせた仮囲いで隠蔽していたのだ。

そして信忠からの連絡を受けて、夕刻から夜間に掛けて笠懸山の東側からの視線を遮っていた木々を一斉に伐採したことにより、突如としてその威容を晒すことになる。


「北条の腰抜けどもは、さぞ胆を潰したことであろう」


北条を震撼させた城を笠懸山城と呼ぶ。史実では江戸時代に入り、既に取り壊された後の石垣ばかりが残る有様をして石垣山城と呼ばれたものと(およ)そ同じ位置に築城されていた。

笠懸山城は一見すると極普通の山城に見えるが、実は建材から建築様式に至るまでが異例尽くしの城である。

基礎建材として鉄筋コンクリートを使用し、和城の中腹辺りから航空母艦の飛行甲板が生えているような奇妙な構造を取っていた。

小田原城からは角度的に普通の和城に見えていることだろう。航空機など存在しないというのに滑走路のような長大な平面にはずらりと砲が並んでおり、まるで戦艦のような様相を呈している。


「これで小田原城に籠れないようにしてやろう!」


北条としては高座の弥勒(みろく)が開発した新火縄銃に希望を見出している。新火縄銃の性能は織田軍の新式銃に大きく劣るとはいえ、目視できる距離での命中精度と威力は侮れない。

小田原城の堅牢な防衛施設から新火縄銃で攻撃されれば、従来の城攻めと比べて自軍側に大きな損害が出ることが予想された。

これに対して信忠は、より長射程を持つ武器で(あらかじ)め防衛設備を破壊することを選択する。その集大成が笠懸山城であった。


「さて、この城を見た北条どもはどう動くか……」


信忠は本陣を笠懸山城へ移し、備え付けの巨大かつ高倍率望遠鏡で小田原城の様子を観察しながら呟いた。

しかし、ここに来て信忠の予想を裏切る事態が発生する。報告を受けた信忠は思わず頭を抱え込んでしまった。


「友軍の士気がここまで下がってしまうとは……」


絞り出すように信忠が唸る。遂に北条の牙城を完全包囲し、ようやく最終決戦だと意気込んだまでは良かったのだ。

しかし小田原城包囲が完成して間もなく、信忠は敵だけでなく味方までも士気が低迷しているとの報告を受ける。

織田軍の士気は依然として高い水準を維持しているだけに、有利な状況にあるにもかかわらず友軍の士気が低下する理由が判らなかった。

信忠は急ぎ内偵を進めるように命じ、程なくして彼は友軍の士気が下がった理由を知る。


「自軍の兵農分離が当たり前になったことで、他所(よそ)が半農半兵であることを失念しておったわ」


食料生産能力が高く、経済にも余裕がある織田軍は、その大半が職業軍人で構成されている。これに対して友軍である徳川や上杉、長宗我部にしても平時は農民である領民を動員しているのだ。

それゆえに遠征が長期間に及び、農繁期を迎えてしまえば本業である農業に意識が向いてしまうのは避けられない。

これに対して北条側は、攻め込まれている立場であり、包囲を受けて後がない状況であるため命懸けの必死さからそれなりに士気が維持されていた。

友軍である徳川及び上杉なども状況は把握しており、戦意高揚をするべく鼓舞しているのだが状況は改善しないでいる。小田原城の西側から猛攻を掛けたとして、士気の低い東側の包囲を破って逃亡されては本末転倒となる。

どうしたものかと信忠及び首脳陣は思案したのだが、軍議は空転するばかりで名案はついぞ出ることが無かった。大将である信忠は、内心忸怩(じくじ)たるものを抱えながら静子に相談を持ち掛ける。


「案はあるけれど、試作段階の物だから性能を保証できないよ?」


「問題ない。現状では何をやっても手詰まりなんだ。打開出来る可能性があるならば、それに賭ける」


「判ったよ。それじゃあ、現状であるだけを送らせるから」


「色々とあるだろうがよろしく頼むよ」


それを最後に信忠は静子との通信を切った。







信忠の依頼を受けた静子は、早速手配を命じた。充分な性能評価が出来ていないとはいえ、戦国時代ではあり得ない兵器であり、石山本願寺での夜襲よりも大きなインパクトを与えるであろうことは想像に難くない。

更に静子は一緒に大量の食料と酒、更には女をも手配するよう指示を出す。どれだけ戦況が優位であろうとも、遠征である以上は節制を強いられる。

織田軍に関しては食事の内容も改善されてはいるが、友軍たちは粗食に耐えて従軍しているのだ。ご馳走や酒、さらには男だらけの世界である軍に於いて、女は特効薬足りうる。

所詮は一時しのぎに過ぎないが、鼻先に人参をぶら下げられれば奮起するのが人の常であろう。


「少しは手加減してやれよ」


「手加減はしているよ。する気がないなら、最初から小田原城を更地にしているし」


話しかけた長可が、静子の返答に苦笑する。静子は長可と言葉を交わしつつも、書類を次々と片付けていった。小山を為していた書類が、次々と決裁済みの箱へと放り込まれていくのを長可は呆然と見守っていた。


「相変わらず仕事が早いな。長く休んでいたから休み()けがあるかと思ったが、復帰した途端にこれか」


「秋に御馬揃(おうまぞろ)えの開催が決定したからね。流石の上様も、私を遊ばせておく余裕がなくなったみたい」


御馬揃えとは、史実に於いて天正九年(千五百八十一年)に信長が京で行った観兵式(かんぺいしき)である。

一説には正親町(おおぎまち)天皇に譲位を迫るため行われたとも言われているが、開催場所が牛車(ぎっしゃ)宣旨(せんじ)(牛車に乗車したまま宮門を通過出来る許可)のない者は如何なる身分の者でも乗り入れが禁じられていた陣中と呼ばれる内裏の東側であること、この場所を使用しても朝廷が問題視しなかった事から近年では否定されつつある。

また軍事パレードということで織田軍だけのイベントと思うだろうが、馬術に通じた近衛前久(さきひさ)や正親町季秀(すえひで)日野(ひの)輝資(てるすけ)などの公家も参加していた。

特に近衛前久は入念に準備を進め、開催二週間前にも良馬を求めている。なお苦心して入手した良馬だが、理由は不明ながら馬を気に入らなかった前久が、翌日送り返したという逸話が残っている。

他にも本来は参加できたはずの秀吉は中国攻めの折り合いで、泣く泣く不参加となってしまった。配下武将を引き連れて参加が出来なかったことを大変悔しく思い、当日行われた内容や雰囲気を知りたいと長谷川(はせがわ)秀一(ひでかず)に書状で頼んだ程である。

それほど御馬揃えとは重要なイベントであり、参加出来ることは大変な名誉であった。


「名誉なのは分かるんだけどねえ……」


呟きながら静子はため息を吐く。御馬揃え自体には文句などあろうはずがなく、むしろ記録が残っていない催しに関与できることを嬉しく思う。

では何が問題なのかと問われれば、答えは静子軍がどの順番で参加するかにあった。

信長は最も盛り上がるであろう真ん中付近が妥当と言い、前久含む朝廷側は懇意であることを示すべく公家衆の前が妥当だと主張する。

織田家の家中としては後継者である信忠よりも後ろというのは流石に如何なものかと紛糾し、一向に意見が折り合う様子を見せない。

そこまで揉めるのであれば、いっそ先頭に配置してはどうかという静子の案は、当然ながら全員から無視されることとなる。

このように各方面から引き合いがあることから、静子は信長が何かしらの駆け引きに静子軍の順番を用いたいのだと察した。

それからの静子の行動は素早く、見事の一言に尽きた。瞬く間に交渉を纏めると、信長から褒美(・・)をせしめてきたのだ。


「そう言えば珍しく上様に交渉をしていたが、アレは何を要求していたんだ?」


「ふっふっふ。私を政争の道具にしたんだから、その正当な見返りを要求したんだよ」


「ほう! 珍しいな。お前ならそんなことに頓着しないと思っていたんだが」


長可は静子の言葉に首を傾げる。基本的に静子は信長の役に立つのであれば、政争の道具にされようが気にもしないし、報酬など要求しない。

根本的に無欲な静子が、交渉までして褒美を求めたことが異常であった。


「それで、何を貰ったんだ? 土地か、金か、それとも何かの権利か?」


「コレだよ、これ!」


長可の質問に対して、静子は随分と低くはなったが、それでも(うずたか)く積まれている書類を叩きながら答えた。

長可は静子が何を言っているのか判らず眉を(ひそ)めるが、やがて静子が求めた褒美の正体に気付いて驚愕する。


「お前まさか……そんなもんを褒美っていうのか?」


「いやあ、渡りに船だったよ。御馬揃えって色々な下準備が必要なんだね」


静子の返答で長可は自分の考えが間違いではないと悟った。静子は信長から褒美として、御馬揃えの(・・・・・)裏方仕事(・・・・)を勝ち取ってきたのだ。

無論、信長が頭を抱えたのは言うまでもない。しかし、普段の静子から想像もできない鬼気迫る様子と、粘り強く強気な交渉についぞ折れざるを得なかった。


(ふふふ。歴史に残らなかった事柄に直接携わり、記録を残せるなんて最高! 些細な事すら見逃す気はないよ!)


歴史的には有名な信長の御馬揃えだが、その詳細な記録は殆ど残されていない。信長(しんちょう)公記には概要が記されているが、静子にとってはそれでは物足りない。


(記録は取捨選択されているから、その場に携わらなければ判らないことが多い。どんな些細な物事も、その裏には無数の名もなき人たちの尽力で成り立っているはず。だからこそ、御馬揃えには何が何でも関わるわ!)


「褒美を寄越せと言って仕事を持ち帰ってくる奴は、お前ぐらいだろうよ。本当に何を考えているのやら……」


「土地やお金や権力は既に充分持っているからね。これ以上を欲しいとは思わないし、私が扱い切れるとも思えない。『過ぎたるは(なお)及ばざるが如し』って言うでしょ? 分不相応な野望は持たず、足ることを知るのが幸せだよね」


「だからって仕事……いや、仕事はない」


「理解しろとは言わないよ。私はこれが趣味と実益を兼ねているから良いのであって、他の人だとまず満足しないでしょうね」


「安心しろ、一切合切理解できん。これが静子なんだな、としか思わない」


理解できないが否定もしない、が長可の答えだった。長可の態度に静子は笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「ところで岐阜のとある関所から、下馬をせずに関所を強引に突破した人がいるとの報告が私に届いたんだけど……何か知らないかな?」


その瞬間、長可は静子から露骨に顔を逸らした。静子は言葉を発さずじっとりとした視線を長可に送り続けるが、彼が逸らした顔を戻すことは無かった。

しばし沈黙した後、静子は重いため息を吐く。


「まあ下馬を命じたはずの上様が、何故かお許しになったから良いけどね」


「じゃあ気にする必要は無いんだろう。その不届き者も充分反省しているだろうし、静子は御馬揃えに集中するべきだな! うんうん」


もはや自白しているも同然なのだが、静子は生暖かい目で長可をみつつ聞き流す。

このところ、岐阜にある関所で馬が暴走する事故が発生した。事故の後、岐阜内の関所には安全確保を名目に、如何なる者も下馬して通るよう布告が出される。

勿論、それだけで全員が規則を守るならば誰も苦労しない。身分をかさに着て下馬を拒否する者は沢山いた。

そういった者に対しては武力制圧を許可されていたのだが、そんな彼らですら手を出せない人物が何人かいる。その内の一人が、目の前にいる長可なのは言うまでもない。


「それで、逃げ回っている人は捕まえたの?」


「いやどうにも隠れ潜むのが得意……はっ!」


途中まで口にしたところで長可は誘導されたことに気付いた。顔色を変えた長可に、静子は小さく息を吐くと書類束を差し出す。

叱責されると思っていた長可は、予想外の書類束を訝し気に受け取って中身を確認した。

中身は長可が追っていた風魔の間者がどのように逃亡しているのか、また協力者は何人いて、それが何者かが記載されている。

長可ですら把握できていない情報が余すところなく記されており、相手が完全に丸裸にされていた。

思わず静子を見返すと、彼女は長可に笑みを浮かべる。


「力業も良いけれど、時には(から)め手を使うことも忘れないように」


「おまっ……なんでここまで」


「久々の授業だね。勝蔵君は良くも悪くも目立つのよ。どうしたって相手に動向を知られやすい。隠れるのが上手な人間なら、君の動向を推測しつつ逃亡するよ。何しろ命が懸かっているからね」


だけど、と呟いた後、静子は一つの書類を手に取って長可に渡す。


「人間というのは長じるほどに行動様式(パターン)がある程度固定されてしまうものなの。それを行動科学的に分析すれば、自ずと相手の取る行動が見えてくるよ」


書類には風魔の組織的な動向から、行動傾向までもが事細かに分析されていた。ここまで詳細に調べていることに若干引いたが、だからこそ誰よりも相手の嫌がる手を講じることが出来るのだと長可は理解した。


「お前が敵でなくて本当に良かったよ」


「でも私、直接の戦闘はろくに出来ないよ?」


「……謙虚な才能持ちって反則だよな」


静子の言葉に長可はため息を吐く。彼女の言葉通り、静子自身の戦闘能力は射撃能力を除くと雑兵に毛が生えた程度でしかない。

ただ静子の場合は、戦闘になる前にいくさ自体を発生しないよう処理してしまう。


(策に嵌めようにも、コイツはそれすら利用してくるんだよな。自分の思い通りにことが進んでいると思ったら、いきなり後ろから刺されるなんてことが当たり前に起こるし……)


本人の戦闘能力が低いのならば、直接襲撃すれば勝ち目があると考えるのは当然だ。しかし、静子相手に直接戦闘を仕掛けるということが不可能に近い。

そもそも静子が厳重な警備に守られた自邸からそれほど動かないし、概ね領民からの評判が良い静子を害そうとする人物は否が応でも目立ってしまうため尾張一帯が安全圏と言える。

本来、静子は内政でこそ本領を発揮するタイプだ。信長に臣従した初期こそ遊ばせておく余裕がなくていくさにも出ていたが、いまや静子が直接いくさに出る必要性はない。


「まあ静子が戦っても微妙だが、そもそもお前はいくさが始まる前にいくさを終わらせるだろう?」


長可の言葉に静子はクスリと笑った。


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