ユリ(読み)ゆり(英語表記)lily

日本大百科全書(ニッポニカ)「ユリ」の解説

ユリ
ゆり / 百合
lily
[学] Lilium

ユリ科(APG分類:ユリ科)ユリ属の総。北半球の温帯に130種分布する。その内訳はアジア71種、北アメリカ37種、ヨーロッパ12種、ユーラシア大陸10種である。そのうち日本には15種分布し、7種が日本特産種である。多くは園芸種で、秋植え球根草として栽培される。

[坂本忠一 2018年12月13日]

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ユリ属は植物分類学上はユーリリオン亜属に分類され、以下の4系統に分けられる。

(1)テッポウユリ(鉄砲百合)亜属(レウコリリオン系) 花はテッポウユリ状のらっぱ形で、横または下向きに開く。白色系、淡桃色系の花が多く、香りがあり、斑点(はんてん)はない。これに属するものとしてはテッポウユリ(イースターリリー)、ササユリヒメサユリオトメユリ)、タモトユリ、ハカタユリ、マドンナリリー、リーガルリリー、タカサゴユリなどがある。

(2)ヤマユリ山百合)亜属(アルケリリオン系) 花は杯(さかずき)状で花弁の中央部は広く、横または下向きに開く。白色花で香りがあり、斑点がある。これに属するものとしてはヤマユリ、サクユリなどがある。

(3)スカシユリ(透百合)亜属(プセウドリリューム系) 花は杯状で上向きに開き、花弁の先端部が広く、付け根部分は急に細くなって透ける。花色は橙黄(とうこう)色が多く、香りはなく、斑点が多い。これに属するものとしてはエゾスカシユリ、イワトユリ、スカシユリ類、ヒメユリ、フィラデルフィカム種などがある。

(4)カノコユリ(鹿子百合)亜属(マルタゴン系) 花は花弁が強く反転して球状の花形となって下向きに開き、斑点が多い。これに属するものとしてはカノコユリ、オニユリコオニユリタケシマユリ、クルマユリ、キカノコユリ、マルタゴン種などがある。

[坂本忠一 2018年12月13日]

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球根は形態上は鱗茎(りんけい)で、茎の変化した部分に、葉が変化して肥厚した鱗片葉を形成する。チューリップのように球皮がない無皮球根で、乾きやすく、鱗片葉もはがれやすいので、取扱いには注意を要する。貯蔵養分としてはデンプン粒を多く含有し、苦味のないヤマユリなどは食用になる。色は白っぽいものが多いが、黄色や褐紫色のものもある。形は種類や生育段階によって異なり、球形から砲弾形のものまである。大きさは、小球性のもので径約2センチメートル、重さ4~5グラム、大球性のものでは径20センチメートル以上、約1キログラムになる。鱗片葉はヤマユリのように舟底形のものから、クルマユリのように米粒状になるものもある。根は上根と下根に分かれ、下根は下方への牽引(けんいん)作用があって、おもに球根の安定を保ち、2~3年は生きる。上根には発芽後の養水分の吸収と、茎の安定作用があり、1年で枯死する。

 草丈は、ヒメエゾスカシユリの約10センチメートルのものから、サクユリの約2メートルのものまである。茎は円形で分枝せず、直立するが、帯化した場合には扁平(へんぺい)になって多くの花をつけ、ヤマユリでは150個以上開くこともある。葉は披針(ひしん)形で、日本、中国原産のものにはササやヤナギの葉に似たものが多く、北アメリカ原産のものにはヤツデに似た輪生葉になるものが多い。普通、緑色葉であるが、濃淡に差があり、まれに美しい斑(ふ)の入るものもある。また葉数の多少、光沢、細毛の有無などの差異がある。

 花は総状花序に頂生し、普通は一重咲きであるが、二重咲き、八重咲きになるものもある。着花方位は上、横、下と種類によって異なる。

 花形は筒状、杯状、球状と変化に富み、大きさはオトメユリの3~4センチメートルの可憐(かれん)なものから、サクユリの30センチメートルに達する雄大なものまである。花被片(かひへん)は6枚、3枚の広い内花被片と、萼片(がくへん)が変化した狭い3枚の外花被片がある。内花被片の内側には蜜腺(みつせん)があり、種類により、乳状突起と斑点があるものもある。雄しべは6本で、先端に大きな葯(やく)がT字形につく。雌しべは1本で、自家受精を避けるため柱頭部は長く突き出し、受粉しやすいように大きくて粘りがある。開花期はオトメユリ、イトハユリなどの寒冷地型のものは早く、東京周辺で5月、カノコユリ、スゲユリなどの暖地型では8月と遅い。

 花色は青、黒紫色系を除いてほとんどの色があり、白、桃、赤色のフラボンやアントシアン系色素のものには香りがあり、黄、橙(だいだい)色のカロチノイド系色素のものには香りがない。

[坂本忠一 2018年12月13日]

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植え付け

寒冷地から温暖な所まで、さまざまな気候の下に分布する。低温期は休眠して寒さを避け、暖かな季節にのみ生育、開花する。このため、ほとんどの品種の掘り上げ、植え替えは、地上部の生育が終わる10月から11月で、このころが定植の適期である。定植時期が遅れると発根する。また保存状態が悪いと球根が乾燥して消耗し、ウイルス病が多発するので、かならず適期に植える。保・排水がよく耕土の深い腐植質に富んだ、やや粘質土壌の所が適地である。テッポウユリ、スカシユリ、リーガルリリーなど陽光・通風を好む種類は、一日中よく日の当たる所に植える。ヤマユリ、ササユリ、オトメユリ、タケシマユリなど半陰地を好むものは、強い光と西日が当たって地温が上がる所を嫌うので、明るい植え込みの間の西日の避けられる所に植えると、長年にわたって開花する。植え込みは、深さが球根の3倍、間隔は3~4倍とする。

 鉢植えの場合は腐葉土、完熟堆肥(たいひ)を4~5割入れた保・排水のよい培養土を使う。品種別に鉢を選び、大柄になるオリエンタル・ハイブリッドのジャーニース・エンド、サマードレスなどで6、7号鉢に1球植え、テッポウユリ、カノコユリ、ハカタユリなど、やや大きくなるもので5、6号鉢に1球植えがよい。スカシユリは1球植えでは寂しいので、3~4球を5、6号鉢でつくると豪華になる。

[坂本忠一 2018年12月13日]

肥料

肥料を与えるといっそうよい生育をするので、オリエンタル・ハイブリッド類の地植えで、成分等量の化成肥料を1球につき3~5グラムの割合で与える。上根が吸収しやすいように、球根の上部に一握りの完熟堆肥を施し、地表に敷き藁(わら)をすれば理想的である。中形種は、施肥量を2~3割減らし、小形の原種類は、強い化学肥料をあまり与えないほうが安全である。鉢植えでは6号鉢の場合、肥効の長続きする「マグアンプ」2~3グラムを球根の上部に6割、下部に4割施し、上根が十分肥料を吸収できるようにするとよく生育する。

[坂本忠一 2018年12月13日]

病虫害

いちばん多く発生するのはウイルス病で、葉に濃淡のモザイク模様やよじれを生じ、一度感染すると回復不能となる。これはアブラムシによって伝染するので、展葉後は「ランネート」などの殺虫剤を定期的に散布して防除する。梅雨のころから葉枯病が発生するので、「ロブラール」などの殺菌剤を散布する。害虫ではアブラムシのほかにネダニが付着するので、45℃の温湯に30分間、浸漬(しんし)消毒すると効果的である。

[坂本忠一 2018年12月13日]

繁殖

分球、木子(きご)、珠芽などによって自然に殖やすことができるが、積極的に殖やす場合は、実生(みしょう)と鱗片挿しがよい。ほかに組織培養(メリクロン)や茎伏せによる増殖法もある。実生は生育が速く、播種(はしゅ)後1~2年以内に開花する。発芽の適温は25℃前後である。取播(とりま)きをすると、2週間で発芽する。鱗片挿しは自然増殖の30倍以上の速さで殖やすことが可能である。挿し期は開花後ある程度球根の充実した8、9月が適期で、掘り上げた球根を消毒し、鱗片葉の外層から中層へかけて肉厚のものをはぎ取る。保・排水のよい清潔な挿床に、先端約1センチメートルを出して斜めに挿し、約23℃に保って乾かさないように管理すると、3週間後、切り口に米粒大の子球が発生する。これを上手に育てると、翌年は70~80%開花し、秋には直径5~6センチメートルの球根ができる。

[坂本忠一 2018年12月13日]

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オニユリ、コオニユリ、ヤマユリの球根を秋から冬に掘り、百合根(ゆりね)と称して食用とする。百合根の生(なま)の成分は水分67%、糖質が27.2%と多く、タンパク質は3.7%含まれる。無機質についてはリンが100グラム中70ミリグラムで、野菜類のなかでは多く、カリウムも多いが、カルシウムがわずか10ミリグラムで非常に少ないのが特色である。ビタミン類は少ない。ブドウ糖1とマンノース2からなるグルコマンナンを主とする粘質物が含まれる。煮ると甘味があるが、苦味と渋味もある。料理に際しては、まず一度ゆでてあくを除いてから調理するとよい、また少量の酒を加えるとタンニンが不溶化するので渋味も除くことができる。組織が柔らかいので、強火にしすぎると煮くずれる。そこでみょうばんを少し加えるとペクチンが不溶化するので煮くずれが防げる。含め煮や茶碗(ちゃわん)蒸しの種にして、かすかなほろ苦さと甘味を賞味する。煮くずれしたものは裏漉(うらご)しして、きんとんや茶巾(ちゃきん)絞りにするとよい。

[星川清親 2018年12月13日]

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古代のギリシア、フェニキア、エジプトでは油とユリの花から香油をつくり、皮膚病などの治療に使った(ディオスコリデス著『薬物誌』De materia medica)。古代ローマでもそれは受け継がれ、また、花は花輪にされた。クレタ島のミノア文明では、宮殿などの壁画にマドンナリリーが描かれている。『旧約聖書』の谷のユリ(「雅歌(がか)」2章)や『新約聖書』の山上の垂訓(すいくん)のユリ(「マタイ伝福音書(ふくいんしょ)」6章)はヘブル語shushanなどの訳だが、前者はヒヤシンス、後者はアネモネとする見解がある(H&A・モルデンケ著、奥本裕昭編訳『聖書の植物』、大槻虎男著『聖書の植物』)。ユリはキリスト教では純潔や処女のシンボルとされるが、これは、レオナルド・ダ・ビンチをはじめルネサンスの画家たちやマニエリスムの画家グレコが、題材にした聖母マリアの受胎告知の場面で、天使ガブリエルにマドンナリリーを持たせたことの影響がある。中国でのユリは薬として扱われ、すでに『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に滋養強壮の働きが載る。

 日本では上代から花が観賞された。『万葉集』には10首詠まれているが、「吾妹子(わぎもこ)が家の垣内(かきつ)の小百合花(さゆりばな)……」(巻8)と庭で栽培されるユリを取り上げた歌もある。ユリは室内で飾られた記録の残る日本最初の花で、宴(うたげ)の席で頭に巻かれた。大伴家持(おおとものやかもち)が「あぶら火の光に見ゆるわが蘰(かずら)小百合の花の笑まはしきかも」(巻18)と歌っている。ユリは神事にも使われ、奈良市の率川神社(いさがわじんじゃ)で開かれる6月17日の三枝祭(さいくさのまつり)(百合祭)には、ササユリを手にした巫女(みこ)がササユリを供えた神前で舞う。祭神の伊須気余理比売命(いすけよりひめのみこと)は『古事記』によるとササユリの古名佐韋(さい)にちなむ狭井川(さいがわ)の地に住んでいたとされる。

 ユリは、江戸時代に栽培品種が増え、貝原益軒(かいばらえきけん)は「ほとんど百種に及ぶ。近年は百合の花を、世にはなはだ賞玩(しょうがん)す」と書いている(『花譜』)。19世紀に日本のユリはヨーロッパに渡り、注目を浴びたが、なかでもジョン・ビーチJohn Gould Veitch(1839―1870)が1862年に導入してロンドンのフラワーショーに出品したヤマユリは絶賛され、1873年のウィーン万国博で商談が進み、翌々年から球根の輸出が始まった。明治末にはその数が2000万球にも達し、外貨を稼いだ。

[湯浅浩史 2018年12月13日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「ユリ」の解説

ユリ

日本音楽の用語。「揺」の字をあてる。旋律が波状に揺れることが類型的な音型または奏法となっている場合にいわれる術語種目によってその内容に細かい相違もあり,その細分名称や他の音型または奏法との複合名称や異称もある。原則として,2度以上の音程で揺れ,それが2回以上繰返されることも多く,かなりの時価をもって揺れることもあるので,単なる装飾的技巧というより,旋律上の重要な音型であることが多い。雅楽,声明,平曲,謡曲三味線音楽,尺八楽などそれぞれに異なるユリがあり,それぞれ細分名称,複合名称をもつ。

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知恵蔵「ユリ」の解説

ユリ

ユリ科ユリ属。北半球の亜熱帯から亜寒帯に約100種が知られる。地下に鱗茎(球根)がある。日本や中国には観賞価値の高いユリが多く、古くから欧米の注目を浴びてきた。東日本に多いヤマユリは、花の大きさ、芳香共に王者の風格がある。西日本に多いササユリは、花は小型だが可憐で優しい。他にもカノコユリやヒメサユリがある。中国四川省にはリーガルリリー(Lilium regale)という耐病性の強いユリがあり、交配の親として重要視されている。

(森和男 東アジア野生植物研究会主宰 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典 第2版「ユリ」の解説

ゆり【ユリ】

日本音楽における装飾的技法,あるいは,その旋律の称。揺,由里,淘とも書く。声にも楽器にも存在する。ただし,イロ,フリ,ツキなどの名で呼ばれる装飾技法などとの区別は,かならずしも明確ではない場合がある。しかし,ナビキとかギンなどというビブラートとは,はっきり違うといってよい。つまり,ユリは,直接的に音高を波状に進行させるものであり,かつ,多くの場合,最小単位が確定していて,一つ,二つ,三つなどと数えることができる装飾技法なのである。

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世界大百科事典内のユリの言及

【イロ(色)】より

…日本音楽において,旋律の骨格に何らかの装飾を加えることをいうが,具体的には分野や場合によってさまざまな変化がある。また同類の概念にユリがあって両者の区別が必ずしも明確ではなく,さらに,イロ単独で用いるほかに多くの複合語をもつくるので,様相はきわめて複雑である。まず,能,狂言,それに浄瑠璃など,音楽的に節付けされた部分と,節付けされないコトバ(詞)の部分とを明瞭に使いわける分野では,フシ(節)とコトバとの中間的な,特有の抑揚をもった旋律様式をいう。…

【声明】より

…このように声明は言語のアクセントが基本となっているため,国語学や言語学における貴重な音韻史資料でもある。また〈ユリ〉〈イロ〉〈ソリ〉などに代表される装飾法はほかの声楽諸分野には見られぬ多様性をもち,たとえば真言声明ではユリが20数種に分類されている。(4)記譜法 声明に用いる楽譜は〈博士(はかせ)〉(墨譜ともいう)といい,その語源は文法学,音韻学としての声明の指導者の呼称であるとされる。…

※「ユリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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