2010年08月10日

014:刀の手入れ

■拵え交換(2)
~柄の自作~


 前項ほぼまるまるのボリュームが前置きにあたるわけですが、要約いたしますと「稽古代をひねり出すには緊縮財政」ということです。

 柄の自作にあたり、そろえた材料がこちら。
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 左から菱紙(見本として他の商品のオマケに分けていただいたもの)、頭、縁、柄木、鮫皮。
 本来ならば強度の面からも、鮫皮はクルッとひと巻き腹合わせにしたいところですが、それはまたいつの日か、ということで今回は簡単な短冊で行きます。
 
 鞘と一緒に発注したことへのオマケなのか、2組買ったうちの片方は普通のお値段で親粒入りのものが届きました。たいへん嬉しいことです。が、せっかくの品を初挑戦で失敗しふいにしてももったいないので、もう少し慣れてから使うこととし、今回は普通の短冊で作ります。
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 まずは縁がはまるよう柄木の加工です。
 ポストイットを差し込んで縁の深さを測り、
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 柄木に鉛筆で印を付け、
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 様子を見ながら彫刻刀で削ってゆきます。
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 加工途中でズレると困るので、柄木は両面テープで仮留めしてあります。
 しかしセットの彫刻刀といえば、昔は「刃物の形をしているだけのオモチャか」というくらいに役立たずの代物だったのですが、今回ワンコインで購入した彫刻刀セットは、実によく削れます。地味に時代の流れと技術の進歩を実感し、感心いたしました。

 だいたい出来たところ。
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 次に、反対側を頭(かしら)に合わせて丸く彫ります。
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 少し削っては頭の内側にマジックを塗って被せ、どの程度フィットしているかを確認。鞘を作るときには、大まかに削った後、刀身にベッタリ油を引いて納刀し、油の付着したところを削いでゆく作業を繰り返すそうですので、方法論としては決して邪道でないはず。
 
 加工前(右)と加工後(左)
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 とりあえずこれで外側の加工は完了。
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 次は鮫皮をあてがいます。
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 写真では大したズレではありませんが、鮫皮を合わせてみると柄の緩やかな円弧が合わず、これが全然納まりません。
 アクリル板のように硬い鮫皮も、しかし言ってみれば海産物の干物ですから、ちょっとふやかせばぐにゃぐにゃです。この状態で柄木に合わせてゆきます。
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 今回、作業にあたっては、太細とりそろえ両面テープを多用しました。
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 鮫皮の接着はもちろん、後に行う柄木の接着も両面テープ。
 これは、素人工作であるため、しばらく様子を見てから再加工の必要に迫られる可能性が高いと判断してのことです。
 茎(ナカゴ)の納まりが悪いようならば、即、再加工せねばなりません。ここで木工用ボンドなど使いますと、剥がすだけで水に浸けて一昼夜かかりますので、メンテナンスのハードルがあがり、自分の性格と照らし結果的にズルズルと修理を先送りにしてしまうことが目に見えるようでしたので。
 
 柄木に施された短冊用の凹みに、半乾きの状態で鮫皮を押し込み、梱包用のビニール紐でグルグル巻きにしてしまいます。
 14-17.JPG
 
 このかたちのまま鮫皮の水分が飛ぶのを待ち、その間に菱紙作りです。
 14-18.JPG
 (写真の菱紙は「見本に」とお願いして業者さんに分けていただいたもの)

 前回(006項)は居合刀でしたので代用品を使いましたが、今回は真剣ですのでインチキはしたくありません。
 菱紙作りは、まず紙を幅1センチほどに折るところから始まります。くるくると筒状に巻き込んでゆくか、ジャバラに折り畳んでゆくかの差はありますが、幅1センチの線を何本も引き、ほどよい厚さになるよう折り目をつけ、それを何枚も用意する──正直ちょっと煩雑です。それをさらに、8mm幅の柄糸の場合、底辺が14mmの三角に切ってゆかねばなりません。出来れば出来るだけ楽をしたいところ。
 
 あちこち検索をかけ、7mm罫線のノートのページを使えば14mmの目盛りを測る必要がない、という大胆な手法を発見しました(http://kamizaya.seesaa.net/article/144843865.html)。
 ──画期的ですね。この工夫にはちょっとした感動さえ覚えます。

 しかし諸事モノグサの私には、実はそれでもまだ、少々ハードルが高く感じておりました。
 そこで、ノートを開いた端からページ全面、ほどよい厚さになるまで貼り重ねてゆくことを試みました。これなら巻きも折りもせずに済む上、一気に柄巻き何本分も菱紙が作れ、ストックにもなります。
 接着には、広範に塗布するため、水分による歪みの生じにくいスティック糊を使用。
 お手本の菱紙と比べると、10ページほどで同じ厚さになるようです。
 5枚ほど貼り重ねたのがこちら。糊の分、予定より少ないページで目標の厚さに達しました。
 14-20.JPG

 接着後は、「槌で叩いてコシを出す」のだそうです。
 叩くと紙にコシが出るというのは不思議な響きですが、圧着で硬くするということなのでしょう。硬質ゴム製の槌でひっぱたきます。
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 なるほど叩くと薄くなり、そして硬さが出てまいりした。その代わり予定よりも薄くなってしまったので、半分に切ってもう一度貼り合せます。結局10枚重ねになりましたが、、今度は手本の菱紙よりも気持ち厚めに。どうやら7~8ページ分が適当なところのようです。しかし今回はもうこれで行ってしまいましょう。
 
 巻きに隙間が生じても目立たぬよう、墨を塗ります。見本もそうであるように、これはインチキではなくどこでもやっている当たり前の手法です。しかし目盛り代わりの罫線が見えるよう、塗るのは片面だけ。
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 この薄板を幅1cmの短冊に切り分けます。
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 さらに底辺14mmの三角に。写真では見えませんが、罫線があるため手間がかかりません。
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 そうこうしているうちに鮫皮も落ち着いてきたのでこれを外し、再び柄木の加工に戻ります。
 パリッと半分に剥がして茎(なかご)に当て、鉛筆でアタリをつけてゆきます。
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 現代刀は茎が太い、とは聞いていましたが、こうしてみると本当に太い。こんなに削って大丈夫なんだろうか、という不安がよぎらないでもありません。
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 しかし刀身を留めているのは目釘であって柄木の外殻ではないので、直感には反しますがおそらく大丈夫なのでしょう。さらに言うならば、柄糸でガッチリとホールドしてしまうので、柄糸が切れでもしない限りはそうはバラけたりはしないと思われます。せめても峰の側は出来るだけ残し刃の側を削ることにしましょう。
 茎を外すことはあっても柄木を割って中をみる機会はなかなかありません。茎が太いのは私の刀ばかりではないはずなので、きっと現代刀の拵えは大なり小なり一般にこういうものであると思われます。ひとつ勉強になりました。
 ずっとこれを愛刀にするつもりではおりますが、もしいつの日か買い替えることがあるならば、正直、茎の手頃な古刀にしたい気もいたします。

 ちょっと彫ってはあてがうのを繰り返し、出来たのがこちら。
 ここまでくるとだいぶ柄らしさが出て来ます。
 14-28.JPG

 目釘穴は一気に開けたりせず、小径のドリルで開けた穴からやすりで広げて行きます。 真円になるよう、そして茎の目釘穴を削ってしまわぬよう、神経を使うところです。夢中になっていたので写真はありません。

 鮫皮には防水効果を期待し前回同様カシュー漆を塗ります。
 加工のため実際にふやかしてみるとモツ鍋のように本当にぐにゃぐにゃになり、これを見て手汗が浸みるのがいっそう恐ろしくなりました。漆を塗るのはお洒落以前に非常に合理的な作業だと実感させられます。
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 これで下地が出来上がりです。
 14-31.JPG
 14-30.JPG
 
 さきほど作った菱紙を用いて巻いてみると、前回使った新素材などより数段巻きやすく、これからは居合刀でも手抜きはせずにちゃんとした菱紙を使おう、と反省させられました。
 
 完成。
 14-32.JPG
 14-33.JPG
 
 売り物には及びませんが、居合刀もふくめ3回目の作業で、巻きもだいぶそれらしくなってきたような気がしております。
 
 目貫は「鴨」。現代物の廉価品ですが、妙に色合いがよく気に入っております。
 <表>
 14-36.JPG
 <裏>
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 これが「竜」「虎」や「梵字」、「独鈷杵」のように格好良く気合の入ったモノですと、やや照れ臭い気持ちがぬぐえません。自らの強さや精神性の高さがそれらに釣り合うほどのものかと尻込みもさせられます。
 対して「鴨」──響きを聞くだけで肩の力が抜けるようで、私のようなアガリ性にはこれこそが相応しい。白鳥の喩えにあります通り、水鳥は、強い下肢の働きに支えられた優雅さ、やわらかさが、稽古の眼目にもよく合います。
 
 他に骨董屋さんで薦められた中では「土筆(つくし)」が微笑ましく綺麗だったのですが、「尽くし」に通じ、忠誠心の象徴とされてきたことを考えますと、尊くもありますが勤め人の身としては少々物悲しくもあります。「石垣(自らを以って城の礎に任ずる)」の縁頭とセットになどした日には、刀を手にするたびに泣けてきそうです。
 せめて稽古中くらいは会社人を離れ自由人でありたいもの。

 調べたところ、目貫位置は正逆の他、表裏とも真ん中におくのもアリのようなので、これを採用しました。天真流では左右持ち替えを行いますのと、私自身は右腰に指しての左手抜刀も行うので、これがベストと判断してのことです。
 14-34.JPG

 逆の抜刀を行うのは、
 (1)合気道の技を左右同じに修得したいため、
 (2)空手・棒術も左右等量に稽古するのでそれが習慣となっているため、
 (3)水泳やスキーが好きなので左右半身の発達に差が生じることに何とはなしに抵抗感があるため
 ──といったところです。

 不思議と合気道の愛好者でも逆の剣を練習する人は多くない様子ですが、黒岩洋志雄先生は、杖はもちろんのこと剣も、左右いずれでもごく自然に振っていらっしゃいました。
 さらには左右どちらの構えから打つパンチも全く差というものがなく、利き手がどちらなのか分からぬほどであったのが、印象に残っております。
 周知の通りボクシングの出身で、目を患わなければプロになっていたであろう方が、左右の構えを均等にまでしてしまうというのは、よほどのことだと思います。しかしそれがボクサー時代の修練によるものか、合気の門を叩かれてからの稽古によるものなのかは、残念ながら聞きそびれてしまいました。

 さて、柄木の加工に関してはこちらを参照しました。同サイトの柄木1,470円は、たいへんお買い得です。
 柄巻の皮はこちらから購入。安価で満足の品質。対応が早く、質問にも丁寧に答えてくださいます。また菱紙の実物見本を同封していただだいたお陰で大いに参考になりました。
 柄巻の最後の留めについてはこちらが非常に参考になりました。手順がGIFアニメで示されているのがとても見やすく、理解の助けになりました。

 …実に1日がかりの作業になりました。
 懐事情がありますから選択肢は限られますし、工作好きという嗜好のため苦労を入れても満足感が先にたちますが、こうして実際に自分でやってみますと、柄だけで数万円というのは当たり前どころか良心的でさえあることがよく分かります。
 職人の仕事というのは、今更ながら、畏敬の念に値する高度な作業です。
 それが多少なりとも理解・実感できたことが、節約した差額以上の、財産といえば財産でしょうか。
 


ラベル:剣術 道具
posted by 秋山勇浩 at 01:44| Comment(2) | 剣術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちなみに私が空手へ流れたのはこう言った作業が全く持って出来そうになかったからであります、、、

ちなみに分からないことがあったらK野先生に聞くと色々と…聞いてもいないことまで教えてくれますよ(笑)
Posted by O-嵐 at 2010年08月11日 20:49
O-嵐さま、貴ブログでの紹介ありがとうございます。
メールのやりとりがあってもコメントはコメントで嬉しいものですね。
こういう作業は好きなのですが、いかんせん作業を楽しむだけの根気がなくていけません。
正直、途中で投げ出しかけたところもあったりします。
次かその次あたりから空手の話題に戻りますのでぜひまたご覧ください。
Posted by 日々日和(管理人) at 2010年08月12日 00:46
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