(左から、大刀目釘、小太刀目釘、小太刀控え目釘)
今週の江東支部は試斬を行いました。
万が一にも事故があってはいけないのはどういう試斬でも同じですが、稽古生には初めてのことなので特に念を入れ、目釘を全て新調。
交換前の目釘。まあ許容範囲とは思うのですが……
3年以上乾燥させた竹が良いとされています。写真はいただき物の素材。
目見当で削り、
突っ込んで確認してはまた削り、
偏りのない真円に仕上げます。
ひとまず出来上がり。日子流小太刀は2ツ目釘なので、大刀と小太刀で計3本となります。
これまでこれで実用に耐えていたので充分だとは思うのですが、うろ覚えの記憶によると、油で煮て繊維を強化する手法があったなと。
良い機会なので試してみましょう。
記憶を頼りに検索すると、成瀬関次という人に行きつきました。
成瀬関次著『実戦刀譚』 - 鍔元の諸工作
そうそうこれこれ。
「すす竹はそのままでは脆いから、根元を適度に削って菜種油に入れ、とろ火で半日煮たものをそのまま半日ほど漬けておき、しかる後陰乾しにすると、質が激変して強靭となるから、これを削って用いるというのが本則であるという。」
私の目釘は煤竹(希少品。非常に高価)ではなく普通の古竹ですが、この際ですから油は使ってみましょう。
菜種油は我が家にないのでまた次回にするとして、このサイト(日清オイリオ)の成分表によれば、オリーブオイルが最も菜種油に近いようです。
ところでせっかく油を染み込ませても、強化した以上に熱で繊維を劣化させたのでは意味がありません。「とろ火」の加減がいまひとつよく分かりませんので「セルロース」「加熱」「強度」でググり、本職の研究や論文の類を探します。
「いずれの繊維も(中略)強度低下は加熱温度160℃までは緩やかであるのに対し、180℃以上では著しくなる。」(『植物繊維の熱劣化による変色と強度変化』P.91より)
160~180℃といえば揚げ物の適温です。タンパク質が60℃ほどで変性するのに比べセルロースはことのほか熱に強いことが分かりました。
となると、それほど神経質になる必要もないようですが、心情的に100℃超えには不安があります。ネット上に見受けられるその他の記述も考慮すると、まあ「とろ火=70~80℃前後」といったところでしょう。
しかしサラリーマンは、とろ火を半日も眺めていられるほど暇ではありません。
そこでこれ。
炊飯器の保温機能を使えばローストビーフや鶏ハム、コンフィなど低温域の調理も自由自在です。今回なんと、目釘製作にも最適であることが判明しました。
ZIPロック的なビニール袋に入れ、
空気を追い出しながら少量のオリーブオイルで満たします。この方法ですと油の量も鍋で作るよりはるかに無駄がありません。
熱湯1リットルに対し蛇口から出る水を200ccほど足すと、ちょうど70℃になります。
(1)寝る前に投入し、(2)起きたら取り出し、(3)仕事から帰ったら袋から出して1日放置……したものが、トップ画像の目釘です。
試斬は事故なく滞りなく終了。上の写真は初めて真剣を手にした稽古生の、小太刀による最後の一刀。(大小両方経験してもらいました。)
大刀の試斬に比べ格段に難度の高い、そして斬り方からして異なる小太刀でこれは、身内のホメ倒しですがなかなか出来ることではありません。
正直、非常に嬉しく思いました。
さて実際のところ、上記の加工がどれほど適切だったのかが気になります。極端な話、表面の色が変わっただけで中まで浸潤していないなら手間だけかかってくたびれもうけです。なので、もったいないとは思いながら一本を取り出してカットしてみました。
左は比較用の加工前素材。中心まで完全に、思った以上に綺麗なアメ色に染まっていることが分かります。
炊飯器を使うこの手法、火加減のミスりようがなく誰でも確実な成果が約束されているという点で、ちょっとした革命なのではないかと自画自賛。
※成瀬関次という方は大量の日本刀を検証し、優劣やその原因を詳細にまとめ上げた著作を残しています。
下記の記事など非常に興味深い内容で、ご存知ない方は一読されることをお勧めします。
軍用日本刀の考察 戦ふ日本刀