友達がブログをやめた。日本一バカなギタリストで、釣りが本業の変なひとが、ブログやめて、ぼくの楽しみが1つ減った。

ぼんやりとそれをきっかけに色々思い出した。
友達が好きだったひとにフラれて、いつものように車の中で小さい音楽をかけておでんを食べてた。


「そういえば、別れるとき、泣いたりしなかった?」


「寒かったかな」


「うん、そうかもね。それだけ?」


そういえば随分昔、ぼくにも終わらせてたまるかって思ってたことがあったけど終わってしまったんだった。


「なんか、わかんないけど、そういうことが記憶に残ったりするんだと思った」


忘れないなんて無理だけど、思い出さないなんてもっと無理。
それでも、それでも、それでも、つきはなせ置いて行け振り向いちゃダメさ。







「録音したの送るよ、また凹むかもね。凹めばまた続ければいいよね」


高校生の頃そう言われて、スッと受け入れることができた。
その音源は最近ようやくツアーでの運転中に、笑いながら聴けるヘビロテ音源になってる。


高校生の頃のぼくはあまりにもぼくにとって生々し過ぎて、直視しよう、なんて歌ってたぼくも出来れば目を背けていたい存在である。
だけど笑って聴けるようになって、そのうえ、バカだよな、とかって言えるようになったのは、良かれ悪かれ、忘れていってるからなんだと思う。

1つ残らず忘れることはないだろうな、とかって考えてたけど、電車の中で日光が射し込んできて、「ほしすぎた布団みたいだな」なんて考えた瞬間に、なんだっけそれ、なんて、数珠繋ぎに次々と思い出したりもする。

話したいことが沢山あるから、でもやっぱり、ぼくだけ覚えてるのも情けないでしょう、だから今話しておきたいんだ。


「ブログの中に片思いしつづけた女の子を偶像として生み出すってしもかわ結構キモいけど大丈夫?」


「いや、ぼくはさ、必死だったから、全然よく分かってなかったんだよ、自分がやってることが恥ずかしいことだって、わかってるつもりで、でも本当は全然分かってなかったんだ」


「うん」


「でも、なんとなく、ぼくが歌を歌うこととか、大きな音でギターを弾くとかってことが、君に対して地続きで存在してるんだって思ってたんだよ」


「うんうん」


ぼくのバンドが少し人気が出て、それを利用してモテようとしたりするダサい奴になりそうだったら、迷わず尻に蹴りをいれるって約束してくれただろ、そんなこととか、したかどうかもわからない約束が果たされない限りなくならないお守りみたいに思ってるんだ。


「ぼくはマトモじゃなかったよ、たぶん今でもそう、君の名前を人前で大声で叫んだりしてる」


今はたぶん大人の恋をして、ぼくのことも忘れたことだろうと思う。


「でも、そんなんでも、ぼくが歌うと聴いてくれるひとがいるんだよ、ぼくは自分が何かを救えるとかって錯覚してる」


衝動的に登録してる連絡先ぜんぶ消したりとか、もうしないしさ、


「ぼくが次のぼくみたいなやつを救って、それで、ぼくができなかったことを勝手にひとに夢見てるのかもしれない、そして、次はうまくいくなんて、毎回思ってるんだよ」


次は笑ってあげられるくらいぼくも大人になったから。


「ぼくはね、君と別々の場所で、ずっとバンドをやっていたんだよ」


だけど、たとえば三つ編みの結びかたなんて、女の子同士のないしょ話みたいに、ぼくはまったく知らないんだよ。


「あははは!」






夜の海の色は、昨日誰かが絵の具で作った群青色なのだ。



「おれわかんないけどやるんだ、まだ。理想の自分が見つからなくても」


人間のからだはばかだから、なんでも栄養にしようとしてしまうし、それでまた、からだを悪くする。それでも、またね、なんて言っちゃうんだ。




寂しいよって泣いてても何も元へはもう戻らない
ほしいものはいつでも遠い雲のうえ