日高屋でカツ丼を食べていた。
日高屋の看板メニューはラーメンだ。しかし、ラーメンはマズい。
上京してすぐ安さに惹かれて一度注文し、2度と注文すまいと思ったのを覚えている。
しかし、アベなんかは日高屋好きなので、2人で遊ぶとよく、あのぬるぬるの床を踏むことになるのだ。
おれはその日、1人で日高屋に入店し、カツ丼を頼んだ。
今まで行った日高屋と違い、カウンターのみの薄暗い店舗だった。
どんな街でもその看板の下には似たような景色、そして同じメニューが展開される安心感、それこそチェーン店の醍醐味だが、その一風変わった雰囲気を感じ取ってか、カツ丼を注文。
1人で黙々と食べた、安いと思ったらなんて薄いドンブリなんだ……なんて考えながら。すると、同い年くらいの若者が入ってきた。
「えっとぉ……ラーメンの、期間限定のやつ?ホワイト、だっけ?それくださぁい」
ホワイト?そんなラーメン無いだろ、と思ったとき、1人のサラリーマン風の男のが、やれやれと言った風にコップを置き、自分の名刺をカウンターに店内にいる人数分並べ始める。
「兄ちゃん、あんた……日高屋のラーメンのこと何も知らないね? 残念だがそんな奴にラーメンは答えちゃくれねぇよ」
なんだこの男は、と男を眺めていると、ぼくの前にも名刺が置かれる。
「ラーメンハンター 傷丸」と書かれた名刺にはURLとバーコードリーダーがある。読み込むと食べログのページとかが見れるのだろう。
すると店員もそれに応えて
「そうですね……当店のラーメンの味をよくわかって戴いた方にこそ、期間限定の『白』は相応しいものと思われます、今回はお引き取りください」
等という始末。
日高屋のラーメン、そんなに美味なのか?
そもそも当時おれは、お店でとんこつ以外のラーメンを食べたことがなかった、そのカルチャーショックもあいまってマズいと感じてしまっただけではないだろうか?
同い年くらいの男は、店員と傷丸の言葉にたじろぎ、え、とか、う、とか言いながら店を出て行った。
それを当時の自分の姿に重ねてしまっていた。
傷丸は、ごっそさん、と言うとカウンターに旧5000円札を置いて、おつりをしっかり受け取って帰っていった。
今のおれなら、あのラーメンを美味だと感じるかもしれない。
食べてみよう、あのラーメンがもう一度マズさの猛威を振るっても、確かめてみよう。
そう思っておれも店を出た。冷たい風邪が吹き荒ぶ。今日も生きている、くだらないことを楽しみの連続にして、這い回るように。それでも今日みたいに何かが起こるときは、死にたいなんてことを忘れてしまっている。食べよう、それまでは、生きていよう。
いや、でも、日高屋にカツ丼はない!!!そう思って目を開いた。見知っている天井、夢だ。なんてくだらない夢をみたんだろう。
ちなみに傷丸の名刺から飛んだページはAVレビューの個人ブログで、ラーメンにはたまに触れるが味に関しては言及していなかった。