ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
「ザマーミロクソガキ!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
「地下牢に入れられて怖くて泣きそうか? 安心しろよ、すぐに泣き叫ぶ暇もなくなる!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――
「拷問には自信ありさ。昔は何人も騎士団の連中を――うるさい! いい加減に手錠を揉むのをやめろ!」
「じゃあ外してくれよ」
「誰が外すか! お前の手が切り落とされたって外してやるものか」
「お前の玉はもう潰れてるけどな」
地下牢に入れられたショーンの所へ、回復したカローがやって来た。もっとも、男としての機能まで回復したかと言われると謎だが。
「いいか。え? この地下牢は歴代の校長がありがたーーーい魔法をかけて下さってる。この鉄格子を見ろ。こいつはな、中から掛けたどんな魔法も跳ね返しちまうんだ。
一方で! 外からは掛け放題!!
しかも鍵は俺が持つこのたった一本だけ。お前はぜっっっっったいに外に出られないというわけだ!! はっはっはっはっ!!」
「そうか。アクシオ鍵」
見せびらかせていたカローの手から、糸で引いたように鍵がショーンの手の中に滑り込んだ。
「それじゃあ、続きをどうぞ」
「お、おま、お前! どうやって!?」
「人に聞く前に、ちょっとは自分で考えてみような」
「うざい教師かお前は! それに『穢れた血』風情が俺に上から!」
怒ったカローはショーン目掛けて呪いを撃った。
しかしそれは届くことなく、むしろ鉄格子に跳ね返されてカローが吹き飛んだ。
「おーい、大丈夫か?」
「お前、本当になにした!?」
「ひっくり返した」
「なにを?」
「鉄格子を」
ショーンは手をくるくると回した。
「つまり、それは。……どういうことだ」
「さっき自分で言ってたじゃないか。掛けた魔法を跳ね返すって。だから跳ね返ったんだ、お分かり?」
「そこじゃない! 鉄格子をひっくり返しただと! いつそんなことをしたんだ。そんな暇なかったろう!」
「はっはー。大広間でお前を蹴り飛ばす前だよ。事前に一手間加えておいたのさ。お前の単純な考えなんざ全てお見通しってわけだ」
嘘である。
ショーンはかれこれ4回もこの地下牢にぶち込まれていた。これはちょっとした記録だと思われる。
いい加減に
つまり偶然である。
とはいえカローがそんな事情を知る由もなく、十代の餓鬼に裏を読まれたと屈辱に震えた。
「まあいい。それじゃあ、魔法での拷問はなしだ」
「なしだ、なんて言っちゃって。俺の前ではカッコつけなくていいんだぜ。出来ないんだろ」
「だまれ! 貴様は今から飯抜きだ! 餓死する様をじっくり見てやる!」
「そりゃあ長いことになるぜ」
ショーンが床を剥がすと、そこにはいくつもの麻袋が入っていた。中から出て来たのはリンゴだ。水々しいそれに齧り付く。皮が破ける音と、フルーツ特有の水っぽい
カローはポカンと口を開けて突っ立っている。
次に取り出したのは蓄音機だ。
針を下ろすと見事なクラシックが流れ始めた。
お次は組み立て式のソファーとテーブル。鼻歌を歌いながら手際よく組み立てて行く。それだけで終わると思いきや、ダーツセットや絵画の様な嗜好品まで出てくる有様で。
10分もすると――おー! なんということでしょう!――グリフィンドールの真紅を基調とした美しい部屋が出来上がりました。
「こんなこともあろうかとな」
「どんなことだ! せめて一つだろう! どれだけ楽しむつもりなんだ!」
「だって、牢獄って退屈だろう」
「その為に作ってるんだ! お前は頭がおかしいのか!!」
「お前の主人は毛根があやしい」
「だまれ!」
「ヴォルデモートじゃなくてハゲテモータにすればいいのにな」
「だまれだまれだまれぇ!!! 我が君へのこれ以上の侮辱は許さなんぞ!」
「許さないならどうするんだ?」
「それは!? ぐっ! く、くく――このクソガキがっ!」
カローは力任せに鉄格子を蹴っ飛ばした。
音を立てるだけで、もちろん壊れたりしない。むしろ足の方が痛くなったくらいだ。
しかしカローはそれを悟らせまいと怒りの顔を作った。
もちろんショーンはそれを分かっていたので、とびきりの笑顔で足を指差した後、子供用の痛みが飛んでく
「覚えておけよ! 明日また来てやる! その時までにぜっっったい貴様を拷問する方法を考えてくるからな!」
「そいつは楽しみだ。それじゃあ、何時からにしようか」
「約束じゃない!」
激昂しながら帰るカローに手を振ってやる。
あれは相当頭にキテる。今日中は部屋に
その間にいくつかやることがある。
「はあ……めんどくさ」
それはダンブルドアからの“指令”だ。
ショーンは行方をくらましたはずのダンブルドアに会っていた。ここにいるのも彼の指示である。
それと、学生だからということもあった。ついつい忘れがちになってしまうがショーンの本業は囚人というよりも、むしろ学生に近いのだ。
ベッドの上で横になっていると、誰かが近づいてくる足音がした。
ショーンにはそれがコリンのものということがすぐに分かった。長年の友情のお陰ではなく、首から下げたカメラの音がしていたからだ。ここではフィルチが罰則の記念アルバムを作る以外に、コリンくらいしかカメラを持たない。
「ショーン!」
「ようコリン」
「ようコリン!? こんな状況でも君って奴は……たまげたよ。『例のあの人』が世界を支配し掛けてて、地下牢にぶち込まれてるのにそんな呑気な挨拶をするのは世界中探したって君くらいさ」
「慣れだよ」
「うん、訂正しようか。こんな状況に慣れてるのは歴史を全部見返したって君くらいさ。ピンズ先生だってそう言うね」
「俺だって慣れたかねーよ」
こんなに牢獄にぶち込まれる人間が果たしているのだろうか。
このまま行くとショーンは、ホグワーツだけでなく、牢獄の卒業単位も取ることになりそうであった。
少なくとも出席日数の方には自信がある。
「それで、なにがあったの?」
「随分とざっくりした質問だな」
「あー、えっと。それじゃあ最初から話してよ」
「ふーむ」
とはいえ、だ。
コリンにどこまで話していいかショーンはちょっと迷った。ダンブルドアからその辺りの判断は一任されていたが、いざとなると何をどう話せばいいかわからなかったのだ。
コリンのことを信用してないではないが、彼は『閉心術』を使うことができない。前までならヘルガに頼めば良かったのだろうが、今のショーンは
どうしようかと、ショーンはここ三ヶ月間のことを思い返した。
――という感じで過去回想に入ろうと思ったが、めんどくさいのでやめた。
そもそもなぜコリンごときにそんな労力を割かねばならないのか。
それならキャノンズがどうやったら今年のクィディッチ杯を取れるか考えたほうがまだマシというものである。
「つーわけでやめた」
「どういうわけ!? 色々あるじゃん。ダンブルドアがどうなったとか、ジニー達のこととか、ポッターさん達のこともそうだよ! ……それに、君のことだって」
「うるせーな。今日は疲れてんだよ。またそのうちな」
「えーー……」
ショーンはいよいよ寝る体制に入った。
こうなってはテコでも動かないので、コリンは諦めて帰った。
そして次の日。
鶏の羽だらけになったカロー兄が激怒しながら牢獄を叩いた!
「貴様あああああああああああああ!!!」
「どうして朝から」
「どうして朝からだと! どうして朝からだとお!?」
「……どうして、って言うのは疑問の意味で。朝からってのは夜明けから始まるって意味だ」
「言葉の意味が分からなかったんじゃない! お前だろう、俺の部屋に100匹以上の鶏を放ったのは!! どうやったんだクソッタレ! 牢からは出てないのは知ってるんだぞ!」
「気の利いた目覚ましだったろう?」
「死ね! ぶっ殺してやる!!」
そう息巻いたカローだが、しかし牢獄は魔法を通さない。
怒りで震えるカロー――そのとき脳内に電撃が走る!
彼は杖を振って、近くにあった薪をボーガンに変えた。魔法が通らないなら、これで攻撃しようという魂胆である。実際、鉄格子にはある程度の隙間があるので悪くない案ではあった。そうであるように見えた。
「お前、バカだろ」
杖を構えるショーン。
「インセンディオ」
杖の先端から勢いよく噴射された火は木製ボーガンを燃やし尽くして、カローのローブに燃え移った。
カローが考えた完璧である様に作戦には大きな落とし穴があった。
それは先ず、ここはホグワーツ魔法魔術学校で、ショーンが魔法を使えるという点であった。
そしてもう一つは、相手がショーンであることであった。人に向けて魔法をぶっ放すことになんの
「ぐわあああああああああああ!!」
火の玉になったカローは走り出して、すぐに見えなくなってしまった。
明日はもうちょっとマシな方法を考えてきて欲しいと、ショーンはカローの無事を願った。
「こっちは産まれて初めての一人でさみしーんだからよ」
ショーンは虚空に向けて呟いた。
当然そこには何もない。
周りから見ても、そしてやはりショーンから見ても。