絶滅昆虫、布引ダム、命名権、鳥海山水、登山電車、考古館、科学館、入試ムーミン

砂丘に絶滅危機の昆虫保護区域
                           投稿日:2018/04/15、No.440
  鳥取砂丘に生息する希少な昆虫エリザハンミョウを保護するため、鳥取砂丘再生会議と環境省は、4月11日、オアシス周辺の営巣地にロープの囲いを設置した。
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 この保護区域は、巣穴に適する湿った砂地の80 m x 20 mの範囲に設けられた(写真:14日11時)。ロープの横には、
「ここはエリザハンミョウのおうちです。エリザハンミョウは、このオアシスのような湿った砂地にしか住んでいません。砂の中の小さな巣穴で育ちます。みんなでロープの外側から見守りましょう。」
と書かれた看板が立っている。立ち入り自粛を求めるだけで、禁止の文字はないのが良い。

 砂丘の昆虫が絶滅の懸念あり、ということを聞いたとき、昨年11月鳥取砂丘に数万人が来場した「ポケモンGO」イベントなどが大きく影響しているのかなと思ったが、もっと前から、自然要因、人為的要因により生息数が危険値に近づいているそうでる。

 鶴崎展巨・他(山陰自然史研究、2016)によると以下の通りである(抜粋)。
「エリザハンミョウは、鳥取県では砂丘周辺のみに生息し、しかも営巣はオアシス付近しか確認されていない。2015年に300個体にマーキングをほどこし,標識再捕法により個体数を推定した。その結果、7月11日に550、最盛期の7月18日には2352、8月1日には死亡もあり342個体となった。この数は予想よりもかなり多いが、個体数変動の大きい昆虫などで個体群を健全に維持するのに一般に必要とされる約1万個体には届いていない。」

 今ただちに絶滅の危機、というわけではないようだが、切羽詰る前に、このような緩い規制措置を施すことは重要であろう。


五本松堰堤(神戸)
投稿日:2018/04/21、No.442

 神戸市の観光・散策サイトのリーフレットに「五本松堰堤(えんてい)」という施設の紹介があった。これは一般には「布引ダム」とも呼ばれ、日本最古の重力式コンクリートダムとのことである。

 重力式とは何か、また「最古」に惹かれ、先月見に行ってきた。新幹線の新神戸駅横から布引ハーブ園行きのロープウェーに乗り、中間駅からハイキングコースを20分ほど下ると布引貯水池とダムに着く(写真:3月19日)。
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 ダムは大きく分けると、石や土を積み上げたフィルダム(鳥取の殿ダムなど)とコンクリート製ダムの2種類がある。さらに、ダムの堤体には高い水圧がかかるので、アーチ構造で水圧に耐えるアーチ式と、ダムの下部ほど堤体を厚くして構造物の自重により水圧に抗する重力式がある。

 布引ダムは、水道専用として明治33年に完成したコンクリート製のダムで、重力式のため堤体は単純な直線である。しかしコンクリートの外側は石張りで、巨大な城壁を思わせ、趣がある建造物と言える(写真)。

 ダム便覧によると、「ヨーロッパの古典様式の影響を受けている。周囲の緑と調和し、優れた景観を現出。平成10年に登録有形文化財の指定を受けた優れた土木遺産」との評価である。

 このダムから放出された水は、直下で布引の滝の雄滝・雌滝を経て、取水口から浄水場へ送られ、神戸市民の水道水の一部として供給されている。なお、布引の滝は観光名所ともなっているため、09時~21時のみダムから放流しているそうである。


ネーミングライツ
投稿日:2018/04/09、No.439

 鳥取県立布勢総合運動公園は、ネーミングライツ(施設命名権)により名称を「コカ・コーラウエストスポーツパーク」としてきたが、同社の商号変更にともない本年4月から「コカ・コーラ ボトラーズジャパンスポーツパーク」に変更となった。22文字、ものすごく長い!

 県ではこれを「愛称」とみなしているが、単なるニックネームではなく、そこで開催される競技会やイベントの案内、あるいは公式記録の「場所」にはこの名前が載る。したがって、コカ・コーラ・・・パークが実質的に正式名称である。

 しかも、公園名のみではなく、野球場、競技場など全ての施設にコカ・コーラ・・・が付くのである。

 布勢公園と似た位置づけの都市公園(運動公園)が大阪市の長居公園である。面積は布勢より一回り大きい66 haで、その中に次の施設がある。
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 ヤンマースタジアム(陸上競技場:写真、正面右<4月7日>)、ヤンマーフィールド(第二陸上競技場)、キンチョウスタジアム(球技場:写真、左奥)、プール、庭球場、(以下、大阪市立)障がい者スポーツセンター、ユースホステル、自然史博物館、植物園など。

 以上の内2陸上競技場と球技場の所有者は大阪市で、管理運営は財団等のグループが共同で行っている。ネーミングライツの契約金額は、ヤンマーが2つで年1億円、キンチョウが3600万円である(大阪市ウェブ)。

 これに比べて布勢公園の命名権額は著しく格安の年1000万円である。しかも全施設含めてである。

 大阪と鳥取では、利用者数や観客数が格段に違うので、鳥取の命名権金額はこんなものなのかなと思いはするが、1000万円が公園・施設の年間維持費に貢献する割合はほんの僅かであろう。以上諸々の理由から、田舎の都市では、ネーミングライツなんて考えることをやめたら良いと思う。


鳥海山 氷河水
投稿日:2018/04/26、No.443

 新聞記者やテレビ番組の製作者等から、ときどき電話やメールにて氷河に関する質問がある。

 数日前、某テレビ局からの電話は、「氷河の融け水について検索していたら、『氷河水は氷河の中で長い時間ろ過されているから、不純物が少ない』という説明があったが、これは正しいか?」という確認を求めるものであった。

 氷河中でろ過、などあり得ないはずなので、すぐ調べて見たところ、そのサイトは「鳥海山 氷河水」の広告で、本文は以下の通りである(原文のまま)。

 =山形県と秋田県の県境にそびえる名峰・鳥海山(2236m)は国内でも珍しい小氷河が点在します。その氷河がゆっくりと溶けて山麓のブナの原生林に浸透し、長い年月をかけて幾重もの天然フィルターを通り山麓に湧き出したのが「鳥海山 氷河水」です。 現在、販売されているミネラルウォーターの多くが湧水や鉱泉水ですが、氷河水は氷河の中で長い時間ろ過されていますから、不純物が少ない水です。=

 鳥海山には多年性雪渓(いわゆる万年雪)が多くあり、これらは小規模ながら氷河だと、土屋巖(1978)が初めて提唱した。上記の第1文は、その説に従ったので特に問題はない。

 次の2文が、「その小氷河の融け水がブナ林の堆積物中を浸透し、濾過され、湧き出した水なので、不純物が少ない」であれば正しい。

 氷河の氷には、それが雪として降ったときの雪粒および空気に含まれる不純物(イオン、ダスト等)が閉じ込められている。山岳地や極地では、空気は非常にきれいなので、氷河氷に含まれる不純物濃度は一般の飲用水よりずっと少ない。

 氷結晶内の不純物は、何万、何十万年たっても、そこから漏れ出すことはない。だから、氷河氷を融かした水は、超軟水である。

 広告文中の「氷河中でろ過されたから」は、何らかの誤解か、間違って混入した一文なのであろう。

 なお、氷河の融け水が割れ目などを通って底部に達し、岩石の上を流れると、砂礫やミネラルを多量に含み、白濁し硬水となる。
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[写真:酒田駅付近の車窓から見た鳥海山。2008年6月]


国見山の登山電車
投稿日:2018/05/02、No.445

 兵庫県立「国見の森公園」(宍粟市)には、国見山(465 m)へ向かう登山電車が運行している。総延長1084 m、高低差306 mを、人が歩くほどの速さで20分かけて上る。
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 写真(2018.4.15)にて、右側が桁にまたがる方式のモノレール、左側が保守と非常用の歩行路である。また、レールの傾斜が変化しても、自動制御により車輌の床は常に水平に保たれることが特徴的である。

 山岳地やスキー場などにはロープウェイが多いが、地上を走る電車には、ケーブルで引き上げられる方式が古くからあり、1921年開業の箱根登山鉄道や急勾配の高尾山ケーブルカーが有名である。

 国見山の登山電車は、運転の原理がこれとは全く違う。車体下部の回転する歯車(ピニオン)が歯型を刻んだ線路(ラック)の上を走る。したがって、この鉄道の方式を”rack and pinion”と言うそうであるが、ふつうの日本人は、この名称を聞いても何のことか分からない。

 そのためもあってか、同公園ではこの電車を「森林学習軌道(ミニモノレール)」と称している。森林学習を主目的としているからそう名づけたのだろうが、これでは急傾斜(最大38度)の山を登る電車のイメージはない。また、別名「ミニモノレール」も遊園地の乗り物を想像してしまう。

 このタイプの電車を開発・製造している会社では、商品名をスロープカーとしている。2人乗りの個人邸宅用から展望台へのアプローチ等、多様な用途に用いられている。確かに、斜面を登る電車なので、スロープカーが最もふさわしい名前の様に思う。

 4月15日、この電車で国見の山へ上り、その後3.5 kmのハイキング道を下った。


考古博物館(播磨町)
投稿日:2018/05/14、No.447

 兵庫県播磨町、JR土山駅近くの緑地帯に県立考古博物館がある。

 考古学とは、「人間の過去の文化の発展を,その遺物を通して研究する学問。広い意味での歴史学の一分野を占める。特に記録のない時代については,考古学によって研究される部分がほとんどであるといってもよい。」(ブリタニカ国際大百科事典)

 したがって、考古博物館は、博物館の諸機能のうち、考古学の分野を主としたものである。

 博物館法に定める要件(学芸員、開館日数など)を満たした登録博物館は、日本全国に913館あり、種類別内訳は美術372、歴史326、総合122、科学71、野外11、水族館8、植物園2、動物園1となっている(平成23年度文部科学省社会教育調査)。

 ちなみに、鳥取県立博物館は美術、歴史、自然を広く包含する「総合」、一方、県立鳥取二十世紀梨記念館(なしっこ館)はどこに含まれるか不明だが(財)日本博物館協会の分類では「郷土」となっている。

 兵庫県立考古博物館は、1962年中学生により弥生時代後期(約1900年前)の遺跡が発見され、その地に2007年に設立された。写真(2018.5.6)の右は復元された竪穴住居、左は考古博物館とその展望台である。
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 当館は、縄文時代~古墳時代を中心とした遺跡、遺構、遺物の考古学資料を活用して、兵庫県の古代文化を解き明かす展示を目指している。ふつうの博物館では、出土品や遺物の片は地味な陳列物と感じられるが、ここでは展示物を楽しく見て、あちこちで参加体験できるよう工夫されている。


札幌と名古屋の科学館
投稿日:2018/07/03、No.456

 1970年代半ば、札幌市にて青少年科学館の構想が具体化し、私がその展示企画委員に委嘱された。北海道につくる科学館なので、寒さ、雪、氷の展示に力を入れようということで、理工系の委員の一人として選ばれた。

 そのため、国内旅行の途次、時間があれば科学館を訪れたし、1978年にはオタワの国際会議に出席した後、カナダ、アメリカ東部の科学館も視察した。札幌市青少年科学館は1981年に、世界初の人工降雪装置、低温展示室など、雪国らしい展示を特徴として開館した。

 当時から、科学館は、従来の博物館の様に展示物を並べ、解説文を添えるのではなく、青少年を主とする来館者が、直接手を触れ、動かし、その後の運動や変化を観察する体験型が望ましい、と考えられていた。

 去る5月16日、○○年振りに名古屋市科学館を見学した。ここは、プラネタリウム、各種ラボ等を除く展示室が4階、8フロアに及び、おそらく国内では最大級の科学館だろう。
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 写真は「水のひろば」。[海]から汲み上げられた水が中2階に運ばれ[蒸発]、そこでシャワー状に水が落ち[雨]、その後、樋[河川]を流れ下って海に戻る「水の循環」を再現している。これはまあ、分かりやすい。

 一方、「科学原理」とか「電気・エネルギー」を扱うフロアでは、さまざまな物理実験が可能な展示が多くある。小中学生の団体では、競うようにスタートボタンを押し、何かが動き出したら、それを観察することもなく、次に移動していく生徒たちも多くいた。

 確かに、「科学原理」には高校の物理や化学で、あるいは大学で学ぶ内容も少なくない。科学館の来場者は、幼稚園児から高齢者まで幅広いし、科学に対する知的好奇心には大きな差がある。だから、ゲーム機のような遊びの要素の強いものから、本格的な物理・化学実験まで、多種、多様レベルの装置や機器を用意することが適当なのだろう。

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入試問題「ムーミン」は良問か否か?
投稿日:2018/01/20、No.420

 大学入試センター試験(2018.1.13)の地理Bで、人気アニメーションの「ムーミン」(タ)と「小さなバイキングビッケ」(チ)との題がついた絵を示し、これらのどちらがノルウェー、他方がフィンランドと判断を求められる問題が出された。

 これに対し、大阪大学の教員(北欧史)が「原作ではムーミンの舞台はフィンランドとは断定できない」と疑問を呈し、フィンランド大使館も「ムーミン谷は皆さんの心の中にある」とコメントした(各種報道およびネット情報による)。

 ムーミンは、スウェーデン語系フィンランド人作家・画家のトーベ・ヤンソンによりスウェーデン語で書かれた物語(初作品1945年)であるが、ムーミンの絵の舞台がフィンランドではなく、空想の世界だとすると、この試験の設問は前提が崩れてしまう。つまり、厳格に考えると、「答えられない」問題ということになる。
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 そうすると、入試では時々ある、「全員を正解」という措置も考えられるが、これは一見皆に公平そうに思われるものの、この問題に時間を割いた人にとっては大きな不利益を被る。

 しかしながら、この問いでは、ムーミンを全く知らなくても、バイキングがノルウェーと関係が深いことを知っていれば、残りがフィンランドだと分かる。また、アニメのムーミンの背景に針葉樹が見え、フィンランドらしい景色とも言える。

 したがって、(タ)と (チ)のどちらかがフィンランドか、との質問には、(タ)と答えるのが自然であろう。

 そうすると、この問題の前半部分は、やや不適切だが、決定的な誤りのある悪問とは言えない。


(続) 
投稿日:2018/01/23、No.421

 入試問題地理Bの第5問は、主人公の高校生が北欧を旅行し、そのレポートをまとめているとの想定で、北欧3か国の気候、発電エネルギー源、産業を比較検討した後、問4で言語を扱った。

 そのためこの問いには、漫画付きで「いくらですか?」を意味するスウェーデン語「Vad kostar det?」、A「Hva koster det?」、B「Paljonko se maksaa?」を紹介している。

 さらにカタカナで読み方が、例えば「A:ヴァ コステル デ」と付されているが、外国語の発音をカタカナで正しく表記できるはずがないので、これは愚だ。

 設問は、タ、チとA、Bの4つの組み合わせから、「フィンランドに関するアニメーションと言語との正しい組み合わせを一つ選べ」というものであった。問題前半の二択でタを選んだとすると、後半はA、Bの二択である。

 一瞥してAはスウェーデン語と似ていることが分かる。結局、フィンランド語とノルウェー語のどちらがスウェーデン語に近く、すなわち民族的に近いか、という問題になる。

 スウェーデンは、ノルウェーとは陸続きだが境界に氷河を頂く山脈があり、またフィンランドとは南部は海の湾で隔てられているが北部ではつながっている。(写真:フィンランド・ヌークシオ国立公園、2016.6)
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 判断に迷うが、フィンランドのフィン民族が、かつてはスウェーデンの中央部にも広く居住していたことを聞いていたので、答はAかなと思った。

 しかし、正解はBであった。すなわち、フィンランド語はインド・ヨーロッパ系の言語ではなく、ヨーロッパ諸国の中では異質な言語である、ということを問うたことが分かった。

 それは良い。そうならば、もっと素直に、世界の主要な言語のルーツを質す問題にすれば良いのではないか。ムーミンを登場させる必然性はない。さらに、問題文の中に“スウェーデンを舞台にしたアニメーション”として「ニルスの不思議な旅」の絵が示されているが、これは何も役立っていない。

 単に、親しみやすい、楽しい、ハッと思わせる試験問題を作ろうとしたのだろうか。

 悪問や愚問とは言えぬが、本質とは離れた関係のない事象に神経をそそがせているし、遊びが過ぎた感がする。

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