デジタル×リアルで挑む新境地。ブロックチェーンゲームとECサイトを繋げる「くりぷ豚」とは
株式会社グッドラックスリー
代表取締役社長 井上 和久
最近よく耳にする「AR」という言葉。これは、「Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)」の略であり、「拡張現実」と訳されます。現実の上にデジタルな情報を表示する機能のことで、世界的ブームになった「ポケモンGO」や「Snapchat」にもこの機能が使われています。そんな可能性溢れるAR技術に着目し、挑戦しようとしているスタートアップ企業が、福岡にもあります。株式会社YONDE(ヨンデ)です。代表取締役C E Oの田坂洋一さんに、“AR×広告”の可能性や起業の経緯などについてお話伺いました。
ー まずは事業内容とサービスについて教えてください。
田坂 YONDEでは、「Web.AR」や「Instagram」のARフィルターを用いた体験型のAR広告を開発しています。他にも、不動産における施設の内覧など、2Dでは分かりづらいものを3Dで見せるようにするARサービスを提供しています。AR内覧なら、実寸大で表示することで、スマホを通してリアルにその部屋を見ているような体験をすることが可能です。壁紙の色や床の色も変更できるので、不動産会社の営業マンがお客様に床の色を変更して見せたり、モデルルームが1個しかない場合に他の部屋のタイプを見せたりといった営業ツールとして使っていただいています。また、最近ではヴィッセル神戸のInstagram公式アカウントで、Jリーグでは初の導入となるARフィルターをリリースしました。
ー なぜAR事業に参入しようと思ったのですか?
田坂 AR技術は今後大きく伸びる市場だと思ったのと、自分自身がARという技術の魅力に惹かれたことが大きいです。ARはまだ専用のデバイスが少ないので、今はやれることに制約があります。ですが、使い勝手の良いデバイスが登場したら一気に伸びると思いましたし、今なら自分がその市場に参入しても戦える余地があると感じました。実際、コロナの影響で「リアルの施策を打てないから、代わりにオンラインで何かできないか」といったご相談は増えています。それに、僕は起業するなら元気な市場でやりたいと思っていました。大学生の頃にバックパッカーで世界一周をしたのですが、その時にこれから発展していくアジアの国々が非常に元気で印象的だったんです。また、父から日本の高度経済成長期の話を聞いていたことも影響しています。ARにはそういった「これから成長していく」というワクワク感があったことも理由の一つですね。
ー YONDEの事業としての強みはどこにありますか?
田坂 一番の強みは、提案力です。一言で「AR」と言っても、Webやインスタグラム、アプリなど、使うツールはさまざま。また、2Dか3Dかでもやれることや予算が変わるため、目的に合わせて、どのツールでどのようなものを作るかが重要です。例えば、アプリを使うとなると、まずは利用者にアプリをダウンロードしてもらう必要があります。「ポケモンGO」くらい強力なコンテンツならいいのですがほとんどの場合、その1ステップは手間にしかなりません。「前回はアプリで作ったんだけどうまくいかなくて…」といった話を聞くと、提案した会社が自社の収益を考えてそうしたのかなと考えざるを得ないこともあります。 それだともったいないですよね。なので、僕たちはお客様がやりたいことに対して、一番成果が出やすい最適な方法を予算に合わせてご提案するようにしています。
ー ARにどんな将来性や魅力を感じていますか?
田坂 AR広告は、既存の広告よりも楽しみながら見てもらえる世界観を作りやすいところが魅力ですね。体験したくなるコンテンツなので、視聴時間のエンゲージメントが上がり、広告効果が非常に高い。現在は、いかにも広告といったクリエイティブが嫌われる傾向にあるので、会社のロゴがさりげなく入ったARフィルターなどが人気です。もう一つの魅力は、ARで解決できる課題がとても多いところです。例えば、新人看護師が注射をうまく打てない場合、ARで最適な位置を指示すればスムーズに打てる。そうすれば、注射のスキルを獲得するための時間が不要になり、効率化が可能になります。このように、ARを活用することで解決できる問題は他にもたくさんあるのではないでしょうか?
ー なぜ起業しようと思ったのですか?
田坂 起業しようと思った理由は2つあります。一つは、好奇心です。僕は、世界中を見たくて大学時代に世界一周をしてみたり、趣味のバンド活動では自分たちでレーベルを立ち上げてCDを流通に乗せてみたりと、なんでも自分でやってみたいし見てみたい性格でした。もう一つは、起業した方が自分の実力が試せるし、やりたいこともやれると思ったから。僕は、大阪の大学を出た後、「いつか海外で働いてみたい」と思って商社に就職し、入社5年目にタイのバンコクへ転勤しました。ですが、長く働いていると「もっとこうしたらいいのに」と感じることが増えてきてしまって…。僕は、常々「会社に雇われているのに文句を言うのはかっこ悪い」と思っていました。だから、「会社の愚痴を言うくらいなら、起業してやりたいことをやろう」と決めたんです。
ー なぜ福岡で起業することにしたのですか?
田坂 「ジーズアカデミー」でプログラミングの勉強をするために福岡に来たら、すっかり街の雰囲気も人も好きになったんです。仲間がたくさんできたし、みんな明るくて温かい人柄で、ご飯もおいしい。それがとても気に入ったので、そのまま福岡で起業しました。起業の際には、「東京で起業した方が、人材の面でも市場の面でもいいよ」と言われましたし、いずれは東京に出る必要もあるのかもしれません。しかし、「地方でもやれるさ」という反骨精神もありましたし、AR自体、まだ東京でも福岡でもできることに上限があるので、結果的に福岡を選んでよかったと思っています。また、起業してからも、福岡の企業に営業の電話をすると会ってくれる人が多く、今も福岡の “人の良さ”に救われています。
ー 今後のビジョンを聞かせてください。
田坂 次のステップとして、プラットフォームになるようなサービスを作りたいと思っています。具体的には、イベントにARを活用していただき、自宅や会場だけでなく、会場に向かう道中も盛り上げるようなサービスです。従来、会場に向かう“道”は、特に価値のないものでした。しかし、ARを使えば場所などの制約がなく表示できるので、会場までの道のりを楽しめるものにすることができます。また、イベント会場でも展示物に対して反応するようなARコンテンツを作れば、付加価値を加えることも可能です。そういった一連のことをパッケージ化して打ち出していくことを考えています。 また、ARは環境的・技術的な要因でまだ成熟しきっていません。ですが、専用デバイスの登場など、外的要因で状況は大きく動くと考えているので、今は足元の実績を積み上げていきながら、ARの可能性を広げていきたいと思っています。
ー 起業しようと思っている方へのメッセージをお願いします。
田坂 起業自体は、必要な手続きさえすれば誰でもできます。しかし、起業して1年で4割が廃業し、10年でほとんどが廃業してしまうという話もあります。でも、僕自身は失敗すると思っていません。これは全くの“根拠なき自信”ですが、起業にはそういったものが必要なのではないかと感じています。それに、スタートアップは短期スパンで状況が変化するので、いろいろ考えるよりも動き出してしまった方がいい。実際にやってみないと分かりませんし、やりながら覚えるぐらいの気持ちでいいと思います。もし起業をしたいのなら、悩んでないでぜひ起業してください!
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ライター / 神代 裕子