白冽のマリスガイン 第4話 刈谷
「もし本当に、子供の操縦する、ワンオフの、人型巨大ロボットが、現代の地上で動いたら?」
注意事項などは第1話の説明文を参照してください。
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2月26日朝、優鑠は刈谷駅に居た。今日はロボットアクターの二次審査の日だ。
駅から伸びているデッキを歩き、優鑠は集合場所の刈谷市総合文化センターへ向かう。面接と適性検査はそこで行うらしい。
文化センターの入口に近づくと、灰色の作業服を着た男の人が待っていた。案の定JACEIRAの人だった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「えーっと……、鳳来中学校の夏目優鑠さんですね?」
「そうです」
「はじめまして。自分はJACEIRAの小林と言います。今日一日アクター応募者のみなさんの引率をするので、よろしくお願いします」
「お願いします」
挨拶を交わすと、小林は首から下げる名札を優鑠に渡し、掛けるように言った。
「我々が外していいと言う時以外ずっと着けててください」
「分かりました……」
「……もしかして緊張してる?」
「なるべく、しないように頑張ってるんですけど」
様子から感じ取った小林が気に掛ける。優鑠は苦笑いで返した。
「まあ無理もないよね」
「今日は偉い人がみんなを見るけど、礼儀作法が間違ってるとか敬語がなってないとか、そういう事は全然マイナスにならない。大丈夫」
「面接はみんなの……キャラを知るためにやる。普段の夏目さん、本当の夏目さんを知れない方がアクター審査的にはよくない。だから家に居る時みたいにラフな感じで過ごして。僕や他の偉くない人の前では居眠りとかもしていいから」
「……はい!」
居眠りをする度胸は無いが、その言葉を聞いて優鑠は少し気が楽になった。
言われた研修室に入ると、既に1人他の一次審査通過者と思われる学生が待っていた。JACEIRAの人に促されて優鑠は席に着き、今日の流れの説明を受ける。JACEIRAのパンフレットも貰った。
(集まったのこんだけ!?)
予定開始時刻の9:30になって、集まった学生は優鑠を入れて4人だった。明日も別の子達が二次審査を受けるので、均等に分かれてるとして一次審査を受かったのは計8人という事になる。どれだけ応募があったかは知らないが、優鑠は少ないと思った。しかし、最終的にアクターになれるのはこの内1人だけだ。
まず適性検査から始まった。検査は前半が知能・学力、後半が性格・考え方のチェックに分かれていると説明を受ける。
説明する人は、最後に感情を込めてあることを言い放った。
「高校を卒業する人や大学生がやる検査なので、みんなには絶対難しい。特に中学生の2人には。でも、諦めず最後まで考えて!」
優鑠は不安になりながらも、とにかくやり始めた。
前半、最初の方の問題は苦労せず答えられた。国語の問題は日本語を使っていれば分かる物ばかりだし、数学も初めは簡単な四則計算などだった。
しかし……。
(2進数の変換ってどうやるの!?)
(sin cos tanとかまだ習ってないよ!)
解ける図形の問題も時間を圧迫し、優鑠は翻弄された。
制限時間が来て検査用紙を回収される。優鑠は「他の子も同じだろう」と都合よく考えて気持ちを切り替え、後半の回答にあたった。性格・考え方のチェックなのでつまずく点は無いだろう。
と思っていたらそんな事はなかった。2択のどちらかを選ぶ質問で、
愛する人の為に全てを捧げられる
or
愛といっても結局は自分の為だ
(だとー!? なんだこの質問!?)
(てかそもそもこの2つ種類が違うじゃん! 両方の場合もあり得るでしょ!)
このような悩まされる質問がいくつも出された。他の子も悩んだようで、結局4人とも時間内に回答しきれず、全員回答し終わるまで検査が延長された。
確かに難しい検査だったと、優鑠はため息をつきながら思った。
次はいよいよ面接だ。軽い説明の後、まだ面接官の準備が整っていないらしく少し待つ事になった。皆それぞれ読書や宿題をして過ごす。優鑠は電車の中で読んでいたラノベの続きを読んだ。
トップバッターの子は、考えてきた受け答えが書いてあるのかコピー用紙を読んでいた。面接は名札の番号の順で行われる。優鑠は4番なので最後だ。
面接官の準備が整い、1人ずつ別の部屋へ面接を受けに行く。時間はあっという間に過ぎ、3番の子が戻ってきて遂に優鑠の番となった。小林に言われて面接の部屋へ向かう。
(……よし行くぞ!)
優鑠は躊躇して部屋に入れなくなる前に踏ん切りをつけ、ドアをノックした。
「どうぞー」
部屋の中から女性の声が聞こえてきた。優鑠はドアを開ける。
「失礼します」
礼をし中に入りドアを閉め、イスのそばまで近づく。
部屋には男性と女性が居た。優鑠は男性に見覚えがあった。おそらく、公式サイトで見たJACEIRAの代表だ。
「新城市立鳳来中学校所属、二年、夏目優鑠です。よろしくお願いします!」
「どうぞお掛けください」
「失礼します」
優鑠はイスを引き出し、学校で何度も練習した動きで座る。
「いやぁ入室の動作、とてもしっかりしてましたね! 大人も見習わないといけないぐらいです。今日の為に練習してきてくださったんですか?」
(!?)
女性が想定と全く異なるノリで話してきて優鑠は困惑した。が、間を空けないようにすぐ返事をする。
「あはい! 面接は……初めてだったので、学校の先生や両親に見てもらいながら練習しました」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「申し遅れました。私はJACEIRA運営部人事課の牧野と申します。こちらはJACEIRA代表の中野です。本日はよろしくお願いします」
「お願いします」
「本題の前に。今日これ、"面接"ってお伝えしてきたんですけど、実際はちょっと確認とお話がしたいだけなので、そんなガチガチにならず、ゆったりしていただければと思います」
「はい……分かりました」
最初は驚いたが、牧野は物腰が柔らかく優しそうだった。ぜひ言われた通りリラックスして話したい。しかし、隣の中野が真顔で一切喋らないため怖く、優鑠は緊張を解こうにも解けなかった。
牧野が中野の反応を待たずに話を進める。
「ではまず最初の質問です。これは教えていただけたらで構わないんですが、夏目さんのご両親は何のお仕事をされていますか?」
「はい。父はコンビニで店長を務めていて、母は――」
「――夏目さんが今まで見たロボットアニメ・映画・漫画、遊んだロボットのゲームなどをできる限り教えてください」
「はい」
「……それってドラえもんも含みますか?」
牧野と話すにつれて、優鑠は肩の力を抜いて話せるようになった。
「学校でもその髪型をされてるんですか?」
「いや、学校はポニーテールにしてます。校則的にはOKなんですけど、先生には良く思わない人もいるので」
「その……なんでツインテールなんですか? かわいいから?」
「あーはい、そうですね」
「僕女の子が好きで、女の子がしててかわいいと思って1回自分もしてみたら、みんな… 女の子も男の子も良いねって言ってくれたのでそれからしてます。自分に合ってる気がします」
「私もすごい似合ってると思いますよ! へぇ~」
牧野は目を輝かせて言った。
「……では最後にお尋ねしたいんですが」
「夏目さん、新城市の長篠にお住まいですね。あの有名な合戦があった」
「ああまあ……。有名なのか分からないですけど」
「今日は電車でここまで来られたんですか?」
「はい」
「結構時間かかりますよね? どれくらいかかりました?」
「だいたい2時間ですね」
「う~ん……」
先程までの表情から一転、牧野は難しい顔を見せる。
「実は我々、夏目さんに関してはそこを心配してまして……」
「アクターに選ばれたら、主に学校が休みでテスト期間じゃない休日に仕事をやる事になります」
「夏目さんが刈谷まで来るのに電車で片道2時間、往復で4時間。車なら片道1時間15分で済むそうですが、それでも往復2時間半かかりますし、当社が送迎を用意するのは難しいです。移動時間がかかりすぎてしまうのではないですか?」
優鑠は「アクターやるの厳しくないですか?」と言われていると気付いた。移動時間についての質問は想定していた。すかさず答える。
「アクターに選ばれたら電車で通う予定ですが、電車の中でも勉強したり本を読んだり、音楽を聴いたりして時間を有効に使えます。今日電車に乗ってきて全く苦ではなかったですし、毎週通うようになっても大丈夫だと思います」
「でも仕事の時間も合わせたら休日の自由な時間がほぼ無いですよ?」
「一番やりたい事がアクターなので問題ありません。学校の勉強も、時間を上手く使ってちゃんとやります」
「ロボットのアクターって、そんなに大事なものなんでしょうか」
「……募集条件に"通える距離"と書いたのは、アクターをやりたいと言ってくれる子達に無理をさせない為だったんです。アニメみたいな巨大ロボットを操縦できるとなれば、全国から応募が来ると想像できますからね」
「夏目さんはまだお若いです。夏目さんの周りには、ロボットよりも大切な事がいっぱいあるはず。無理されないで、アクターは諦め
「時間の事は覚悟して応募してます! アクターがやれるなら全然平気です!!」
「そんなにロボットを操縦したいのか」
今まで一言も喋らなかった中野が口を開き、峻厳な声で優鑠に問いかけた。
「……はい」
「僕は、あのロボットを支える1人になりたいです」
優鑠は中野の目を見て強く答える。
「……分かった」
「では、移動時間は問題無いということで」
中野と顔を見合わせた牧野がそう言い優鑠に微笑んだ。優鑠は我に返り、今の熱弁を恥ずかしく思う。考えてきた志望動機を答える場面だろうが、まったく口から出てこなかった。
話が終わり、優鑠は部屋を後にする。研修室へ戻ると小林が通路で待っていて、他の子より時間のかかった優鑠を労わった。
これで適性検査と面接の2つが終了した。一行は文化センターを出てマイクロバスに乗り移動する。
残すは健康診断だけだが、その前にロボットの実物を見るため、JACEIRAの本社兼研究施設であるJACEIRA刈谷開発センターへ向かう。
バス車内の学生達は関門の面接を終えてのびのびとしていた。優鑠も、窓から見える工場とビルを眺めながら休む。
10分ほどでバスはJACEIRAに到着した。その社屋の玄関の前では、小林と同じ作業服を着た女性が待ち構えていた。
「こんにちはーーーー!!」
降車した優鑠達に女性は大きな声で挨拶する。優鑠達もそれぞれの声量で挨拶を返した。小林と言葉を交わした後、女性は皆に向かって話し始める。
「はじめまして! 私はJACEIRA技術部の敦賀と言います。ロボット開発のあれこれを全部監督してるリーダーです。開発センターの中は私が案内するから、みんなよろしくね!」
「「よろしくお願いします」」
「それじゃ、中に入ろー」
優鑠と他の子達の敦賀に対する第一印象は、(高度なロボットを作るリーダーには見えない)で一致した。
社屋に入ると、まず会議室のような部屋に案内され、今日の交通費を渡されると同時にスマホを回収された。セキュリティ上の決まりらしい。そして、安全に関するパワーポイントを見て、貸し出された作業帽と安全靴を着け、一行は見学に出発した。
「――こっちの棟はラボや事務所があって、演習場を挟んだ反対側の棟にロボットを見に来たお客さん用の施設があるよ」
「「へ~……」」
「……ねぇみんなもっと反応ないの? いいんだよ質問してくれて!? 『これなんですか?』とか『ロボットのあれってどうなってるんですか?』とか。答えられる事なら何でも答えてあげるからさ! そのために私が来たのに」
そう言われても、ロボットも見てないのに質問は思い浮かばない。優鑠がどうしようか考えていると、名札2番の男子高校生が手を挙げた。
「じゃあ質問いいですか?」
「いいよ~」
「一般公開が始まったらお客さんは、ロボット・M30をどれくらい見れるんですか? 足元まで行ったり触ったりできる?」
「あー……」
「まず、ロボットの名前はM30ね。"さんじゅう"とか"さんまる"って呼ぶ人もいるけど、技術部のみんなは"サーティー"って言ってる。その方がカッコいいでしょ」
「どこまで体験を提供できるかはまだ考え中! いちおういろんな高さから見れるように観覧デッキと――」
夢中で話す敦賀を横目に、優鑠は後ろに居る小林に声を掛けた。
「小林さん」
「どうしたの?」
「敦賀さんって、いつもあんな感じなんですか?」
「……いつもよりテンション高いかも」
「あはは……」
「「おお~」」
天井の高い建屋の中央に、M30が頭を外された状態で直立していた。屈強な支柱で背面から支えられ、ホイスト・クレーンや足場に物々しく囲まれている。そんな中でも、白銀色のボディーを持つM30の存在感と異質さは圧倒的だった。
一行はキャットウォークの上から眺める。
「今はあんな感じで密集してるから、危なくて近づけさせられないの。ごめんね」
「今はどんな作業をやってるんですか?」
また2番の子が質問する。
「ん~、色々。頭作ったり、F… 燃料電池や油圧ユニットを胸の中に収まるよう調整したり」
「ロボットはパーツごとに分担して、別々の場所で作ってここで組み立ててる。ここは、ロボットを組み立てたり分解したりする専門の場所だから――」
敦賀の説明を聞きながら優鑠はM30の体を観察する。
実際に目の当たりにすると、頭が無いにもかかわらずテレビ等で見た時より大きく感じた。各所に確認できるシリンダやボルト穴、ケーブルが、像ではない本物の機械なんだと思わせる。ぜひ頭ありの状態と対面したい。
しかし、意外と腕や足がペラペラだ。耐荷重的にはあの厚さで足りるのかもしれないが、見た目は悪い。胴も斜めから見ると、妙に胸の前のスペースが空いている事が分かり、優鑠は不思議に思った。
「前メディアで公開した時は腕動いてましたよね。あの時も中身できてなかったんですか?」
「いやー、実はそうで、施設の油圧ユニットやパソコンに繋いで外から駆動してたんだよね。操り人形状態?」
(それ言わない方がいいんじゃ……)
また同じ2番の子が質問していた。優鑠も1つくらいは質問した方がいいと思い、今の疑問を訊くことにする。
「はいっ。質問していいですか?」
「おっなになに~?」
「M30の体、体格に対して腕や足がちょっと薄っぺらい気がするんですけど、なんでですか? 胸の前も妙にスペースが空いてると思います」
「よし」
「それは、ウェアを取り付けるためのスペースです!」
「M30が周りの物に体をぶつけたりした時、M30本体が傷むと修理するのに組んであるパーツをバラさないといけないから面倒。だから、M30を動かす時は本体を守るカバーを上から付けるの。バイクとかのプロテクターにイメージ近いかな?」
敦賀の説明を優鑠達は真摯に聞く。
「全部守れる訳じゃないけど、よくある損傷はウェアを簡単に外すことで直せる。重機と違って受けるダメージが大きい巨大ロボットならではの仕組みだね。あとついでに着せ替え的な事もできるよ」
「「へぇ~」」
「お披露目用のウェアを取り付ければ見た目は良い感じになる……予定!」
「予定なんですかw」
「3Dモデルや模型で確認したけど実際どう見えるかは付けてみないと分からないもん! そのテストも今してる所」
「あの、私も質問……」
「おお! 何かな?」
優鑠に続いて、他のまだ質問していなかった2人も質問していく。自分の質問が空振りせずに済んでよかったと、優鑠はホッとした。
その後、別の場所で製作されているM30の頭を間近で見て、JACEIRA見学は終わりを迎えた。敦賀が話す。
「私は開発の仕事に行くので、ここからはまた小林の指示に従ってください。よろしくね小林君」
「はい」
「あっ。……最後に」
「……私はみんなアクターにしていいと思ったけど、正式にアクターに選ばれるのは1人だけです。これは、ロボットを動かす練習の時間や機密情報保護のためでどうにもできません」
「「……」」
「でも」
「いずれ重機みたいに、動かしたいと思ったら誰でも免許取るなりしてロボットを運転できる時代が来ます。私達はそのために研究してる。だから、もしアクターに選ばれなかったとしても、くよくよしないで!」
挨拶を交わすと、敦賀は手を振って去っていった。
敦賀の最後の言葉は皆の印象に残った。「誰でもロボットを運転できる時代」。それが本当に実現するかは分からない。しかし、少なくともその時、M30は過去の物になって運転できないはずだ。
優鑠はM30の顔を見つめる。優鑠はアクターに選ばれて彼を、M30を動かしたいと切に願った。
このあと一行は、JACEIRA内で昼食をとって、刈谷豊田総合病院で様々な検査を受けて、刈谷駅に戻って解散した。
― 第4話 終わり ―