英才教育や寮生活など、抑圧された環境ながらも、遊びに貪欲(いい意味で)で自分の道を突き進んできたという石渡太輔さん。その前向きな姿勢は、クリエイターを目指す人間にはなくてはならないもの。インタビューから彼の物づくりへの情熱やこだわりをひしひしと感じとってほしい。書き込まれた履歴書の好きなゲームの欄も必見!!
――『ギルティ』シリーズでは、音楽を担当されている石渡さんの音楽人生を教えてください。ちなみにロックがお好きと聞いたんですが……。
石渡大輔(以下石渡、敬称略):ロックに限らず、音楽はレエゲとラップ以外は大体好きですね。人生としては、小さい頃はアニソンとか、自分が触れているものにある音楽は好きだったんですけど、いわゆるポップスであったり、歌謡曲だったりには興味がなかったんですよ。で、小学5年生かなんかのとき(南アフリカ時代)、チアガールを見たんですけど、そのときに使われていた曲がクイーン(※1)の「ドント・ストップ・ミー・ナウ」という曲だったんですよ。それを初めて聴いたときに、「なんだ、この曲」と思って、ここから急に音楽に目覚めてしまうわけですよ。ラジオとか、しきりに聴くようになったり。とにかく自分の好きな音楽を探さなくちゃいけない。でも、ネットのない時代ですし、ラジオだけでは聴ける曲が限られている。それで小遣いが続く限り、ワゴンセールのカセットテープとかを買っていこうと。全部ジャケ買いなんですけど、最初に手に取ったのがホワイトスネイク(※2)の「サーペンス・アルバス」で、ヘビーでスカッとするのでかっこいいかなと。次がアイアンメイデン(※3)で、キャッチーなメロディがない曲を初めて聴いたので、最初は「こんなもん、売り物になるのか?」と思ってたんですけど、お金がないから大事にしないとと何度も何度も聴いてるんですよ。ところが、聴いてると、味がわかってきて、こういうのもおもしろいんだなと、どんどん買い続けるようになって、いろいろな音楽を聴くように。ただジャケ買いをしてた結果、ハードロックやヘビーメタルに偏るようになってて……(笑)。僕の音楽のルーツはそんなところですね。
――日本に戻ってきてからはどうです?
石渡:日本に戻ってきてからも、日本の音楽のよさがわからなくて、ずっと洋楽を聴いてましたね。ただ高校に入ってからは変な音楽を聴く友だちがいたりして。当時はやっていたガンズ・アンド・ローゼズ(※4)を聴いて洋楽の文化を広めていく一方で、筋肉少女隊(※5)とかを聴きつつ、大槻ケンヂっておもしろいなと。あといかすバンド天国(※6)ってのがありまして、ビギン(※7)とか、人間椅子(※8)とか、そういった素晴らしい音楽を作る人を知って、邦楽も聴くようになりました。それでそのとき、「バンドを組んで絶対出るんだ!」って言ってましたね。出れませんでしたけど(笑)。
――何か楽器をやられてたんですか?
石渡:やってないですから!(笑)。高校のときは友だちからギターの安いヤツを買って、文化祭でバンドやろうって言ってたんですけど、メンバーとも折り合いがつかず、文化祭にも出れず、現在に至るというみたいな感じなんですけど(笑)。ちなみに今習いごとで、エレキギターを習ってます。
――洋楽はメジャーなところだと思いますが、邦楽はかなりマニアックですよね。
石渡:いや、洋楽もかなりマイナーかと。ヘビーメタルからデスメタルへと傾倒してしまって、そこから発展しているので、手広いと言えば手広いですけど、結構アンダーグラウンドですね。日本のものもインディーズがメインで、椿屋四重奏(※9)というのが最近のお気に入りですね。雅楽をベースにしたロックで、セカンドアルバムの「薔薇とダイヤモンド」がサイコーです(笑)。
――音楽の制作のお話になりますが、打ち込みで?
石渡:打ち込みですね。『デザエモン』(※10)からやってる方法が変わらなくて、いわゆるピアノロール(※11)という方式でやってます。そして、MIDIで作ったものをデモテープとして音源を確保。さらにデータをアレンジャーさんに渡して、これを生楽器にしてくださいとお願いして、生楽器での都合でできないことなどをコンセンサスを取りながら、1つの曲へと仕上げていくと。
――音楽制作の知識がなくて、申し訳ないんですが、それっていうのはメジャーな作曲方法なんですか?
石渡:ではないと思います。普通は知識を持った人間が専門の部署を構えて作るべきものだと思うんですけど、初代『ギルティギア』で形成されてしまったラインがあるので。このとこは、そんなゼイタクもできませんでしたし、何より僕自身がやりたかったんで。その当時、ゲームの世界に僕が満足できるヘビーメタルと呼べるものがなかったんですよ。だから、ヘビーメタルの素晴らしさをゲームの中で紹介していくぞというような心意気みたいなものが当時あって、そこでできちゃったラインが今に至るという感じですね。
――具体的に『ギルティギア』では、どんなコンセプトで曲を作られたんですか?
石渡:当時の格闘ゲームの音楽っていうのはキャッチーだったり、コミカルだったり、戦うには不釣合いな曲かなと思ってまして。『ギルティギア』では、もうちょっとバトルを意識させる音やメロディを意識して作曲しましたね。
――ゲームに関わらず、今後やってみたいと思うことはありますか?
石渡:ゲームであっても、漫画であっても、音楽であっても何でもいいんですけど、最終的には僕としては、エンターテイナーというよりも興奮を刺激するものを作ってきたいんですよね。理由はともかく、興奮したと言われるものを作りたい。その1つとして、ゲームを作ってますが、それが表現できるんであるんなら、何だっていいと思ってます。未だに漫画家になりたいって夢もありますし。あとゲーム業界的な話をしますと、『ギルティギア』というものを、というか僕自身、ゲーム作りの新たなステップを踏もうと思ってまして、近々発表できるといいなぁと動いております。次の興奮の提供みたいなものを目論んでますので、応援よろしくお願いいたします!
――石渡さんにとって、ゲームとは何ですか?
石渡:あぁ、今なんですかね? 歴史のなかで僕に関わってきたゲームは様相を変えてるわけですよ。ゲームが人生そのものだった時期でもあり、今なら表現の手段の1つでもあり。どこに惹かれたかという最初のきっかけになってしまうと、専門学生に入ったときから、とにかくすべてを表現したかった。絵であったり、音であったり、演出であったりという部分を、全部自分で表現できる媒体は、映画かゲームぐらいしかないという考え方だったんですよ。で、映画は正直僕にはできない雰囲気があったんですよ(笑)。すごく作りたかったんですが、道のりが遠い印象があったんです。それに対して、ゲームはプログラム以外は、僕の知っている知識でまかなえるはずだという自信が妙にあって。そこがきっかけにゲーム業界を目指すようになったんですけど。結果的に見ると、僕1人の感性をこれまで広く反映させてもらうことができた媒体としては、やはり懐の深いメディアだなぁという気がしますね。
――では、最後に未来のクリエイターたちにひと言お願いします。
石渡:まず1つ言っておきたいのが、最近の人たちって、やたらメンタルが弱いんですよ。ゲームを作りたいのか、ゲーム作りに関わっていたいだけなのか、よくわからない。僕らの世代の人たちは「ゲームが作れれば、金なんかいらん」っていうスタンスの人たちが多いんですよね。これを問題視する意見もありますし、会社としてはもちろんよくない考え方なんですけど。でも、これぐらいの情熱を持ってないと、乗り切れない現場もあるんだぞって話ですよね。条件に合わない、感性に合わない、不満があるってところからすぐに土俵を変えてしまうようなスタンスはやめろよと言いたいところはあります。まぁ説教くさい話なんで、これぐらいにしておきますが……(笑)。
――確かにそうですね。熱意がないと、ツライ仕事にも耐えられませんからね。
石渡:あと具体的なところでお話させていただくと、PS3やXbox 360といった次世代機のゲーム開発では、ビデオカードやグラフィクボードなどの知識が必要になってきます。もちろん会社に入ってから学べることですが、あらかじめ知っていれば、アドバンテージがとれます。どの物理演算エンジンは、どのビデオカードで動くなどは、PC系のゲームサイトなどに載っているので、あらかじめ勉強しておくといいと思います。今の話はデザイナー寄りでしたが、他の仕事でも知識がある人の方が採用しやすいですし、また自分のやりたいビジョンがはっきりしている人の方が使う側としても使いやすいです。会社に入ってから勉強すればではなく、自分で学べることは積極的に学び、やりたいことをはっきりさせておくことが大事です。で、最も重要なのが、コミュニケーション能力。スキルがあっても、意思の疎通ができなければ、使えない人間になってしまうので。
――全然関係ないのですが、髪がかなり長いですよね?
石渡:髪はいつもプロジェクトの成功の願掛けで伸ばしてるんですよ。プロジェクトが始まったら伸ばし始めて、無事終わったら切ると。今はかなり伸びている方なので、ずっとプロジェクトが続いているってことです。
――髪にそんなヒミツが……。お忙しい中、今日はありがとうございました!!
あっぱれ、競争社会!!
好きなこと完遂するエネルギーを持って生きよう!
【編集部注釈】
※1 クイーン……世界的な人気を誇るイギリスのロックバンド。今は亡きフレディ・マーキュリーがボーカルを務めていたことはあまりにも有名。
※2 ホワイトスネイク……イギリスのハードロックバンド。
※3 アイアンメイデン……イギリスの代表的なヘヴィメタルバンド。バンド名は、中世ヨーロッパの拷問器である鉄の処女に由来する。ちなみに『グラディウス』の4面の中ボスの名前も同じ。
※4 ガンズ・アンド・ローゼズ……アメリカのロサンゼルスを拠点とするロックバンド。
※5 筋肉少女隊……ボーカルの大槻ケンヂ率いるロックバンド。『ストリートファイターII』のテレビCMに曲が使われたことから、ゲームファンでも名前を知っている人も多いはず。2006年に活動を再開したことで話題を呼んだ。
※6 いかすバンド天国……バンドブームの火付け役となった、深夜番組「平成名物TV」のワンコーナー。たまやBEGIN、大島渚というバンド名でみうらじゅんなどが出演していた。
※7 BEGIN……ビギンと読む。沖縄県石垣市出身の3人組のアコースティックバンド。
※8 人間椅子……3人組のハードロックバンド。青森県出身で、津軽三味線の旋律を活かしたメロディや津軽弁の歌詞などが特徴。
※9 椿屋四重奏……4人組のロックバンド。和を意識した楽曲や、ライブのことを「演舞」と呼ぶことなどから艶ロックと称されている。
※10 デザエモン……ファミコン用ソフト『絵描衛門』のこと。スーパーファミコンやPSなどでもシリーズ作が発売された、シューティング作成ソフト。自機や背景などのグラフィック以外に、音楽も作成することができた。
※11 ピアノロール……音符の代わりに音を視覚的に表したバーを使って作曲を行う、音楽制作の手段の1つ。バーを上下させることで音階の変化、長さを伸ばしたり縮めたりすることで音の長さを調整ができ、専門的な音楽知識がなくても作曲が可能。