大森靖子×吉田豪 「自分との乖離」から「別人格の肯定」 /<視線の先>インタビュー
2016/3/23 17:26
3月23日にメジャー第2弾フルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリースする、大森靖子。「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」に加え、最新曲の両A面シングル「愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター」も収録された今作。
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歌詞を紡ぐ、その"言葉"を操る才能は、直木賞作家の朝井リョウに「彼女が小説家でなくてよかった」とまでいわしめ、悲喜愛憎ともいうべき情念が込められた、激情的で圧倒的なパフォーマンスはライブに足を運んだ人々はみな心を奪われる。
シンガーソングライターとして発信し続けるガーリーシンガーは、いま何を思うか――。プロインタビュアー吉田豪による、1万字ロングインタビュー。
■現代の少女版『成りあがり』
――大森さんの本『かけがえのないマグマ 大森靖子独白』(毎日新聞出版)がすごくよかったんですよ。
大森 ありがとうございます!
――大森さん自身も言ってましたけど、これはホントに現代の少女版『成りあがり』(矢沢永吉)だと思って。将来的に文庫化されて、『成りあがり』的に長く読まれる本になると思いますよ。
大森 ハハハ、『成りあがり』はいいですよね。
――最高ですよ! ボクが80年代の男性アイドルに取材したら、『成りあがり』に影響を受けて上京した人が異常に多かったんですよ。そういう意味で大森さんの本も、現代の女子に良くも悪くも影響を与えるだろうなと思ったんですよね。
大森 へぇーーーっ! もともと私は『成りあがり』みたいな本が作りたいって言って、これを作ろうって言ってくれた、九龍ジョーさん(担当編集)はユーミンの『ルージュの伝言』みたいな本が作りたいって言って。それで書き手として最果タヒさんをふたりで選んで。
――そしたら『成りあがり』になった、と。
大森 そんな感じです。私はいつも自分で文章を書くと、いい感じにぼやかすというか、ニュアンスにしちゃうっていうか、わりと言葉がカッコいいほうに書いちゃうから、本を見て結構「うわっ! うわっ!」と思いました。
――かなりストレートでしたからね。
大森 自分のストレートを人によって浴びたっていうか。衝撃でした。
――大森さんの文章もおもしろいけど、かなり特殊な、読む人を選ぶ文章というか......。
大森 そうですね(笑)。本を読んだことないっていうのが圧倒的に出てます。
――あ、そういうことなんですか(笑)。
大森 オーケンしか読んだことがなかったっていう。夏目漱石とオーケンしか読んだことがない(笑)。
――偏りすぎですよ!
大森 高校のとき、オーケンさんが「『ごきげんよう』のサイコロは2個ぐらい話を持っていけばどれでも当てはまるようにできてる」ってエッセイで書いていたのを読んで、「えっ、そんな!?」って思ったのが本の一番衝撃で(笑)。学校を休んでよく『ごきげんよう』を観てたから、「騙されてた!」って世の中を覆されたような気持になって。
――大森さんの本にはもっと衝撃的なことが書かれてましたよ! 基本、隠しごとのない人だからそりゃあ本もおもしろくなりますよね。
大森 隠しごとはないですね。それ、普通だと思ってたらタヒさんに「隠しごとがないのはすごいことだから」って言われて、「そうなんですか!」って。
――だからボクとのダイレクトメッセージのやり取りをそのままスクリーンショットで撮って、何の確認もないまま週刊誌の連載に載せたりできる、と。
大森 すみませんでした(笑)。でも、見られてマズいものはよくよく考えれば何もないはずなんですよ。べつに裸もなんてことないし。
――そういえばニューアルバムの豪華版のブックレットに妊婦ヌードを載せてましたよね。
大森 ああ、あんなの何とも思ってない。いちいち隠すの面倒くさいな、ぐらいの。
――こっちは乳首を出してもいいのに、ぐらいの(笑)。
大森 そう。でもああいう状態の身体は見たいじゃないですか。私だったら見たいなと思って。おもしろいから、身体の線が。
――基本、発想が「おもしろいから」の人なんですよね。
大森 はい。ずっと「私おもしろいな」「最高だなー」と思って、ずっとゲラゲラ笑いながら歌詞を書いてます(笑)。
■大森靖子を続けていく義務感
――大森さんが最初にTIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)に出たとき、アイドルたちが度肝を抜かれてライブを観てる光景を目撃したときも、これは良くも悪くもアイドルにすごい影響を与えるぞと思ったんですけど、今回の本を読んでさらに確信を深めました。これは何か大変なことになるなって。
大森 そうなるといいですね、フフフフ。アイドルはいろんな人がいるから、根本的におもしろい人間がどんどん出てくると、さらにおもしろいことになるんだろうなって。
――ただ、ややこしいのがアイドルヲタのなかには、「俺の好きなアイドルには大森靖子の影響を受けてほしくない」「近付くな!」みたいな派閥もあるじゃないですか。
大森 はい、わかります。
――「大森靖子に共感するようなアイドルであってほしくない」っていう。
大森 すごくわかります(笑)。でも、私に影響を受ける人は受けるし、受けない人は絶対に受けないじゃないですか。絶対に受けない層はいるから、そういう人を好きになってもらえればいいだけで。自分が好きになったアイドルが私のことを好きなんだったら、そういう人が好きなんだよってことですよね。まあ、それは慣れっこです。
――さんざん攻撃されてきて。
大森 はい。若干、何言われてもべつにいいと思える部分は増えました。
――前はネットの書き込みとかに対して、もっとピリピリしていましたよね。
大森 ピリピリしてましたね。でも、なんかちょっとあきらめました。Juice=Juice 宮本佳林ちゃんのインタビューとか読んで(笑)。
――え? そこで何を?
大森 ドラマ『武道館』では私みたいな魂を持った子の役をやってるじゃないですか。「そういうネットの書き込みにいちいち逆上するみたいなキャラクターを演じるのが新鮮で、私はそもそもそこは気にしたことがないんで。アイドルはそんなもんだし」みたいなことを言ってて。そんなもんだって最初から思ってアイドルになったんだっていう、そのプロ意識みたいなものに結構ビックリして。自分はプロじゃなかったよねっていう(笑)。そういうふうにならなきゃいけないのかな、みたいなのはあります。
――ネットに対して過剰反応するぐらいだった人が、どこか変わってきたなって気はしていて。
大森 そうですね。そういうことに疲れてたけど、出産したことで休むことができました(笑)。
――メジャーデビュー早々に(笑)。
大森 自分のライブのペースで考えると、あきらかにずっと過労だったんで。
――やりすぎてましたよね。ある意味、意地になってたぐらいに。
大森 意地になってやってました。でも、止まったら死ぬタイプだから、自分で強制的にそれにストップをかけないとマズいっていうのはどっかであって。道重(さゆみ)さんがモーニング娘。を卒業したっていうのもそのタイミングだと思うし、いろいろ重なったんですかね。
――卒業発表した道重さんと仕事で共演できる位置までいかないとってことで、メジャーに行ったけれども。でも、道重さんが卒業して完全に姿を消したことを思うと、あそこで急いだのはホントに正解でしたね。
大森 はい。間に合った(笑)。
――そういえば最近、大森さんのファンの女の子がつぶやいてたじゃないですか。大森さんに「私も音楽やってるんで、いつか追いつけるように頑張ります」って言ったら、「がんばろう! ずっとここにいるから!」って返してくれたって。道重さんスタイルでいなくなるんじゃなくて、ホントに待つ気があるんだなって思ったんですよ。
大森 そうですね。あれは道重さんっていうより、銀杏BOYZの活動がストップしてたことによって、自分と同世代のいろんなバンドがやる気をなくしてるのを見てたんで。ああいうふうに頑張りたいとか、対バンしたいとか思ってたバンドが全部育たなかったんで、それに対する恨みみたいなものがまだ残ってる(笑)。
――大好きだった峯田(和伸 )さんへの複雑な感情が(笑)。
大森 自分は絶対にそうはならない、ずっとここにいて、ちゃんとそういう人と対峙するまで居続けようっていうのは思ってます。
――いついなくなっても不思議じゃなさそうなタイプなのに、そういう覚悟はあるんですね。
大森 ああ、それはそうですね。自分が下から見てきたものがあるんで。いろんなバンドがメジャーに行ってすぐ解散するじゃないですか。それを見て、「それなら、その解散した名前くれよ!」ってずっと思ってたんですよ。せっかく名前が売れたのにもったいないから。そうならないように息を長くできるような工夫をしてるところはあるかな。
――でも、メジャーに行ってすぐ解散するようなバンドの気持ちもわかってきたみたいですよね。
大森 わかったわかった。「ああ、なるほど!」「そりゃそうだよね」って思いました。
――みんなこういうふうに消耗していくんだなって。
大森 うん。だけど自分は周りに恵まれてるっていうか、そっちを選んだっていうか、そういう人と引き合ってるのかもしれないけど、好きなようにやらせてもらえるほうだから、すごくマシだと思います。
――正直、メジャーでの音楽活動も、ついでに言うと結婚生活も長続きするのかなって感じでハラハラしながら見てたんですけど、「これは続きそうだ」って思うようになりました。
大森 あ、いつなりました?
――最近ですね。
大森 義務感がすごいありますね、続けなければならないって。『ナタリー』のライターになった人もそうですけど... ...。
――まだお客さんが10人ぐらいしかいない頃、いつもライブに来て「音楽ライターになりたい」って言ってた人が、実際に『ナタリー』のライターとして取材に来て。
大森 はい。その人と会ったときに、「すごいディスられたりしたんですけど、ホントに3年間頑張ってよかった」って号泣してたんですよ(笑)。
――そんなにディスられたんだ!
大森 そう、すごいディスられたんだって、そこはやっぱり気になって、「え、ディスられたの?」って言っちゃって(笑)。詳しく教えてくれなかったんですけど、「たいへんだったんですけど3年頑張ってよかった」って。やっぱり時間かかるじゃないですか。私が起爆剤になってしまった人たちには責任を持って3年後、4年後に会わないといけないから、絶対に。それまでは絶対やるぞって。そういう人を何人か見てて思いました。私はずっと責任を取れって思ってたんで、峯田さんに。
――峯田さんに一方的なメール送り続けていた、ただのヤバいヲタとして。
大森 そうそう、ヤバいヲタだったんですけど、自分が音楽活動でうまくいきはじめてから、なんでいねえんだよと思って。でも、いろんな人が思ってたと思います。どついたるねんとか。
――大森さんが峯田さんに共感したように、いまは大森さんに共感して救われている女子が増えてるんだろうなとも思うわけですよ。大森さんの存在によって死なないでいる女子も相当いるんだろうなって。
大森 そうですね、でも、それは意外に男性からの手紙でももらいます。「小学5年生のときからファンで、いま中学1年生です。自分は一緒に落ちてくれる音楽をやっと見つけたと思って」って手紙が届いて、すげえなって(笑)。
――中1でそれ!
大森 それ結構感動しました。
――それは、そういう子が成長するまで、ちゃんと待たなきゃって気になりますよね。
大森 うん。まあ、一過性なら一過性でもいいし。でも一過性になるとしたら、できるだけ若いときの一過性がいいですよね、ずっと残るから。あとミスiDの審査員をやって、ホントにある世代からはYouTubeしか聴いてないんだなっていう現実を目の当たりにしたんで。逆に聴いてほしい曲はYouTubeにあげようって気持ちになりました(笑)。
――ミスiDを受けに来た女の子が「大森さん、大ファンです! いつもYouTubeで聴いてます!」って言ってたのは、ボクも審査員として横で聞いてて爆笑しましたよ。そこになんの申し訳なさもなくて。
大森 そう、なんの邪心もない感じで。じゃあYouTubeに上げよう、じゃないと曲がないことになっちゃうって思いました。
――大森さん、これから本格的に売れそうな気がするんですよ。
大森 うん、売れたい。もともと売れたいですけど、売れるという目算が甘かったところはすごいあります。
――どんなふうに考えてたんですか?
大森 「あ、このままの勢いで売れちゃうっしょ」ぐらいの感じ(笑)。全然違いましたね。もっとやらなきゃいけないことがあったし、意外にホントにそのまま出るとキツいんだなって。
――何度かテレビに出て反省してましたよね。
大森 出るたびに反省してます。
――もともと外見的な自信がなかった人がああいうふうに表に出ることって、やり切れる人ではあるけども葛藤もあるだろうなと思って。
大森 ありますね。べつにかわいいと思われなくてもいいんですけど、人を不快にしたくないんですよ。
――そこだけ(笑)。
大森 本気で。それを「不快だ」って書かれるから、「ですよね!」って思っちゃって(笑)。そこはこっちが合わせていくしかない。ホントは印象っていう印象を与えたくないんですよね。
――相当印象は強いタイプですよ!
大森 ライブ以外は。トークは難なくこなしたいんですけど、難なくこなせないんですよね。
――もうちょっと無難な感じにしたいん ですか?
大森 そう、無難な感じにしたいんですよ。なんでもないことをしゃべりたい。
――なんでこんなに余計な波風を立ててるんだろうって。
大森 すぐ立つ。なんでなんだろ、わかんないんですよ。ラジオとかは好き放題に言ってますけど、テレビは難しいな。まあ、意外に波風が立つことを好んでるじゃないですか、テレビの人たちは。だから難しいところですよね。うまいことやっていかないと。
――なんなんですかね、その「売れなきゃ」っていう使命感って。
大森 社会人としての使命(笑)。だいたい仕事する人って漠然と社会人になると思うんですよ。それから、やりがいみたいなものも見つけるじゃないですか。自分もメジャーに行ってから、全然知らなかった田舎とかにも届くようになって、そういう人たちに「大森さんがいたから、こういう自分でもいいんだって思えました」みたいなことを相当言われるから、「じゃあ、そういう人は居続けないと」っていうのはすごいあります。
――もっと売れて、こういうものを必要としているのにまだ届いてない人にもちゃんと届けたいっていう。
大森 うん、そうですね。あんまりそれ以外の売れたい理由はないかな。でも、大きいところでやるイメージでずっとやってたんですよ、お客さんがひとりしかいないときから。
――武道館でやって当然、みたいな。
大森 っていうか、そういうものだと思ってたから。テレビしか観たことなかったし、SPEEDとかモーニング娘。とか見て育ったから。自分がやるときもそのイメージしかなかったから、そのイメージには近づきたいっていうのはあるかな。
■自分と大森靖子が乖離してきた
――今回のアルバムもすごくよかったんですよ。
大森 ありがとうございます。やりたい放題(笑)。
――そしてアルバムの豪華版に同封されている出産日記もおもしろかったです。
大森 あ、読みました?
――もちろん。結構踏み込んで書いていましたね。
大森 そうですね。本も読んでないから、ホントにあったことを全部書くことしかできない。それしか能力がないから(笑)。だから歌詞も多くなっちゃう。みんなみたいに、いろんな音楽を聴いてきてないから、とにかく手数で全部やり切るしかないんですよ。どんどん歌詞とか足しちゃうし、ちょっと空いてるとすぐセリフとか入れちゃうんで。
――それ完全に空間恐怖症みたいなヤツですよね。
大森 はい。たぶん宇多田さんとかもそうだと思う。カラオケで歌ってみたら、絶対ここ最初はメロディ入ってなかったよねっていうところが結構あって、たぶん入れたんだろうな。
――この前、イベントのMCで「頑張って売れるから!」みたいな発言をしてましたけど。
大森 ちょっとアルバムで好き放題してコアにしちゃったから......。なるべくポップを保とうとしたんですけど、もっとずば抜けてこれは売れるアレンジっていう曲を、変えてもらっちゃったんです。そこで自分はまだそういうところを捨てられないんだってまざまざと思って。
――腹を括って超絶ポップな方向に行こうとしてる感じはあるじゃないですか。
大森 ありますあります。でも、そっちに行くために『マジックミラー』を挟んどこうっていうのは思ってました。1回ちゃんと、こういうことをやってる人ですっていう説明になる曲をシングルで出せば、そこからポップに行っても、「まあ『マジックミラー』出した人だし」みたいになるかなって思ってたから。
――でも、どこかまだ行き切れなかった。
大森 行き切れなかったですね。
――でも今回、やりたい放題やったと言いながらも、ちゃんとポップでしたよ。
大森 ああよかった。もっとポップな方向で頑張るつもりだったんですけど、思ったより自分の本質的な部分みたいなものをオブラートに包まずに入れちゃったかなっていう、最終的に見ると。
――最初、大森さんがエイベックスっていうときもミスマッチでおもしろいと思ってたのが、だんだんこれ本気なのかもって思うようになったんですよ。
大森 最初より本気になってきました。
――この先、売れたらどうしたいとかはあるんですか?
大森 売れることによってこっちの本質的な部分を売りたいんですよね。やっぱもっと"どポップ"なものを作って売れて、こっちにたどり着いてもらいたい、みたいな。それは自分の本質がどうこうっていうよりは、世の中とか、もっとおもしろい人たちに気づいてほしいだけで、自分はどうでもいいっていうか。
――どうでもいいんですか?
大森 結構どうでもいいですね。でも今回、逆に自分のことは書けたんですよ。自分はこう思いますっていうことを放棄して、その自分の見てきたものを......視点が2個だと平面になるから、3つ作ると空間になるっていうのがわかって。その視点で自分の高校時代とかを書くと結構映画的になるっていうか。そしたらより自分のことが書けたっていう感じはあるんですけど。まず『マジックミラー』から大森靖子が完全に乖離してるから、なんかそっちは本体みたいな気持ちです。
――意図的にそうした部分はあるんですか?
大森 ありますね。そうじゃないともう無理だと思いました。『マジックミラー』を作るときとかは結構切羽詰まってたんで、すごいケンカしたんですよ。あのとき吉田さんが「ヤバそうですけど大丈夫ですか?」みたいなDMくれたじゃないですか。
――Twitterから危険な空気が伝わってきて、滅多にしないDMをしたんですよね。
大森 結構ヤバかったんですよ。でも結構ヤバいことに誰も気づいてなくて。でも結構ヤバいメンタルなんで、ヤバいこと言っちゃって。旦那に「吉田豪さんがわかるのに、なんでおまえが気づかないんだ」とか怒っちゃって(笑)。
――ダハハハハ! そこでボクを巻き込まないでくださいよ!
大森 旦那は豪さんの本、全部買ってるんですよ。それ全部、捨ててました。
――うわー!
大森 でも、ちゃんと買い直してました(笑)。これは書いて大丈夫です。それぐらい結構ヤバくて。それが子供を作ろうかな、ぐらいのときですね。
――その危機的状況は、大森靖子という存在を切り離すことで乗り越えたんですか?
大森 1回は完全に切り離しました。一時はもうやらないと思って。やる時間も30分だけとか1時間だけとか、ライブの時間だけと思ってやって。いまはまだよくわかってない(笑)。
――大森靖子っていうのが別人格になりつつある。
大森 別人格でもあるし、いつも出してない一番真ん中みたいなところでもあるかなと思います。そこにたどり着ける瞬間みたいなものがライブ中にはあるし。
――すべての女子を肯定するっていう姿勢は完全に大森靖子ですよね。
大森 そうですね。
――たぶん、そうなろうとして闘ってるけど、別人格の自分としてはどうしても嫌いな女子はいるっていう。
大森 そうなんですよね。でも、べつによくなってきました、フフフ。でもそのときから攻撃されたら......最終的には「でも、私のほうが収入あるし」「おまえの才能より 私の才能のほうが稼いでるし」っていうのがあるんで、それで開き直って(笑)。
――お金の安定は心の安定ですよね。
大森 はい。やっぱり自分で稼いだ金っていうのがデカいですね。自分の才能で稼いだ金っていうのが。どんなにメンヘラってバカにされても、「でもおまえがメンヘラってバカにしてる才能はこれぐらいの金とこれぐらいの結果とこれぐらいの人を救っているだけだ」っていう結果を私は見てるんで、じゃあいいや、みたいな。そんな性格の悪さは残ってます(笑)。
――でも、あのときはそこまでヤバかったんですね。
大森 ヤバくなったタイミングは、たぶんちょっと休んだからなんですよ。
――ずっと休みもなく走り続けてきたのが。
大森 それが正月休みを取って、5 日とかですけど休んだら考える暇ができちゃって。いままで、でも仕事、でも仕事ってやってたものがパーッと降ってきちゃった感じがあって。そのあとは、すごいふつうですけどいろんなとこに行きました。自然や動物を見に行ったりとか。
――旦那さんが、それにちゃんと付き合うんですよね。
大森 そうですね。あとは会いたいと思った人に会ったりとか。数年間、そういうの全部すっ飛ばしてたから。だからよかったですね。やっぱり自然はきれいなんだなとか、そういうのがよかった。
――結婚、出産って周りの見る目がまず変わると思うんですよね。それだけで「幸せに違いない」みたいなレッテルも貼られるだろうし。
大森 はい。何かで見たんですけど、人生のストレスランキングみたいなのがあって、1位が配偶者の死で、3位ぐらいが結婚で、4位ぐらいが育児なんですよ。でも、結婚している人はいいことしかみんな書かないから。
――世間の人が考えるように、結婚したからといってすべてが幸せなわけもなく。
大森 たぶん結婚して育児してる人はわかってますよね。でも、してる側の子のプライドとして、あのFacebookの子育ての感じだったんだな、みたいな。自分は、たぶんいいほうなんですけど。
――旦那さんがホント頑張ってるのが伝わりますよ。
大森 頑張ってますね(笑)。私と結婚する前、ストレスで体調がかなり悪かったみたいなんですけど、私と会ってよくなったらしいんですよ。その恩があるんじゃないですかね。
――そんな癒やす力があるんですか ?
大森 なんかあったみたいですよ(笑)。
――結婚はプラスになってますよね、あきらかに。
大森 なってますね。よかった。あと、子供はそういうことを超えてかわいいです。
――いま幸せかと聞かれたら?
大森 ずっと幸せは幸せなんですけどね。
――家庭もいろいろあったように見えて、お母さんがすごくよくしてくれてた感はありますよね。
大森 そうですね。だから嫌だったんですけどね。外ヅラのいい家庭っていうか。それが苦しかったんですけど。でも、たぶん一般的にはふつうというか。
――外から見る限りは問題のない家庭で。
大森 公務員なんで。大学もちゃんと出してもらってるし、仕送りもしてもらってたんで、楽させてもらってるほうだと思います。それに、 幸せじゃないとホントに歌は書けないから。いまでも「うわ、不幸だ!」みたいな気持ちによくなりますけど、そういうときはそれにいっぱいいっぱいでなんにも書けなくなるから。
――いまも何かにジェラシーの感情はあります?
大森 自分の才能じゃなくのし上がってる人にはイラッというか、「は?」「だって曲書いてもらってるやん!」と思います。そこぐらいかな。
――同じ土俵で闘ってない感じがする。
大森 同じ土俵じゃないのに同じ土俵で闘わなきゃいけないのが結構嫌で、関わらないようにしようって。
――ジェラシーというより、ズルいって感覚ですね。
大森 ズルいと思います。「楽じゃね?」って思う。
――自分もそうなりたかったわけじゃないですよね?
大森 逆の立場になりたかったですよね。私も誰かに大森靖子をやってもらえるならやってほしいから。でも、それやってる側と対等に闘わなきゃいけないとなると、相手はやってる側の才能としてはすごい優れてたりもするから。私はやってる側としてはそんなに優れてない器を無理やり使ってるから、そのシステムはズルいっていつも見てる。
――やってる側としてはそんなに優れてないんですか?
大森 その器としては。
――もっといい器ならよかった。
大森 そうですね。でも、もっといい器だったらこれになってないっていう。その葛藤をずっと繰り返してる。だから、ちょうどよかったのかな。
――そうですよ。大森さんはこの先、女子に革命を起こすと思ってますから。
大森 自分がやるより、自分がある程度やって起爆剤になって人にやってもらうほうが早いんで、そこに早く到達しなければならないっていうのはすごいあるんですけど......頑張ります(笑)。
【プロフィール】
大森 靖子(おおもり せいこ)
弾き語りを基本スタイルに活動する、新少女世代言葉の魔術師。'14夏はTokyo Idol Fes、フジロック、ロックインジャパンに出演、音楽の中ならどこへだって行ける通行切符を唯一持つ、無双モードのただのハロヲタ。あとブログ
[ 好き ] 道重さゆみ、ピンク色、サンリオ、花、不健康そうな色のお菓子、血液、ブラジャー、ガムテープ、まるいもの、ふわふわのベッド、アイドル、毛やギターの弦など紐的なもの、細密描写、固まりかけのセメント、あまい、ファブリーズ、魔法少女、ファンの方、うきわ、マイク、ファミマのスパイシーチキン、女子の自撮り、コンビニ、AM4:44、デスプルーフ、ゲリラ豪雨、アクリル絵具、絶対って顔してる人、中野ロープウェイ、キラキラな音がでるエフェクター、虹色の朝焼け、高円寺の中華屋成都、開封前、甘エビ、ギター、歌舞伎町に落ちているホストやおねいさんの名刺、色のつく入浴剤、絵描きのおじいさん、ライブ、ダイソー、東京、低画質のエロ動画、お風呂で食べるアイス、ワンルーム、焼く前のホットケーキの液体、カラスがたかるゴミ捨て場、お土産、絶望ごっこ、100円のUFOキャッチャー、ティッシュ、メイク、タクシー、27才、いちごヨーグルト、ママ、喫茶店のあんみつ、女子の二の腕、プリクラ、バスタオル、犬、カラータイツ、音楽、キンブレ、ストレートアイロン、ぷよぷよ、黒いワンピース、点鼻薬、ひかるもの、公園、ひみつのブログ、夢オチ、ツインテール、他人のiPhoneケース、モーニング娘。
[ 嫌い ] 煙草、宇宙、高所、バンドマン、無知、結末がもやっとしている映画、掃除、匿名の悪口、元彼全員、セットリストの提出、遅刻する夢と単位逃して卒業できない夢
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(文/吉田 豪)
(写真/佐々木 淳吏 @トレンドニュース)
トレンドニュース「視線の先」 ~築く・創る・輝く~
エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。
3月23日にメジャー第2弾フルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリース
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シンガーソングライターとして発信し続けるガーリーシンガーは、いま何を思うか――。プロインタビュアー吉田豪による、1万字ロングインタビュー。
大森靖子×プロインタビュアー吉田豪 対談
■現代の少女版『成りあがり』
――大森さんの本『かけがえのないマグマ 大森靖子独白』(毎日新聞出版)がすごくよかったんですよ。
大森 ありがとうございます!
――大森さん自身も言ってましたけど、これはホントに現代の少女版『成りあがり』(矢沢永吉)だと思って。将来的に文庫化されて、『成りあがり』的に長く読まれる本になると思いますよ。
大森 ハハハ、『成りあがり』はいいですよね。
「基本、隠し事がない」と笑う
――最高ですよ! ボクが80年代の男性アイドルに取材したら、『成りあがり』に影響を受けて上京した人が異常に多かったんですよ。そういう意味で大森さんの本も、現代の女子に良くも悪くも影響を与えるだろうなと思ったんですよね。
大森 へぇーーーっ! もともと私は『成りあがり』みたいな本が作りたいって言って、これを作ろうって言ってくれた、九龍ジョーさん(担当編集)はユーミンの『ルージュの伝言』みたいな本が作りたいって言って。それで書き手として最果タヒさんをふたりで選んで。
――そしたら『成りあがり』になった、と。
大森 そんな感じです。私はいつも自分で文章を書くと、いい感じにぼやかすというか、ニュアンスにしちゃうっていうか、わりと言葉がカッコいいほうに書いちゃうから、本を見て結構「うわっ! うわっ!」と思いました。
――かなりストレートでしたからね。
大森 自分のストレートを人によって浴びたっていうか。衝撃でした。
――大森さんの文章もおもしろいけど、かなり特殊な、読む人を選ぶ文章というか......。
大森 そうですね(笑)。本を読んだことないっていうのが圧倒的に出てます。
――あ、そういうことなんですか(笑)。
大森 オーケンしか読んだことがなかったっていう。夏目漱石とオーケンしか読んだことがない(笑)。
――偏りすぎですよ!
大森 高校のとき、オーケンさんが「『ごきげんよう』のサイコロは2個ぐらい話を持っていけばどれでも当てはまるようにできてる」ってエッセイで書いていたのを読んで、「えっ、そんな!?」って思ったのが本の一番衝撃で(笑)。学校を休んでよく『ごきげんよう』を観てたから、「騙されてた!」って世の中を覆されたような気持になって。
――大森さんの本にはもっと衝撃的なことが書かれてましたよ! 基本、隠しごとのない人だからそりゃあ本もおもしろくなりますよね。
大森 隠しごとはないですね。それ、普通だと思ってたらタヒさんに「隠しごとがないのはすごいことだから」って言われて、「そうなんですか!」って。
――だからボクとのダイレクトメッセージのやり取りをそのままスクリーンショットで撮って、何の確認もないまま週刊誌の連載に載せたりできる、と。
大森 すみませんでした(笑)。でも、見られてマズいものはよくよく考えれば何もないはずなんですよ。べつに裸もなんてことないし。
『かけがえのないマグマ 大森靖子独白』は現代の少女版『成りあがり』?
――そういえばニューアルバムの豪華版のブックレットに妊婦ヌードを載せてましたよね。
大森 ああ、あんなの何とも思ってない。いちいち隠すの面倒くさいな、ぐらいの。
――こっちは乳首を出してもいいのに、ぐらいの(笑)。
大森 そう。でもああいう状態の身体は見たいじゃないですか。私だったら見たいなと思って。おもしろいから、身体の線が。
――基本、発想が「おもしろいから」の人なんですよね。
大森 はい。ずっと「私おもしろいな」「最高だなー」と思って、ずっとゲラゲラ笑いながら歌詞を書いてます(笑)。
■大森靖子を続けていく義務感
――大森さんが最初にTIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)に出たとき、アイドルたちが度肝を抜かれてライブを観てる光景を目撃したときも、これは良くも悪くもアイドルにすごい影響を与えるぞと思ったんですけど、今回の本を読んでさらに確信を深めました。これは何か大変なことになるなって。
大森靖子を続けていく義務感、とは
大森 そうなるといいですね、フフフフ。アイドルはいろんな人がいるから、根本的におもしろい人間がどんどん出てくると、さらにおもしろいことになるんだろうなって。
――ただ、ややこしいのがアイドルヲタのなかには、「俺の好きなアイドルには大森靖子の影響を受けてほしくない」「近付くな!」みたいな派閥もあるじゃないですか。
大森 はい、わかります。
――「大森靖子に共感するようなアイドルであってほしくない」っていう。
大森 すごくわかります(笑)。でも、私に影響を受ける人は受けるし、受けない人は絶対に受けないじゃないですか。絶対に受けない層はいるから、そういう人を好きになってもらえればいいだけで。自分が好きになったアイドルが私のことを好きなんだったら、そういう人が好きなんだよってことですよね。まあ、それは慣れっこです。
――さんざん攻撃されてきて。
大森 はい。若干、何言われてもべつにいいと思える部分は増えました。
――前はネットの書き込みとかに対して、もっとピリピリしていましたよね。
大森 ピリピリしてましたね。でも、なんかちょっとあきらめました。Juice=Juice 宮本佳林ちゃんのインタビューとか読んで(笑)。
――え? そこで何を?
大森 ドラマ『武道館』では私みたいな魂を持った子の役をやってるじゃないですか。「そういうネットの書き込みにいちいち逆上するみたいなキャラクターを演じるのが新鮮で、私はそもそもそこは気にしたことがないんで。アイドルはそんなもんだし」みたいなことを言ってて。そんなもんだって最初から思ってアイドルになったんだっていう、そのプロ意識みたいなものに結構ビックリして。自分はプロじゃなかったよねっていう(笑)。そういうふうにならなきゃいけないのかな、みたいなのはあります。
3月23日にメジャー第2弾フルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリース
――ネットに対して過剰反応するぐらいだった人が、どこか変わってきたなって気はしていて。
大森 そうですね。そういうことに疲れてたけど、出産したことで休むことができました(笑)。
――メジャーデビュー早々に(笑)。
大森 自分のライブのペースで考えると、あきらかにずっと過労だったんで。
――やりすぎてましたよね。ある意味、意地になってたぐらいに。
大森 意地になってやってました。でも、止まったら死ぬタイプだから、自分で強制的にそれにストップをかけないとマズいっていうのはどっかであって。道重(さゆみ)さんがモーニング娘。を卒業したっていうのもそのタイミングだと思うし、いろいろ重なったんですかね。
3月23日にメジャー第2弾フルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリース
――卒業発表した道重さんと仕事で共演できる位置までいかないとってことで、メジャーに行ったけれども。でも、道重さんが卒業して完全に姿を消したことを思うと、あそこで急いだのはホントに正解でしたね。
大森 はい。間に合った(笑)。
――そういえば最近、大森さんのファンの女の子がつぶやいてたじゃないですか。大森さんに「私も音楽やってるんで、いつか追いつけるように頑張ります」って言ったら、「がんばろう! ずっとここにいるから!」って返してくれたって。道重さんスタイルでいなくなるんじゃなくて、ホントに待つ気があるんだなって思ったんですよ。
大森 そうですね。あれは道重さんっていうより、銀杏BOYZの活動がストップしてたことによって、自分と同世代のいろんなバンドがやる気をなくしてるのを見てたんで。ああいうふうに頑張りたいとか、対バンしたいとか思ってたバンドが全部育たなかったんで、それに対する恨みみたいなものがまだ残ってる(笑)。
――大好きだった峯田(和伸 )さんへの複雑な感情が(笑)。
大森 自分は絶対にそうはならない、ずっとここにいて、ちゃんとそういう人と対峙するまで居続けようっていうのは思ってます。
3月23日にメジャー第2弾フルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』をリリース
――いついなくなっても不思議じゃなさそうなタイプなのに、そういう覚悟はあるんですね。
大森 ああ、それはそうですね。自分が下から見てきたものがあるんで。いろんなバンドがメジャーに行ってすぐ解散するじゃないですか。それを見て、「それなら、その解散した名前くれよ!」ってずっと思ってたんですよ。せっかく名前が売れたのにもったいないから。そうならないように息を長くできるような工夫をしてるところはあるかな。
――でも、メジャーに行ってすぐ解散するようなバンドの気持ちもわかってきたみたいですよね。
大森 わかったわかった。「ああ、なるほど!」「そりゃそうだよね」って思いました。
――みんなこういうふうに消耗していくんだなって。
大森 うん。だけど自分は周りに恵まれてるっていうか、そっちを選んだっていうか、そういう人と引き合ってるのかもしれないけど、好きなようにやらせてもらえるほうだから、すごくマシだと思います。
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――正直、メジャーでの音楽活動も、ついでに言うと結婚生活も長続きするのかなって感じでハラハラしながら見てたんですけど、「これは続きそうだ」って思うようになりました。
大森 あ、いつなりました?
――最近ですね。
大森 義務感がすごいありますね、続けなければならないって。『ナタリー』のライターになった人もそうですけど... ...。
――まだお客さんが10人ぐらいしかいない頃、いつもライブに来て「音楽ライターになりたい」って言ってた人が、実際に『ナタリー』のライターとして取材に来て。
大森 はい。その人と会ったときに、「すごいディスられたりしたんですけど、ホントに3年間頑張ってよかった」って号泣してたんですよ(笑)。
――そんなにディスられたんだ!
大森 そう、すごいディスられたんだって、そこはやっぱり気になって、「え、ディスられたの?」って言っちゃって(笑)。詳しく教えてくれなかったんですけど、「たいへんだったんですけど3年頑張ってよかった」って。やっぱり時間かかるじゃないですか。私が起爆剤になってしまった人たちには責任を持って3年後、4年後に会わないといけないから、絶対に。それまでは絶対やるぞって。そういう人を何人か見てて思いました。私はずっと責任を取れって思ってたんで、峯田さんに。
――峯田さんに一方的なメール送り続けていた、ただのヤバいヲタとして。
大森 そうそう、ヤバいヲタだったんですけど、自分が音楽活動でうまくいきはじめてから、なんでいねえんだよと思って。でも、いろんな人が思ってたと思います。どついたるねんとか。
――大森さんが峯田さんに共感したように、いまは大森さんに共感して救われている女子が増えてるんだろうなとも思うわけですよ。大森さんの存在によって死なないでいる女子も相当いるんだろうなって。
大森 そうですね、でも、それは意外に男性からの手紙でももらいます。「小学5年生のときからファンで、いま中学1年生です。自分は一緒に落ちてくれる音楽をやっと見つけたと思って」って手紙が届いて、すげえなって(笑)。
――中1でそれ!
大森 それ結構感動しました。
――それは、そういう子が成長するまで、ちゃんと待たなきゃって気になりますよね。
大森 うん。まあ、一過性なら一過性でもいいし。でも一過性になるとしたら、できるだけ若いときの一過性がいいですよね、ずっと残るから。あとミスiDの審査員をやって、ホントにある世代からはYouTubeしか聴いてないんだなっていう現実を目の当たりにしたんで。逆に聴いてほしい曲はYouTubeにあげようって気持ちになりました(笑)。
――ミスiDを受けに来た女の子が「大森さん、大ファンです! いつもYouTubeで聴いてます!」って言ってたのは、ボクも審査員として横で聞いてて爆笑しましたよ。そこになんの申し訳なさもなくて。
大森 そう、なんの邪心もない感じで。じゃあYouTubeに上げよう、じゃないと曲がないことになっちゃうって思いました。
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――大森さん、これから本格的に売れそうな気がするんですよ。
大森 うん、売れたい。もともと売れたいですけど、売れるという目算が甘かったところはすごいあります。
――どんなふうに考えてたんですか?
大森 「あ、このままの勢いで売れちゃうっしょ」ぐらいの感じ(笑)。全然違いましたね。もっとやらなきゃいけないことがあったし、意外にホントにそのまま出るとキツいんだなって。
――何度かテレビに出て反省してましたよね。
大森 出るたびに反省してます。
――もともと外見的な自信がなかった人がああいうふうに表に出ることって、やり切れる人ではあるけども葛藤もあるだろうなと思って。
大森 ありますね。べつにかわいいと思われなくてもいいんですけど、人を不快にしたくないんですよ。
――そこだけ(笑)。
大森 本気で。それを「不快だ」って書かれるから、「ですよね!」って思っちゃって(笑)。そこはこっちが合わせていくしかない。ホントは印象っていう印象を与えたくないんですよね。
――相当印象は強いタイプですよ!
大森 ライブ以外は。トークは難なくこなしたいんですけど、難なくこなせないんですよね。
――もうちょっと無難な感じにしたいん ですか?
大森 そう、無難な感じにしたいんですよ。なんでもないことをしゃべりたい。
――なんでこんなに余計な波風を立ててるんだろうって。
大森 すぐ立つ。なんでなんだろ、わかんないんですよ。ラジオとかは好き放題に言ってますけど、テレビは難しいな。まあ、意外に波風が立つことを好んでるじゃないですか、テレビの人たちは。だから難しいところですよね。うまいことやっていかないと。
――なんなんですかね、その「売れなきゃ」っていう使命感って。
大森 社会人としての使命(笑)。だいたい仕事する人って漠然と社会人になると思うんですよ。それから、やりがいみたいなものも見つけるじゃないですか。自分もメジャーに行ってから、全然知らなかった田舎とかにも届くようになって、そういう人たちに「大森さんがいたから、こういう自分でもいいんだって思えました」みたいなことを相当言われるから、「じゃあ、そういう人は居続けないと」っていうのはすごいあります。
――もっと売れて、こういうものを必要としているのにまだ届いてない人にもちゃんと届けたいっていう。
大森 うん、そうですね。あんまりそれ以外の売れたい理由はないかな。でも、大きいところでやるイメージでずっとやってたんですよ、お客さんがひとりしかいないときから。
――武道館でやって当然、みたいな。
大森 っていうか、そういうものだと思ってたから。テレビしか観たことなかったし、SPEEDとかモーニング娘。とか見て育ったから。自分がやるときもそのイメージしかなかったから、そのイメージには近づきたいっていうのはあるかな。
■自分と大森靖子が乖離してきた
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――今回のアルバムもすごくよかったんですよ。
大森 ありがとうございます。やりたい放題(笑)。
――そしてアルバムの豪華版に同封されている出産日記もおもしろかったです。
大森 あ、読みました?
――もちろん。結構踏み込んで書いていましたね。
大森 そうですね。本も読んでないから、ホントにあったことを全部書くことしかできない。それしか能力がないから(笑)。だから歌詞も多くなっちゃう。みんなみたいに、いろんな音楽を聴いてきてないから、とにかく手数で全部やり切るしかないんですよ。どんどん歌詞とか足しちゃうし、ちょっと空いてるとすぐセリフとか入れちゃうんで。
――それ完全に空間恐怖症みたいなヤツですよね。
大森 はい。たぶん宇多田さんとかもそうだと思う。カラオケで歌ってみたら、絶対ここ最初はメロディ入ってなかったよねっていうところが結構あって、たぶん入れたんだろうな。
――この前、イベントのMCで「頑張って売れるから!」みたいな発言をしてましたけど。
大森 ちょっとアルバムで好き放題してコアにしちゃったから......。なるべくポップを保とうとしたんですけど、もっとずば抜けてこれは売れるアレンジっていう曲を、変えてもらっちゃったんです。そこで自分はまだそういうところを捨てられないんだってまざまざと思って。
――腹を括って超絶ポップな方向に行こうとしてる感じはあるじゃないですか。
大森 ありますあります。でも、そっちに行くために『マジックミラー』を挟んどこうっていうのは思ってました。1回ちゃんと、こういうことをやってる人ですっていう説明になる曲をシングルで出せば、そこからポップに行っても、「まあ『マジックミラー』出した人だし」みたいになるかなって思ってたから。
――でも、どこかまだ行き切れなかった。
大森 行き切れなかったですね。
――でも今回、やりたい放題やったと言いながらも、ちゃんとポップでしたよ。
大森 ああよかった。もっとポップな方向で頑張るつもりだったんですけど、思ったより自分の本質的な部分みたいなものをオブラートに包まずに入れちゃったかなっていう、最終的に見ると。
――最初、大森さんがエイベックスっていうときもミスマッチでおもしろいと思ってたのが、だんだんこれ本気なのかもって思うようになったんですよ。
大森 最初より本気になってきました。
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――この先、売れたらどうしたいとかはあるんですか?
大森 売れることによってこっちの本質的な部分を売りたいんですよね。やっぱもっと"どポップ"なものを作って売れて、こっちにたどり着いてもらいたい、みたいな。それは自分の本質がどうこうっていうよりは、世の中とか、もっとおもしろい人たちに気づいてほしいだけで、自分はどうでもいいっていうか。
――どうでもいいんですか?
大森 結構どうでもいいですね。でも今回、逆に自分のことは書けたんですよ。自分はこう思いますっていうことを放棄して、その自分の見てきたものを......視点が2個だと平面になるから、3つ作ると空間になるっていうのがわかって。その視点で自分の高校時代とかを書くと結構映画的になるっていうか。そしたらより自分のことが書けたっていう感じはあるんですけど。まず『マジックミラー』から大森靖子が完全に乖離してるから、なんかそっちは本体みたいな気持ちです。
――意図的にそうした部分はあるんですか?
大森 ありますね。そうじゃないともう無理だと思いました。『マジックミラー』を作るときとかは結構切羽詰まってたんで、すごいケンカしたんですよ。あのとき吉田さんが「ヤバそうですけど大丈夫ですか?」みたいなDMくれたじゃないですか。
――Twitterから危険な空気が伝わってきて、滅多にしないDMをしたんですよね。
大森 結構ヤバかったんですよ。でも結構ヤバいことに誰も気づいてなくて。でも結構ヤバいメンタルなんで、ヤバいこと言っちゃって。旦那に「吉田豪さんがわかるのに、なんでおまえが気づかないんだ」とか怒っちゃって(笑)。
――ダハハハハ! そこでボクを巻き込まないでくださいよ!
大森 旦那は豪さんの本、全部買ってるんですよ。それ全部、捨ててました。
――うわー!
大森 でも、ちゃんと買い直してました(笑)。これは書いて大丈夫です。それぐらい結構ヤバくて。それが子供を作ろうかな、ぐらいのときですね。
――その危機的状況は、大森靖子という存在を切り離すことで乗り越えたんですか?
大森 1回は完全に切り離しました。一時はもうやらないと思って。やる時間も30分だけとか1時間だけとか、ライブの時間だけと思ってやって。いまはまだよくわかってない(笑)。
――大森靖子っていうのが別人格になりつつある。
大森 別人格でもあるし、いつも出してない一番真ん中みたいなところでもあるかなと思います。そこにたどり着ける瞬間みたいなものがライブ中にはあるし。
――すべての女子を肯定するっていう姿勢は完全に大森靖子ですよね。
大森 そうですね。
――たぶん、そうなろうとして闘ってるけど、別人格の自分としてはどうしても嫌いな女子はいるっていう。
大森 そうなんですよね。でも、べつによくなってきました、フフフ。でもそのときから攻撃されたら......最終的には「でも、私のほうが収入あるし」「おまえの才能より 私の才能のほうが稼いでるし」っていうのがあるんで、それで開き直って(笑)。
――お金の安定は心の安定ですよね。
大森 はい。やっぱり自分で稼いだ金っていうのがデカいですね。自分の才能で稼いだ金っていうのが。どんなにメンヘラってバカにされても、「でもおまえがメンヘラってバカにしてる才能はこれぐらいの金とこれぐらいの結果とこれぐらいの人を救っているだけだ」っていう結果を私は見てるんで、じゃあいいや、みたいな。そんな性格の悪さは残ってます(笑)。
――でも、あのときはそこまでヤバかったんですね。
大森 ヤバくなったタイミングは、たぶんちょっと休んだからなんですよ。
――ずっと休みもなく走り続けてきたのが。
大森 それが正月休みを取って、5 日とかですけど休んだら考える暇ができちゃって。いままで、でも仕事、でも仕事ってやってたものがパーッと降ってきちゃった感じがあって。そのあとは、すごいふつうですけどいろんなとこに行きました。自然や動物を見に行ったりとか。
――旦那さんが、それにちゃんと付き合うんですよね。
大森 そうですね。あとは会いたいと思った人に会ったりとか。数年間、そういうの全部すっ飛ばしてたから。だからよかったですね。やっぱり自然はきれいなんだなとか、そういうのがよかった。
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――結婚、出産って周りの見る目がまず変わると思うんですよね。それだけで「幸せに違いない」みたいなレッテルも貼られるだろうし。
大森 はい。何かで見たんですけど、人生のストレスランキングみたいなのがあって、1位が配偶者の死で、3位ぐらいが結婚で、4位ぐらいが育児なんですよ。でも、結婚している人はいいことしかみんな書かないから。
――世間の人が考えるように、結婚したからといってすべてが幸せなわけもなく。
大森 たぶん結婚して育児してる人はわかってますよね。でも、してる側の子のプライドとして、あのFacebookの子育ての感じだったんだな、みたいな。自分は、たぶんいいほうなんですけど。
――旦那さんがホント頑張ってるのが伝わりますよ。
大森 頑張ってますね(笑)。私と結婚する前、ストレスで体調がかなり悪かったみたいなんですけど、私と会ってよくなったらしいんですよ。その恩があるんじゃないですかね。
――そんな癒やす力があるんですか ?
大森 なんかあったみたいですよ(笑)。
――結婚はプラスになってますよね、あきらかに。
大森 なってますね。よかった。あと、子供はそういうことを超えてかわいいです。
――いま幸せかと聞かれたら?
大森 ずっと幸せは幸せなんですけどね。
――家庭もいろいろあったように見えて、お母さんがすごくよくしてくれてた感はありますよね。
大森 そうですね。だから嫌だったんですけどね。外ヅラのいい家庭っていうか。それが苦しかったんですけど。でも、たぶん一般的にはふつうというか。
――外から見る限りは問題のない家庭で。
大森 公務員なんで。大学もちゃんと出してもらってるし、仕送りもしてもらってたんで、楽させてもらってるほうだと思います。それに、 幸せじゃないとホントに歌は書けないから。いまでも「うわ、不幸だ!」みたいな気持ちによくなりますけど、そういうときはそれにいっぱいいっぱいでなんにも書けなくなるから。
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――いまも何かにジェラシーの感情はあります?
大森 自分の才能じゃなくのし上がってる人にはイラッというか、「は?」「だって曲書いてもらってるやん!」と思います。そこぐらいかな。
――同じ土俵で闘ってない感じがする。
大森 同じ土俵じゃないのに同じ土俵で闘わなきゃいけないのが結構嫌で、関わらないようにしようって。
――ジェラシーというより、ズルいって感覚ですね。
大森 ズルいと思います。「楽じゃね?」って思う。
――自分もそうなりたかったわけじゃないですよね?
大森 逆の立場になりたかったですよね。私も誰かに大森靖子をやってもらえるならやってほしいから。でも、それやってる側と対等に闘わなきゃいけないとなると、相手はやってる側の才能としてはすごい優れてたりもするから。私はやってる側としてはそんなに優れてない器を無理やり使ってるから、そのシステムはズルいっていつも見てる。
――やってる側としてはそんなに優れてないんですか?
大森 その器としては。
――もっといい器ならよかった。
大森 そうですね。でも、もっといい器だったらこれになってないっていう。その葛藤をずっと繰り返してる。だから、ちょうどよかったのかな。
――そうですよ。大森さんはこの先、女子に革命を起こすと思ってますから。
大森 自分がやるより、自分がある程度やって起爆剤になって人にやってもらうほうが早いんで、そこに早く到達しなければならないっていうのはすごいあるんですけど......頑張ります(笑)。
大森靖子×プロインタビュアー吉田豪 対談
【プロフィール】
大森 靖子(おおもり せいこ)
弾き語りを基本スタイルに活動する、新少女世代言葉の魔術師。'14夏はTokyo Idol Fes、フジロック、ロックインジャパンに出演、音楽の中ならどこへだって行ける通行切符を唯一持つ、無双モードのただのハロヲタ。あとブログ
[ 好き ] 道重さゆみ、ピンク色、サンリオ、花、不健康そうな色のお菓子、血液、ブラジャー、ガムテープ、まるいもの、ふわふわのベッド、アイドル、毛やギターの弦など紐的なもの、細密描写、固まりかけのセメント、あまい、ファブリーズ、魔法少女、ファンの方、うきわ、マイク、ファミマのスパイシーチキン、女子の自撮り、コンビニ、AM4:44、デスプルーフ、ゲリラ豪雨、アクリル絵具、絶対って顔してる人、中野ロープウェイ、キラキラな音がでるエフェクター、虹色の朝焼け、高円寺の中華屋成都、開封前、甘エビ、ギター、歌舞伎町に落ちているホストやおねいさんの名刺、色のつく入浴剤、絵描きのおじいさん、ライブ、ダイソー、東京、低画質のエロ動画、お風呂で食べるアイス、ワンルーム、焼く前のホットケーキの液体、カラスがたかるゴミ捨て場、お土産、絶望ごっこ、100円のUFOキャッチャー、ティッシュ、メイク、タクシー、27才、いちごヨーグルト、ママ、喫茶店のあんみつ、女子の二の腕、プリクラ、バスタオル、犬、カラータイツ、音楽、キンブレ、ストレートアイロン、ぷよぷよ、黒いワンピース、点鼻薬、ひかるもの、公園、ひみつのブログ、夢オチ、ツインテール、他人のiPhoneケース、モーニング娘。
[ 嫌い ] 煙草、宇宙、高所、バンドマン、無知、結末がもやっとしている映画、掃除、匿名の悪口、元彼全員、セットリストの提出、遅刻する夢と単位逃して卒業できない夢
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(文/吉田 豪)
(写真/佐々木 淳吏 @トレンドニュース)
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エンタメ業界を担う人が見ている「視線の先」には何が映るのか。
作品には、関わる人の想いや意志が必ず存在する。表舞台を飾る「演者・アーティスト」、裏を支える「クリエイター、製作者」、これから輝く「未来のエンタメ人」。それぞれの立場にスポットをあてたコーナー<視線の先>を展開。インタビューを通してエンタメ表現者たちの作品に対する想いや自身の生き方、業界を見据えた考えを読者にお届けします。