はじめに
まず、一般に合成樹脂とプラスチックは同じ意味の言葉として使われることがあります。
ここではJISの定義に従い、合成樹脂は原料、プラスチックは合成樹脂を原料に成形加工された成形品として区別することにしましょう。
プラスチック成形品を使って製品を開発する際は、プラスチック成形品の使用環境や期間を前提に、最適な合成樹脂を選択することが重要です。
それにより、プラスチック成形品に関するさまざまな事故を回避することができます。そこで、ここでは、プラスチック成形品の基本的特徴と、プラスチック成形品に関する事故原因を解析するのに不可欠な分析・測定ツールを紹介します。
押さえておきたいプラスチックの特性のキホン
合成樹脂を原料とするプラスチック成形品は、金属やセラミックスに比べて軽量で、生産性や形状の自由度が高く、製造コストも安いという特徴があります。着色も比較的容易で、金属のように錆びたり腐食したりすることもありません。電気や熱の絶縁性に優れ、原材料の安定供給が図れるという特徴も併せもっています。
その一方で、金属に比べて耐熱性や機械的な強度が低く耐久性の面で劣る、溶剤の種類によっては弱いこともあるといった短所があり、さまざまなトラブルに悩まされている開発者の方も少なくありません。<表1>
一概にプラスチック成形品といっても原料となる合成樹脂の種類は大変多く、種類によって特徴が異なることも開発者を悩ます一因です。
プラスチックの種類別の特性や起こりやすいトラブルについては他記事でも説明していますので、そちらもあわせてご参考ください。
メリット | デメリット |
---|---|
1.軽くて強い製品が得られる | 1.温度変化に弱く燃えやすい |
2.耐錆や、防腐性が高い | 2.機械強度が弱い |
3.素材の着色が比較的容易 | 3.溶剤に対して非常に弱い |
4.塗装加工やめっき処理が可能 | 4.表面が軟らかく、傷がつきやすい |
5.電気や熱の絶縁性が高い | 5.汚れやすい |
6.耐薬品性が比較的高い | 6.寸法確保と寸法安定性が良くない |
7.安定した原料供給が可能 | 7.耐久性が劣る |
8.特別な性質を持った製品が作れる | |
9.成形加工が容易で、製品コストが安い |
一般的なプラスチック成形品の解析に有用な分析方法と測定機器
ここでは、プラスチック成型品を評価する際に不可欠な分析・測定ツールにを紹介します。今回紹介するツールは、プラスチック成型品で事故が発生した場合の解析時にも活用されています。プラスチック成形品について、実際に事故が発生した場合、どのように対処すればよいかの手順と事故の解析手法、原因の検証方法については他記事で説明していますので、そちらも合わせてご参考ください。
<図1>に、プラスチックを分析・解析する際の主な機器を一覧にまとめています。 それでは各分析・解析について主な利用用途と機器の説明をしていきましょう。
形態解析(観察)ツール
解像度(平面分解能)の低い順に、肉眼、ルーペ、光学顕微鏡、CT、超音波顕微鏡、赤外線センサー、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)などがあります。
その中でも、CTとは、コンピュータ断層撮影のことで、X線を利用して対象物の内部を画像化して見ることができる3次元観察ツールです。また、超音波顕微鏡は、超音波を使って対象物の内部を画像化して見ることができるツールです。
一方、赤外線センサーは、対象物の温度を非接触で測定できる装置で、温度分布を可視化することができます。
走査型電子顕微鏡(SEM)は、対象物に電子線を照射し、対象物から放出される二次電子を検出することで、対象物を観察できるものです。光学顕微鏡に比べて解像度が2桁以上高く、高速に電子線をスキャン(走査)することで、広範囲に焦点の合った立体的な像を得ることができることが特徴です。しかし、対象物の内部の情報は得ることが出来ません。
それに対し、透過電子顕微鏡(TEM)は、対象物に電子線を照射し、透過してきた電子線の強弱によって像を得ることができる装置で、これを使えばオングストローム(Å)オーダーの物質の原子配列構造を観察することができます。
また、SEMとは異なり、電子線の材料透過性を活かし内部構造を詳細に観察することができるため、合成樹脂の結晶パターンや欠陥の存在、結晶の配向方位などを知るためのツールとして有用です。
組成分析ツール
目的別に「元素分析」「分離分析」「化学構造解析」「結晶構造解析」の4つに大きく分かれます。
(1)元素分析
元素分析を行うためのツールとしては、X線マイクロアナライザー(XMA)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、X線光電子分光分析(ESCA)、走査型電子顕微鏡X線分析装置(SEM-XMA)などがあります。これらは、試料の極表面の元素分析やそれらの結合状態の観察が可能です。
(2)分離分析
よく知られているツールとして、クロマトグラフィーがあります。クロマトグラフィーとは、物質を大きさや質量、吸着力、疎水性など特性の違いによって成分ごとに分離する技法のことです。用途に応じて、薄層クロマトグラフィー(TLC)やガスクロマトグラフィー(GC)、熱分解クロマトグラフィー(PYGC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などがあります。
例えば、GCは最も一般的な分離分析装置で、合成樹脂の場合、ガス化させてその分解ガスをGCで定性定量することで、含有物質の有無などを定性分析できます。一方、HPLCは、GCのように加熱を必要としないため、親水性の化合物や熱に不安定な化合物の定性定量に使われます。特に、プラスチック成形品中の添加剤(酸化防止剤、色素など)の分析に最適です。
(3)化学構造解析ツール
化学分析ツールはさらに用途に応じて主に5種類に分けられます。
原子団構造解析
赤外吸収分光分析(IR)や紫外吸収分光分析(UV)、可視吸収分光分析(VIS)などがあります。これらは、試料に各波長の光を当てて入射光線の波長と吸光度の関係を測定し、試料のスペクトルと予想される物質のスペクトルを比較することで、物質の同定を行うことができます。合成樹脂に添加されている酸化防止剤や紫外線吸収剤の定性分析に有用です。
結合様式の解析
高分解能核磁気共鳴分析(NMR)が使われます。溶液高分解能NMRや固体高分解能NMRなど用途に応じていくつか種類があります。
まとめ
以上、ここでは主にプラスチックの測定・評価に用いる用途別の分析・解析機器についてご紹介しました。
今後、プラスチックの分析・解析時に困った際にご参考頂けると幸いです。
また、以下の記事ではプラスチックの計測に関する解説を行っています。こちらも合わせてご参照ください。
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