美容外科の医師・池田優子氏は当時、一躍時の人となっていた。その優雅な生活ぶりはたびたびメディアに取り上げられていたが、ある時を境にメディアの前に出ることはなくなった。

2006年6月26日、池田のもとに娘からの電話が。見ず知らずの男から突然声をかけられ無理やり車の中へ。誘拐されたのだった。

男たちは拳銃を所持しており、 警察に誘拐を告げると娘を殺すと脅した。

事件発生から約30分経ち、犯人から二度目の電話が。犯人は3億円を要求。犯人は3人で動いており、電話をかけるのは中国国籍の男、運転手は韓国国籍の男、そして日本人の3人。そんな男たちの正体は、数々の現金輸送車を襲撃し数千万以上を強奪していた強盗団だった。

凶悪な強盗事件が当時数件発生しており、彼らはその一味だったのだ。そんな男たちが狙いをつけたのが当時メディアで騒がれていた池田。娘の行動パターンを何度も確認し、綿密な計画を立てていた。

事件から約2時間後、なぜか警察が池田の家にやってきた。

白昼の事件だったため目撃者が2名おり、一人は車のナンバーもメモしていた。また、池田から事件を知らされた母は兄に事情を説明。兄が警察に通報をしていた。

警察は身代金目的の誘拐事件と断定し、捜査本部を設置。携帯電話の電波の発信基地からの場所特定に当たった。

七度目の電話があり娘の声を聞かせるように頼むと、犯人からは「今別行動してる」と告げられる。

そんな中、携帯電話の発信場所が川崎市内だったため警察は先回りし、車両を発見することができた。しかし、社内には運転手ともう一人の男性の姿しか見えない。

事件発生から6時間半、犯人から電話がかかり、娘の安否と、車に乗っているかどうかを確認するために娘の声を聞かせるよう頼むと娘が電話に出た。娘の声は聞き取りにくく、どこにいるか母が聞くと「マンション」だという。犯人たちが車で移動しながら電話をかけているのは間違いないが、娘は別の場所にいるという。一体どういうことなのか？

途中、車内にいる犯人たちはコンビニに立ち寄り大量の買い物を行った。そして車はあるアパートの前に停まった。アパートのどこかに仲間がいて、食料を渡しに行った可能性が高かった。が、部屋の場所まではわからなかった。

深夜には13回目の電話が。またも娘の声は遠かった。娘は別の場所にいて、犯人たちは2台の携帯電話を重ね合わせて会話させていたのだ。事件から12時間が経過し、警察は食料を運んだと思われるアパートへの突入の準備をしていた。

犯人は車が尾行されていることに気づき出した。そして警察に尾行されているかを確かめようとしたのか、犯人たちは車を止めた。警察は先手をとるように犯人の車を取り囲み声をかけた。

警察と分かると犯人たちは諦めた様子で、捜査官の指示に従った。警察は犯人から部屋番号を聞き出し、突入の準備に入った。

その頃、アパートの男は逃亡する準備を始めていた。男は拳銃を手に取り、娘に向けた。

と、そのとき玄関にベルが鳴り、そこには中国国籍の仲間が立っていた。警察はこの男を確保。部屋の確認のため連れていき、この男を利用して監視役の男を油断させ、ドアを開けさせる作戦をとったのだ。

男がドアを開けた途端警察が突入し、事件から13時間後の翌日午前1時25分、娘は無事保護された。

娘を拉致しアパートで見張っていた日本人の男と身代金要求の電話係だった中国国籍の男には、この事件の他、4件の強盗事件と合わせ、無期懲役の判決。運転手として雇われていた韓国国籍の男には、懲役10年の判決が下された。