日本では保守派が『はだしのゲン』に対しておこなってきたことを思い出させる*1。
『侍女の物語』など21冊が学校図書館の禁書に 米バージニア州 - 石壁に百合の花咲く
米国バージニア州マディソン郡の教育委員会が、地元の公立ハイスクールの図書館から21冊の本を排除すると発表。ネットユーザーは疑問や批判を表明し、3冊禁書にされたティーヴン・キングも痛快な意見をツイート。そして地元の公立図書館は、禁書にされた21冊すべてが読めることを保障しています。
以前からつづく上記の問題がはてなブックマークをあつめていたわけだが、そこでひとつ意味が理解しづらいコメントがあった。
[B! アメリカ] 『侍女の物語』など21冊が学校図書館の禁書に 米バージニア州 - 石壁に百合の花咲く
これにid:satoimo310氏とid:Shiori115氏がはてなスターをつけているのだが、ここで何を指して「ゾーニング」と呼んでいるのかわからない。
たとえば図書館が閉架措置にしたとか、館内閲覧に限定して貸出を禁止したなら、「ゾーニング」と呼ぶことも理解はできる。図書館で一般的なそれらも表現規制のひとつという考えもありうるだろう。先述の『はだしのゲン』撤去運動も、松江市では教育委員会が閉架措置という対応をとらせたことで批判された。
しかし図書館という一種のゾーニングがされた特殊な場所に教育委員会が介入したことは、ゾーニングとはまた違う問題ではないだろうか。過去に図書館の選択的な廃棄が問題になった事件も、他の場所では当該書籍が読めるからといって「ゾーニング」と呼ばれたとは聞かない*2。
事実として、元エントリで公立図書館側の抵抗として語られている取り組みも、貸出年齢に制限をしているか、そうでなくても優先しているように読める。ならばwhkr氏はブルックリン公立図書館も表現規制をしていると主張するのだろうか。
ブルックリン公立図書館(Brooklyn Public Library)ではこうした禁書の動きに対抗する"Books Unbanned"という取り組みがなされていて、米国内の13歳から21歳までのすべての人が、他の場所では排除されてしまった本の電子書籍やオーディオブックを同図書館から借りることができるんだそうです。
元エントリにしてもあらゆる「規制」を全否定しているわけではなく、その根拠や意図を批判しているのではないだろうか。
私にしても盗作や名誉棄損を理由に絶版回収された書籍は、あらゆる図書館が優先的に保存するべきと思っているが*3、絶版回収そのものまで全否定する規制反対論者は少ないとも思っている。
もちろん、そうした事例もふくめてすべての表現規制に反対する立場もあるとは思うが、やはり今回のバージニア州の事件はそれ以前の問題だろう。
ちなみに、はてなブックマークで紹介されているように、禁書にされたひとつ『侍女の物語』はHuluでドラマ化されるより前に、映画化もされている。
id:osaan 侍女の物語はフォルカー・シュレンドルフ監督、ハロルド・ピンター(ノーベル賞)脚本で映画化してる。音楽は坂本龍一。
かなりの有名なスタッフがあつまった1990年という新しめの作品で、日本でも公開されVHSビデオ化はされたものの、なぜかDVD化も配信もされていない。
ちょっとしたアクションシーンからはじまる、けっこうしっかりした近未来ディストピア作品なのに、視聴困難な現状は残念だ。しかしそれが問題だとしても、表現規制と呼ぶべきだとは思わない。
表現と受容をさまたげる問題は、法的な規制から抗議への萎縮、さらには経済格差や産業構造など、さまざま場面に異なるかたちで存在する。それらを一律で「表現規制」とまとめては、問題の所在を見失ってしまわないだろうか。