政治や社会問題に関する主張を一斉に投稿する「ツイッターデモ」について、読売新聞が昨年の注目度順に上位10件を抽出し、分析したところ、参加したアカウントの平均1割弱による投稿が、全投稿の半数を占めていたことがわかった。コロナ禍以降、ツイッターデモは急拡大しているが、一部のアカウントによる主張が増幅されている実態が浮かんだ。
ツイッターの国内ユーザーは、2017年時点で約4500万人。簡単な操作で投稿を拡散でき、様々なキャンペーンに利用されている。一方で、1人で複数のアカウント開設や、大量投稿もできるため、投稿回数と、実際に投稿した人の数が異なるケースも多い。
10件は22年1~11月、「トレンド」入りした回数が多い順に選び、データ分析会社「JX通信社」(東京)の協力を得て調べた。
最多の14回トレンド入りしたのは安倍晋三・元首相の国葬反対を訴えるデモで、累計64万6296回投稿された。詳しく調べると、参加した9万687件のアカウントのうち、わずか3・7%(3340件)による投稿が全体の半数を占めていた。中には4219回投稿したアカウントもあり、1000回以上のケースも10件あった。
2番目に多い11回のトレンド入りをしたデモは、外国人への生活保護給付に反対するもので、累計35万8790回投稿された。参加した6万9555件のアカウントのうち、6%(4170件)による投稿が全体の半数を占めた。
全10件を平均すると、9・4%のアカウントが、全体の半数を投稿していた。
国際大の山口真一・准教授(計量経済学)の話「ネットでは思いが強い人ほど大量の発信をする傾向があり、ツイッターデモも同様だ。ネット世論が民意を正確に代弁していないことを理解していないと、強い意見に過剰に引っ張られ、判断を誤る危険がある」
◆ツイッターデモ=呼びかけ人が「○月×日○時から始めます。『#○○反対』」と投稿し、参加者が「#○○反対」と一斉投稿する。主張を広めるため、投稿数などに応じてツイッターのホーム画面に表示される「トレンド」入りを目指すことが多い。
【調査の仕組み】
▽IT企業「コムニコ」(東京)のサービスを利用し、昨年12月上旬、「#」のほか、ツイッターデモに頻出する「反対」というキーワードを含む投稿の中からトレンド入りした回数が多い順に10件を選んだ。
▽投稿数には、リツイート(転載)や引用ツイートも含み、JX通信社は2022年1月~11月の全ての投稿を収集した。
コロナ禍以降、急増するツイッターデモによる主張が、一部アカウントの大量投稿で膨れ上がっていることが読売新聞の調査で明らかになった。参加者の実数とかけ離れた「ネット世論」は、国会で取り上げられることなどで広く認知され、政策決定に影響を与える可能性がある。(藤亮平、隅谷真)
■◆1000回以上投稿
兵庫県内で学習塾を経営する60歳代の男性は、安倍晋三・元首相の国葬が検討されていることが報じられた昨年7月、<#安倍晋三の国葬に反対します>と投稿するデモに参加した。「税金が使われるのに、国会で十分な議論を経ずに決まったのはおかしい」と思ったからだ。
毎朝6時に起きると、まずスマホで、デモの呼びかけと同じ文言を投稿した。日中の空いた時間も同じ操作を繰り返した。
「ネットで出回っている無料のBot(ボット)も使った」。男性はそう打ち明ける。ボットとは自動で投稿するプログラムのことだ。授業をする平日午後5~10時、自宅にある3台のパソコンが自動投稿を続けた。その回数は1000回以上に及んだという。
ツイッター社によると、ボットの使用は禁じられていない。ただ、迷惑行為と判断した場合、投稿を検索結果から除外したり、アカウントを凍結したりするという。男性による自動投稿の多くはすでに削除され、JX通信社(東京)の調査で確認できたのは230回だった。
このデモは64万6296回の投稿があり、101回以上投稿したアカウントによる累計投稿数が全体の28%を占めていた。
ツイッターの利用者がデモの広がりを過大に受け取った可能性について尋ねると、男性は「負の側面もある。最良のやり方とは思っていない」と語った。
一方、愛知県内の主婦(27)は昨年9月、<#国葬反対より外国人生活保護反対>というデモに参加した。子どもに授乳する時間などを使い、1日4~5回、スマホから投稿した。その回数は87回に及んだ。
デモに加わるようになったのは4年前。出産を機に、政治や社会に関心を持つようになったことがきっかけだ。今回は「国葬反対」のデモがトレンド入りしたのを見て参加した。「同じ人が何度も『国葬反対』の書き込みを繰り返していたので、賛成意見を広めようと思った」と話す。
■◆「受け止め難しい」
ツイッターデモは、コロナ禍でSNS利用が増加したことなどを受けて急拡大している。読売新聞とJX通信社の調査では、デモを呼びかける投稿は、コロナ禍前に比べ約30倍となった。
民意を聴く立場にある政治家側は、こうした動きをどう捉えているのか。
自身もデモに参加したことがある日本共産党の山添拓参院議員は「ここ数年で、多くの人に意思表示を呼びかける一般的な手法となった。世論を喚起し、動かす力を持っている」とプラスの面を評価する。
2020年5月に拡散した検察庁法改正案に反対するツイッターデモなど、最近では国会質問で取り上げられるものもある。
与党のある衆院議員は「全てを真に受ける必要はないが、トレンド入りをきっかけに本当の世論を動かす可能性もあり、受け止め方が難しい」と明かす。
自民党はSNS上の意見について、投稿数だけではなく、どんな層の人たちが発信しているか分析している。同党ネットメディア局長の平将明衆院議員は「SNS上の主張も国民の声だ。ただ、偏ったものを国民の声と受け止めると見誤ることになる」と語る。
中野晃一・上智大教授(政治学)の話「ツイッターデモは、政権交代が起こりにくく、投票率も低迷している日本で、市民の声を反映させる回路として機能している。若者などの意見が可視化されることは、民主主義を活性化させる意義があると捉えるべきだが、少数の声が過剰に増幅されている実態は踏まえる必要がある」
藤代裕之・法政大教授(ソーシャルメディア論)の話「誰が何のために始めたものか、拡散にボットが使われていないか。そんな点が検証されないまま、ツイッターデモがテレビの情報番組やネットニュースなど一部のメディアに大きく取り上げられて広がると、政策にゆがんだ影響を与える可能性がある」