放送現場の疑問・視聴者の疑問

「重用」の読みは?

「信長は秀吉を重用した」「この会社は若手を重用している」などと言う場合の「重用」について、[ジューヨー]と[チョーヨー]の2とおりの読み方を耳にします。放送では、どのように読んでいるのでしょうか。

原則として[ジューヨー]と読み、場合により[チョーヨー]と読んでもよいことにしています。
➀ジューヨー➁チョーヨー

解説

「重」の音読みには「じゅう」と「ちょう」があり、「重」を用いた漢語には[ジュー~]か[チョー~]、あるいは両方の読み方をするものがあります。このうち、「信長は秀吉を重用した」「この会社は若手を重用している」など「人を重く用いる(登用する)」という意味の「重用」の伝統的な読みは[ジューヨー]です。戦前の国語辞書には「じュうよう」「ち"ゆうよう」など、いずれも[ジューヨー]の読み方だけが示されています。ところが、その後「大事なこと」を意味する「重要」(じゅうよう)との混同を避けるためか、あるいは同じ「重」を用いた「宝」(ちょうほう)などの読みに引きずられたのでしょうか、「重用」を[チョーヨー]と読む慣用化が進んだようで、昭和30(1955)年には「ちょうよう 重用」の見出し語で一部の辞書に初めて登場しています。NHKが平成10(1998)年に行った調査でも、[チョーヨー]と読む人が8割に達していました。

こうしたことから、放送で従来認めていた[ジューヨー]に加えて、[チョーヨー]の読みについても認めることになりました。

このときの放送用語委員会(第1195回-1999年2月12日)の決定は「放送では、文脈に応じて分かりやすい表現を工夫するのが望ましい。ただし、引用などで文字どおり読む必要が生じた場合は、1.ジューヨー 2. チョーヨーとする」となっています。つまり、放送では文学作品や文章を直接引用する場合などを除いて、「重用」は「重く用いる」「重要な地位に取り立てる」と言いかえるなど「耳で聞いてわかりやすい表現を心がけなさい」ということです。

ところで、私は放送の仕事に携わって40年以上になりますが、当たり前のことながら何年たっても、いくつになっても、ことばの本来の読み方や意味・使い方について自分の無知を思い知らされる日々です。実は、「重用」の読みも以前は「ちょうよう」だと思い込んでいました。取材・制作の放送の現場から当研究所に異動してきたのが平成10(1998)年で、上記の放送用語委員会の決定の1年前。この委員会での審議に接し、「重用」の伝統的な読みは「じゅうよう」だと初めて知りました。認識不足を改めて痛感した次第です。

(『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』p.402参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)