当社はこれまで、車両の省エネルギー化等、鉄道運行に係るエネルギー効率を一層高めることで直接的な環境負荷を低減するなど、地球環境保全に向けた取組みを進めてきました。
また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてより一層のCO2排出削減にも取り組んでおり、当社及び当社グループは、政府による「2050年カーボンニュートラル」政策を前提に、2050年のCO2排出量実質ゼロを目指すとともに、2030年度のCO2排出量についても、同政策を前提として、2013年度比46%削減とすることを目指します。
これにより、鉄道の環境優位性をさらに高め、持続可能な社会の実現に向けて貢献していきます。
現在、地球温暖化問題は世界規模で取り組むべき課題となっており、温室効果ガスの中でも特にCO2は排出量が多く、地球温暖化に与える影響が大きいと考えられていますが、鉄道には他の輸送機関に比べてエネルギー効率が高く、地球環境への負荷が少ないという優位性があります。鉄道は国内全体の旅客輸送量のうち30%を担っているにもかかわらず、CO2排出量では6%を占めるにすぎません。東海道新幹線(N700系「のぞみ」)と航空機(B777-200)を比較した場合、東京~大阪間を移動する際の1座席当たりのエネルギー消費量は約8分の1、CO2排出量では約12分の1であり、東海道新幹線は圧倒的な環境優位性を有しています。地球環境への負荷が少ない鉄道を一人でも多くのお客様に選択・利用していただくことは、運輸部門全体としての環境負荷が抑制され、地球環境保全につながると考えています。
端数処理により、内訳の合計が100%にならない場合がある
出典 輸送量、エネルギー消費量:エネルギー・経済統計要覧(2018年度)
CO2排出量:国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスのデータ(2018年度)をもとに作成
1.走行実績(当社分)に基づく算出 N700系「のぞみ」(東京〜新大阪)
2.ANA「アニュアルレポート 2011」を参考に当社算出 B777-200(羽田〜伊丹・関空)
地球環境保全への取組みについて、当社では、社長をトップに、それぞれの経営部門、技術部門を統括する総合企画本部と総合技術本部が連携し、省エネルギー・省資源等の取組みの方針やCO2の排出削減等に資する技術開発の方針を策定し、両鉄道事業本部や中央新幹線推進本部、事業推進本部が具体的な取組みを行うという体制で推進しています。
当社が排出するCO2のうち、約95%は当社が購入する電気を発電する際に間接的に排出されるもので、残りの約5%は燃料等の使用により当社が直接排出しているものです。今後に向けて、まず直接排出している約5%の部分について、車両の電動化等に向けた技術開発や調査研究を進めていきます。残りの間接的な排出については、国内の発電部門全体の脱炭素化の動きに加え、当社としても車両や設備の省エネルギー化、再生可能エネルギーの活用の検討等、新しい技術の採用を通じてCO2の排出削減に積極的に取り組んでいきます。
以上の取組みを全社で推進するため、総合企画本部と総合技術本部は、地球環境保全に関する昨今の情勢や当社の取組方針、コンプライアンスについて、社内に対して周知及び指導を行っています。
また、総合技術本部内の技術開発部では、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001認証を取得しており、地球環境保全の面で優れた鉄道の特性にさらに磨きをかけるため、省エネルギー技術の開発等に取り組んでいます。
これらに加え、当社は金融安定理事会(FSB)によって設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への賛同を表明しています。気候変動がもたらすリスク等に対する財務上の影響を把握し、TCFDの提言に基づいて、情報開示を進めています。
在来線において、線路設備等の安全点検に用いる軌道自動自転車の電動化の技術開発に取り組み、2021年7月から紀勢本線において性能確認試験を実施しています。
従来型がガソリンエンジンで走行するのに対して、電動式軌道自動自転車はバッテリーからの電力によりモーターを駆動させて走行するため、排気ガスを出さず、CO2の排出削減につながります。また、ブレーキ時に発電する回生ブレーキにより、エネルギーを有効活用できます。なお、バッテリーに国産電気自動車のバッテリーを再利用することで、資源を有効活用しています。
電動式軌道自動自転車
当社は、地球環境保全に取り組むに当たり、以下の7項目からなる環境行動指針を定めています。
東海道新幹線の一層の省エネルギー化を図るため、省エネ型車両の開発・投入を積極的に行っています。300系、700系の置き換えとして2007年度からN700系を80編成、2012年度からN700Aを51編成投入しました。また、2020年度からはN700系の置き換えとしてN700Sを投入しており、2023年度までに40編成を投入する予定です。
東京~新大阪を最高速度285km/hで走行した場合のN700Sの電力消費量は、SiC素子駆動システムの採用、車両の軽量化、走行抵抗の低減等により、最高速度270km/hで走行した場合の300系に対して28%削減、最高速度285km/hで走行した場合のN700Aタイプ※に対しても6%削減となり、速度向上を実現しつつ、顕著なエネルギー消費の改善を示しています。その結果、2020年度末の段階でエネルギー消費原単位を1990年度比で約32%改善しています。
N700A及びN700系(改造)の総称
東京~新大阪下りを上記の最高速度で走行した場合のシミュレーション
在来線の車両も省エネルギー化を図っています。電車では、電力回生ブレーキや高効率な電力制御変換方式の導入、車両の軽量化等、気動車では、車両の軽量化や低燃費なディーゼルエンジンの導入等、よりエネルギー効率の高い車両の投入を進めています。これらのうち211系等が更新期を迎えることから、新形式の通勤型電車315系を新製します。315系では、電力変換装置にSiC素子を採用するなど、さらなる省エネルギー化を図り、211系と比較して電力消費量を約35%削減します。2021年度から2025年度にかけて352両新製し、順次投入する計画です。
また、現在特急「ひだ」等に使用している85系気動車の後継車として、ハイブリッド方式を採用した次期特急車両HC85系を2022年度から順次投入することとしており、量産車の新製に向けた準備を進めています。HC85系は、蓄電池に貯めた電力を加速時や停車時に使用することで、85系気動車と比較して、軽油消費量及びCO2排出量を約30%、NOx排出量を約40%削減できる見込みです。
豊橋~大垣、名古屋~中津川を最高速度120km/hで 走行(快速運用)した場合のシミュレーション-DMF14HZ型)
名古屋~富山を最高速度120km/hで走行した場合のシミュレーション
新幹線変電所の負荷が大きくなった場合の電車線の電圧降下等を抑える電力補償装置を、2011年度から2022年度にかけて順次取り替えています。新たな装置は従来設備より電力損失が少ないこと等から、新幹線の電力消費量を約3%削減できる見込みです。
また、東海道新幹線では、電力会社等から受電した50Hzの電気を新幹線走行に必要な60Hzの電気に変換する周波数変換装置を、富士川以東の区間で設置しています。2014年度から2023年度にかけて、この装置の一部を回転型から電力損失の少ない静止型に取り替えています。加えて、地絡や負荷の急変にも対応できる技術を開発したため、2021年度から2027年度にかけてさらに2台の周波数変換装置を回転型から静止型に取り替えていきます。これらの周波数変換装置の取替により、新幹線の電力消費量を約4%削減できる見込みです。
これまで駅や踏切をはじめとした鉄道設備の照明に高圧水銀ランプを使用していましたが、2020年末にLEDランプへの取替が完了しました。これにより、取替前後で比較して、年間の電力消費量を70%減(△2,000万kWh)としました。
2017年2月に竣工したJRゲートタワーでは、地域冷暖房の導入、LED照明の採用、太陽光発電パネルの設置、15階屋上庭園や低層棟屋上の緑化等、ビル全体の省エネルギー化、環境への負荷低減に取り組み、「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」の最高評価である「Sランク」の環境性能を実現したほか、ビルからのCO2排出量を、CASBEE名古屋2010標準モデルビルと比較して約25%削減しています。
2011年9月に開設した総合研修センターでは、夜間電力の利用による氷蓄熱を熱源とした空調システムの導入やLED照明の採用等、省エネルギー化を図っています。さらに、屋上庭園の配置等で建物外側での断熱性能の向上を図り、自然採光や通風を最大限取り入れるなど、自然エネルギーも有効活用した建物としています。その結果「CASBEE」において、最高評価の「Sランク」を取得しています。
総合研修センター(屋上緑化)
2011年3月にオープンしたリニア・鉄道館では、広大な屋根を利用した太陽光発電システムを導入しています。発電容量約500kW、年間発電量約47万kWhとなっており、リニア・鉄道館で必要な電力量の約30%を賄っています。
リニア・鉄道館(太陽光発電システム)
新幹線車両の全般検査を行う浜松工場では、2019年3月にリニューアル工事が完了しました。工場の屋根を利用した発電容量約300kW、年間発電量約41万kWhの太陽光発電システムを導入したほか、高効率な変電設備、ボイラー等を導入しています。
在来線車両の全般検査等を行う名古屋工場では、2014年2月より耐震化及び設備の取替を進めています。高天井用のLED照明の導入やトップランナー制度※に対応した高効率な変電設備へ取り替えることにより、工場全体の電力消費量を約20%削減します。
「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」において、特定の機器に定められたエネルギー消費効率の達成基準
グループ各社でも地球環境保全に資する取組みを実施しています。
ジェイアール東海バスでは、ポスト新長期排出ガス規制適合の高性能なエンジンを搭載した車両を、2011年から順次導入しています。このエンジンを搭載した車両は、現在所有している全車両の約80%を占め、導入前と比較して、排気ガスに含まれるNOxを約80%削減しています。また、2017年からMT(マニュアルトランスミッション)車よりも燃費が最大15%以上向上するAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)車を順次導入することで、さらなる地球環境保全に向けた取組みを進めています。
AMT車
ジェイアール名古屋タカシマヤでは照明のLED化を進めており、これまでに約27,000個の取替が完了しました。これにより、館内のほぼすべての照明のLED化が終了しています。また、タカシマヤゲートタワーモールでは貫通路(吹き抜け)部の常時開放する扉の限定、シャッター開放時間の短縮、外気流入箇所への扉の新設によって外気流入を防ぎ、室内温度の変動を抑え、空調効率を高めています。
照明のLED化
東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」で車内販売しているコーヒーには、レインフォレスト・アライアンス認証農園産のコーヒー豆を50%以上使用しています。レインフォレスト・アライアンスとは、国際的な非営利環境保護団体として1987年に設立され、その活動は世界60カ国以上に及んでいます。同団体では、生産者の生活向上や熱帯雨林の持続可能な管理を目指して、森林・河川の保護、農薬の制限、廃棄物の管理等の基準を満たす農園に対して認証を与えており、認証されたコーヒー豆の調達を通じて、地球環境保全に貢献しています。
車内販売の様子
EPOCとは、中部地区の産業界が中心となって集まり、企業が培ってきた環境の成果を活かして持続可能な経済社会の構築を目指すことを目的として2000年に設立された団体です。
業種業態の枠をこえた企業間連携や、産官学や地域の幅広い主体との連携により、社会への環境行動の浸透や情報発信等の活動を実践しています(詳細はEPOCのHPをご参照ください)。
当社は2002年度にEPOCに加入し、現在は団体の中核会社として運営に携わっています。引き続き、EPOCを通して、会員企業等とともに地球環境保全への貢献に努めていきます。
EPOC総会の様子
当社は、様々な環境関連法令を確実に遵守するとともに、化学物質や廃棄物の適正な管理、削減に取り組んでいます。また、Reduce(廃棄物の発生抑制)、Reuse(再利用)、Recycle (再生利用)の3Rの取組みを推進するなど、資源の有効利用を進め、環境負荷の低減に取り組んでいます。
みなとく株式会社が提供する食品ロス削減アプリ「No Food Loss」を当社グループ会社の一部店舗で導入し、店頭で販売する駅弁やパン、ケーキ等の食品ロスの削減に取り組んでいます。加えて、ネスレ日本株式会社とみなとく株式会社が設置を進めている「食品ロス削減ボックス」をJRゲートタワー内のバスターミナルに設置することで、納品期限を超過し、場合によっては廃棄される可能性のあるお菓子等の食品ロスの削減に取り組んでいます。
食品ロス削減ボックス
大規模災害等に備え、各事業所において災害用の食品や飲料水等を備蓄していますが、地域社会への貢献及び食品ロスの削減等を目的として、本社の賞味期限の近づいた災害用備蓄食品を、フードバンク事業に取り組む認定NPO法人に寄贈しました。
地球環境保全に向けた取組みとして、様々な環境関連法令を確実に遵守し、化学物質等の適正な管理を実施するべく、毎年、全職場を対象に遵守状況の調査を実施しています。さらに、内部監査において各職場の遵守状況の確認を行い、その結果をフィードバックすることでコンプライアンスの徹底に努めています。
また、新幹線、在来線の車体塗装にはこれまで揮発性有機化合物(VOC)を含む油性塗料を用いていましたが、新幹線では、2016年度に日本初の水性塗装ロボットを浜松工場に導入し、環境に優しい水性塗料化を実現しました。在来線も2020年3月に在来線車体用として日本初の水性塗装ロボットを名古屋工場に導入し、一部車両の水性塗料化を実現しています。
車体塗装風景
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)」のPRTR制度※1に基づき、対象の化学物質について排出量・移動量の届出を行い、適切に管理しています。
地形変更や土地の売買の際に実施する土壌調査にて、基準値を超える物質が検出された場合、その都度関係機関へ報告を行い、法令及び行政機関の指導に基づき適切に措置を実施しています。
一部の事業所においては、水質汚濁防止法に基づく特定施設に該当する車両洗浄装置を使用しています。洗浄により生じる排出水の処理装置等を設置し、定期的に排出水の汚染状態を測定し、水質汚染防止に努めています。
排出水処理装置
ばい煙発生施設※2であるボイラーについては、NOxの生成を抑えるバーナーや、燃焼排ガスを再循環させNOxの生成を抑制する排ガス再循環方式等を採用した装置を導入し、定期的なばい煙量またはばい煙濃度を測定・記録し、大気汚染防止に努めています。
また、「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)」に基づき、第一種特定製品に関する点検の実施及び記録類の保管等を行い、適切に管理しています。
1 人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質が、事業所から環境(大気、水、土壌)へ排出される量及び廃棄物に含まれて事業所外へ移動する量を事業者自ら把握し国に届出を行い、国が届出データや推計に基づき、排出量・移動量を集計・公表する制度
2 事業場に設置される施設でばい煙を発生、排出するもののうち、その施設から排出されるばい煙が大気の汚染の原因となるもの
廃車となった新幹線の車体アルミをマテリアルリサイクルし、内装用建材やN700Sの内装部品に再利用しています。例えば、東京駅八重洲北口の専門店街「東京ギフトパレット」では、コンコースや柱・天井等に廃車となった700系新幹線の車体アルミをリサイクルして使用しています。また、英国の化粧品ブランド「ザボディショップ」にも、店舗内装用建材として「新幹線再生アルミ」を提供しています(2021年度「グッドデザイン賞」受賞)。新幹線再生アルミは、アルミを新製する場合に比べて、製造時に必要なエネルギーを抑えられるため、CO2排出量を97%削減し、環境への負荷を軽減することができます。
このほか、工事における廃棄物の排出削減、雨水の活用、乗車券・制服類のリサイクル等にも取り組んでいます。
URL:https://www.tokyoeki-1bangai.co.jp/700aluminum/
車体アルミの再利用
地球環境に配慮された資材を優先的に調達する、グリーン調達を行っています。そのため、取引先との連携を強化する目的で「JR東海グリーン調達ガイドライン」を制定し、取引先と協力して地球環境保全に貢献しています。
URL:https://company.jr-central.co.jp/business/material_procurement/_pdf/green_guide_line.pdf165.8KB
2020年度の環境保全活動に関する投資・費用やそれに伴う効果を試算すると以下の通りです。
[環境保全コストの集計の考え方]
●集計範囲は当社単体です。 ●対象期間は、2020年4月1日~2021年3月31日です。 ●形式は、環境省の「環境会計ガイドライン2005年版」を参考にしています。 ●費用には、減価償却費を計上していません。 ●多目的の支出の場合、環境保全効果の高いものの全額を計上しています。
当社が2020年度の1年間の事業活動を行う上で使用した資源・エネルギー及び輩出した廃棄物等のうち、主なものは以下の通りです。
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により営業収益(単体)が大きく減少したため、 炭素強度が大きくなっている