青森県政史上最長の5期目を務めている三村申吾知事(66)は、21日午後2時すぎから青森市で記者会見を開き、5期20年を振り返って退任の理由や今後の県政に期待することを語りました。


【全文】
 本日の心境を一言で申し上げるとすれば、旧約聖書の言葉でありますが、「全てのことに時がある」という思いでございます。
 私、三村申吾は6月28日をもって青森県知事を退任いたします。従って、次期青森県知事選挙には出馬いたしません。これまでの5期20年の歩みを振り返りますと、様々な出来事とともに、お世話になった方々や苦楽を共にした方々のお顔や姿が走馬灯のように脳裏に浮かんできますが、長いようであっと言う間に駆け抜けてきた、まさに「光陰矢の如し」であったという感がいたしております。

 私は平成15年、知事就任の際、常に県民の目線、生活者の視線に立ち、全ては青森県民のため、ふるさと青森の再生・新生のために身を捨つる覚悟を持って、愚直に努力していくことを誓い、その思いを胸に刻み、その姿勢を忘れずに知事の職務に日々邁進してきたところであります。
 地域・地方が良くならなければ、日本は良くならない。青森から日本を変えるとの気概を持って自主自立の青森県づくりを目指し、ふるさとの再生と新生、これを実現するべく邁進していく覚悟の中、就任直後から、早急に取り組むべき課題として、立ちはだかりましたのは、行財政改革と雇用経済対策でありました。
 特に行財政改革につきましては、財政再建団体への転落も危惧される状況や、平成16年に始まりました国のいわゆる「三位一体」の改革による地方交付税の大幅削減など幾多の困難にも直面いたしましたが、行財政基盤の安定なくして県政なし、その強い思いのもと、県民並びに県議会の皆様方のご理解とご協力をいただきながら、徹底した行財政改革に取り組みました結果として、平成29年以降、6年連続で当初予算における収支均衡を実現したほか、増加を続けてきました県債残高は平成23年以降、減少局面に転換することができ、令和3年度決算におきましては、ついに1兆円を下回る規模となりました。また、県独自の債権の残高については、半分以下に減少させることができたところでありました。
 今後とも、県民生活や地域経済のために必要となる対策は、躊躇なく講じた上でも持続可能な財政運営が継続できる強靭で安定的な財政基盤の確立に道筋をつけることができたものと自分としては考えているところでございます。

 そして私は知事就任以来、この青森を暮らしやすさではどこにも負けない地域として発展させるとの決意を胸に、県民のなりわいと生活が好循環する生活創造社会の実現に向けた様々な仕組みづくりにも全力で取り組んできました。特に消費者起点に立った販売重視の施策展開と、それを支えます「水・土・人」の3つの基盤づくりを基本理念に、平成16年度にスタートさせた「攻めの農林水産業」では、私自身が先頭に立ち、市場関係者や大手量販店の経営者、そして多くの消費者の皆様方に直接売り込みトップセールスを積極的に展開いたしますとともに、輸送時間の短縮や鮮度・品質保持を付加した付加価値の高い物流によりまして、農水産品の国内外への流通拡大を物流面で支援するいわゆる「Aプレミアム」などを活用した販路拡大ということで徹底して取り組み、稼げる農林水産業を確立いたしました。
 その結果、平成21年の農業産出額は3277億円と7年連続で3000億円を突破し、18年連続東北トップを堅持いたしますとともに、販売農家1戸当たりの生産農業所得は知事就任前の約2倍以上に伸び、さらに2021年産リンゴの販売額は8年連続で1000億円を超え、リンゴの輸出実績も8年連続で100億円を超えるなど好調に推移いたしております。また、2021年産米食味ランキングにおきましては、「青天の霹靂」が7年連続で特A評価を取得したことはご案内の通りであります。こうした様々な成果が新規就農者の着実な増加にも結びついております。
 観光分野、交流人口の拡大におきましては、立体観光・周遊観光の推進によりまして、2019年には外国人延べ宿泊者宿泊者数が過去最高更新し、震災前の約5.7倍と大幅に伸びました。また2019年7月には、エバー航空「青森―台湾線」が新規就航し、大韓航空「青森―ソウル線」と合わせ、複数の国際定期便の同時就航となり、本県のインバウンド需要を牽引するなど、国内外、多くの皆様から「選ばれる青森」を実現することができました。

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 商工分野におきましては、企業誘致増設件数が、知事就任以来、令和4年3月までの累計におきまして582件に達し、7300人を超える雇用の直接の確保に繋がっておりますほか、働きやすい職場として女性の方々にも人気がございますコンタクトセンター関連業を中心に製造業あるいは植物工場などの新設など好調にこの分野も推移いたしております。
 また、県内の創業支援拠点を利用した創業者数が6年連続で100名を超えておりますほか、令和2年度も12月現在の数字でありますが、既に100名、今年度も超えているなど、コロナ禍にあっても、意欲を持った創業者が地域の特色ある資源やアイディアを生かしながらこの青森の地でしっかりと夢を実現させております。その他、防災公共の推進、あるいは自助と共助によります防災の強化、医師確保対策をはじめとする医療提供体制の充実、青森型地域共生社会実現に向けた仕組みづくり、さらには持続可能な地域づくりを支える多様な人材の育成など、子供から高齢者まで全ての県民の皆様方が生まれ育ったこの青森の地において安んじて暮らすことができる環境づくりもまた合わせて進めてきたところであります。

 こうした中、令和3年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されましたことは、まさに万感の思いでありました。登録までの長い道のりを応援してくださった県民の皆様方をはじめ、全ての関係者の皆様方に心から感謝申し上げたいと思います。縄文遺跡群は縄文の人々が自然と共生をしながら、ともに支え合い、平和に諍いなく生きたことを物語る1万年以上に及ぶ軌跡であり、今を生きる私達への大切なメッセージであると思っております。その顕著な普遍的価値を守り、次の世代にしっかりと継承していきますとともに、多くの方々が縄文遺跡群に足を運び、理解を深めていただけるよう引き続き、本県が中心となって、関係自治体とともに、より一層の取り組みを進めていくことが重要と考えております。

 私は今季、5期目をスタートさせるにあたり、知事就任以来、チャレンジし続けてきた経済を回す取り組みの成果が、観光をはじめとする各分野で着実に現れ、また、本県の多様性と可能性を示すための様々な段取りも整いつつあると考え、今季を知事としての集大成すると、政治家としても心に決め、臨んできたところでありました。そうした中、令和2年に入りまして、誰もが想定し得なかった新型コロナウイルス感染症への対応が始まり、地域経済や県民生活にも大きな影響を及ぼしたところであります。また、これまで築き上げてきたものが全て無に帰してしまうではないかと自分自身、大変危惧をしたところでもありました。
 つい先ほど、大韓航空機が2年10ヶ月ぶりにチャーター便としてありますが青森空港に戻ってきて、本当にもう胸が熱くなったところでありました。なぜならば、特に観光分野において、2019年には外国人延べ宿泊者数が過去最高を更新し、震災前の5.7倍と本当に大幅に伸びる状況であったわけでございますが、国内観光客の来訪が落ち込む冬季も含めて、閑散期にもおいでただける、そして、その経済の好循環が拡大しつつあった本県のインバウンド需要がこのコロナにおいて全て一気に地に落ちたということは、私自身大変な衝撃でありました。その際、脳裏を去来いたしましたのは東日本大震災でありました。
 県民の長年の悲願でありました平成22年12月の東北新幹線全線開業後まもなくの23年3月11日、東日本大震災が発生し、本県も大きな打撃を受けました。あの日、災害対策本部室でテレビに映し出される各地を襲う大津波の映像を見ながら、とにかく逃げてくれと祈ったこと、また、その夜、停電が続く中において、被災市町村からの毛布や食料品、燃料、お湯などの支援要請に応えるべく奔走したこと。そして翌日訪れました八戸と被災地の惨状、今でもこのことは、昨日のことのように思い出されます。こうした中、地域住民の方々がお互い支え助け合っている姿に、地域の強い絆、そして私達青森県民の底力を改めて感じ、私の方がむしろ元気、そして勇気をいただきました。

 このように厳しい状況に直面したときにこそ、真の姿が立ち上がるものであります。コロナ禍にあっても決してひるむことなく常に将来を見据え、県民のための県政という原点に立ち返りながら、現在、そして未来の県民の幸せにつなげていくため、なすべきと信じる道に向かって、まっすぐに取り組んでいかなければいけないということを決意したものでございました。
 そしてこの間、長引くコロナ禍に加えまして、大雨災害でありますとか、高病原性鳥インフルエンザなど、緊急かつ突発的な事案も様々発生いたしましたが、県庁全庁を挙げて対処する中で、賢明かつ真摯に職務に邁進する職員姿を目の当たりにし、また、県民の皆様をはじめ多くの関係者の皆様のご理解ご協力いただいたことは私としても様々経験し、思い悩み、そして事を前へ進める決断をするにあたり、大きな力となったものであります。
 私はこうした思いのもと、令和4年、昨年の春以降、これまで地道に築き上げてきたネットワークや信頼関係が長引くコロナ禍等により途切れてしまうことのないよう、その繋ぎ直しやさらなる強化のため、またその感触を自分自身しっかりと確認するため国内外を積極的に飛び回ってきたわけでありますが、その中でコロナ禍からの回復基調というものを直感しました。未来へのつなぎは概ね果たすことができるのではないかと確信をしたところでありました。また先ほど申し上げました通り、「攻めの農林水産業」や企業誘致・起業創業などコロナ禍にあっても経済を回す取り組みを力強く、決してひるまず、諦めずに進めたことによりまして、多くの方々に学ぶ場所、働く場所、生きる場所として「選ばれる青森」が実現の方向に着実に進んでいることを改めて実感することもできたところであります。

 一方で、人口減少克服をはじめ、若者や女性の県外流出、労働力不足、超高齢化時代の到来、平均寿命・健康寿命など、本県が抱える諸課題については長引くコロナ禍等により一層複雑困難化するとともに、これらを取り巻く社会経済情勢や価値観も大きく変化をいたしております。私はこれに対処していくためには、この3年間、耐えに耐え抜いてきた観光や販売に思い、改めて力を入れ、各方面とのつながりを再び強化し、思いっきり稼ぐという思いで力強く経済を回す。交流自粛や外出控えなどにより深刻化した孤独孤立や健康の問題、頻発・激甚化する災害などからしっかりと日々の暮らしを守る。急速に進展するデジタル化社会にしっかりと対応し、あらゆる分野で連続化による変革、すなわちDXを進めるそういったことが重要と考えておりましたが、これらに取り組んでいくための基盤をしっかりと固められなければいけない。その思いと同時に、その実行に当たっては、これまでの取り組み成果を生かしつつ、新たな感性や新たな感性や新たな知見を取り入れることも必要なことではないかと、その思いが脳裏をよぎっておりましたのも事実であります。

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 これまでの5期20年で築き上げてきた強固で揺るぎない基盤のもと、成果が表れている分野はしっかりと維持拡大するとともに、本県が抱える諸課題に対しては繰り返しとなりますが、新たな感性やさらなる知見も取り入れながら県政を着実に前へ進めていく、そのためのつなぎを私としてはつなぎを果たすこと、これが今の私の知事としての大義であり、一つの区切りを迎えるべきである。その思いに改めて至り、今期5期目当初から心に決めておりましたが、コロナ禍により様々ありましたが、そのつなぎを果たすことができるということを、自分自身感じることにより、このたびの退任いたしたいという決断をした次第であります。

 なお、今季5期目当初からの真意を含めた私の進退についての率直な思いは、令和4年10月議会後、生みの親であります大島元衆議院議長に、また11月には当時の自由民主党県連会長にお伝えしておったところであります。その際に江渡会長から慰留をいただきましたことは、誠に身に余る光栄と思ったところであります。また昨日思いがけず、自民県議団の有志の皆様方から同じく慰留いただいたことは本当に感謝するところであります。
 話を元に戻しますが、その江渡会長にお伝えした際、江渡会長からは「時間とタイミングを大切にしたい」と。常々申し上げておりますが、政治でありますとか、この選挙局面ということでありますから、そのことは非常に私もわかります。そういったお話を受けまして、その考えに沿うところとしたところでございました。またその後、現在の津島県連会長からもまた皆さん方もご存知のように、会長としては「センシティブ」という言葉を使っていましたが、そういうセンシティブなことでであり、江渡会長と同じく時間とタイミングということで、同様の意向を賜りまして、長年の協力関係のもと、私のこの退任について語るべき時期を熟考するに至ったわけでありますが、私といたしましては、いよいよ当初予算編成時期ともなりまして、今回の退任に向けての表明ということに至ったところであります。
 繰り返しとなりますが、この5期20年、平成15年の知事就任の際、常に県民の目線で、そしてまた生活者の視線に立ち、全ては青森県民のため、ふるさと青森の再生・新生のために身を捨つるする覚悟を持って愚直に努力していくことを誓い、以来その思いを胸に刻み、その姿勢を忘れずに知事の職務に日々、邁進してきたところであります。この思いには一点の迷いや曇りもなく、こんにちまで全力で駆け抜けてきたところであります。知事としても、いち政治家の心情としても私自身、誇りとするところであります。

 私は県民の皆様方が、そして私もこよなく愛するこの青森の地で将来にわたって安んじて暮らしていけるよう元気と幸せ、そして確かな希望が広がる持続可能で魅力ある青森県づくり、そのタスキは今や未来へと引き継がれていくべきものと考えております。私が託された区間は6月28日までと終盤を迎えることとなりますが、私たち青森県の将来を見据え、そして確かな未来を信じ、最後の最後まで、一意専心、全力でこれまで同様、取り組んでいく、そのことはお誓い申し上げたいと思います。またその覚悟でもございます。
 さて、晩期公論に決すべし。今後とも県政に期待申し上げますのは、意見や考えの違いを超え、皆で一貫して真剣に議論を尽くし、世論を得ていく。幾多の困難や危機と対峙しながらも皆で力を合わせ、克服し、県と県民と県議会が力を合わせて拓くであろう輝かしい未来であります。本日、こうして語らせていただきましたが、最後に私が駆け抜けましたこの5期・20年が青森県の確かな未来の礎となることを信じ、また、そのことを切に願い、退任に向けまして、あるいは不出馬ということに関しましての私からの弁とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。