ヤンピース   作:ポンジ先輩

8 / 8
私のことを大事にしたいのね♡

 

 クロコダイルの企みを阻止するべく、広大な砂漠へと足を着けたルフィ達一行。未だアラバスタ王国は見えないが、なんとなく自分と似たような境遇に陥っている気配を感じ、心の中で黙祷する。両隣を我が物顔で占拠する二人はルフィの様子に違和感を覚えつつも、踊り子の衣装に着替えた自分達を見てもらうべく腕に抱きつく。

 

 その際、豊かな胸の膨らみがルフィの二の腕へと押しつけられ、むにゅりと形が変わる。ルフィとて男、それでも二人に悟られでもしたらまた昨夜の悲劇が繰り返されることになる。必死に目を固く閉じて我慢し、心を落ち着かせようとする。そんな努力を水の泡へと変えるためにオレンジと水色の髪を砂が舞う風に靡かせる二人の美女は彼の耳元で囁く。

 

 やけに進行方向で砂嵐が発生している気もするが、何が起きてもおかしくはない砂漠なのだから仕方ないだろう。

 

 

「ルフィ、気持ちいいことしよ♡」

「ルフィ様、私もう我慢できないんです♡」

 

 

 時代が早すぎた。いやこれぞ新時代とも言うべきシチュエーションなのだろう。視界が闇に閉ざされたことで感覚が研ぎ澄まされ、失われた視覚を補おうと聴覚が余計に発揮してしまう。二人の甘く切ない囁き声がルフィの雄を針で刺すようにチクチクと刺激し、本能を呼び起こそうと働きかけてくる。

 

 必死に奥歯を噛み締め、耐え続けるルフィ。二人はそれを嘲笑うかのように水気を帯びた舌が動く音がハッキリと聞き取れるくらいの距離で声を上げる。

 

 

「ハァハァ……っ♡ルフィ、切ないよ……♡」

「私もう……限界なんです……っ♡」

 

 

 熱っぽい吐息が耳の中へと侵入し、艶のある声が脳へと浸透していく。

 

 まるで催眠状態にも似た感覚に陥り、ルフィは瞑っていた目をつい開く。

 

 

「おはよう、ルフィ♡」

「ルフィ様、おはようございます♡」

 

 

 しまった、と思った時にはもう手遅れ。ルフィは素早く押し倒され、硬い外殻の上に仰向けに倒れる。その腹の上へと腰を下ろし、こちらを見下ろすのはビビ。王女には似つかわしくない艶っぽさを含ませた笑みを浮かべている。

 

 

「ビビ、次は私だからね。昨日、先に私がルフィを頂いちゃったから譲ってあげるんだから」

「ええ、勿論。ナミさんは私と一緒にルフィ様を独占する方ですからね」

 

 

 会話の内容にさえ意識を傾けなければ仲の良さそうな同年代のガールズトークに思えた。ただ内容が致命的にルフィにとって恐怖しか感じられない。自分の意見は無視か、と半ば諦観の感情で両腕を投げ出す。

 

 それを見て、少し残念そうに肩を落とすビビ。

 

 

「今日は抵抗するルフィさんを押さえつけて上に乗っかって見たかったんですけど……」

「お前、悪魔の実を食べたのか!?」

「何を言ってるんですか?悪魔の実を食べたのはルフィさんでしょう?」

「知ってるよ!!!!」

 

 

 ビビには嫌味さえ通じないようだ。そのまま顔が近づき、昨夜の天国(イキ地獄)が再現されそうになっていたその時。

 

 

六輪咲き(セイスフルール)

「うぉっ!?」

『ルフィ!?』

 

 

 ルフィの体から生えた女性の手らしきものによって掴まれ、そのまま砂漠へと投げ出される。咄嗟にビビもナミも動こうとしたが、それを縫い止めるように他の手が足首を掴んだ。

 

 砂漠へと叩きつけられようとしていたルフィの身体は網のように繋がれた腕によって受け止められ、突如として姿を現した黒髪の褐色女性に声をかけられたことで呆然としていた意識が戻った。

 

 

「大丈夫かしら?」

「お、おう!ありがとうな!えーと……」

「ロビンよ。ニコ・ロビン」

「そっか!助かったよ!」

 

 

 ししし、と笑うルフィ。それを間近で直視したロビンと名乗った女性は顔を背け、掌で覆う。溜め息は長く深い。もしかして自分が何か粗相でもしたのかと首を傾げていると、

 

 

「気にしないでいいわ……それよりも私、貴方と友達になりたいの。私って中々仲間ができなくて寂しいの。駄目、かしら?」

「いいぞ!ロビン強そうだしな!」

「そ、そう……ありがとう」

 

 

 ロビンは美人だ。そのせいで色々と面倒な目に遭ってきた。だがルフィは容姿ではなく、彼女が今見せた力に興味を示しているようで目をキラキラと輝かせている。その眩しさのあまり、罪悪感の炎に焼かれそうになっていた。

 

 それでも目的は遂行するのが彼女である。

 

 

(モンキー・D・ルフィ ……彼と共にいれば、Dの意思に近づける。そして、私は独り身を脱出できる……それに彼からは将来性も感じるし)

「なんか顔が赤いぞ?熱でもあんのか?」

「だ、大丈夫よ。気にしないでルフィ」

「(あれ?おれ、名乗ったっけ?もしかしたら手配書か!ししし、おれも有名になったんだな!)そっか!辛くなったら言ってくれよなっ!ロビンのこと大事にしたいから!(仲間として)」

「私のことを大事にしたいのね……そうなのね……ふふ(女として)」

 

 

 勘違いが起きていたが、それを正す者はいない。強いて言うならば巨大蟹の上から光のない目で見下ろす二人がいたものの、ルフィがまた新たな女性を誑かしている(誤解)のを見て思考回路がショートしていた。

 

 

 

「ったく、手間取らせやがって……なんでおれがこんな演出しなきゃならねえんだ……!コブラ王のジジイもよくあんな娘持って今まで無事に生きてこられたもんだ」

 

 

 一方、砂漠の王(クロコダイル)はルフィ達からは感知できない距離から事の次第を見守りながら深く溜息を吐いた。全てロビンという女狐の手によって転がされてるとも知らず呑気な男だと吐き捨てると同時に、これからも魚獲り網のように女性を引っ掛けそうなルフィに対して同情もしていた。

 

 

「まぁ嫁さんがあんなんじゃ仕方ねえか」

 

 

 かつてアラバスタ王国を乗っ取ろうと目論見、コブラ王と対峙した時に出てきたビビを彷彿とさせる絶世の美女を思い出して身震いするクロコダイルだった。




おまたっ!

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。