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男の仲間を必死に探すが相変わらず見つからない。おそらく海賊志望の目ぼしい男達は海に出てすぐに女性海賊か既成事実を盾に迫られて海賊をやめさせられてしまったのだろう。もしくは海賊達の希望の地、インペルダウンへと逃げ込んだに違いない。
一向に男の仲間が増えず、焦りを覚えていたルフィ。ただつい最近またしても女の仲間が増えた。
「ミス・ウェンズデー改めネフェルタリ・ビビです!ルフィ様を私の旦那様として迎え入れることが最近掲げた野望です!」
「野望とか言うなよ……」
「ルフィ、浮気?また搾られる?」
東の海で結局仲間が見つけられなかったので場所を移すことにし、適当に奪った海賊船で航海していると島があったので上陸した。そこで色々あって戦闘になったものの、彼の今の実力はウタとの修行(意味深)によって叩き上げられている。全く歯が立たず、闇の組織らしい二人は圧倒され、そのまま殴り飛ばされた。
ルフィの格好いい横顔と功績にまた惚れ直したナミが今夜も、と息巻いていると気が付けば彼の腕に襤褸を纏う何者かが抱きついているのが見えた。容姿は確認できなくともすぐに理解した。女、それもスタイルがとてもいいことは襤褸の上からでも体の起伏の激しさが見てとれた。すぐさま正体を現せと言わんばかりに乱暴にフードを剥ぎ取ると現れたのは青い髪に可愛らしい顔立ちをした女性だった。
最初彼女は恥ずかしそうにしていたが、すぐに順応するとルフィに抱きつく。まるで大好きな飼い主に構ってもらいたいアピールをする犬のような素振りだ。ナミは危機感を覚えた。彼女はやばいと。
その理由としては自分にはない純粋な気持ち。ルフィのことは確かに大好きだし、彼のためなら死んでもいいと思えるがビビという女はそれ以前にルフィと一緒にいるだけで満足しているように見えた。いつも女性恐怖症を発症してもおかしくないレベルでの接触を受けている彼にしてみればビビという女が一種の清涼剤のような存在になっている。
そしてもう一つは……ネフェルタリという聞き覚えのある名前。それは王家の名だ。色々と知識を持っているナミはすぐにビビの素性が王家なものであると理解した。だからこそナミはビビをルフィに近づけたくなかった。
もしもルフィがビビに惚れてしまうようなことがあれば、自分との関係を断ち切り、ビビと共に国へと帰ってしまう。そのまま挙式を上げて王子として暮らすかもしれない想像が脳裏を過り、顔を真っ青に染める。
「どうした、ナミ。大丈夫か?」
「……ルフィは王子様になったりしないわよね?」
「……またおまえ変なこと考えてんな」
ルフィが自分を心配してくれることはとても嬉しい。後ろでビビが満面の笑みで小さく舌打ちしているような気がしたものの、それすら気にならない。ただそれよりも疑問が先行し、気が付けば口から飛び出していた。
返ってきたのは呆れ。どうやら杞憂だったようだ。
「おれは海賊王になる男だ!結婚はしねえ!」
「なら私、ルフィ様が結婚したくなるまでついて行きますね!」
「…………うぇ?」
ビビは虫も殺さない笑顔で言い切った。ルフィは固まり、意味を解するまで数秒かかる。
「いや、えっとビビ。おれは結婚はしねえぞ?」
「はい!ですから結婚したくなるまで付き纏います」
「それ、ストーカーって言うんじゃねえかなぁ?」
「愛のためですから♡」
「いや、愛のためでも駄目なんじゃ————「愛の、ためですから。ね?」ア、ハイ」
太陽のような輝きを放つ笑顔だったビビの目が僅かに開かれる。そこにあったのは底の見えない闇。光あるところに闇はあるというが、それにしたって闇があまりにも深すぎる。
「私は反対よ!ビビを仲間にしたら私の時間が————」
「ナミさん、もしも私に協力してくれるなら貴女も私の国でルフィさんの妻になれますよ」
「ビビ、私あんたに一生ついて行くわ!なんでも言ってよね!」
「はい!」
「何言ってんだおまえぇぇぇえええええ!!!!」
仲間に裏切られたルフィ。その後の展開は言わずもがなである。