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ルフィは海賊王になるために必死に修行に励んだ。生傷が絶えない日々を送り、生気まで吸い取られるほどに絞られながらもいつの間にか十年の月日が流れた。
ルフィは幼さが目立つ少年から立派な青年へと成長しており、ウタも町を歩けば目を引くほどの美少女へ順調に成長していた。だが彼女の目に映るのはずっと自分を拒み続ける幼馴染みだけであり、他の男達はジャガイモ未満としてしか認識できていない。
ルフィにしてみれば自分ではない誰かにそのヤバい愛を向けてくれと思っているが、今のところその気配は微塵もない。
「ルフィ、海賊やめなよ」
「お、おれは海賊王になる男だ!ウタには止められねえ!!!!」
これまではなんだかんだウタには逆らえなかったルフィも今では己を奮い立たせ、声を張れるくらいにはなった。チラリとウタの視線が彼の足元へと落ち、優しく微笑む。
何故か膝がガクガクと震えていたからだ。別に彼女は威圧などしていないし、ただ笑みを深めただけ。それでも残像が生まれるほどに震えの速さは増すばかり。
ウタは敢えてそのことは指摘せず、わざとらしく肩を竦めた。
「そっか……なら仕方ないね。うん、わかった。ルフィがそうしたいならそうすればいいよ」
「お、おう!!!!」
「でもそれなら私、海兵になるから」
「…………うぇ?」
やっとウタから……あの地獄の日々から解放されると喜びを思わず面に出しそうになった一瞬で消し飛んだ。今、彼女はなんと言った?海兵になる?海賊を捕まえる側に回るということか?
ルフィはお世辞にも頭がいいとは言えないが、獰猛な猛獣が生息するジャングルで生き抜いてきたので咄嗟の機転や生存本能から導き出される頭の回転自体は悪くはない。
だが理解ができなかった。何故自分の夢に対する側にウタが回ろうとしているのか。その答えは何度もヒルのように全身に吸い付いてきた彼女自身の口から明かされた。
「だってルフィは海賊になって色んな女の子と仲良くなるでしょ?それなら海兵になって、偉くなって、ルフィを独り占めできるだけの地位にいれば私の部屋に閉じ込められるし」
「え、いや……え?」
聞き間違いであってほしかった。聞き流せる文言であってほしかった。だが満足げに笑うウタの表情からそれはないと確信を得た。絶望のあまり足を一歩退かせるルフィへ間合いを詰め、耳元で愛を囁くように告げた。
それは捕食宣言だった。
「いつかまた捕まえて食べちゃうから……それまで待っててね♡」
ぞわぞわと全身が総毛立ち、何度も何度も何度も負け続けた日々がフラッシュバックする。修行で疲れていようが、怪我だらけになっていようが、腹が減っていようが、寝ていようが、起きていようが、何もなかろうが。
周りに人がいなければ関係ない。もう数えられないくらいに蹂躙されてしまった。ガクブルと全身を震わせる姿にウタはニッコリと微笑み、頭から落ちそうになっていた麦わら帽子をしっかりと被せた。
「この帽子が似合ういい男になるんだぞ♡」
ルフィは返事を返せなかった。常時ではあり得ない速度でウタから距離をとって大海原へと旅立った。それをふりふりと手を振って見送り、うっとりとした表情で自らの両頬に手を当てる。
「あ、はぁ……ルフィ。いつか迎えにいくからね」
一方、寒気と本能的な恐怖を覚えたルフィは海から顔を出した巨大魚である海王類を思わず殴り飛ばしてしまうのだった。
覚悟はいいか、おれはできてる(膝ガクブル