転職20回近く…たどり着いたのは信州の茅野市 「コミン家」を始めた61歳の挑戦

コミン家で建物の魅力を語る鈴木さん

■鈴木一司さん(61) 古民家改装 カフェ兼イベントスペース運営 

 茅野市に移住した翌年の2020年、同市玉川の御柱街道沿いにある築約150年の建物でカフェ兼イベントスペース「コミン家(か)」を開業した。旅館などに使われていた建物は長年空き家となっていたが、山小屋のような雰囲気の大広間など5部屋を備え、「各部屋が個性的で面白い」と購入。大工らが3年がかりで改装し、吹き抜けや街道を望む回廊を新設。宿泊もできるようにした。

 コミン家では「年齢や職業を問わずに交流できる場作りを目指してきた」と語る。常連や知人による料理や歌などの講習が頻繁に開かれている。工作など各自の得意分野を生かしてブースを出すイベント「楽交(がっこう)フェス」はこれまで5回開催。「諏訪の人は自分の好きなものを突き詰める人が多い」と感じている。

 名古屋市出身で、自由さを求めて「これまで20回近く転職してきた」という。高校卒業後にデザイン事務所で働いたが、31歳でスキー好きが高じて北海道十勝地方に移住。東京ドーム数十個分の広大な牧場で牛の放牧などに携わった。

 43歳まで北海道で過ごし、きこりの仕事も経験。「肉体労働は大変だったが、良い経験となった」と振り返る。名古屋に戻った後は、家具卸業や清掃業に携わったり、浄化槽の維持管理などを手がける会社で働いたりした。

 19年に名古屋市から妻(52)と現在高校生の長男と茅野市に移住した。長野県はかつて観光で訪れただけだったが、「涼しそう」というイメージが移住先に選んだ理由。「北海道も夏は涼しいが、長野県は名古屋から近い」と気に入っている。

 コミン家に宿泊できるスペースも設けたのは、移住後に「民泊をやりたい」という目標があったからだ。名古屋では一戸建ての自宅を活用し、会社勤めの傍らで最大13人が泊まれる民泊を営んでいた。訪れた客は東南アジアからが大半で、餅を振る舞いながらの会話が楽しかった。利用者が後日、「オーナーが親切にしてくれた」と宿泊サイトに書き込んでくれるのが励みになった。

 独特の雰囲気があるコミン家には、「不思議と人が集まる」と建物としての魅力を感じている。たまたま訪れたアーティストが「ここで演奏してみたい」と希望し、演奏会の実現につながったこともある。最近は近くに畑を借りて親しくなった人たちとトマトやダイコン、ナスなどの栽培にも挑戦している。

 「建物を訪れる人と人の相乗効果で面白い取り組みが始まってきた」。これからも楽しみながらコミン家の運営を続けていくつもりだ。

   ◆

〈私のお気に入り〉 「多留姫の滝」 上下2段の素晴らしい景観

 お気に入りの場所は、茅野市玉川の市指定名勝「多留姫(たるひめ)の滝」です。滝は上段(高さ、幅ともに9メートル)、下段(高さ3メートル、幅1メートル)の2段に分かれています。昨年10月に妻と初めて行き、「こんな近い場所にこんな風景があったのか」と驚きました。景観の素晴らしさが印象に残っています。

 諏訪地域は自然や文化が楽しめる場所がたくさんあります。茅野は外食や温泉に関する施設が充実していると感じます。コミン家を訪れる人たちに紹介していきたいです。

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