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ダメ卓 ~聖剣抜いて王になったら、レンタルチートを使うため、ダメ人間ばかりの円卓の騎士の好感度を上げるハメになりました~ 作者:ティエル

第一部 新米王と円卓の騎士の責務

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第九話 盗賊ギルドと対決したのが間違いだった

 王都の恋する夏通り(サマーストリート)の外れにあるその料理店(レストラン)は、『万魔殿(パンデモニウム)』なんて恐ろしげな名前とは裏腹にファンシーな内装だった。


 三十席ほどの広い店内を魔族風の衣装を身に(まと)った女給(ウェイトレス)さんが笑顔を振りまいて歩いている。

 邪眼鬼(ゴルゴン)風の薄布(ヴェール)や眼帯をつけた娘もいれば、人魚(マーフォーク )風の鱗模様の水着の娘もおり、歌姫(セイレーン)風の白い翼を背中につけた娘なんかもいた。

 シエナのように人狼(ウェアウルフ)のような姿をした娘もいるが、尻尾をふりふりさせているところを見ると彼女は本物なのかもしれない。


 こんな素敵なお店があったのかとしばし本気で感動を覚えていたが、はたと目的を思い出す。


「なぁラヴィ。俺達、何しにここ来たんだっけ」


「ギルドに挨拶でしょ。盗賊ギルドへ行くにはここが一番近道だったから」


 近道といわれても、すでにテーブル席に案内されて着席してしまっているのだが。


 そのうち吸血鬼(ヴァンパイア)風の衣装を着た赤い髪の娘がお冷を持ってやってきた。

 壁にかけてある先月の指名数ランキングというのを見ると、どうやらこの子がこの店の人気ナンバーワンらしい。

 というかご指名とかできるのか、この店。


「オイラ、氷姫(フラウ)のひんやりフルーツ盛りだくさんラブリーパフェ!」


 ヂャギーがバケツヘルムの向こうの目を輝かせて注文をする。

 しかしそれが通ることはなかった。


「それ、キャンセルで。三つ首番犬(ケルベロス)風の三種ソースがおいしいふわとろオムライス三つね」


 ラヴィの注文を聞くと、吸血鬼(ヴァンパイア)女給(ウェイトレス)さんの尖った耳がぴくっと動いた。


「お飲み物はいかがしますか」


不死騎(デュラハン)の怨念コーヒー。食後で」


 そんなのメニューになかった気がするが。


 ラヴィがチップとして金貨を三枚を手渡すと、女給ウェイトレスさんは満面の笑みで店の奥の方を手で示した。


特別席(ビップルーム)へご案内します。こちらへどうぞ」


 通されたのは店の最奥に位置した個室。

 四人用の小さなテーブルがあるだけの、窓もない窮屈な部屋だった。


「今度はご指名してくださいね。たっぷりサービスしますから」


 部屋を去る際、女給(ウェイトレス)さんはウィンクをして鋭い牙を見せて微笑み、そう耳打ちしてくれた。

  

 なるほど。一番人気というのも頷ける。

 今度は必ず一人で来ようと思った。


「ミレくーん。さっきのチップ、あとで必要経費として請求させてよねー」


 ラヴィは抜け目なく要求するとテーブルを脇へよけ、それが置いてあったところの床板を外す。

 すると、地下へと続く階段が俺達を飲み込むかのようにその口を開けた。






    ☆






 ウィズランド王国が成立する以前――つまりは群雄割拠の戦国時代。あるいはさらに時代を(さかのぼ)り、真なる魔王が世界を支配した第三文明期。

 万魔殿(パンデモニウム)の個室から降りて行った先にあったその地下通路は、そんな時代に建設されたものだという。


「旧地下水路って呼ばれてるけどね。昔は水が流れていたとかなんとか」


 手持ち灯(ランタン)を片手に先導しながら、ラヴィが解説してくれる。


「今の王都がある場所にはその頃からずっと大きな都市があったんだよね。支配者はその時々で変わったけど、地下の水道は拡張や修繕を繰り返しながら、延々と引き継がれていったんだって。ここはその跡地」


 話を裏付けるように、水路の様相は次々に変化していった。


 岩石の層を掘って作ったところもあれば、自然の鍾乳洞を利用したところもある。

 煉瓦(レンガ)で補強されたところもあれば、漆喰(しっくい)が剥がれた痕が残るところもある。

 道幅も使われている技術も様々だ。


「王都の地下全体に蜘蛛の巣みたいに張り巡らされているんだけど、あまりに広くて複雑だから誰もそのすべてを把握してないって言われてるよ。出入り口もたくさんあって、色んな奴が利用してる」


「盗賊ギルドとか?」

 

「そう。あいつらが一番の利用者かな……王城の奴らも知ってるって噂だけど」


 分岐を何度繰り返しただろうか。

 道を覚えるのを諦めてからだいぶ経って、視界の奥の方に小さな木箱とそれに腰掛ける男の姿を見つけた。

 先ほどヂャギーに孤児院を叩き出された二人組の片割れであり、以前俺が(ひげ)を切り落としてやった相手でもある。


「お、来たな。へっへ」


 男は俺達の姿を認めると立ち上がり、前にも見た下卑た笑みでこちらの三人の顔を順々に見た。

 呼び出されたのはヂャギーだけだったはずだが、俺とラヴィが一緒にいることに驚いている様子はない。

 孤児院から逃げていったとき振り返りもしなかったが、後から引き返して監視していたのか、あるいは他の誰かが見ていたのか。


「呼んだでしょ? 中に入れてよ」


 ラヴィが脅迫状もどきのメモ書きを見せると、男は慌てるなと手で制した。


「お前らを呼び出したのは俺じゃねえ。……へっへ。ついてきな」


 男は何の変哲もない岩肌をぐっと手で押す。

 するとその一部が後ろに下がり、新たな通路が現れた。


 ここが盗賊ギルドの入り口なのか。


 通路の先には木の扉があり、その先には雑然とした大部屋。

 そこではガラの悪い連中がかなりの数たむろしていたが、俺達のことを咎めるものはない。

 

 男は部屋の中にいくつもある扉のうち、一つをくぐる。

 通路を進み、また扉。

 大部屋から、また扉。


 さすがは国内各地に支部を持つ盗賊ギルドの総本山だ。

 地下でありながら、かなりの広さがあるらしい。


 やがて一際(ひときわ)立派な両開きの扉の前で、男は立ち止まった。

 左右には屈強な歩哨(ほしょう)がおり、通り過ぎてきた部屋たちとは重要度が違うことを(うかが)わせた。


「この先でお待ちだ。悪いが武器は全部預からせてもらうぜ」


「はぁ? アンタ、こっちが誰だか分かってんの? こんなとこで丸腰になれるわけないでしょ」


 ラヴィが仕事用の低い声で威嚇をする。

 男は気圧(けお)されながらも、さすがにここは譲歩しない。


 部屋の中から声がした。


「やめとけ。時間の無駄だ。さっさと入れろ」


 ドブ鼠の鳴き声のような、か細く(かん)高い声だった。






    ☆






 そこはこれまで通った部屋とはまったく違い、金のかかった調度品が揃っていた。

 

 毛足の長い赤い絨毯が全体に敷いてあり、中央には木目の浮いたローテーブル。その左右に革張りの高級そうなロングソファが向かい合っており、奥には事務作業用の大きなデスクがあった。


 そのデスクに両足を投げ出して安楽椅子(アームチェア)に座っているのが、俺達を呼び出した人物だろう。

 痩せこけた尖り目の男だった。


 その左右をヂャギーに勝るとも劣らない大男二人が固めている。


「チューッチュッチュ……盗賊ギルドへようこそ、円卓の騎士の皆さん。俺は大鼠のスチュアート。ま、そこのラヴィとは何度か会っているがね」


 わざとらしい笑い方をして、尖り目の男は自己紹介をした。


「そっちの二人とは初対面だねぇ。[暗黒騎士(ブラックナイト)]のヂャギーくんには色々苦労させられているから初めてって気がしないが。そっちの新顔さんは前にリクサ嬢やラヴィと一緒に王都で遊んでいた子だね。君も円卓の騎士なんだろ?」


 男は俺へと目を移す。ひ弱そうな外見だが、妙な威圧感がある。

 ラヴィが俺に向けて補足する。


「情報屋の元締めだよ。この国のことならなんでも知ってるって豪語する嫌な奴。たぶん我らが主君(・・・・・)のことも知ってる。外見なんかもね」


 思わず、左手につけた細い銀色の腕輪に右手を伸ばしかける。

 どうやら上手く姿を(あざむ)いてくれているらしい。

 

「正確には、なんでも知ってるようになりたい……だぜ、ラヴィ。そのために色んなところで聞き耳を立てている」


「アタシらが孤児院に行ったのを知ってたのもその成果だって?」


「そう。あそこの土地問題はそこの彼のせいでずいぶん面倒なことになってしまったからね。話が通じるヤツが現れてくれて助かったよ」


 やれやれという風に肩をすくめるスチュアート。

 そこでそれまで黙っていたヂャギーが怒りを爆発させた。


「このねずみやろう! ムッくんを返せ!」


「ああ、あの子供ね。偶然こちらで保護してはいるよ。しかしまぁそう焦るなよ」


 紙巻タバコに火をつけて、スチュアートは元々細いその目をさらに細める。

 真意が読めないからか、ラヴィも苛立った様子を見せ始めた。


「なんでわざわざ呼び出したわけ? 金を返して欲しいわけじゃないんでしょ」


「まぁね。王城勤めの君らなら知ってるかもしれないけど、あの辺は城壁を拡張する予定があってね。そのうち壁の内側になるのさ。今のうちに買い占めておくと間違いなく儲かる。はした金を返してほしいわけじゃない」


「拡張させる予定がある、じゃなくて?」


「チューッチュッチュ……買いかぶるなよ。そこまでの権力は俺にはねぇ」


 さも美味そうに紫煙(しえん)をくゆらすスチュアート。

 流れてきたそれを手で払って、ラヴィが聞いた。


「単刀直入にいいなよ。どうしたら、子供を返す?」


「そうだな……。実のところ、少し君らと話をしてみたかっただけなんだよ。王様もご即位なさったことだし、そろそろ本格的に活動を始める頃かと思ってね」


 真意もクソも、単に何も考えてなかっただけなのか。

 スチュアートは閃いたかのように指を(はじ)く。


「それじゃあ力比べ(アームレスリング)でもしてもらおうか。君らが勝ったら孤児院の件はしばらく塩漬けにしよう。子供は勝敗に関わらず返してやるがね」


 顎で指示されて、左右に立っていた大男の片割れがローテーブルの前に立つ。


「オイラがやるよ! やったったるよ!」


 こちらからはヂャギーが進み出たが、元より俺とラヴィはやる気がなかった。やれと言われたら、素直にごめんなさいするつもりだった。体格が違いすぎる。


「アンタがヂャギーか。噂は聞いてるぜ。馬鹿みたいに強いんだってな」


 大男はニヤリと笑うと懐から小瓶を取り出し、中から白い錠剤をいくつか手のひらに出した。

 水もなしに、それを一気に飲み込む。

 バリボリという咀嚼(そしゃく)音が部屋に響き、大男の体がぶるぶると震え始める。

 興奮剤か、あるいはもっと危険な代物か。

 いずれにしても勝負に有利に働く物なのは間違いなさそうだ。


「薬物はよくないよ!」


 と、ヂャギーは叱咤(しった)したが、その手元では同じような白い錠剤を細かく砕いていた。

 そろそろ慣れてきたので俺は動じなかったが。


 細い筒状のもの(ストロー)で、完成した粉末を兜の隙間から吸飲するとヂャギーはいつもの声を上げた。


「くぅーキくキくぅー!」


 あれは精神安定剤だ。

 たぶん勝負を前にして緊張してしまったのだろう。

 仕方がない。仕方がないんだ。


 二人はローテーブルを挟んで向き合い、右腕の肘をつき、手を組んだ。


 体格はほぼ同等。

 どちらが勝つのか、まったく予想がつかない。


「チューッチュッチュ! 始めな!」


 楽しげなスチュアートの合図。

 それと同時にゴッ! というローテーブルが軋む音がした。


 しかし二人が組んだ手は一切動かない。

 大男の体の振動に合わせて、僅かに震えているだけ。


 十か二十数えるまで、その均衡が続き。

 

 そこでヂャギーが困ったように、誰ともなしに呟いた。


「どうしよう、これ。力入れたら、この人怪我しちゃうよ」


「全力でいいよ」


 ラヴィが投げやりに答える。

 

 力……?

 力を入れたらって、なんだ……?


「ぢゃああぎいいいい!!!」


 ヂャギーが前に円卓の間で暴れたときのような咆哮を上げる。

 するとサイズが合っていない革鎧(レザーアーマー)が弾け飛び、その筋骨隆々の肉体がむき出しになった。

 そしてその体に無数の刀傷のようなものが走り、血が噴出した。


 [暗黒騎士(ブラックナイト)]の固有スキル、【自傷強化スーサイド・ストレンクス】だ。


 ヂャギーの筋肉があっという間に肥大化し、大男の手をローテーブルに叩きつける。


 なんだか物凄い音がした。


「う、うがああああああああ!!! 俺の腕があああああああ!!!」


 大男の腕があらぬ方向に曲がっている。

 その相方が慌てて助けに向かうが、あれは完全に折れているだろう。


「チューッチュッチュ! 驚いたね。大したもんだ。単純な腕力だけなら、この島で一番かもな」


 部下が手酷くやられたというのにスチュアートは気にする風でもなく、手を叩いて喝采していた。

 これはなんだか、むかつくぞ。


 腕を抱えてうずくまる大男のもとに駆け寄り、怪我の様子を見る。

 綺麗に折れているので、治すのはそう難しくなさそうだった。


「慈悲深き、森の女神よ――」


 シエナから力を借りて《治癒魔法(ヒーリング)》をかけてやる。

 驚く二人の大男を放置して、今度はヂャギーの傷を治す。

 こちらもそれほど深い傷ではなかった。


「ほう! 女神アールディアの[神官(プリースト)]かい。たしか、すでに一人いたと思ったけどね」


 スチュアートが驚いた顔が見れたのはよかったが、ムカっ腹は収まってなかった。

 詰め寄って、要求する。


「勝負はこっちの勝ちだ。孤児院の件は先送り。子供も返してもらおうか」


「ううーん? 子供は勝負に関係なく返してやるって言ったはずだぜ。いつどこでとは約束しちゃいねえがな」


 嗜虐的(サディスティック)に笑みを浮かべ、ステュアートは続ける。


「さてどうするか。そっちの二人にも何かしてもらおうかな」


 完全に怒りが頂点にきた。


 俺は先ほどの力比べ(アームレスリング)でヒビの入ったローテーブルの上に立つと、鞘から剣を抜き放った。


 大男たちに動揺が走る。

 別にスチュアートを斬ろうってわけじゃない。


 左手につけた銀の腕輪――匿名希望(インコグニート)を外し、擬態を解いた。


 これで俺の姿と聖剣と鞘は、ありのままに見えるはずだ。


「その剣は……まさか!」


 スチュアートが息を飲む。


 別にこの情報屋の親玉でなくても、この王都に住む者ならば一度は目にしたことがあるはずだ。

 つい先日まで王都の中心、聖剣広場に突き刺さっていたのだから。


 選定の聖剣、エンドッドである。


「余こそはウィズランド王国六代目国王にして円卓騎士団団長、ミレウス・ブランドである。頭が高いぞ、下郎共」


 一生のうちに一度は言ってみたかった台詞第三位を、こんなところで使うことになろうとは。


 大男二人が慌てて床に膝をつく。

 スチュアートもデスクに上げていた足を下ろし、椅子から降りて片方の膝をついた。


「これはこれは……まさか国王さまがこんな穴倉までいらっしゃるとは思いませんでした。便利な(アイテム)をお持ちのようで」


 俺が王と知ってもなお余裕のある態度を崩さなかったのはさすがは盗賊ギルドの幹部と言える。

 しかし、それならば追撃するまでだ。


「情報屋元締めスチュアート。さっきお前は、はした金は要らんと言ってたな。ここで俺に恩を売ることに比べれば、さらった子供の一人や土地の一つなんぞ、取るに足らないことだとは思わないか?」


「それは……ええ。その通りで」


「俺の怒りを買うことで(こうむ)る損失のことも考えるんだな。十秒だけ待ってやる」


 スチュアートは頬を引きつらせ、俺の顔をじっと見た。

 しかしそれも十秒も続くことなく。


「チューッチュッチュ! おい、子供をつれてきな! 孤児院の債権もだ!」


 指示を受け、大男たちが小走りで部屋を出て行く。

 その背中を見送ってから、スチュアートは今までとは少し様子の違う真面目な顔で(たず)ねてきた。


「なんでさっき、うちの部下まで治したんです? 自分とこのだけでいいでしょうに」


「なんかムカついたからだよ。それだけだ」


 これは素直な返答だったのだが。

 スチュアートはそれで満足したのか、またあのわざとらしい笑い声を上げた。


 上機嫌で続ける。


「ミレウス王、ご即位万歳! 円卓の騎士のお勤め、無事に果たされることを、お祈りしていますぞ!」






    ☆






 俺達がムッくんを連れて孤児院に戻ると、子供達と修道女(シスター)さんが総出で迎えてくれた。


 ムッくんことムーイェンダールくんによると、丘で遊んでいたところ、お菓子をあげるからと誘われて、ほいほいついていってしまったらしい。

 実際それなりの歓待を受けたようだったが、知らない人についていってはいけないと修道女(シスター)さんたちにこってり絞られ、差し引きゼロといったところだった。


「あ、それで思い出した! お菓子作ってあげなきゃ!」


 ヂャギーが例の小麦粉を持って、厨房へ向かう。

 子供達はみんな笑顔で彼の後を追って行った。


「ミレくん、ミレくん。さっきのさ、森の女神の《治癒魔法(ヒーリング)》、どうやってやったの」


 ラヴィが俺にだけ聞こえるように、(たず)ねてくる。

 疑問に思うのは当然で、むしろ何も言わないヂャギーの方が異常なのだが。

 

 みんなからスキルが借りられることはいずれ説明せねばとは思っている。

 だが今はどこまで話していいものか、分からなかった。


「いわゆるひとつの、聖剣の力でね」


「ふーん。ま、いっか」


 こちらの事情を察したのか、深くは追求してこない。

 それはありがたいのだが。


「ところでさ! アタシ、今回頑張ったから何か買ってよー!」


 ラヴィが俺の袖を引き、子供みたいなことを言い出す。

 まぁ確かに頑張ってくれたとは思うけど。


「この孤児院の恵まれない子供たちを見て、よくそんなこと言えるね」


「恵まれないってことはないんじゃない? みんな幸せそうだよ」


「……まぁね」


 別に俺だって、王になって金に不自由しなくなったからといって特別幸せになれたわけではない。

 この孤児院の子供たちだって、貧しいからといってそれで幸せになれないということもないだろう。


「そうだ、修道女(シスター)さん」


 呼び止めて、国庫から貨幣を取り出せる魔法の革袋――財政出動(スペンディング)からではなく、王になる前から持っていた俺個人の財布から金貨を一枚取り出して手渡す。


「少ないけど、孤児院の運営に役立ててください」


「まぁ! ありがとうございます」


 修道女(シスター)さんは俺に頭を下げ、そして期待するような眼差しをラヴィに向けた。

 無論それを無視できるはずもなく、彼女は本当に辛そうな顔をして金貨を一枚財布から取り出した。


「できたよ! みーくん! ラヴィ!」


 ヂャギーが大皿を手に戻ってくる。


「二人とも今日、頑張ってたからね! 最初に食べていいよ!」

 

 彼が作ったのは小麦粉とバター、それに砂糖だけのシンプルな焼き菓子だった。

 

 一枚つまんで、頬張る。

 熱くて、甘い。

 素朴ながら優しい。そんな味だった。


 一瞬バケツヘルムの下のヂャギーの笑顔が透けて見えた気がしたが、たぶんそれはみんなが大好きなあの白い粉が見せた幻覚だろう。


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【第六席 ヂャギー】

忠誠度:★

親密度:★★★

恋愛度:★[up!]


【第十二席 ラヴィ】

忠誠度:★[up!]

親密度:★

恋愛度:★★★

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