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ダメ卓 ~聖剣抜いて王になったら、レンタルチートを使うため、ダメ人間ばかりの円卓の騎士の好感度を上げるハメになりました~ 作者:ティエル

第一部 新米王と円卓の騎士の責務

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第三話 先代の話をちゃんと聞かなかったのが間違いだった

 王の寝室で過ごす初めての晩は、心身ともに疲れきっていたのにいつまでも寝付けなかった。

 

 この天蓋(てんがい)つきのベッドが悪いのかもしれない。

 昨夜、宿泊した王立旅館(シティホテル)のベッドには、『実家のやつより倍も広いぜやっほーい』とダイブしたものだが、今夜のこれは軽く四倍はある。

 これがホントの王様用(キングサイズ)というやつなのだろうか。


 大は小を兼ねるとは言うが、女性の胸と寝具には当てはまらないと思う。


 そう、田舎育ちの俺には少し上等すぎるのだ。

 マットレスは体が沈みこむほど柔らかいし、シーツも新品、枕はほんのりいい香りがして……。


 声がした。


「……きて……ください……」


 俺が寝付けないのを超人的な勘で察知した可愛い女中(メイド)さんが添い寝をしに来てくれたのかもしれない。

 飛び起きる。


「起きて、ください」


 元々寝てないけど。

 声は女性のものだ。部屋の中からだろう。

 誰かが入ってきたような音はしなかったが、【聞き耳】も【気配察知】も習得していないので気付かなかっただけかもしれない。


 天蓋(てんがい)についたカーテンを開け、ベッドから降りる。

 どう考えても持て余すであろう広い部屋の中を見渡すと、僅かに明るいところが一箇所あった。


 壁に掛けた聖剣エンドッド――ではなく、その鞘レクレスローンが円卓の表面と同じように奇妙な白い光を放っている。

 それを初めて手にとったときと同じように、引き寄せられるようにして近づく。


「ねえ、起きてってば!」


 こちらの動きは見えていないのか、口調が荒くなってきた。

 本日何度目かの嫌な予感がして動きを止める。


 一日の間にあった様々な出来事を思い出し、その教訓を考え、ベッドに戻る。

 無駄に何枚も掛かっている毛布のうちの一枚を取り出し、聖剣と鞘のところに戻り、上から被せる。

 声はだいぶ小さくなった。


「ちょっと! 何掛けてんのよ! 信じらんない! おーい!」


 (うるさ)いことは(うるさ)いが、まぁ眠れないほどではないだろう。

 変な妨害が入った分、逆に意地でも寝てやろうという気になってきた。


「は・な・し! 聞かないと後悔するわよ、六代目くん! 私の話が聞けるの今だけなんだから!」


 詐欺師みたいな物言いだが、六代目という呼び方は気に掛かった。


 (はなは)億劫(おっくう)ではあったが、声のするところに戻り、毛布を外してやる。

 純白の鞘に入ったままの剣を手にとり、裏返してみると。


 俺より幾らか年上の女性の姿がそこに映っていた。

 たぶんリクサと同じくらいだろう。

 黒髪を短く揃えており、憤慨(ふんがい)した顔で腰に手を当てている。


「もう、何やってんのよ、アンタ!」


「それはこっちの台詞なんだけど。俺は安眠妨害するヤツが一番嫌いなんだ」


 実際は寝入っていたわけではないし、声の主が可愛い人だったので怒ってはなかった。

 こちらの疲れた顔を見たからか、女性は幾分(いくぶん)態度を軟化させた。


「今日は色々あっただろうし……悪かったわね。でも、私も分かるわよ、その気持ち」


「うっかり聖剣抜いたら王になるハメになって、即位式やらなにやらやって疲れて寝ようとしたところを、謎の声に妨害されたヤツの気持ちが分かるって?」


「分かるわよ。私もまったく同じ経験をしたもの」


 うん?


「名乗るのが遅れたわね。私はウィズランド王国五代目国王、フランチェスカ一世。フランでいいわよ」


 これは意外な展開である。






    ☆






 立ったまま話すのもなんだったので、ベッドに戻り、剣をヘッドボードに立てかけた。

 フランと名乗った女性が映るのは鞘の片面だけらしい。

 映る側を壁に向けて掛けてしまったため、こちらの姿が見えなかったとのこと。


「それで……ミレウスくんだっけ。とりあえず、六代目即位おめでとう」


「うーん、ありがとう、でいいのかな」


「いいんじゃない? 王様になって半日くらいだろうけど、もう色々いい目も見たでしょう」


 否定はできない。

 海の幸、山の幸をふんだんに使った豪華な料理。

 公衆浴場より広いお風呂を独り占め。

 それと身の回りの世話も全部、女中(メイド)さんがやってくれたし……まぁ主にお世話してくれたのは定年間近のおばあさんなんだけど。


「それで、なんで鞘の中に先代さんがいるのさ。まさか裏の裏の即位式をやるなんて言わないだろうね」


「言わないわよ。ただ、どうしても一つだけ口頭で伝えなきゃいけないことがあるから、こうして呼びかけたわけ。これは私も先代から引き継いだ話だし、アンタも次の人に話さなきゃいけないこと。絶対に他の人に聞かれちゃいけない秘密――ねぇ、そこ今誰もいない? 大丈夫?」


 なにやら、きな臭くなってきた。

 歴代の王達の間で伝えられてきた秘密の話ということは、元はまさか、統一王だろうか。


「ああ、先に言っておくけど、ここにいるのは私の残留思念(マインドゴースト)だから、別に鞘の中に人間がいるわけじゃないわよ。もし私がその時代でも生きているなら、この会話の内容も還元(フィードバック)されているはずだけど」


 残留思念マインドゴーストとやらの仕組みはよく分からないが、歴史の授業で覚えた年号と彼女の推定年齢で計算をする。

 

「……えーと、フランさんが退位した年から考えると、たぶん存命だと思うよ」


「ならよかった。今、第四文明暦で何年なの?」


 素直に質問に答えてやる。

 するとフランはしばし沈黙し、遠くを見るような目をした。


「もうそんなに経ったわけね。それくらいだろうとは思ったけど。ほとんど寝てたようなもんだから時間の感覚なんてあってないようなものよ」


「あー、そういえば先代の王様ってことは、これ書いた人か」


 リクサから借り受けた、円卓の騎士用の手引書(マニュアル)を枕元から取り出す。まだ斜め読みしかしてないが、まさか著者(ちょしゃ)にお目にかかることになろうとは。


「よかった。それ、ちゃんと保管されてたみたいね」


「いや……残してくれたのはありがたいんだけど、これほとんど読めないよ。字が下手すぎるし、(つづ)りおかしかったり、文法が変だったりするし」


「な、なによ! 仕方ないじゃない! 私、混沌都市(イルファリオ)の生まれだから、字が書けなかったのよ! 仲間に習ったり、辞書引いたりして必死にやったの!」


 フランは顔を真っ赤にして反論してくるが、それならその仲間の人らに任せて欲しかった。なぜベストを尽くしたのか。


混沌都市(イルファリオ)ってことは、大陸出身なのか。この国の生まれじゃなくても抜けるんだな、その聖剣」


 そこは少しだけ驚きだった。

 しかし、よく考えてみると俺もこの国の生まれかどうかは分からない。


「円卓の騎士がどう選ばれるかは知ってるかしら」


「いや、ぜんぜん」


「あれは円卓が勝手に選ぶの。出身地も、身分も、年齢も、性別も、種族も、信仰も関係ない。必要なのは責務を全うするに足る能力と……もう一つ。でもそれは魔女に聞いて」


 魔女、というとあの(・・)魔女だろうか。

 それも気になったが、より聞きたいのは。


「能力って、俺は何の(ジョブ)にもついてない、ただの学生だったんだけど」


「私だって似たようなもんだったわ。でもそこは聖剣や鞘の力が(おぎな)ってくれる。他の騎士たちは戦闘能力も加味して選ばれるけど、王に最優先で求められるのは、もっと別の力だから」


 そう言われても心当たりは一切ない。

 今日の昼までの俺は、ちょっとお調子者な、平凡も平凡な学生だったのだが。


「まぁそれも魔女に聞きなさい。今話さなきゃいけないのは別のこと。この聖剣エンドッドの使い方について」


「やっぱり、これも王を選ぶだけの剣じゃないのか」

 

 そうだったらいいなとは思っていたが、手引書(マニュアル)の中にそれらしい記述がなかったので諦めていたのだ。


 鞘からエンドッドを引き抜き、その異様な形状を眺める。

 ドス黒い柄に、十二に分かれた蛇腹(じゃばら)のような刃。

 聖剣と称していいものとはとても思えないが。


「もしかして、この十二個の部分が分かれて伸びたりする?」


「そういう機能もある。でもその辺は極王(ウィザード・キング)(ジョブ)レベルを上げていけば勝手に覚えるから、説明は省く」


「はぁ?」


 なんだ、その職は。

 というのが顔に出ていたのか、フランは不機嫌そうに手引書(マニュアル)を指差してきた。


「聖剣を抜いた瞬間から、極王(ウィザード・キング)って名前の単独限定(オンリーワン)特別職(エクストラクラス)になるって十五ページに書いてあるでしょ!」


「……読めない」


「きいいい!!!」


 そんな歯軋(はぎし)りされても。


 しかし知らぬ間にそんな妙なものに就いていたとはね。

 もしかしたら、皆のように聖騎士(パラディン)になってないかなと淡い期待は抱いていたのだけど。


「はぁ……まぁいいわ。それじゃ本題に入るけど」


 さっさと終わらせようという顔でフランは続ける。


「その剣の別名は『絆の剣』。円卓の騎士たちとの絆を力に変える、時越えの聖剣。もう鞘の方の効力は知ってる? 迫る危険を未来に丸投げするっていう」


 無言で頷く。

 すでにそれは身を持ってどんなものか理解していた。

 俺の腕がどうにかつながっているのはこの鞘の力と、シエナが掛け続けた《治癒魔法(ヒーリング)》のおかげだ。

 腕がゆっくり切断される痛みを十三回も感じるハメになったのも、この鞘のせいだが。


「剣の方も作ったのは同じ人よ。未来へ送るのが鞘だとすると、未来から借りてくるのが剣」


 それを聞いた時点でろくでもないだろうなと予想はできた。

 もしその製作者とやらに会うことができたら、山ほど苦情(クレーム)を言ってやりたいところだ。男性だったらぶん殴るし、女性だったらそらもうアレだ。


「例えば親しい友人のことを思い浮かべてみて。その人に、どれくらいまでならお金を貸してもいいと思う?」


「まぁ、金貨三枚くらいならギリギリ」


 思い浮かべたのは同級生のアザレアさんだったのだが、あの人、なんだかんだ理由をつけてずっと返してくれない気がする。


「じゃあ同じ人に、無職(ニート)を続けたいので永遠に養ってくれって言われたらどう? もちろん家事は何もしない。王様になる以前の経済状況で考えてね」


「それは無理」


「でしょうね。つまり絆っていうのは相手に対して、どんなことまでならしてやれるかという、その気持ち。平たく言えば、好感度」


 ここが一番大事なところだと強調するためか、一拍(いっぱく)置いて続ける。


「この聖剣エンドッドは、円卓の騎士たちが未来にアンタのためにしてくれる行動を前借りすることができる」


「……具体的に言って欲しい」


「例えばその騎士の持つスキルや呪文(スペル)を使うことができるようになったり、その騎士自体を自分のもとに召喚できるようになったり、多種多様よ。使えるときになったら、剣の力で(おの)ずと分かるようになるはずだけど」


 それは凄く便利かもしれない。

 しかし美味い話には裏があると、鞘の方が教えてくれた。


「未来から借りるってことは、返さないといけないんじゃないの?」


「必要ない。未来と現在の干渉というのは本来、とても難しいこと。この剣の力で未来に借りにいくことができるのは例外中の例外。未来からこちらへ取り立てに来ることはできない。そして取り立てがなく現在が変わらない以上、未来がおかしな変化をすることもない」


「それ、借りるというより、盗むでは? 店の商品万引きしているのと同じでは?」


「私もこの話聞いたとき同じこと思った」


 えええええ。

 いいのか、それで。


「未来が変わらないってことは、無限に力を使えるんじゃないか? いくら商品を盗んでも、すぐに在庫が復活するようなものだろう」


「ところが未来と接続するのは、さっきも言ったとおりとても難しいことだから、膨大な魔力を消費するのよ。極王(ウィザード・キング)の魔力は騎士との絆を深めていくうちに増えていくけど、好きなだけ使えるってものじゃない」


 それだけならまぁ、理解できる範囲の制約であるように思える。

 しかし絆の強さが問題だと言うならば。


「もしかして、あの騎士たちと仲良くなってかなきゃならないってことか?」


「ええ。でないとたいした力は使えない」


「うわぁ……」


 上手くやっていける気がしない。


「嫌そうな顔してるけど、絆は絶対に深めて。さもないと後で絶対後悔することになるから」


 経験談なのだろうか。

 フランはそこは強く念押ししてきた。


「分かった……分かったけど、なんでこれが誰にも聞かれちゃいけない話なんだ。みんなに正直に話して協力してもらえばいいのでは」


「想像してみなよ。剣の力を使うために好感度を上げる必要がありますって言われて、素直に、何も知らなかった頃と同じように仲良くなれる?」


「あー……」


「一番酷いのは喧嘩したときだよ。仲直りのために謝ろうとしても、お前それ剣の力のためだろって思われて、もうどうしようもなくなるからね」


 なるほど。これが王の間で受け継がれてきた秘密である理由が分かった。

 たしかに一度(ひとたび)バレれば人間関係が(いびつ)になるだろう。


「柄を両手で握って、これから言う呪文を復唱してみて。いい? アルク・ウィズ・エルナート……」


 言われるがままに復唱する。

 すると聖剣の十二に分かれた刃、その一部にカラフルな光が(とも)った。

 

 一番上の刃に、長い緑。

 六番目の刃に、ごく短い緑とそれより少し長い青。

 七番目の刃に、短い赤。

 一番下の刃に、少し長い緑とごく短い赤。


 それぞれの光には節があり、まるで何かのメモリのようだった。


「その光が今のアンタへの騎士たちからの好感度を示してるの。緑が主君と臣下の関係のもの、青が友人としてのもの、そして赤が一人の人間としてのもの。十二の刃の上から順に、席次が高い騎士のものよ」


 ということは一番上がリクサのものか。

 六番目がヂャギーで、七番目がナガレ、そして柄に一番近いのがシエナ。


 リクサの忠誠度が突出(とっしゅつ)しているのは、(うなず)けるところだ。

 逆にナガレに人間として好感を持たれているというのは少し意外だった。いい印象を与えた覚えはないのだが。


「それぞれの好感度の種類によって使えるようになる力は違うから、バランスよく上げるようにするのが大事よ。ああ、あと同じ呪文を唱えれば光は消えるから」


 フランはだんだん早口になってきた。焦りを覚えているようだ。


「もっと教えたいことがたくさんあるんだけど、残念だけどもうそんなに時間がないみたい。残留思念(マインドゴースト)に残された魔力がもうないから」


「え、じゃあもう話せないのか」


「運がよければ、もしかしたら」


 なんだ。ずっと鞘にいてくれるものと思っていたが。

 名残(なごり)惜しいが仕方がない。

 

 僅かな時間ではあったが、有意義だったし、楽しかった。

 まさか同じ境遇の人と話せるとは思わなかったし。


 彼女も似たように感じているのか、二人の間にしばし照れくさいような沈黙が流れた。言わずとも分かる連帯感がそこにはあった。


 そのはずだったのだが。


「……光が灯ってる刃の数、少なくないかしら?」


「え、まだ四人にしか会ってないんだから、仕方ないでしょ」


「じゃあまだ最初の表決、可決してないの!?」


 愕然とした顔でフランが叫ぶ。

 その姿が徐々に薄くなっていく。


「不味いわよ! 早く可決させて、円卓の騎士の責務を聞きにいって!」


「聞きにいくって……フランさんも知ってるんだろう? 教えてくれればいいんじゃ」


「いや、それじゃ意味がない。責務を知っても、その場所が」


 フランの姿はもうほとんど輪郭だけになり、声まで聞こえづらくなってきた。

 しかしその中で彼女は、最後の力を振り絞るように伝えてきた。


「表決はできる限り早く可決させて……! 大丈夫、ミレウスにならできる! 今日、話をしてみて分かった。アンタには、たしかに王としての器がある! だから、絶対に、最後まで諦めないで!」


 その激励の言葉と共に、フランの姿はプツンと音を立てて鞘から完全に消えた。


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【第二席 リクサ】

忠誠度:★★★★★★

親密度:

恋愛度:


【第六席 ヂャギー】

忠誠度:★

親密度:★★

恋愛度:


【第七席 ナガレ】

忠誠度:

親密度:

恋愛度:★★


【第十三席 シエナ】

忠誠度:★★

親密度:

恋愛度:★

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