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ダメ卓 ~聖剣抜いて王になったら、レンタルチートを使うため、ダメ人間ばかりの円卓の騎士の好感度を上げるハメになりました~ 作者:ティエル

第一部 新米王と円卓の騎士の責務

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第一話 騎士団の顔ぶれ見て帰らなかったのが間違いだった

「ミレウス様、こちらへどうぞ」


 円卓騎士団次席騎士のリクサ女史に先導(せんどう)されて王城の中庭を歩いている間考えていたのは、昔から密かに思い描いていた夢についてだった。


 俺はそう、こういう綺麗な女性騎士がつける特注品(オーダーメイド)の胸当てを造る職人になりたかった。

 合法的に胸の形、サイズを計れる、聞きだせる、把握できる。

 そのすばらしさ。


 それだけならば医者でも同じことができるだろう。

 しかし胸当て職人になれば、自分の製作したものをその胸部に常に密着させてもらえるのだ。

 両の乳房に間接タッチしていられるのだ。

 考えただけでもワクワクする。


 製作時間もきっと楽しいに違いない。

 ただの板金が女性の胸の形になっていく、その過程!

 それはまるで平らな胸が思春期の訪れと共に膨らんでいくかのようだろう。


 『成長期なので』なんて言って、少女騎士が以前注文した胸当ての微調整を依頼してきたらどうしよう。

 興奮しすぎて頭がおかしくなってしまうかもしれない。


 ああ、このリクサ女史が今つけてる胸当ては誰が作ったのだろう。

 このたわわな胸を計測したのは誰だったのだろう。本当にうらやましい。


 と、じっと見つめてみるが、残念ながら背後からなので、目に入るのは彼女の長い白銀(プラチナブロンド)の髪だけだった。

 あ、でも、凄くいい匂いする!

 さらさらでつやつやで、ああ、触りたい、触りたい。


 近づきすぎたのか、リクサ女史が振り向く。


「どうかなさいましたか、我が王(マイ・ロード)


「いや、大丈夫。大丈夫です。何も嗅いでないです」


 リクサ女史は首をかしげたが、それ以上は追求してこなかった。

 危ない。事態のあまりの異常っぷりに、また脳が現実逃避を起こしかけていた。


 広い中庭をようやく抜けて、ついに王城に足を踏み入れる。

 そこは田舎育ちの俺には、まるで別世界のような空間だった。


 先ほど引き抜いたばかりの選定の聖剣と同じように、ここも二百年近く前に建てられたはずである。

 だがどこもかしこもピカピカに磨き上げられ、まるで古臭さは感じられない。


 城門からエントランスと長い通路、そして二つの扉を抜けた先に謁見の間はあった。


 広々とした空間に、大理石の太い柱。

 天井まで届くほどの大きな窓には、統一王が魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)を討伐する様が描かれたステンドグラス。


 そこには事前に伝えられていたのか、城に勤めている騎士や文官、女中(メイド)たちが絨毯(レッドカーペット)の脇に整列していて、俺が歩くのを最敬礼で出迎えてくれた。


 空の玉座は一番奥、数段の(きざはし)の先。

 

 一生縁のない場所、縁のない椅子のはずだった。

 この国の王位はずっと空位だったし、いたとしても何の取り柄もない庶民の俺が謁見する機会に恵まれたとは思えない。

 それがまさか、こんな事態になろうとは。

 

 無数の王国旗が掲揚(けいよう)される。


 そして俺はリクサ女史に(うなが)されるまま、玉座についた。

 歓声が沸きあがる。


「ミレウス王、万歳!」


「新王、万歳!」


「ウィズランドに栄光あれ!」


 部屋の外、城の外からも同じような声が地響きのように届いてきた。

 俺はというと、こんなときどんな顔をしていればいいかもわからずまたも現実逃避を起こし、可愛い女中(メイド)さんはいないものかと部屋の中を探していた。


 あ、いた。


 というか全体的にレベルが凄い高いぞ。

 これが都会というものか。いや、金の力なのか。


 どうしよう、自分につけてもらう女中メイドさんって選べるのだろうか。

 そりゃ選べるよな、王様だもん。

 もし選べないって言うなら権力を振りかざしてどうとでもしてやる。

 好みの女中メイドさんを集めたら、さーて何をやってもらおうか。




 祝賀(しゅくが)はどれほど続いたのだろうか。


 妄想から醒めたときには、リクサ女史が謁見の間から人払いをしていた。

 誰もいなくなると途端に寒々と感じられる部屋の中で、リクサ女史は淡々と宣言した。

 

「それではこれから、円卓の騎士だけで裏の即位式を行います」


 猛烈に嫌な予感がした。





      ☆





「クソ待たせやがって。殺すぞ」


 玉座の裏の隠し階段を降りた先には薄暗いレンガ造りの地下通路があり、そこで最初に耳にしたのがこれだった。


 声の主は赤い奇妙な作業着風衣服(ジャージ)を身に着けた女性である。長い艶のある黒髪に、猛禽のような鋭い目つき。木刀を担いで、殺意剥き出しで俺を至近距離で睨みつけている。


 誰だろう。さっき、円卓の騎士だけでなんたらって言ってたけど、なんでこんな不審者がいるのだろう。


「あの、リクサさん、いま俺、殺害予告された気がするんですけど。王様なのに殺害予告された気がするんですけど」


「申し訳ありません。彼女の口が悪いのはもう矯正不可能ですので、諦めてください」


 淡々とリクサは告げて、作業着風衣服(ジャージ)の女性を俺から引きはがす。


 不審者といえば部屋の中にはもう一人、奥であぐらをかいて一心不乱に何かの作業している人物がいた。

 顔をすっぽり覆うバケツのような兜をかぶり、はちきれそうなサイズの皮鎧(レザーアーマー)を着用した筋骨隆々の男だ。

 ゴリゴリゴリと低い音を立てているが、どうやら紙の上に置いたなにかをすりこぎのようなもので加工しているようだ。


 まだ俺のことを睨みつけている作業着風衣服(ジャージ)の女性は無視して、そちらの人物に(たず)ねる。


「あの、なんで室内で兜を?」


「彼はとてもシャイなので、あの兜越しでないと人と話せないんですよ」


 顔も上げずに作業を続ける男の代わりに、リクサ女史が答えてくれた。

 じゃあもしかしてずっとアレつけてるのか? と新たな疑問も沸いたが、すぐにそれもどうでもよくなった。


 バケツヘルムの男はすりつぶす工程が終わると、今度は細い筒状のもの(ストロー)を取り出し、完成した粉末を兜の隙間から吸飲しはじめた。

 たぶん鼻から吸い込んでるのだと思う。


「うっうー! やっぱりこれが一番キクぜぇー!」


 体格からは想像もできない甲高い声で恍惚の叫びを上げ、体を震わす。


「あ、あの、リクサさん!? あれは非常にマズいのでは!?」


「大丈夫です。合法ですので」


「合法なお薬の効き目じゃなさそうだけど!?」


「ただの精神安定剤です。シャイなので、あれがないと人前に出れないんです」


 いつものことだと言わんばかりに、さらりとかわされる。

 そんな馬鹿なとまだ反論したかったが、不審者二人が俺のもとへやってきて挨拶をしてきたので無理だった。


 まず俺を睨みつけていた……というか今なお睨みつけている作業着風衣服(ジャージ)の女から。


「オレはナガレ。職業(クラス)は[異界調合士(アザーアルケミスト)]。第七席」


 そして薬物(合法)を吸ってたバケツヘルムの男。


「オイラはヂャギー! [暗黒騎士(ブラックナイト)]! 第六席だよ! ヨロシクね、王様!」


 左右から手を差し出してきたので両手で握手をしたけれど、ヂャギーの方は脳の出力制限(リミッター)が外れたみたいな馬鹿力だったし、ナガレの方はナガレの方で、持てる限りの全力で握っているような感じだった。


「あのー、リクサさん、色々と聞きたいことがあるんですけど」


「リクサとお呼びください、ミレウス様。どうか敬語も使わずに。貴方は私の……いえ、我々の主君(ロード)なのですから」


 我々ってなんだ。リクサ女史と誰のことなんだ。

 いや、現実を見よう。

 きっとこいつらのことだ。論理的に考えればそうなのだ。

 六席と七席って言ってるし。


 円卓の騎士団は大陸からも恐れられるという最強の戦闘集団だ。

 しかしその定員は十三人。十三人もいれば変なのも二人くらいは混じる。


 たまに過労死するくらい勤勉なことで有名なニジイロヤパブーも群れの一割くらいは怠け者になると言うし、そういうことなのだ。


「あれ、十三人だよね、円卓の騎士って。俺……王も含めて」


「はい。しかし第五席と第八席はいまだ適正者が現れず、空席となっております」


「あ、そうなの。それじゃあ今は十一人か」


「そのうち三人は任務で王都外に出ております」


「それじゃ八人」


「第四席は放浪癖があり行方知れずです。第九席は病欠。第十二席は……」


 リクサがちらりと他の二人に視線で問う。

 ヂャギーの方が手をシュバッと上げて答えた。

 

「たぶんまたサボりだと思うよ!」


「……それでもあと一人足りないな」


 欠席の理由が酷すぎるのはこの際置いておくとして、指折り数えて確認する。

 やはり、ここには五人いなければいけないはずだ。


「いえ、足りてますよ。そちらを」


 ご覧ください、とリクサが示したのは俺のすぐ後ろ。


 まさかと思い振り返ると、獣のような尖った耳を頭頂部に生やした少女と目があった。

 息がかかるほどの至近距離である。


「ひゃ、ひゃ、ひゃあああ!!!」


 少女は茹でたザリーフィッシュのように顔を真っ赤にして叫ぶと、リクサの背後にさっと隠れてしまった。

 ふさふさとした両耳だけが見えている。

 その耳つき頭を撫でながら、リクサが教えてくれる。


「第十三席のシエナです。職業は森の女神の[司祭(プリースト)]」


「……いつからいたの」


「中庭あたりから、ずっとミレウス様の背後にいましたよ。謁見の間では柱の影に隠れていましたが」


「なぜそんな【尾行(ストーキング)】を!?」


「たぶん途中で話しかけようとしたんだと思いますが、タイミングが掴めなかったのでしょう。引っ込み思案なんですよ、この子」


「シャイと引っ込み思案って、被ってない?」


 どこから取り出したのか、おはじきを使って遊び始めたヂャギーの方を指差して聞いてみたが、リクサは『そうでしょうか』と不思議そうにしただけだった。


「ともかくこの五名で今回の出席者はすべてです。それではミレウス様。こちらへ」


 地下通路の奥へと、彼女は俺を誘った。

 先ほどのように、その後ろをついていくわけだが。


 左にはバケツヘルムのヂャギー、右には睨み付けのナガレ。

 そして気がつけば後ろに回りこんでいる獣耳のシエナ。


 奇妙な十字陣形の完成である。

 裏の即位式と言っても、まさか試練として何者かと戦うわけではなかろうが。


 いったい何をするのか、リクサに(たず)ねてみればいいんだと思いついた頃、地下通路は行き止まりにぶち当たった。

 また隠し扉でもあるのかと見てみたが、どうやらそうではない。


 壁に一本の剣の鞘が、かけてあった。

 リクサが身につけている鎧のような、純白の鞘だ。

 

「これはミレウス様がお持ちの聖剣エンドッドと対となる鞘、レクレスローン。所持者に絶対無敵の加護を与えるとされる遺物(アーティファクト)です」


 彼女の説明は聞こえてはいたが、それが終わるのを待たず、俺はその鞘に歩み寄っていた。

 不思議な声に、呼ばれたような感覚だった。


 気がつけば俺はその鞘を手に取っていた。


 そして十二に分かれた蛇腹(じゃばら)のような形状を持つ聖剣を、飲み込むように音もなく、そこに収める。

 まるで自分ではない誰かの意思がそうしたかのようだった。


「おめでとうございます。どうやらレクレスローンも、ミレウス様を主と認めたようです」


 リクサがほっとしたような表情を見せたあたり、この裏の即位式には失敗する可能性でもあったのだろうか。


「おめでとう、王様! スゴいスゴい!」


 ヂャギーと。


「おめでとうございます、主さま……」


 いつの間にかまたリクサの後ろに移動していたシエナは、祝いの言葉と共にパチパチと拍手の音を地下通路に響かせてくれた。


「ま、よくやったほうじゃねーの。知らねーけどよ」


 ナガレも、彼女なりの賛辞と共に何度か手を叩いてくれる。


 先ほど上で聞いた歓声とは人数も音量も比べるべくもないが。

 本当にこんな騎士たちでいいのかと、今も思ってはいるが。


 俺はお調子者の端くれなので、こういうのも悪い気はしなかった。


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【第二席 リクサ】

忠誠度:★★★★★

親密度:

恋愛度:


【第六席 ヂャギー】[new!]

忠誠度:★

親密度:★

恋愛度:


【第七席 ナガレ】[new!]

忠誠度:

親密度:

恋愛度:★


【第十三席 シエナ】[new!]

忠誠度:★

親密度:

恋愛度:

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