待ちぼうけ、終了
お久しぶりです!!! 生きてます!
「それって感染しているか分からないレベルで軽微なんじゃ?」
「確かに。アルベルも無自覚な感染者に接近されてうつったのかもしれない」
キシュタリアの言葉と、ミカエリスの追い打ちにアンナは一瞬戸惑った。
ありえないことではない――魔力持ちの少ない市井では普通の風と判別が難しい。
しかし、アンナはすぐさま切り替えたようだ。彼女にとってはアルベルティーナとそれ以外の線引きは明確だ。
「お薬をお渡しします」
「いいよ。以前アルベルに貰ったのがあるし」
「周囲に罹患者はいるか?」
「フォルトゥナの熊と髭が一応は罹りましたが姫殿下より後で感染し、姫殿下より先に治ってぴんぴんしています」
パトリシアは以前に感染したことがあり、今回は罹らなかった。パトリシアはそれほど魔力が強くない+物凄く健康優良レディなので「今思えばきっとそうだった」くらいにケロッと乗り切ったそうだ。
ガンダルフとクリフトフはパトリシアより魔力があるが、アルベルティーナよりずっと体力がある。薬があったので病気の症状も軽かった。
傾向を見るにフォルトゥナの家系は頑丈で体力はあるが、魔力的な能力はラティッチェより低めのようだ。
「最近、貴族の間で熱病が流行っているけどそれってメギル風邪とか?」
「可能性はあるな」
医師ではない二人には確定できないが、アルベルティーナが罹ったのだ。十分に有り得た。
普段はヴァユの離宮に籠りがちな彼女が外に出て、多くの人と会いそうなのはあの宴くらいだ。
高貴な身分の女性が身の回りの世話を周囲にさせるのは当然のことだ。接近したのは王族たちだけでなく、メイド、侍女、侍従や従僕、護衛の騎士や兵も含まれる。
アンナが感染していたら、アルベルティーナもとっくに罹っていたはず。タイミング的にそうである。
「誰が原因とか調べるのは難しそうだな」
「だよね。魔力の有無によって症状の差は大きい。倒れてしまう人もいれば、至って健康に見える無症状な人もいるだろうし」
ミカエリスと顔を見合わせるキシュタリア。
アルベルティーナのように一週間経っても熱が引き切らないこともあれば、フォルトゥナ親子のようにあっさりと快癒する場合もある。
体力や魔力が関わっているので、個人差が大きい。
病気もどれだけ蔓延しているか分からない。感染源を特定するより別のことに専念した方が良い。
「メギル風邪に二度かかるのは稀らしい。いっそのこと今のうちに罹っておいて、憂いなく今後に専念するために備えた方がもっと建設的じゃない?」
キリッとした顔でとんでもないことを言い出すキシュタリア。
その真意にすぐさま気づいたアンナは、じろりと諫めるように睨むがどこ吹く風だ。
「それもそうだな」
それを止めるどころか、同意を示すミカエリス。
二人の手元にはメギル風邪対策の薬も確保済みだし、乗らないわけがなかった。
いい加減に応接室で待ちぼうけは飽きたのだ。
メギル風邪に罹ってでも、アルベルティーナに会いたい。二人の意見は一致していた。
こんなところで意気投合して欲しくないが、二人の腹は決まり切っている。それを嫌々ながらも察したアンナは、小さくため息をついた。
「……姫殿下に聞いてまいります」
「よろしくね」
にっこりと天使のような悪魔の笑みを浮かべた若き公爵だった。
しずしずと出て言ったアンナを確認して、キシュタリアは姿勢と足を崩し雑な座り方になった。全身をソファに預けるようにだらしない体勢だ。
「やーっとアルベルに会える! あーもう、そういう理由だったのか」
「意味もなくアルベルが我々を拒絶するはずがないだろう」
それでも、若干の不安は拭えなかったので理由が判明してすっきりした。
アルベルティーナはいつだって、自分より周りを優先する。懐に入れた人間に対して情が深く心配性だ。
「まあね。ところでジュリアスはいないのかな」
「何度か王宮で見たが、忙しそうにしていたな。アルベルが急病になったから、色々調節が必要なんだろう」
アルベルティーナは引き籠り令嬢だったので、人脈も経験も浅く狭い。
そんなアルベルティーナが自力で新たな人脈を開拓するのは大変だ。だが、逆にアルベルティーナに親しくなりたい人間にとっても同様である。
だからその根回しや采配をジュリアスが行っている。アルベルティーナに危険人物を近づけないためであると同時に、ジュリアスの有用性を示すためだ。
アルベルティーナの事業が成功すればするほど、ジュリアスの株も上がっていく。
それが続けば、ジュリアスは縁故で採用されたのではなく実力だと証明され、実績が残る。ジュリアスの出自で軽視している貴族たちだって、無視できなくなるのだ。
「アルベルって慰問や賓客対応とかしないよね?」
「色々あるのだろう。今回の戦いで出た孤児や怪我人を、元貧困街で随分と面倒を見ているらしい。この戦の騒動でサンディスに来た流民や難民の住居や職業斡旋もしているそうだから多忙なのは頷ける」
「あと兵糧の開発したんだっけ? 食べた?」
「いや、私が前線に出ている時には配給されていなかった。
戦いが終わって兵が引き上げても、その地にいる人間は荒廃した土地でまた始めなければならない。
家や田畑が破壊され、焼かれた民は少なからずいるのだ。
そんな彼らが次の実りに繋げるまでと、食糧配給に受け取っているらしい。
「ミソダマだっけ? ミソはショーユと一緒で豆の発酵食品って話だけど」
「大豆だな。うちの領土で小麦が育たなくなって持て余した土地があったから助かった。定期的な買い上げをしてくれるから、農民の収入も安定する」
「小麦が育たない? ドミトリアスで結構大事な収入源だろう。大丈夫なの?」
「まだ被害は小さいからな。昔から続けていた農作地だから、小麦栽培に土地や気候が合わないとは思えないのだが……実る前に病気や虫にやられて枯れてしまう」
肥沃な土地を持つドミトリアス領は、作物で生計を立てている領民が多い。
ドミトリアス領の全体で見れば打撃を与える程ではないが、不作が続き広がりでもすれば大惨事になる。
「まあ、戦場も安定してきたところだ。領地に帰ったら原因究明に本腰を入れる」
「僕も領地に帰ったら、視察や挨拶行脚だよ。……大っぴらなお披露目は喪が明けた後になるから」
後半のキシュタリアの声がやや暗く元気がなくなった気がしたのは気のせいではないだろう。
だがそのことは指摘せず、気付かなかった振りをするミカエリス。
話題を別に繋ごうとしたその時、ノックがされた。
「お待たせいたしました。ご案内いたします」
アンナのいつも通り、聞き取りやすい丁寧な声だった。
お久しぶりです。読んでいただきありがとうございます。
副反応で遅れた分を取り戻していたら更新が遅れてしまいました。すみません。
余りモノの原稿作業が連打になっておりました。1月末くらいに書籍五巻に出る予定です。
『転生したら悪役れ養生だったので引きニートになります』のコミカライズですが、二巻が2023年1月31日発売予定です。
アルベル、学園探索に行くターンでございます。後で活動報告に生存報告を兼ねて載せようと思います。
とりあえず告知&更新です。
【2/15(水)ノベル8巻 & ノベルZERO2巻同時発売予定! コミックス7巻発売中! どうぞよろしくお願いします】 騎士家の娘として騎士を目指していたフィー//
大学へ向かう途中、突然地面が光り中学の同級生と共に異世界へ召喚されてしまった瑠璃。 国に繁栄をもたらす巫女姫を召喚したつもりが、巻き込まれたそうな。 幸い衣食住//
公爵令嬢に転生したものの、記憶を取り戻した時には既にエンディングを迎えてしまっていた…。私は婚約を破棄され、設定通りであれば教会に幽閉コース。私の明るい未来はど//
【コミックス4巻2022/11/15発売、マッグガーデン・ノベルズ様より書籍3巻まで発売中】 !!!こちらはWEB版です!!! 2章以降、お話自体が書籍や漫画//
【書籍版重版!! ありがとうございます!! 双葉社Mノベルスにて凪かすみ様のイラストで発売中】 【双葉社のサイト・がうがうモンスターにて、コミカライズも連載中で//
8歳で前世の記憶を思い出して、乙女ゲームの世界だと気づくプライド第一王女。でも転生したプライドは、攻略対象者の悲劇の元凶で心に消えない傷をがっつり作る極悪非道最//
魔力の高さから王太子の婚約者となるも、聖女の出現によりその座を奪われることを恐れたラシェル。 聖女に対し悪逆非道な行いをしたとして、婚約破棄され修道院行きとなる//
エレイン・ラナ・ノリス公爵令嬢は、防衛大臣を務める父を持ち、隣国アルフォードの姫を母に持つ、この国の貴族令嬢の中でも頂点に立つ令嬢である。 しかし、そんな両//
【本編完結】異母妹への嫉妬に狂い罪を犯した令嬢ヴィオレットは、牢の中でその罪を心から悔いていた。しかし気が付くと、自らが狂った日──妹と出会ったその日へと時が巻//
二十代のOL、小鳥遊 聖は【聖女召喚の儀】により異世界に召喚された。 だがしかし、彼女は【聖女】とは認識されなかった。 召喚された部屋に現れた第一王子は、聖と一//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
薬草を取りに出かけたら、後宮の女官狩りに遭いました。 花街で薬師をやっていた猫猫は、そんなわけで雅なる場所で下女などやっている。現状に不満を抱きつつも、奉公が//
「すまない、ダリヤ。婚約を破棄させてほしい」 結婚前日、目の前の婚約者はそう言った。 前世は会社の激務を我慢し、うつむいたままの過労死。 今世はおとなしくうつむ//
婚約破棄のショックで前世の記憶を思い出したアイリーン。 ここって前世の乙女ゲームの世界ですわよね? ならわたくしは、ヒロインと魔王の戦いに巻き込まれてナレ死予//
◇◆◇ビーズログ文庫様から1〜4巻、ビーズログコミックス様から條先生によるコミカライズ1~4巻が好評発売中です(オーディオドラマにもなりました)。よろしくお願い//
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった先は、乙女ゲームの世界の王女様。 え、ヒロインのライバル役?冗談じゃない。あんな残念過ぎる人達に恋するつもりは、毛頭無い!//
【☆書籍化☆ 角川ビーンズ文庫より1〜6巻発売中。フロースコミックよりコミックス1〜2巻発売中。ListenGoよりオーディオブック1〜2巻配信中。ありがとうご//
王太子から冤罪→婚約破棄→処刑のコンボを決められ、死んだ――と思いきや、なぜか六年前に時間が巻き戻り、王太子と婚約する直前の十歳に戻ってしまったジル。 六年後の//
※アリアンローズから書籍版 1~8巻、コミックス1〜6巻が現在発売中。 ※オトモブックスで書籍付ドラマCDも発売中です! ユリア・フォン・ファンディッド。 ひ//
★アニメ化決定! 2023年1月よりテレビ東京ほかにて放送開始!★ ■■■12月25日 書籍13巻&本編コミック9巻&外伝コミック7巻発売!■■■ ❖❖❖オーバ//
それは待ちに待った15歳のデビュタントの日の事。 他の女性に跪き、愛を乞う自分の婚約者を目撃してしまった子爵令嬢、マーシャリィ・グレイシス。 まさかの浮気現場に//
「リーシェ! 僕は貴様との婚約を破棄する!!!」 「はい、分かりました」 「えっ」 公爵令嬢リーシェは、夜会の場をさっさと後にした。 リーシェにとってこの婚//
貧乏貴族のヴィオラに突然名門貴族のフィサリス公爵家から縁談が舞い込んだ。平凡令嬢と美形公爵。何もかもが釣り合わないと首をかしげていたのだが、そこには公爵様自身の//
ななななんと!KADOKAWAブックスから書籍化決定です!! 一巻は令和元年九月十日に発売です。コミカライズも決定しました。これも応援してくださる皆様のおかげ//
頭を石にぶつけた拍子に前世の記憶を取り戻した。私、カタリナ・クラエス公爵令嬢八歳。 高熱にうなされ、王子様の婚約者に決まり、ここが前世でやっていた乙女ゲームの世//
悪役令嬢にずっとなりたいと思っていたが、まさか本当になってしまうとは……。 現実に直面すればするほど強くなる悪女になる夢を持った少女のお話。 主人公の悪女の基//
【ノベル4巻 & コミックス1巻発売中! どうぞよろしくお願いします】 「ひゃああああ!」奇声と共に、私は突然思い出した。この世界は、前世でプレイしていた乙女ゲ//
本が好きで、司書資格を取り、大学図書館への就職が決まっていたのに、大学卒業直後に死んでしまった麗乃。転生したのは、識字率が低くて本が少ない世界の兵士の娘。いく//