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フェライト系ステンレス鋼SUS430の鋭敏化について

1.はじめに
 「ステンレス鋼の鋭敏化」は、結晶粒界にクロム炭化物が析出することにより、結晶粒界に沿ってクロム濃度が低下して粒界腐食しやすくなる状態をいいます。ここで、SUS304については600~800℃の温度で10分~1時間程度晒されると鋭敏化することが知られていますが、焼入れ時に冷却速度が小さかったマルテンサイト系ステンレス鋼や、1000℃程度から空冷程度の冷却速度で冷却したフェライト系ステンレス鋼についても鋭敏化することが分かっています1)2)3)
 ここでは、フェライト系ステンレス鋼SUS430を鋭敏化および焼鈍しの熱処理を行ったときの金属組織を観察しました。なお、この試験は平成31年1月に実施したものです。

2.実験
・試験片 :SUS430(寸法 20×100×t1mm)
・試験装置:ヤマト科学(株)製 電気マッフル炉 F0410
      オリンパス光学工業(株)製 金属顕微鏡 BX-60M-53MB型
・熱処理 :鋭敏化処理(1100℃に10分保持後に水冷または空冷または炉冷)
      焼鈍し(850℃に40分保持後に炉冷)
・金属組織:表面を鏡面研磨および腐食して観察
・腐食液 :塩酸-ピクリン酸-アルコール溶液(塩酸10ml、ピクリン酸1g、エチルアルコール80ml)

3.実験結果
(1)熱処理前の試験片の金属組織
 熱処理前(納入状態)の金属組織を図1に示します。図1において、基地組織はフェライトで所々に粒状の炭化物が見られます。

熱処理前のSUS430試験片の金属組織
図1 熱処理前のSUS430試験片の金属組織

(2)鋭敏化処理後の試験片の金属組織
 鋭敏化処理後の金属組織を図2~図4に示します。図2~図4は1100℃に10分加熱後にそれぞれ水冷、空冷、炉冷した試験片の金属組織です。いずれの金属組織も結晶粒界がよく見えるため鋭敏化していることが分かります。また、図2と図3から、水冷と空冷については場所によらず一様に鋭敏化していることや、水冷より空冷の方が結晶粒界が明瞭に見えるため鋭敏化していることが分かります。一方、図4の炉冷については鋭敏化している部位とそうでない部位があり、鋭敏化している部位には網状や層状の炭化物が見られることが分かります。