挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~ 作者:柴崎

序章 ~侵食~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
9/103

7 現地





村人への指示出しを終えた村長(?)に連れられ、彼の家までやってきた。

なるほど、この村の中では一番立派と言える家だ。

わざわざここを提案したのも、最上位にもてなすというアピールなのだろう。


中に招かれ6人掛けぐらいの机に着く。

弟子予定がちゃっかり俺の隣に座ろうとしやがったので、対面の村長側に座るように促した。

だからまだ弟子にしてやると明言してないと言うに。


「さて。早速だが、とりあえず自己紹介からしよう」


場の主導権を握る為に、積極的に発言していこうと思う。


「お互い名前だけでなく、自分がどういう立場であるのかも説明して欲しい。で、お互いに疑問があったら遠慮無く質問していいこととする。……いいな?」


2人が頷いたのを確認して、まずは俺の方から自己紹介する。

だが口を開こうとした瞬間、村長(仮)に邪魔された。


「あの、その前に……お2人共! この度は我らが村を救って頂き、本当にありがとうございました!」


村長(仮)が机に頭を叩きつけようかという勢いで頭を下げる。

まあ確かに、責任者ならそれは最初にしなくちゃならんな。


「いえ、村長。私は今回、何の役にも立ちませんでしたので……」


「俺はこの程度大したことじゃない。やはり一番苦労したのはお前たち村人だろうな。……まあ、感謝の言葉は素直に受け取っておくよ」


「はい! 本当に、心からの感謝を送らせてください!」


一応俺は手を軽く揚げることで、視覚的にも彼の感謝を受け取ったアピールとしておく。

態度で示せば少しは安心するだろう。

つーか今、弟子予定が村長って呼んだな。


「それじゃあまずは俺から自己紹介しよう。俺は一昨日ぐらいにここから南の山にやって来た魔法使いで、名前はハネットと言う。さっきも言ったが、俺はこの辺の知識や常識が全く無いので、いくらか質問を挟まして貰いたい。……それで、あなたはこの村で一番偉いということだが、立場的にはどういった物だ?」


「あ、はい! 私はこの村の村長をやらせて頂いております、オリバーと申します」


「私は賢者の末席を預からせて頂いている、ニーナ・クラリカです。ちょうどこの村に数日滞在している所でした」


だから賢者ってなんだよ。

まあその辺は後で聞くか。


「なるほど。では今回の件についての話に戻そう。俺は村人の1人に助けを求められたから応えただけでな。実際どういう経緯でこうなったんだ?」


「え……」


「はい。賢者様は村におられませんでしたので、私からご説明させて頂きます」


その後は俺も見ていたことの現地側視点での説明だ。

普通に村で暮らしていたら、突然盗賊に襲われた。

まあ言ってみればこれだけなんだが、少なくとも奴等が盗賊という立場なのは確定した。


「盗賊か。ちなみに盗賊を殺したことに問題は?」


「いえ、この国では盗賊を殺しても罪になることはありません」


弟子予定の方が答えた。

まあ村長にそういう荒事の知識があるなら、武器の1つも揃えてるか。

村長も知らない訳ではないだろううが、こっちに聞く方が詳しい話ができそうだな。


「死体は全て片付けたが、然るべき場所への引き渡しとかの方は?」


「それも問題ありません。……ですが、今回の盗賊達は50人からなる大盗賊団でしたので、もしかしたら賞金がかかっていたかもしれません。盗賊団の討伐を証明できない以上、その賞金の分は損になってしまいますが……」


「ああ、それは別にいい」


「そうですか。とりあえず、今回の件で私たちの方に厄介ごとが降りかかることは無いと思います。一応村長と私から、手紙で王都に事の顛末を報告しておきますので、安心して下さい」


「なら良かった。それでこの村の今後の事だが、今回の件で何か被害は?」


「いえ! ハネット様が全て解決して下さったおかげで、大丈夫です」


ハネット『様』!?

現代人ではあまりに聞き慣れない呼び方だ。

俺が普段言われるのなんて、『サイコ野郎』とか『カス』とか『イカレ』とか『殺す』とか『薬草ください』ぐらいのもんだ。

ちなみに最後の類いには大量にくれてやる。農場王だからな。


「ふむ……そうか。じゃあちょっと、村長に相談があるんだが」


俺の言葉に村長が更に真剣な様子になった。

そういえば弟子予定が助けた時になんか言ってたな。

「助けたんだから金を払え」とか言われると思っているのだろう。

俺がしようとしてるのは全然関係ない話なんだが。


「俺はさっき言ったように、一昨日から南の山に住んでるんだが……実は……魔法的な理由で、俺はあの山から住居を移すことができないんだ」


これはリスポーンポイント(復活地点)があの場所に固定されているからだ。

この世界で俺がプレイヤーに攻撃されたりして死んだ時には、最初に目を覚ましたあの場所で復活することになる。

リスポーンポイントと拠点はなるべく近い方が色々便利なので、普通はまずその付近に拠点を作るのだ。


「そうなのですか。何か我々に出来ることがありますか?」


「いや、何かして貰いたいという訳じゃない。これは正直に言うが…………」


踏み込んだことを言おうとしている俺に、2人はゴクリと喉を鳴らした。




「―――あの山は、無くなってもいいか?」




「…………あの、それは……どういう?」


「あの山は家を作るのに邪魔だ。明日辺りにでも魔法で消し飛ばそうと思ってる」


「………………」

「………………」


「それで、そういうことをすると村に被害が出るとか、どこかから怒られる……なんてことがあるのかが聞きたい」


「…………そ、そうですね。私達は平野に畑を作って生活していますし、猟では西の山にしか行きませんので。……私共の方は、それは構いません」


「『どこかから』というのが領地の管理者からという意味なのであれば、そちらも大丈夫かと思われます。それぞれの領地は広過ぎて、都市と村以外は基本的に放置されていますので」


「ふむ……例えば南の山が無くなることで、井戸の水が枯れたりとかの心配は?」


「あ……それはあるかもしれませんね。南の山脈はこの辺りで一番大きいので」


こういう専門的なことではこの賢者とかいう弟子予定が役に立つ。


「んー、まあいいか。もしも水が湧かなくなったら、俺の所まで来い。水を無限に生み出すアイテムがあるから、謝罪としてそれをいくつか渡そう」


「えっ!?」


「何?」


「あの……それほどの魔具は、途轍もなく値の張る物品だと思うのですが……」


「いや、無限に作れるからいいよ。つーか魔具ってなんだ?」


「あ、ええ、魔具というのは、魔法がかけられた品や装備のことです。一般的に魔法使い以外でも使うことができます。 …………そうですか。無限に作れるんですか」


なるほど、魔具か。マジックアイテムってことね。

ポーションとかは魔具に入るんだろうか?


「そうそう、お前さっきMP……魔法力?……が切れてただろ? この辺にはポーションは無いのか?」


「魔法力……魔力のことでしょうか?」


「魔力か。それって魔法を使う度に減る方?」


「方? そうです。私たちはそれを魔力と呼んでいます」


MPは現地では魔力と呼んでいるらしい。

魔法攻撃力の方は何と言っているのだろうか。


「なるほど。で、魔力の回復手段を持ってないみたいだが、ポーションという存在はこの辺には無いのか?」


「ポーションですか? ポーションはありますが……傷を癒す魔法薬のことですよね?」


「それ。それの魔力を回復させる方は持ってないのかと聞いてるんだ」


「…………あの……もしかして、師匠は魔力を回復させるポーションをお持ちなのでしょうか?」


「ああ。コレな」


俺はアイテムボックスから、カンストまで詰め込んである手製のMP回復ポーションを1本取り出した。

その青い液体の入った瓶を弟子予定の前に置いてやる。あと師匠って呼ぶな。


「こ、これが…………!」


見ると弟子予定は唾を飲み込み、村長も目を丸くしていた。


「何? 今これどういう流れ?」


「あの、師匠。あなた様ほどの大魔法使いだと分かりませんが…………魔力を回復させるポーションは、この大陸では既に、失伝した技術です」


「…………なるほど」


ロストテクノロジーというやつか。

それでこいつらはこんなに驚いている訳だ。

MPポーションの存在は、社会に与える影響が大き過ぎるかもしれない。

これは扱いには気をつけた方が…………面倒だからいいか。

よく考えたら、俺のせいで現地の経済やら社会やらが崩壊した所で構わねーわ。

あと師匠って呼ぶな。


「なんで治癒のポーションはあるのに、魔力のポーションは無いんだ?」


「魔力を他者に分け与える光の魔法が、失伝しているのです」


ポーションは、瓶に詰めた特殊な魔法薬に魔法を保存することで作る。

つまり、HP回復のポーションにはHP回復魔法を、MP回復のポーションにはMP回復魔法をかける訳だ。

そしてこの世界では、MP回復魔法の方は失伝してしまっている……と。


「なんで失伝した?」


「そもそも光の魔法に適性を持つ人間が少ないのです。そういえば師匠は黄色い魔法陣の紋章を付けておられますが、光の魔法使いなのですか?」


「そうだな。俺は一応光魔法を一番の得意としている。別に他の魔法が苦手という訳ではないが」


本当はただ黄色が好きだったから黄色で魔法陣を描いただけ。

光魔法の魔法陣が黄色だったのは偶然だ。


「希少な光の魔法を得意とする上、全9種の魔法を全て扱われるのですか……。なんだか本当に、お伽噺の英雄のようですね」


「そうか? まあとにかく…………あれ、これ本当は何の話だった?」


「たしか水を生み出す魔具の話の途中だったと思います」


「ああそうだわ。とにかく村長、俺は明日、あの山を地図から消す。そうだな……昼頃だ。それを覚えておいてくれ」


「は、はい」


「なに、俺の住居が出来たらこの村までの道を引いておくさ。何かあった時には、辿るだけで着けるようにな。山が無くなれば平野になるから意味無いかもしれんが」


「お、お心遣い感謝します」


「そうだな……後は……ああ、村長。 俺はそこに、ある程度の集落を作るつもりだ。もし完成したら、ご近所さんとして好くしてやってくれ。連絡用にこれを渡しておく」


俺は幅30cmぐらいの1本のスクロール(巻物)を村長に渡した。


「これは?」


「開くと魔法が発動し、いつでもどこからでも俺と連絡が取れる。さっき俺が使っていた、頭の中に話しかける魔法だ。村長がその魔法でこちらに話しかけてくれれば、こちらからも同じ魔法をかけ返そう。それで先程と違い、お互いが話すことが出来る」


「師匠の持ち物からは、凄い物ばかり出てきますね……」


「慣れてきただろ? あ、とりあえずもう5本ほど渡しておく。他に何かあった時も気軽に使っていい。無くなってきたら教えてくれればその都度送る。そうそう、開く時は、話しかける相手の顔を思い浮かべながら開くんだぞ」


注意事項も伝えたし、ご近所付き合いについてはこんなもんか。


「さて。ではちょっと2人に、この周辺のことについて聞きたいんだが……」


俺はついに、この現地の社会構造について尋ねることにした。

弟子予定が正式に弟子になってからこっそり聞いても良かったが、今の2人いる状態でなら、どちらかが即興で嘘を付いた時に必ず綻びが出るだろう。

一応保険として、今の内に聞いておくことにしたのだ。




……村長と弟子予定の話をまとめるとこうなる。


まずこの世界は1つの大陸と複数の島からなる。

どうやら天動説が信じられているようで、水平線は海の終わりであり、そこからは滝のように海が世界の外に流れ落ちていて……というのが本気で信じられているらしい。

そして大陸はいくつかの国によって領土が分けられている。

現在俺たちがいるこの国は、『ライゼルファルム王国』というらしい。名前めっちゃカッコイイ。

でも他の国々とは「王国」「帝国」「連合国」……みたいな感じで差別化されているらしいので、多分俺は王国としか呼ばない。覚えるの楽だしな。

ちなみに村長の名前と弟子予定の名前もまた忘れた。

だって「村長」とか「お前」としか呼んでないし……。


「そういえば聞きたいことがある。お前はどう見ても子供にしか見えないんだが、歳はいくつなんだ?」


「あ……はい、17になります」


よし! ババアじゃなかった!!

いやでも、よく考えたら若過ぎだな。

これで「20になります」とか言ってたら完璧だったんだが。俺は年齢はなるべく近い方がいい。

にしても17で賢者か。

賢者がこの世界でどういう扱いなのかは分からないが、村人たちには敬意を表されているし、凄い肩書きなんだろう。

天才というやつか?


「そうか。ちなみに俺は23だ」


「え!?」


えってなんだよ。

話を聞くと、どうやら俺の顔は彼らには15~18ぐらいに見えるらしい。

これはあれだ。外人からはアジア人の顔は幼く見えるってやつ。

そう言われると、もしかしたらハンカチの子とか商店の娘さんとかはもっと年下だったのかもしれない。

同い年ぐらいかと思ってたんだが。

俺はリアルだと早くに背が伸びたタイプで、ずっと実年齢より上に見られてきたので珍しい体験だ。


さて話を戻そう。

少なくともこの王国は、領地を管理する『貴族』が存在している感じの国らしい。

さっき山を消すにあたって領主からのお怒りが~って話が出てたが、自分の領地内であっても、都市や村以外のことまで詳しく把握できている領主はまずいないらしい。

まあ人口が少なそうだからな。人間の住んでない未開拓の場所は、無いのと同じ扱いなんだろう。

そもそも人が住んでなきゃ税も絞れないし。


あと王国の法では、盗賊のような重度の犯罪者と敗戦国の人民は、殺そうが奴隷にしようが許されるという。

やっぱ奴隷がいるのかー。

どんな感じなのかいつか買ってみたいな。

別に俺は奴隷に嫌悪感なんて持たない。

人の命は本来軽い。

命の重さとか人権なんて物が言われるようになったのは、歴史的に見るとここ最近に限った話なのだ。

大体、奴隷制度がある世界で奴隷になっている時点でそいつが悪い。

悪事を働いた結果として奴隷に落ちたのなら、それこそ自業自得。

盗賊に襲われて攫われたのなら、備えが足りてなかったせいだ。

俺が現実世界で社会のクズなのも俺のせいだし、そいつらがこの世界で奴隷なのもそいつらのせいだ。

誰かが特別不幸だとか、特別恵まれてるなんて話じゃない。

原因失くして現象は起きない。世の中には必然しかないのだ。



2人からもたらされる色々な情報の中で、一番俺を喜ばせたのが種族の話だ。

どうやらこの世界は純粋な人類……ヒト族以外の人間が存在するらしい。

まず目の前の弟子予定からして純粋な人間じゃない。

彼女は半分人間で半分ドワーフという、ハーフドワーフなんだそうだ。

俺が今まで触れた作品では、ハーフエルフってのはよく聞くけど、ハーフドワーフってのは初めてだな。

ドワーフ族は小柄な体格に反して怪力で、耳が尖っているのが特徴らしい。

なるほど。彼女の体は、それが人間と混ざってマイルドになった物なのか。

17歳と言う割には体が小さい訳だ。

その他にもちゃんとエルフや獣人もいるらしい。

これはこれからの出会いに期待だ。

特にエルフな。俺キモオタだからエルフ好きなんだわ。


「へぇー。ドラゴンっていう魔物はいるのか?」


「その質問が出るということは、やはり師匠はドラゴンではないのですね。私はさっき年齢の話が出るまで、師匠はエンシェント・ドラゴンなのかと思っていました」


「エンシェント・ドラゴン?」


「この大陸に古より存在すると言われている、最強のドラゴンです。人の言葉を解し、強力無比な魔法を扱い、人間に化けることもあるそうです」


「俺は正真正銘人間だよ。お前らの言う所の、純粋なヒト族だ」


「ヒト族は基本的に他の種族に能力で劣っていますが、稀にどの種族より強い固体が生まれるのだそうです。師匠もそれなのかもしれませんね」


「いや、俺の故郷だと全員俺ぐらい強かったな」


「……………………」

「……………………」


2人とも信じていない目をしている。

でも事実だ。

確かに俺はプレイ時間の関係でレベルの高さだけで見れば上位の方だが、基本的に効率よりも楽しさを優先する『エンジョイ勢』と呼ばれる遊び方をしている。

本気で効率重視でプレイしている『ガチ勢』の奴等なんか、4000レベルとか行ってる馬鹿もいるからな。

ちなみにリーダーもレベルだけなら1900越えで俺より高い。

多分百回戦って百回俺が勝つけどな。あいつアホだから。


「あ、そうだ、どっちか金持ってないか? この国の貨幣が見たい。確か銅貨・銀貨・金貨だと聞いてるんだが」


「そうですね。一応他の国でもその3種は同じです。……あの、私はこの村に着くまでに路銀を使い果たしてしまって、今銅貨しか持ち合わせがないのですが……」


「私が銀貨なら1枚だけ持っています。流石に金貨などは見たこともありません」


村長が銀貨を取りに行っている間、意外と貧乏だった弟子予定から銅貨を貸してもらう。

なんだろう。めっちゃ成形が甘い。

はっきり言って目に見えて歪んでいる。

大きさは2.5cmぐらい。

表裏に同じ絵が刻まれているのが珍しい。普通違う絵だよな。


「ふーん。なあ、俺は金貨しか持ち合わせがないんだが、当然この国の金貨じゃない。これで買い物ってできると思うか?」


俺は尋ねながら金貨を1枚取り出して渡した。

プレイヤーの金貨は直径3cmちょいぐらいで少し厚め。

完璧な成形により全てが同じ品質になっている。

というか見た目は俺達が普段目にする普通の硬貨だ。材質は金だが。


「これは……凄い成形技術ですね。金ならば秤で重さを見れば、同じ量の金として使える筈です。……でもあまりに大金になり過ぎるので、いくつかに割って使った方が良いと思います」


ちなみに弟子予定が言うには、こっちの金貨は俺の金貨よりもっとみすぼらしいらしい。

村長が持って来た銀貨も、材質が違うだけで銅貨と同じ作りだった。


「そういえば銅貨何枚で銀貨・金貨1枚なんだ?」


「銅貨百枚で銀貨1枚、その銀貨が十枚で金貨1枚です」


そこは銅貨→銀貨と同じく銀貨百枚で金貨1枚じゃないのか。

えーっと?ということは金貨1枚は…………銅貨千枚?


「村長は金貨を見たことが無いと言っていたが、この村では銅貨と銀貨だけで生活してるのか?」


「銀貨は都市に行けば一般人でも使うかもしれませんが、その上の金貨などは商人か貴族でなければ使わないと思います」


めんどくせえな。

まあ金貨がそんなに大金だと言うなら、大抵の物は金貨1枚で買えるだろう。

もうダルいから最悪そのまま使おう。


「ふむ……まあパッと思い付くのはこれぐらい……か? 他になんか話しとくことはあるか?」


「あの、師匠―――」


「……それだ。お前の話を聞こう。まず賢者ってなんだ?」


「は、はい。賢者とは、何代にも渡って知識を受け継ぎ続けた者です。徹底的な実力主義で、先代の賢者により、自身の知識を全て受け継いだと認められた者が後継者となり、血の繋がりは重要視されません。私は先代の賢者クラリカからその座を受け継ぎました」


「こちらのクラリカ様は13歳にして現賢者の座に着き、その上強い魔法の力を持つと言われる、千年に1人の天才と名高いお方であられます」


「あ、あの、村長……」


あー、千年に1人ね。実際には大抵十年に1人ぐらいいるアレね。

村長のフォローに弟子予定は居心地が悪そうだ。

まあ賢者とか言っといて思いっきり罠に引っかかってたからな。

しかも目の前の俺はそれから助けた奴だし。


「ふーん。賢者って偉いのか?」


「一応国王や皇帝直々に依頼が来ることもあります。今回もそれの途中でした」


「途中? 俺に弟子入りなんてする前に、早く依頼を終わらせた方が良いんじゃないのか?」


「いえ。既に依頼は終え、今は報告のために帰る途中なのです。今回の件と合せて、手紙でも出しておけば良いでしょう」


「ふむ……じゃあさっき広場で言ってた話に戻ろう。今日みたいに、俺はこの大陸の知識に不安がある。お前がその賢者の知識で俺を助けると言うのなら、代わりに俺は『力』を授けてやろう。ただしさっき言ってたみたいな、自分を犠牲にするようなことはしなくていい」


「私ごときの知識など、なんなりとお使い下さい。そしてどうか私に、師匠のその深淵なるお力の一端に触れる機会をお与え下さい」


「……いいだろう。今日からお前は俺の弟子で、俺はお前の師である。―――そんで、お前が飽きたら好きな時に出て行っていいからな」


「師匠、それは……」


「いいから。どうせ永久に面倒見てやれる訳じゃないんだ。何か優先したいことを見つけたら、好きにしていい」


「…………師匠の度重なる心遣いに感謝します。今日からどうぞ、よろしくお願い致します」


「ああ。そんじゃ転移で帰る……前に、村長」


「……あ、はい! なんでしょうか」


「さっきの広場にしばらく物資を置かせて貰いたいんだが、いいだろうか」


「それは勿論構いませんが……一体どういった物を?」


「何、見れば分かるさ。きっとみんな、喜んでくれるだろう」


俺は村長にニヤリと笑ってみせ、2人を連れて広場に戻った。


広場にはもう村人たちは残っていなかった。

みんな戦いの後片付けか、家で家族の無事を祝っていることだろう。


(拠点作成。『倉庫13』)


広場の端に、システムから金を消費して倉庫を建てた。

ゾウが数頭入るサイズだ。


「な……師匠! これは一体……」


「これも魔法の一種さ。厳密にはお前たちの使っている魔法とは違う物で、お前は覚えられないけどな」


「そうですか……それにしても、一瞬で家屋を建造するとは凄いものです」


「じゃあ村長も中へ」


「は、はい」


俺は村長と弟子(正式)を連れて倉庫に入る。

雨風と空気の漏れを防ぐだけの、シンプルな倉庫だ。


「さて、普段畑で作っている麦は、どうやって食べている?」


「えー、大抵の場合パンでしょうか。たまに粥にする時もありますが」


なるほど。とりあえずこの辺の食文化はパン食か。なら小麦でいいか。

俺は倉庫の中心に、アイテムボックスから膨大な量の小麦を出す。

5秒ぐらいかけて、倉庫の半分ぐらいの空間を小麦の山が埋め尽くした。

農場王からのお近付きの印だ。


「こっこれは!!」


「これはこれからの俺の集落と、この村との友好を願うという形で寄付させて貰おう。畑に作物が実るまでの間、みんなで分けるといい」


「ハネット様…………ありがたくお受けします。本当に、ありがとうございます!」


「ああ。これからはご近所さんとしてよろしく。……じゃあ、俺等はこれで」


「村人一同、今回のご恩は絶対に忘れません! またいつでもいらして下さい」


俺は振り返らず手を振るだけで最後の挨拶とし、弟子を連れて倉庫の外に出た。




「…………まだ出会ってから少ししか経っていませんが、師匠は優しいですよね?」


「じゃあお前には厳しくしてやる」


「す、すいません師匠。……優しくして下さい」


エロいこと言うな!

俺は穢れた大人だから、美少女賢者様と2人っきりで授業とか聞くとエロいイメージしか湧かないんだぞ。


「大体、打算で好くしてやってるのは明らかだろう?」


「そうでしょうか」


「そうでしょうが。大体俺は、この村が邪魔になる時が来たら、今度は容赦なく滅ぼす側に回るぞ。あの盗賊たちと同じようにな」


「それは……その時は仕方ないでしょう。師匠からこれだけの恩を受け、実力を知りながら刃向うというのですから」


あれ? そういう感じ?

俺としては脅したつもりだったんだが……。

弱肉強食の世界に生きるNPC達は、現代ニホン人より遥かに強かなのかもしれない。

そういえばこいつも盗賊殺すのに躊躇してなかったしな。

まあ賢者とかいうぐらいだ。その辺の倫理観みたいな物にも、ちゃんとした答えを持っているのかもしれない。


「そういえば荷物とかはいいのか?」


「私は魔法でいくらかの事は解決できるので、荷物はこの鞄だけです」


王都とやらに帰る途中なんだっけか。

まあ帰る方ならそんなに荷物も持ってないかもな。

旅行ならお土産もあるかもしれんが、正式な依頼の最中だって話だし、仕事帰りみたいなもんか。


「大丈夫です。旅には慣れていますので、野宿も出来ます」


「いや、普通に俺の家に泊めてやるから。あー、そうだ、名前なんだっけ? 人の名前覚えるのが苦手でな」


「あ、ニーナ・クラリカです。ニーナとお呼び下さい」


「ニーナ、ニーナな。じゃあニーナ、転移の魔法で俺の家まで帰る。手に掴まれ」


「は、はい。よろしくお願いします」


緊張しているのか若干震えるニーナの手を握る。

女の子の手を握るなんて何年ぶりだろう。確実に学生の時以来だ。

指が細くて全体的に小さい。


「よし、それじゃ行くぞ。―――『テレポート』」


(さーて、とりあえず帰ったらこいつの部屋を用意してやらないとな。そんで明日はついに、本格的な拠点制作に移ろう)


これにて無事クエストクリア。

俺はこの世界初のクエスト報酬として、知識豊富な弟子を手に入れ、拠点に帰還した。






これにて導入部の終了です。

次回から異世界での生活が本格的に始まります。

  • ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねをするにはログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはマニュアルをご確認ください。

名前:


▼良い点
▼気になる点
▼一言
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。