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ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~ 作者:柴崎

序章 ~侵食~

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幕間 スゥの村の動乱

スゥ視点のおまけです。



「ここは店かー!?」


私がお店の番をしていると、玄関の向こうから男の人の声がした。


「ああー!」


お客さんに、後ろの部屋にいるお父さんが返事をした。

わざわざ入る前に声をかけてきたということは、この村の人じゃなくて旅の人だろうか。


不安に思っていると、もの凄い白い人が入ってきた。

凄く高そうな白い服に、若いのに白い髪。

肌の色や顔つきも変で、歳は私より少し上くらいに見える。

成人したばかりだろうに、もっと大人の人みたいな、物凄く落ち着いた雰囲気の人だ。

その人は入って来てからずっと、こっちをじーっと見ている。なんでだろう。怖い。


「おい、どうし……な、なんでえ、オメーは!」


「お父さん!」


震えていると、後ろからお父さんが出てきてくれた。

私はすぐにその後ろに隠れる。


「いや、ただの客なんだが……」


「客だと? じゃあ娘は何で怯えてんだ!」


「知らん。俺、何かしたか?」


そう言われると何もしてない。

ただ私が怖くて隠れてしまっただけだ。

そのことを話すと、お父さんが私の代わりに白い人に謝った。

白い人は構わないと言ってくれた。

私も謝らなくちゃと思っていたのに、白い人とお父さんはそのまま話し始めてしまって、口を挟む機会が無かった。


しばらく色々な物の値段を聞いていた白い人は、急に「すまんな」と言って何も買わずに出て行ってしまった。


「チッ! なんでえ! 金持ちそうな服してるくせによぉ」


お父さんは白い人に文句を言っていたけど、やっぱり本当は私に機嫌を悪くしていたのかもしれない。

もしも次会ったら、勇気を出してちゃんと謝らなきゃ。




次の日、村が大変なことになった。

盗賊の人が村を襲いに来るらしい。大人の人たちはみんな凄く焦っている。

賢者様が来るまで時間を稼ぐことになった私たちは、村の西側に武器になるような物を持って集まった。

私たち女や子供も、石を投げるように言われている。


しばらくしたら、街道の向こうから馬に乗った盗賊の人たちが駆けて来た。

最初は追い払おうとしたけど、盗賊の人たちは私たちに馬ごと突っ込んできた。

私は隣にいたおばさんが引っ張ってくれたおかげで、馬に踏み潰されずに済んだ。


そのまま馬を下りた盗賊の人たちと戦いになった。

最初の盗賊の人にクォークさんの矢が刺さって、それにみんなで群がって殺した。

私はこの時にはもう泣いていた。

でも村の人たちが怪我をしていくのを見て、我慢して石を投げた。

私はお父さんの組と戦っていた盗賊の人を狙った。

たくさんの人が怪我をしたけど、死んだのは盗賊の人たちだけだった。

私はもうすぐ終わると思ってたけど、その声が聞こえた。


「まずい!! 歩きの分が来やがった!!」


街道の方を見ると、今度は馬に乗ってない人たちが走って来ていた。

しかもさっきの馬に乗った人たちよりももっと多く。


「北だ! 北に逃げるんだ! 散らばれ!」


「スゥ! みんなと一緒に逃げろ!」


村長さんの掛け声に、お父さんが私を振り返らずに叫んだ。

でもお父さんはここに残るつもりらしい。


「お父さんは!?」


「俺も少ししたら追いかける! とにかく先に逃げるんだ! 早くしろ! 村長、頼む!」


私は残りたかったけど、村長さんが私の手を引いて走り出してしまった。

一瞬目が合った村長さんの悲しそうな顔が忘れられなくて、私は凄く不安になりながら走った。

もしかしたら私が早く逃げれば、その分お父さんが早く来てくれるかもしれないと思って。


村の北側に辿り着いたけど、農道に続く道の方には盗賊の人たちが先回りしていた。

盗賊の人の中でも偉い人なのか、なぜか1人だけ馬に乗っている。


「糞……! 間に合わなかったかッ!」


村長さんが青い顔をしながら言った。

これじゃあお父さんが来ても意味が無い。私も村長さんと同じ顔をしていたかもしれない。

盗賊の人たちは、そんな私たちをニヤニヤとした嫌な笑いで見ていた。

そのまま何人かの盗賊の人たちに後ろから追いつかれて、また戦いになる。


暴風の魔法(ウィンドスマッシュ)!!」


そこに、盗賊の人たちの更に向こうから女の人の声が聞こえた。

その声の後、突然盗賊の人たちが何人も吹き飛び、残った人たちも横に殴られたみたいに倒れた。

その間の空中を、誰かが凄い速さで飛んで来る。

飛んできた誰かは、盗賊の人たちを容易く蹴散らしてみせた。

私は何日か前に遠くから1回見ただけだったけど、それは間違いなく賢者様だった。

私たちは本当に駆けつけてくれた賢者様に喜んだ。これでお父さんも助かる。


「私がもう一度あの包囲網を突き破ります! 私より前に出ないようにして付いて来て下さい!」


そう言って賢者様は、私たちをその小さな背中に庇いながら振り返った。

その視線の先では、盗賊の人たちが凄い早さで並び方を組み替えている。

不意に賢者様が左斜め後ろに振り向いた。

その瞬間、隣の家の屋根から盗賊の人が剣を構えて降ってきた。


「!?」


私たちは賢者様が盗賊の人に斬られたと思ったけど、盗賊の人の剣は途中で何かに弾かれたみたいに届かなかった。

そしてそのまま、返す剣を振り抜く間も無く、賢者様の魔法に貫かれた。


賢者様は凄かった。

私たちがあんなにいて手も足も出なかった盗賊の人たちを、簡単に魔法で薙ぎ払っていった。

みんな伝説の勇者を見たみたいに賢者様に歓声を送った。

そんな中、急に賢者様は私たちから離れて、盗賊たちの方に飛んで行ってしまった。

そして飛んで行った先で大爆発が起きた。

賢者様のその魔法で、半分ぐらいの盗賊の人たちが一気に倒れた。私たちはもっと沸いた。


でも、その次の瞬間に起こったことで、それは悲鳴に変わった。

―――突然盗賊の人の死体が動き出して、賢者様を刺した。

動き出した死体は賢者様にもう1度剣を振り下ろし、その体を斬った。

賢者様は地面に座り込んでしまう。

すぐにその動く死体も真っ二つになったけど、賢者様はもう立ち上がらなかった。


「あ……ああ…………」


何人かの盗賊たちに走り寄られる賢者様を見て、周りから大人の人たちの掠れた声が聞こえてくる。



……でもその瞬間、有り得ないことが起こった。



瞬きしたら、賢者様の前に突然誰かが立っていた。

みんなでずっと見ていたのに、いつその人が現れたのか分からない。

まるで夢でも見ているみたいだ。

よく見たら、昨日の白い人だった。



―――そう気付いた瞬間、私は空が落ちて来たのかと思った。



(怖いっ!!)


何か分からないけど、私は物凄くそう思った。

白い人は遠くでただ立っているだけなのに、とにかく怖く思えた。

見ているだけで心臓が凄い早さで動いて、体がガクガク震えて冷や汗が流れた。



―――ギギギギ……ギギィ………………



空と地面が軋みの音を上げた気がした。

もしかしたら本当に空が落ちて来ているのかもしれない。


私はなぜか知らないけど分かってしまった。

盗賊の人たちは全員殺されると。


白い人は賢者様を少しだけ振り返ってたけど、すぐに盗賊の人たちに向かい直って、手を横に振った。


―――その瞬間、白い人の一番近くにいた盗賊の人が、何回も剣で切り刻まれたみたいにグチャグチャになった。


……その後はもう、賢者様の時よりも更に一方的だった。

白い人はその場から一歩も動くことなく盗賊の人たちを全員殺して、凄い魔法で死体を焼き払い、穴だらけになった地面を綺麗に元に戻してみせた。


白い人に手を貸されて立ち上がった賢者様は、そのまま白い人と何かを話し始めている。

私はすぐにお父さんたちを助けに行って欲しかったけど、あの2人には流石に話かけることができなかった。


しばらくして頭の中に声が聞こえてきた。昨日の白い人の声だった。

白い人は魔法使いで、盗賊は全員倒したから安心していいと言った。

私は一瞬、西側のことを知らないのかな?と思ったけど、すぐに違うと思い直した。

なぜかは分からないけど、白い人が1人も残って無いと言っているのだから、本当に1人も残ってないのだろうと疑わなかった。

白い人はまた消えてしまったけど、賢者様もいたし、私たちは白い人に言われた通りにまた広場に集まった。

私は白い人が来るまでお父さんを探したけど、少しの時間では見つからなかった。


白い人が言うには、私たちに傷が治って元気が出る魔法をかけると言う。

怖かったら逃げてても良いと言ってくれているし、賢者様も彼と普通に話していたので、私たちは全員その場で魔法を受けた。


「よし! じゃあ魔法をかけるからな!」


白い人が私たちに手をかざした瞬間、そこから一瞬だけ何か黄色い紋章みたいな物が出た。

そして私たち全員の体を優しい光が包んで、急に元気が湧いてきた気がした。


「!?」


「う、うわっ!」


怪我をしていた人たちの方を見たら、腕の無くなった人の傷口から、新しい腕が生えて来ていた。

他の人たちも傷口が全部綺麗に治ってしまったらしい。

よく見ると、もっと昔の怪我の跡まで消えているみたいだった。


「さて、それじゃあ遺体を出すからちょっと場所を空けてくれ」


みんなずっと騒いでいたけど、白い人がそう声をかけると、ピタリと口を閉じてすぐに言うことを聞いた。


みんなで黙って見ていると、白い人が何も無い場所から人間を引っ張り出して見せた。

……マクガニーさんの旦那さんだった。

地面に横たえられた旦那さんは、白い顔でピクリとも動かなかった。息もしていなかった。

すぐにマクガニーさんがやってきて、旦那さんに縋り付いた。


「アナタぁっ!! 嫌あああっ! いやあああ!!」


白い人はそれを知らんぷりして、どんどん村の人たちの体を出していった。

その度に、その家族の人たちが泣きながら駆け寄って行く。

この小さな村ではみんなが家族みたいな物だ。

私も泣いたし、村長さんも、クォークさんも、他のみんなも全員泣いていた。

私は1人も見てないけど、逃げ遅れた人たちは盗賊の人たちに殺されてしまったんだ。

そこまで考えて嫌な予感がした。私は本気でお父さんを探し始めた。


白い人がまた新しい体を出した。もう十何人目とかだろうか。



お父さんだった。



そこからは何をしていたのか覚えてない。

ただお父さんが返事をしてくれないことと、体が冷たくなっていたことだけが強く印象に残った。


「範囲拡大化Ⅱ。『レイズデッド』」


―――突然、広場が物凄く眩しくなった。

周りを見ると、空から凄く眩しい、けど不思議と目が痛くならない光が差し込んでいた。

その光はほんの少しの間だけ広場を照らしていたけど、すぐに弱くなっていって、最後には消えた。

みんなで急に変なことをした犯人を睨んだ。白い人に決まっている。

当の本人は賢者様と何か目でやり取りをしていたけど、すぐに顎で私たちの方を示した。

釣られて賢者様もこっちを見る。

なんだろう。何をされたのだろう。

白い人が珍しく何の説明もしないので、不安になる。


「う……うぅ……」


突然、物凄い近くで声がした。私の顔の下だ。

下を見ると、死んだ筈のお父さんが目を開けていて、私と目が合った。


「お、お父さん!?」


「あ、ああ……スゥ?」


お父さんは今度は返事をしてくれた。

手を握ったら握り返したし、その手の平も暖かかくなっていた。


「おじいちゃん!!」

「アナタ!!」

「兄ちゃん!!」


周りから聞こえてくる声に首を回せば、お父さん以外の人たちも、みんな同じように反応を返しているみたいだった。


「ほ、本当に……復活……の、魔法……」


賢者様が呟いた言葉を、偶然耳が拾った。

復活。

お父さんたちは復活したのだろうか。白い人のさっきの魔法で?

死んだ人間を生き返らせる。

お伽噺ではたまに聞くけど、本当にそんなことが出来るのだろうか。


「範囲拡大化Ⅱ。ヒール」


白い人がもう1度さっきの体が光る魔法をかけると、ぼーっとしていた復活した人たちも、すぐに元気を取り戻した。

私の腕の中で、起き上がれるようになったお父さんが、周りの状況をキョロキョロ見回す。


「な、何だ? これ今どうなって―――」



「あのっ!!!!」



賢者様が突然大きな声を上げて、口を途中まで開いていたお父さんは蓋をされた。

そんな可笑しな様子がいつものお父さんらしくて、ああ、本当にお父さんは生き返ったんだと安心した。


「お願いします! どうか私を、あなた様の弟子にして下さい!!」


私たちの目の前で、あの千年に1人と言われた賢者様が、白い人に弟子入りを申し込む。

みんな白い人の隣でただ立っているだけとなっている賢者様を見て、薄々気付いてはいた。

賢者様よりも、白い人の方が更に上位のお人。

やっぱり白い人は、物凄く偉いお方だったんだ。

もしかしたら、この復活の魔法も神話の光景なのかもしれない。


白い人と賢者様の話を聞いていると、白い人は「この大陸のことを何も知らない」と言ってた。

でもこの世界にはこの大陸しかないってお父さんに聞いたことがある。

じゃあ白い人は一体どこから来たんだろうか。

世界の外……海が落ちていくという世界の端の、更に外から来たということだろうか。

もしかして本当に神様とかそういう人なのかもしれない。


白い人は賢者様の弟子入りの話は後回しにして、先に村のことを終わらせようと言う。

こんなにずっと良くしてくれている人に、私たちはさっき非難の目を向けてしまったのか。

そういえば昨日のことも謝っていないのを思い出した。


村長さんが白い人に1度呼ばれ、帰って来てみんなに後片付けの指示を出した。

それでお父さんたち生き返った人たちも、他の大人の人たちから説明を受けている。


私は賢者様と暇そうにしていた白い人に、勇気を出してお礼を言うことにした。


「あ! あの! お、お父さんを助けてくれて、ありがとうございました!」


白い人は私の言葉に一瞬遠い目をした後、なんだか儚げな顔で柔らかく微笑んでくれた。


「……別に構わないさ。俺からしたら大した手間じゃないから」


なんて人の出来たお方だろうか。

私は思わず言わなくていいことを口走ってしまった。

自分でも、この時どうしてそんな勇気があったのかが分からない。


「……あ、あの、あと、お名、お名前を! 教えて下さいっ!」


白い人が少しびっくりしたような顔をしたのを見て、私は急激に後悔した。

それに良く考えたら、昨日のことを謝る方が先だった。

……でも。


「俺の名前はハネットだ。名字は無い、ただのハネット。まあ……近所の魔法使い、かな?」


白い人は……ハネット様は、最後に冗談まで付けて軽く笑い返してくれた。

その初めて見せた悪戯っぽい年相応の笑顔に、なんだか吸い込まれそうになってしまったのを覚えている。



……この時は冗談だと思っていたけど。

この後彼は、本当に「近所の魔法使い」になってしまうのだ。






今回の更新はここまでです。

もう少し先まで書き溜めてあるので、次回の更新は早いと思います。

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