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ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~ 作者:柴崎

序章 ~侵食~

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6 平穏の帰還

助けを呼ぶ女の子に、応えてやる。

俺は女の子を巻き込まないよう、範囲と威力を最低近くまで落とした風魔法『ウィンドスマッシュ』を数km離れた村に向かって放った。

マップの中継映像で盗賊が15mぐらい真上に吹っ飛んだのを確認し、『テレポート』の魔法で一気にそこに飛んだ。


一瞬で、目の前の景色が部屋の中から村の中に変わる。

村人と盗賊たちは何もリアクションを取らず、ただただ黙って俺を見つめるだけだ。


助けた女の子に声をかけたが返事も無い。


(……帰るか)


そう思った瞬間、女の子が我を取り戻してローブに縋り付いてきた。


「たっ! 助けて下さいっ!! お願いします!! お願いします!!」


いや、冗談だって。

俺は無詠唱化した風魔法『エアスラッシュ』で、盗賊たちの首から上を吹っ飛ばした。

捕まった村人たちはみんな座り込んでいたので当たってない。

このエアスラッシュは『判定』が直線なので割と使い勝手が良く、個人的に使用頻度が高い。


俺はマップでこの村にいる敵性オブジェクトを確認した。

北側に集まっている本隊を除き、8人の盗賊が村に散らばっている。

手っ取り早く、ロックオンした敵を追尾して飛んでいく魔法『マジックアロー』で殺した。

敵を示す赤いマークが8つ全部消えたのを確認。

ついでにステータスを見たら、経験値もちゃんと入っている。めっちゃ少ないが。


女の子に状況を説明する。

彼女はさっきから「え?」しか言わない。翻訳レベルを上げるか迷った。


現地の魔法使いの戦い方が気になったので、北の方はあの魔法少女に任せて傍観することにした。

アイテム作成スキルで椅子と机を出し、中継映像で魔法少女の戦いをのんびり観賞していると、不意に女の子が「あっ!」と声を出した。

ちなみに現在、魔法少女を観賞している俺を更に観賞している村人たち、という図だ。


「どうかした?」


「え!? い、いえ、あの~、その~、あの、けっ賢者様は! もう村に、き、来て下しゃっていりゅんでしょーか!?」


噛み過ぎだろ。落ち着けよ。

多分本人も恥ずかしかっただろうから、噛みまくった件についてはスルーしてあげることにした。

これがクランメンバーとかだったら、今頃物凄い馬鹿にしてたけどな。

……にしても『賢者』か。

知ってて当然みたいな風に聞くなよと思いながらも、このタイミングで聞いて来たことと、条件的にあの魔法少女の事かなと見当を付けた。


「……賢者って、もしかして黒いマントに杖を持った、小さい女の子?」


「は、はい!!」


あいつ賢者なのかよ。

帽子で顔は見てないけど、身長150cmあるか無いかぐらいの少女だったぞ。

見た目と年齢が一致してないのか? いわゆるロリババアなんだろうか。


俺は身長低い子が好きなので、中身がババアか見た目通りのロリじゃなければお近付きになりたい所だ。

「ロリ体型。だけど同い年」が、俺の中での至高だ。


そんな下らないことを考えながら適当に喋っていたら、ふいに彼女の雰囲気が暗くなった気がした。

彼女を改めて見たら、その顔は涙の跡や土なんかで、すっかり汚れてしまっていた。

なるほど。この子からすれば、今の今まで生きるか死ぬかの状況だったのだ。大変だったろう。

俺は同じくアイテム作成でハンカチを作り、漫画の主人公をイメージして彼女の顔を格好良く拭いてあげることにした。


しかし、俺が近寄ろうとした瞬間、女の子は明らかに怯えた。


彼女からすれば、俺は盗賊よりも更に恐ろしい存在だろう。

その上平気で人を殺す。

盗賊たちは全員男だったし、男であるというだけで恐怖を感じている可能性もあるな。


俺は彼女に無理に近付かず、害を与えるつもりじゃないことをアピールした。

すると見る間に彼女の表情は崩れ、涙がぽろぽろと零れ始める。


(何か知らんが対応をミスった!)


俺は1歩で彼女の元に駆け寄り、持っていたハンカチでそれを拭いてやる。

何が悪かったのか自分で分からなかったので、とにかく謝った。

落ち着けるように肩もさする。

セクハラに思われる心配も過ぎったが、俺は動物は本能的に触れ合いを好む性質があると考えている。俺の持論が正しければ、効果的な筈だ。

俺的には本気でなだめにかかっているのに、彼女の涙はむしろ勢いを増した。ゴメンて!!

ふいに彼女に、顔を拭いていた手を止められた。

やっぱり不快だったのかな?と一瞬思ったが、彼女はそのまま両手でしっかり手を握ってきた。


「あ、ありっ……」


「え?」


「―――た、助けてくれて……ありがとう、ございます……っ」


どうやら今更になって助かった実感が出てきたということらしい。

リアルだとあんまり人に感謝されるような性格じゃないので、お礼って物に対してどう対応していいのかが分からなかった。

つーか童貞だし女の子自体に耐性がそんな無い。

あやしていたのも、小学校の時に泣いてる女の子にしてあげてたぐらいの気分でやってた。

とりあえず十八番の変顔でおどけてみたが、俺の照れ隠しを彼女は完ッ全にスルーした。

というか俺の目をめっちゃ見てる。ガン見だ。ふざけてごめんて。

居たたまれなくて、彼女の顔を見ないように中継映像の方に意識を戻していると、賢者と呼ばれる魔法少女が敵の死んだフリに見事に引っかかった。

つーか見てない間になんで敵に接近してんだコイツは。

しかも回復魔法を使わない所を見るに、MP切れまで起こしているらしい。

MPの回復手段を用意してないのか。

……もしかしてポーションとかの回復アイテム自体が存在しないのか?


俺は目の前の子に手短に状況を説明し、急いで魔法少女の助勢に向かうことにした。

ハンカチは、また泣くかもしれないので女の子にそのまま渡す。

にしてもタイミングが悪い。まさに泣いている女の子を放置して立ち去る気分だ。


グズグズすると手遅れになりそうだったので、彼女を置き去りにそのままテレポートで魔法少女の前に飛んだ。

まず一番に、俺の最強属性である光の回復魔法で魔法少女を治し、MPも回復させてやる。

もしかしたら俺という強者が突然いなくなり、あの女の子はまた不安がぶり返したりしているかもしれない。

ハンカチぐらいいくらでも使ってくれ。

つーかそもそも、このカス共がこの村を攻めてきたから、俺がこんな思いをしたのだ。ぶっ殺す。

一応魔法少女にも助力がいるか尋ねたが、賢者と呼ばれるだけあって状況判断が早いのかすぐに頷いた。

あれ、顔可愛くね?


向き直った俺に盗賊たちはビビっている。

そうだ怖がれ怖がれ。……もっと怖がらせてやるから。

無詠唱にした魔法で、近い順に盗賊を殺していく。

魔法使いは距離が命だ。不意打ちするなら、一番近くの奴から排除するのが基本。

本隊の奴らが動き出そうとしたので、1歩でも動いた瞬間に殺してやった。

進めば死ぬと理解した司令官らしき男が撤退指示を出そうとしたので、間髪入れずに殺す。

今のはなかなか良い演出だ。

その証拠に下っ端が全員パニックになり逃げ出した。

俺の得意の範囲攻撃で一撃で全滅させてやる。


そういえばここは村の中だ。

このまま死体とか残ってると村人は嫌だろう。

この量だと近くに埋葬しても、モンスターが掘り起こしに来たり疫病が発生したりしそうで怖い。

俺は『アイテムマグネット』と呼ばれるアイテム収集の魔法で死体を一か所に集め、焼却処分することにした。

さっき西側で殺した盗賊たちの死体も後で掃除しとかなきゃな。


「威力最低化、範囲最縮小化。―――『ヘルレイン』」


ヘルレインは火球をショットガンの散弾みたいに上空からばら撒く範囲攻撃だ。

俺は範囲攻撃を強化するスキルを取りまくっているので、威力も範囲も最低まで落として発動した。

本気でやると村が滅びるぐらいの威力になるが、今は装備も8割外しているし大丈夫だろう……。


が、それでもやり過ぎだった。


ファイアーボールとかだと焼却力が弱くて途中の焼ける臭いとかがヤバいかな、と思ったんだが、それにしてもヘルレインは威力が高過ぎた。

やべえ。村が火事になる。

慌てて空間を圧縮消滅させる重力魔法『ブラックホール』で消火した。

つーか最初から焼却じゃなくてこいつで消滅させれば早かった。


地面がクレーターになってしまったので、普段は畑を耕すのに使っている整地スキルで元に戻す。

振り返り、同じ魔法使いとして魔法少女に苦言を呈しておく。

対策も取らず自分から突っ込むのは無いだろう。


あとやっぱり帽子の下から覗く魔法少女の顔は可愛かった。

深い青の瞳に、同じ色の髪。

その髪は量が多い上に腰まで届き、2本の緩やかな三つ編みにして纏めてある。

さっきの女の子も三つ編みだったな。この世界の女性のスタンダードな髪型なのかもしれない。

そして近くで見ると、身長は低いが意外と身体つきに女性らしさが有り、顔も可愛い系というより美人系に近かった。

ロリ系というより、純粋に背の低い美少女。

眠たげにも見えるトロンとした目が、正直言って俺の好みだ。


昨日のお店の娘さんはキャラが好みだったが、こいつは見た目が好み。キャラはまだ喋ってるの聞いた事ないから知らん。

これで中身がお婆ちゃんじゃなければなぁ……。

いや、まだこの魔法少女の歳は聞いてないんだ。

確定していなければロリババアの可能性もロリの可能性も同時に存在する。シュレディンガーのババアだ。

よく見ると耳がちょっと尖っている。

我らがFFFのリーダーもリアルだと耳が尖っているが、それよりもうちょっとだけ尖っているか。

アカン変な例えしたら女版リーダーに見えてきた。

背が低いのも似ている。しかも青いし。

これは次リーダーに会った時に絶対笑う自信がある。


俺の苦言に魔法少女ははっとした顔をした後、俯いてしまった。

可愛いお顔も帽子に隠れる。

その瞬間、さっきのハンカチの子の様子が過ぎり、思わず頭を撫でてしまった。

俺には女性の涙は刺激が強過ぎた。

これじゃ軽くトラウマだ。

今度の相手は俺より年上かもしれないのに。


とりあえず魔法少女が地面に座り込んだままだったので、最初の回復魔法の効果確認も合わせて痛くないか尋ねた。

魔法少女は今更自分の怪我が治ったことに気付いたらしい。

刺されて服の破れた所を、上から触ったりしている。

ごめん、胸の方はあんまり触ると中が見えちゃいそうだから止めて。目のやり場に困る。


「あ、あの、ありがとうございます」


あのごく普通の女の子と比べるのは酷かもしれないが、こいつはさっきから状況の判断が早い。俺が敵でないことを既に理解している。流石は賢者と言った所か。

その調子で、戦闘でも頭の回転の早さを見せて欲しかった所でもある。


未だぺたんと可愛く女の子座りしている彼女に手を貸し、ついでに服をアイテム修復のスキルで直してやった。

やはりパーティープレイの時よりも生活系スキルが役に立つな。

いや、生活系スキルはいつでも役に立つぞ。うん。


「さて。…………そんでこっからどうしようか……?」


そう、とりあえず盗賊たちは全滅した。

ということは、俺も優雅に傍観……なんてことはもうできない。こっからは後始末が始まる。

とりあえず判断と責任は魔法少女に丸投げしちまえ。


「え? あ、ああ、そうですね。とりあえず村としては、怪我人を治して、亡くなった人たちを埋葬するくらいでしょうか」


魔法少女はスラスラと的確に返事をしながら、遠巻きに俺たちを眺めている村人たちの方へ視線をやった。

こいつめっちゃ便利やん。『現地ウィキ』と呼んでやろう。賢者だしな。


「なるほど。なら両方俺の魔法で解決できるな。そんじゃ、とりあえず村人と遺体を集めるか」


「あ、あの、本当にありがとうございます。でも良いんですか? 私も今は持ち合わせがありませんし、村も冬明けで蓄えがありません。あなた様ほどの大魔法使いにお支払できる報酬は、用意できないと思うのですが……」


「いや、報酬はいいよ。 俺は女の子が泣いてたから助けに来ただけだし」


「えっ!?」


魔法少女は俺の言葉を聞いて頬を染めた。

違うぞ。お前のことじゃなくて別の女の子だぞ。

つーかお前自分からは俺に助けて言うてへんやんけ。今思い出したわ。

まあでも、おかげで金がいらないというあからさまに怪しい発言をスルーして貰えた。

俺としては気分で助けただけなのでマジで報酬はいらないんだが、もし他人に同じ状況で同じことを言われても絶対信じない自信がある。


「まあ少し時間を使ったぐらいだ。悪いと思うなら早く後始末をしよう」


「は、はい! そうですねっ」


「じゃあちょっと村人呼ぶから」


「?」


俺は通話の魔法で村人たちに集まって貰うことにした。

プレイヤー同士だとチャットかボイスチャットで済むが、NPCとはシステムが繋がってないので魔法でやる必要があるだろう。


「範囲拡大化Ⅰ。『コール』」


背後に魔法陣が広がった感覚がある。

もう付近の全キャラクター……つまり村人全員と繋がっている筈だ。


「みんな突然すまない。今これは、魔法で君たち村人の頭の中に、直接話かけている」


「!?」


隣で魔法少女が、目の前にいる俺と頭の中から聞こえる俺の声の二重音声に驚いている。

ついでに遠くの村人たちも俺を見ている。

少なくとも賢者と呼ばれ自身も魔法使いであるこいつは、このコールの魔法を知らないらしい。

まあコールなんて明らかにゲームチックというか、システムチックな魔法だもんな。

こいつらも使えたら便利だろうに、コールはプレイヤーにしか使えないのかもしれない。


「あ、俺は今村の北側にいる。今俺が見えない場所にいる人は、俺の声が賢者の声じゃないことに疑問を持っているだろう。説明すると、俺は賢者とは別の魔法使いだ。一応味方なので安心して欲しい」


今ここにいる村人たちはともかく、あちこちに散らばった村人や西側のあの子たちには、俺という声についての説明をしてやった方が良いだろう。


「盗賊は1人残らず魔法で倒した。さっきの凄い音の魔法がそれだ。君たちはもう助かった。とりあえず怪我人を治すので、村の広場に全員集まって待っていてくれ。俺は君たちが集まるまで、西側に行って君たちの家族の遺体を集めておいてあげよう」


そう指示を出してコールを切った。


「さて。それじゃあ君は先に広場に行って、集まって来た村人たちに、俺が来るまでちゃんと待つよう言っておいてくれ」


「あ、あの―――」


魔法少女が何か言いかけたようだが、俺は既にテレポートを発動させて村の西側に飛んでいた。

村の最西端まで来たので例のハンカチ娘はいない。

最初かつ最も激しい戦闘があったこの西側には、多くの死体が転がっている。

俺は回復の魔法で死体の損傷を直し、綺麗になった遺体をアイテムボックスに入れていった。

途中で昨日の店主を見つけ、娘さんは泣いただろうなと思った。

恐らく盗賊を食い止めるために身を挺した何人かの1人だ。

マップの()()()()()()()()のタブで死体の場所を確認し、その全てを復元・収容。

ついでに盗賊たちの死体も掃除してから、広場に飛んだ。


魔法少女の隣にテレポートする。


「ひゃっ」


可愛い声出すなよ。好きになっちゃうだろ。

ただし中身がお婆ちゃんじゃなかった場合に限る。まあガチロリでも困るが。

隣を選んだのは一応理由があるんだが、にしても確かに突然現れたらびっくりするかもしれない。

ちょっと耳を赤くしている魔法少女に、適当に笑いかけて誤魔化した。


前を向いたら大勢の村人たちと目が合った。

みんなこっちを警戒しながら見ている。

あのハンカチの女の子はちょっと見つけられる気がしない。数が多過ぎる。

俺は咳払いして喉の調子を確かめてから大きく声を上げた。

あんま大きい声上げるの好きじゃないんだけどな……。独り言ですら喋んないのに……。


「んん! 俺がさっき君たちに魔法で話しかけた魔法使いだ! さっきも言った通り、今からここにいる全員に、傷を治し疲れを取る魔法をかける! もしも嫌な奴や怖い奴がいたら、少し待つから広場の外に出てくれていい!」


村人たちは俺の言葉にガヤガヤと意見を交換し始めた。


「あの、先程はありがとうございました。これからどんな魔法を使われるのですか?」


待っている最中、魔法少女が話かけてきた。

やはり魔法使いなので気になるのだろう。どうも俺の方がレベルが上の魔法使いっぽいしな。


「ん、『ヒール』って分かるか?」


治癒の魔法(ヒール)ですか。私も一応使えますが、私には光の魔法の適性が無いので、さすがにこの人数にかけて回るのは無理でしょうね。流石は大魔法使い様です」


適性ってなんだ。

現地人たちには魔法の属性ごとに適性なんてもんがあるのか。

ちなみに俺たちプレイヤーは、レベルが上がる毎に好きなのを1個習得できる。

俺は光魔法は全部覚えた上に、スキルでアホみたいに強化してある。

基本的にはこの、サポートと範囲攻撃が売りの光魔法の使い手だ。

そのせいで掲示板では『光のサイコ野郎』とか言われている。

さっきの戦いでは敵が弱過ぎて使う機会が無かった。

無強化属性の魔法を、装備外して最低まで弱化してたのに、あの蹂躙劇だったのだ。

光まで使ったらオーバーキル過ぎる。

そこまで考えて思ったが、こいつらの言う適性とかいう物もそんな感じの話だろうか。

それぞれの属性が、生まれた時に強制的に付けられてるスキルによって強化されてたり弱体化してたり……みたいな感じなのかもしれない。

さすがNPCは自由度が低い。

つーか大魔法使い様ってなんだ。

その内弟子にして下さいとか、師匠とか呼んで来るんじゃないだろうな。

全然いいぞ。いつでも来い。可愛いから許す。


1分ぐらい待ったが、結局誰も出て行かなかった。

隣に村人から信用されてるっぽい魔法少女を置いといたのが効いたな。

別れ際に何か言おうとしてたから、親しげに会話してるのも見せられるだろうと踏んでいた。

俺は父親から受け継いだ才能で、こういう人の心理を逆手に取るのが得意だ。

戦いの時もそうやって戦う。


「よし! じゃあ魔法をかけるからな! ―――範囲拡大化Ⅱ。ヒール」


村人たちに向けた俺の手の平から黄色い魔法陣が現れ、柔らかい光が村人たち全員を包んだ。

体を斬られた者は傷口が塞がり、腕を失った者は腕が生えていく。

ついでにHPが全快して、疲労も抜けた筈だ。


「!?」


「う、うわっ!」


一瞬で治る傷口が逆に気持ち悪かったのか、何人か悲鳴を上げていた。

まあ腕生えるのとかはな、うん。


「治癒の魔法で複数人を、同時に……?」


魔法少女は何かが疑問だったらしい。

俺の魔法に眉を顰めて考え込んでいる。

ふと俺と目が合って、2秒ぐらい見つめ合ってから慌てて顔を反らしている。

とんがり耳が赤くなっているのが可愛い。

なんだお前、可愛いな。お前がババアじゃない方に金貨100枚賭けるぜ。


30秒ぐらいして村人たちが落ち着いて来たようなので、次の指示を出す。


「さて、それじゃあ遺体を出すからちょっと場所を空けてくれ」


村人たちを退かせながら、アイテムボックスから遺体を取り出していく。

最初は何も無い場所から人間が出てくる光景に驚いていたようだが、知り合いの物言わなくなった姿を見てみんなで泣き始めた。

店主の遺体を見ると、娘さんが縋り付いていた。


(よし、これで最後)


「遺体の傷も治して下さったのですね」


村人たちを自責の念を感じさせる目で見つめていた魔法少女が、お礼を言ってきた。


「まあボロボロの状態だと家族が悲しむかと思ってな。どうせこの後魔法かけるから関係無いんだが」


「この後に魔法、ですか? ………………え?」


魔法少女には答えずに、魔法を発動させた。


「範囲拡大化Ⅱ。『レイズデッド』」


―――瞬間、眩い光が広場を照らした。


太陽光とは違う柔らかさを持つ、一条の暖かい光が天空から広場に差す。

その暖色系の光のあまりの強烈さに、空が青ではなく煤けた黄色に見えるぐらいだ。

光は3秒強ぐらい広場を照らしていたが、()()()()()()()ゆっくりと消えた。


突然の大異変に、村人たちが少し非難するような目で俺を見てくる。

失敬な。一応プレイヤー間でも割と凄い魔法なんだぞ。

村人たちとは違い、流石に魔法少女は同じ魔法使いとして何か予感があるのか、驚愕の眼差しで俺を見ている。

顎で村人たちの遺体を示し、見てれば分かると言外に伝えた。


「う……うぅ……」


最初に起き上がったのはあの店の店主だった。


「お、お父さん!?」


「あ、ああ……スゥ?」


まああのおっさん生命力強そうだったもんな。死んでたけど。

店主に続いて()()()()村人たちが、1人、また1人と起き上がる。


「ほ、本当に……復活……の、魔法……」


魔法少女がその光景を見て愕然としている。


そう。

俺が使ったのは光魔法にだけ存在する、究極の回復技。死者の蘇生魔法だ。

一番ランクが低い蘇生魔法を使ったので、蘇った奴らに微妙に元気が無いが、ぶっちゃけ言うと上位蘇生魔法まで使うのはMPがもったいない。

蘇生魔法は他の回復魔法よりMP消費量が遥かに多い。

復活した後に普通にヒールをかけた方が、MPの節約になるのだ。

玄人光魔法使いの使い分け方である。


全員が目覚めたのを確認して再びヒールをかけた。

ぼーっとしていた復活者たちが元気になる。

周囲を窺った店主が口を開いた。


「な、何だ? これ今どうなって―――」



「あのっ!!!!」



予想外の場所からの大声に俺がびっくりした。隣の魔法少女だ。

魔法少女は俺に決意の宿った目を向けている。

その様子に村人たちも、家族とのまさかの再会から現実に引き戻された。

広場中の視線を集めた魔法少女は、不意に片膝を突いて地面に跪くと、俺に向かって頭を深々と下げた。

地面に額が着こうかという勢いだ。




「お願いします! どうか私を、あなた様の弟子にして下さい!!」




「……………………」


ああー……冗談だったんだがな。マジでこうなったか。

範囲拡大化したヒールとレイズデッドに驚いてたしな。

サポート魔法はこのゲームでは無視されがちだが、使いこなせば一番便利だ。

FFFは脳筋ばっかで俺しかそういうのに頭を使う奴がいないし、サポート魔法の凄さを理解されるのはちょっと嬉しいかもしれない。

……さて。色々メリット・デメリットを考える必要があるだろうが、パッと考えると単純に現地ウィキを手に入れるチャンスであるような気がする。

現地の魔法使いだし、プレイヤーとの魔法の違いを確かめるのにも、有効なんじゃないか?


「―――あっ申し訳ありません! 私の名はニーナ・クラリカと申しますっ。 あ、あなた様が私に力の一端を授け、この過ぎた願いを聞き届けて下さるのなら……。




 ……私は、私自身の全てをあなた様に捧げます。どうか、どうかこの忠誠をお受け取り下さい」




「いや、それはちょっと重い」


「えっ?」


しまった。思わず口に出してツッコミを入れてしまった。

ほぼ初対面の相手にいきなり「私の全部をあなたにあげるわ」なんて言われても……。

まあしかし、さぞかし覚悟が必要な言葉だっただろう。

あんま無下にすると可哀想な気がしてきた。


「い、いや。……別にそこまでする必要は無いと言ったんだ。俺はこの辺り……この大陸についての知識が全く無い。お前がその知識を俺の為に役立てると言うのなら、代わりに俺は、俺の知識をお前に授けてやろう」


「―――! あ、ありがとうございます。…………師匠!」


「気がはえーよ」


「えっ?」


また口に出た。

俺はあくまで「師弟関係ではなく協力関係であろう」と提案したつもりだったんだが、こいつは弟子入りを許可されたと勘違いしたらしい。言葉って難しいよね。


「うーん……。弟子入り云々の話は、先に詳しい話をしてからにしないか? この村の後始末のことなんかも、責任者がいるなら話し合っておいた方が良いと思うんだが。つーかとりあえず1回立て」


「あ……あ、そうですねっ。申し訳ありません」


弟子(仮)が立ち上がるのを見届け、村人たちを見回した。

まあ俺の中ではほとんど側に置いてやっても良いと思っているが、一応契約という物を結ぶ前には、詳細な話し合いと、それによる両者の承諾という工程を踏んでおいた方が良いだろう。

俺はそういうのとにかく気にする。

村人の中に偶然ハンカチの子を見つけた。

こっちを何やらキラキラした目で興奮したように見ている。なんだどうした。元気そうならいいけどさ。


「おい! この村の一番偉い奴は出てこい!」


俺の声に村人たちの視線が一斉に1人に集まった。あれが村長か?

手招きして俺たちの近くに来させる。


相手が年上の上に村長という事で、一応敬語で話しかけようとし……やめた。

人間関係における摩擦の回避という物には、いつか相手からの協力が受けられるようにという打算が絡んでいる。

人間が1人では生きていけない『弱者』だからこそ必要な行為なのだ。

つまり、俺のような物理的強者にはそれを行う必要がない。

1人で何でも解決できる上に、必要になれば力で無理やり従わせる事も出来るからだ。そこに相手の心象なんて物は関係ない。

結局の所、世の中は良い悪いではなく、強いか弱いかだという事だ。

世界の全てを敵に回しても生きていけるだけの力があるのなら……そいつはまさしく、『神』だ。


「お前か。俺は今回の襲撃や今後のことについて、一応俺たち3人で話し合っておいた方が良いと思っている」


「あ、は、はい。確かにそ、そうかもしれません」


「それにつき、とりあえず3人でゆっくり話ができるよう、どこかの部屋か場所を用意して貰いたい」


「わ、分かりました。では…………では私の家でどうでしょう? そちらのクラリカ様が、現在宿泊している場所でもあります」


「ああ。座れりゃどこでもいい。とりあえず、先に村人たちに後始末の指示を出しておくといい」


「あっ、そ、そうですね。では失礼して……」


村長(?)が村人たちに指示を出しに行った。

俺が怪我人の手当ても死者の埋葬の手間も省いてやったから、痛手はほとんど無いだろう。

農具と家屋の修繕ぐらいか。


「あ! あの!」


女の子の声で声をかけられた。今日このパターン多いな。

そちらを振り向くと、商店の娘さんだった。

父親ゾンビの方は、他のゾンビと一緒に状況説明を受けているようだ。


「お、お父さんを助けてくれて、ありがとうございました!」


3回目だ。人生で一番お礼を言われているかもしれない。

そういえば「ごめんなさい」はよく言われても「ありがとう」は滅多に言われない人生を送っている気がする……。

しかも言われてもゲームの中でというのが、余計に哀愁を誘うだろう?


「……別に構わないさ。俺からしたら大した手間じゃないから」


「……あ、あの、あと、お名、お名前を! 教えて下さいっ!」


そういや誰にも名前を言ってない気がする。

ちなみに隣の弟子予定の名前をさっき聞いた気がしたが、もう忘れた。

俺は人の名前を覚えるのが苦手だ。


「俺の名前はハネットだ。名字は無い、ただのハネット。まあ……近所の魔法使い、かな?」



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