プロローグ 白い男
2021.8.25
現在、この作品は改稿版を執筆中です。今読むと二度手間になるのでご注意ください。
初めて書く小説になります。不定期更新ですが、よろしくお願いします。
ゲームっぽい現実世界を舞台に、そこをゲームだと思っている主人公と、現実として生きているキャラたちが絡んでいくシリアス系の作品となります。
それと主人公は“ガチ狂人”なので注意。
――この物語は、ファンタジーではない。
なぜならば、その男を阻む障害が常に「現実」であるからだ。
しかし、だからこそこの物語は「神話」たり得るのである。
それは、神に抗うが故に。
生きとし生ける全ての者よ。
神は見ている。
――これは、君たちの物語だ。
◆
――目を薄く開けると、窓の隙間から差し込む朝陽が見えた。
朝だ。
もう少し寝ていたいと思う気持ちより、ちょうど良いから起きようという気持ちが勝った。
薄い布で作られた布団と、毛皮の毛布をどけて起き上がる。
私の動きに軋みを上げる寝台の上、肩と背中を伸ばして本格的に目覚める態勢に入った。
冬が明けたと言っても、朝はまだまだ寒い。
先ほどの窓から入り込む冷たい隙間風で頭を冴えさせる。
……この村に着いて今日で3日。村長との約束の日だ。
食事を頂いて仕事に備えるとしよう。
---
村の人々の朝は、想像以上に早いらしい。
私が支度を済ませ、村長夫人が出してくれた干し肉と豆のスープ――冬明けで食糧難のこの季節では貴重な食材だ――や硬いパンを食べ終えた頃には、既に外は仕事に向かう人々で賑わっていた。
……どうやら仕事に備えるどころか、寝坊してしまったようだ。
夫人に道を聞き、既に畑に出たという村長を追って村の外に向かう。
言われた農道をしばらく歩くと、村人たちが畑の前に10人ほど集まっているのが見えた。
どうやら
既に私に気付いていたのか、村長が真っ先に出迎えてくれた。
「皆さん朝お早いのですね。お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」
「な!? い、いえいえ! クラリカ様ほどの方が、我々ごときに気を遣われることはありません! それにクラリカ様は、これから村を助けてくれる恩人ではないですか。 ――おい! みんな!」
村長の呼びかけに、少し離れて立っていた村人たちも集まってくる。
「みんなももう知っているとは思うが。――この方が、あの、千年に一人の天才と有名な! 『土の賢者』様だ! くれぐれも、失礼の無いようにッ!」
「あの、村長。そんなに気を遣っていただかなくとも結構ですよ? ……皆さん。今日はよろしくお願いします。村長の紹介の通り、今代の賢者の座を預からせて頂いている、ニーナ・クラリカです」
ニーナ。
それが私が母から貰った名だ。クラリカの方は、賢者の称号と共に師匠から受け継いだ。
私は
普通、
小さく丈夫な体を生かし山脈に住み、採掘に励むか。街で
そしてその歴史故に、
私はその中でも飛び抜けて高い魔力を持ち、その上、土と火以外の魔法の適性まで軒並み高かった。更に運が良いことに、先代賢者クラリカと出会う機会を得て、その弟子になることもできた。
そうして良き師から魔法と知識の両方を与えられた私は、13歳にして賢者の称号と名を受け継いだ。
それから4年。
17歳となった今では、人々から「土の賢者」と呼ばれている。
これは私が
強力な魔法が使えて賢者にもなれば、当然その力と知識を求めて至る所からお呼びがかかる。
今回は国王直々に助力を願われ、迅速に領内最東の街に出向いて問題を解決してきた。
しかし、その旅路で予想外に出費がかさんだ。
そうして結局、途中のこの村まで帰り着く頃には、すっかり路銀を使い果たしてしまったのだ。
村長は私の素性を知って、滞在費はいらないと言ってくれた。だが、賢者の私がそれを甘受する訳にもいかないだろう。
そこで滞在費の代わりとして、働きをもって返す事にした。冬明けの食糧事情に協力する事を、こちらから提案したのだ。
そして、今日がその約束の日である。
「驚いた! ほんとに小さい女の子なんだねぇ!」
「こりゃあ、可愛い賢者さんだ」
最初に反応したのは30代ぐらいの女性。それに相槌を打ったのは、更にその親ぐらいの年齢の老婆だ。
体が小さいのは……実はちょっと気にしているのであまり言わないで欲しい。
その血を半分受け継ぐ私も、これ以上大きくなることは無いだろう。……色んな所が。
「うわぁ、いかにも魔法使いって感じの格好だな」
厚手の防寒着を着込んだ青年は、私の服装の方が気になったらしい。
別に私に限らず、魔法使いはもれなく全員が
まあここは王都から遠く離れた辺境の村でもあるし、彼らは魔法使いというものを初めて見たのだろう。
なぜ魔法使いが揃いも揃っていかにもな格好をしているのか。これにはごく単純な理由がある。
――装備の流通を、円滑にするためである。
装備に秘められた効果は外見を見ただけでは分からない。だから外見で判断できるよう、魔法使いらしく意匠されているだけの事。
別に魔法使いの装備に関わらず、どんな商品にも言える事だろう。例えば小麦粉なら小麦粉だと書かれていないと、怪しい薬物と区別もつかない。
「――んん! あの、それで早速、仕事の件ですが」
「あ、はい! 最初はこちらの畑なのですが……」
本来の目的という逃げ道を使い、始まりかけた私の品評会を早々に終わらせる。
やはり最初は目の前のこの畑からか。
魔法をかける前に、普段どのような状態に畑を作っているのか、詳しく聞いておいた。
「では魔法が終わるまで畑に近寄らないように。それと魔力に酔うかもしれませんので、一応私からも離れていて下さい。 ――それではいきます。【
魔力を練り上げ、一か所に集める。これをそのまま魔法に使うのではなく、一旦杖の【魔石】を通すことで更に魔力を上乗せする。あとは膨大な魔力の塊に、土なら動きを、火なら熱の役割を持たせるだけだ。
杖から茶色い魔法陣が一瞬だけ出現し、拡散する魔力を表すように空気に溶ける。
それと同時、私が最も得意とする土の魔法で丸々一枚の畑が掻き混ぜられ、一度で耕された。
更には独りでに畝まで成形されていく。これがあらかじめ畑の完成図を聞いておいた理由だ。これで後は種を植えるのみである。
背後から、初めて魔法を見たであろう村人たちの感嘆の声が聞こえる。
「――はい。この畑はこれで終わりです。次に参りましょう」
こうして昼までかけ、働き手の少ない家の畑を優先して回っていった。
私の魔力量は他の魔法使いたちより桁違いに多いが、これだけの規模で回数をこなすと、流石に少し疲れが出てきた。
まあ私は魔力の回復速度もかなり早いので、少し休めば元通りだが。
「クラリカ様、今日は本当にありがとうございました。村を代表してお礼を言わせて下さい」
「いえ。これは私の滞在の正当な対価ですので、お気になさらず。まだ数日はこちらに厄介になってしまいますし」
私はこれからの路銀を稼ぐため、数日はこの村を拠点にして近場の魔物を狩る事にした。
魔物や獣から剥ぎ取った素材は割と良い値段になる。それを次の街で売れば、王都まで困らないだろう。余った肉を村人に提供すれば、一石二鳥でもある。
とりあえず今日の残りは、村人たちから周辺の地形や棲息する魔物の情報を集める事にしよう。
村長と少しの挨拶を交わし、私は村への道を戻った。
---
「――あっ、あの、賢者様!」
村に入って早々、私と同年代ぐらいの少女に呼び止められた。
その表情と態度の大部分が緊張に覆われていたが――その裏には、僅かに不安もあるように感じられた。
有名人に記念の握手をねだりに来た雰囲気ではない。どうやら真面目な要件であるらしい。
「はい、なんでしょう?」
「あの、さっき村長と賢者様が出かけられて少ししたぐらいに、魔法使いの格好をした男の人が村にやってきて……」
「魔法使い?」
「はい、凄く高そうな、豪華な白い
私を前にして緊張しているのか、彼女は定期的に言葉に詰まる。それに話も支離滅裂だ。
だが私としてはそれも慣れた反応の1つである。焦らずゆっくり話を聞いていると、次第に彼女の方も落ち着いてくる。
そうして彼女の口から語れた、その魔法使いらしき男とやらの話は――
――非常に、私の興味を惹くものだった。
(なんとも不思議な男だ……)
彼女の話を要約すると、こうなる。
――その男は、一目見て高級な代物だと分かる純白の
顔立ちはこの辺りでは見たことのない不思議な造形で、どう見ても10代の少年にしか見えないのに、髪の毛は
肌はまるで貴族のように日に焼けた跡がなく、しかし白いのに白くないという印象の、不思議な色合い。
その服装と不思議な雰囲気から魔法使いであると思ったのだが、よく見るとなぜか杖は持っておらず……それどころか、荷物一つ持たずに村を訪れたという。
そしてその訪れた方角もおかしいらしい。
その男は東や西の街道からではなく、南の「山」の方から畑の農道を通って現れたと言うのである。
そうして村人たちが謎の余所者に警戒する中……しかし、その男は特に何をするでもなかった。
ただ村の中を散歩して回り、途中出会った牛と戯れ、最後に村唯一の商店に顔を出し、何か買うでもなく冷やかした挙句、自由気ままに南に帰って行ったらしい。
「だ、大丈夫でしょうか。目が合った時に軽く頭を下げられて、思わず私も下げ返してしまったのですが……」
「……いえ、それは多分ただの挨拶なので、気にしなくてもいいと思いますが……」
見た目はともかく、行動を聞くと全く害の無さそうな男である。
最初の警戒と後半の脱力とで微妙な心情になったが、好奇心を原動力に再び頭を動かす。
――さて、彼は何者だろうか。
まず魔法使いとしての視点から彼を考えると、「黄色い魔法陣」というのは使い手が滅多にいないと言われる「光の魔法」の発動時に出現する物だ。
そして
魔法使いの杖は魔力を大量に含む魔石が埋め込まれており、相応の値段となる。
その結果、魔法使いに憧れて格好だけは真似するものの、杖までは用意できないという若者が生まれるわけである。
彼がこれだと仮定すると、二の腕の黄色い魔法陣も「使い手が少なくてカッコイイから」だろう。
その格好と気の抜ける行動から考えれば、なんちゃって魔法使いとでも言える一般人の可能性が高い。
――しかし、その純白の
王侯貴族の服に近い出来だったのだろうか。日焼けもしていないらしいし、本当に貴族なのかもしれない。
それを考えると杖を買うぐらいの財力には困っていなさそうに思える。
まあ最後に店を冷やかしたらしいので、また微妙な所だが……。
――しかし問題なのは、その「容姿」とやって来たという「方角」である。
これまでに見たことのない不思議な顔立ちと肌の色……恐らくだが、人種が違うのではないだろうか。
そう仮定すれば、恐らく髪の色も人種の違いから来る物なのだろう。
だがそうなると生まれる疑問が、なぜこんな辺境の地に、少なくともこの国にはいないであろう人種の人間が……つまり、国外からの訪問者が1人で訪れて来たのかということだ。
しかも通り抜けて街道の続く西か東に向かうでもなく、また南に帰って行ったということは、明らかにこの村自体が目当てで立ち寄ったという事。
そのくせ、やった事はと言えば、散歩して牛と戯れただけだという。
敵国の密偵が何らかの理由で下見に来た……という可能性もあるが、だとしたらこんなに目立つことを良しとするだろうか。……いや、彼自身はただ散歩していただけだが。
そして一番謎で――正直言って不気味なのが、一切の旅の装備を持たずに現れたことと、山からやって来たという部分だ。
この村からは一番近い村でも歩きで4日、私の【
私は魔法が使えるので武器などは持っていないが、旅の携行品を詰めた鞄ぐらいは装備している。なのに服以外一切の装備が無いようだったとはどういうことだろう。食事を必要としない人種など、賢者の私でも聞いたことも無い。
武器の方は先ほどの、彼が魔法使いであるかの是非が是であれば説明が付かないこともないが……杖が無ければ、魔法の効果は大きく落ちる。普通は杖を持つ筈だ。
彼は山から来たというし、もしも彼が山に住居を構え拠点にしているというのなら、その軽装も理解は出来る。……山からもそこそこ距離があるので、水の一つも持っていないのはやはりおかしいが。でも、納得する事は出来るのだ。
――しかし、その「山に住んでいる可能性が高い」事こそが、一番の不気味な点だ。
3日前……すなわち、私がこの村に来た初日。魔物が最も襲って来やすいであろうあの山には、私は既に偵察に行っているのである。
そしてその時に、そこに誰かが住んでいるような気配は――無かった。
――つまり彼は、あきらかに誰も住んでない山から、あきらかにその山に住んでいるかのように現れ、そしてそこに帰る場所が確かに存在しているかのように、帰って行ったのである。
もしや幽霊かなにかだったのではないかと思える話だ。
そういえば魔力の残滓を感じる気がする。
私が数日滞在したために村の魔力は多少濃くなっているのだが、今はその魔力が若干ではあるが更に濃くなっているような――。
「――あ、あの、賢者様?」
「え……? あっ、すいません。少し考え込んでしまいました」
どうやら長らく相槌も打たずに黙り込んでしまっていたらしい。
「やはり、危険な人だったのでしょうか。わ、私たちはどうすれば良いのでしょう?」
「いえ、私から見ても謎が多かったので、考え込んでしまっただけです。――ちなみにですが、貴女はその男を実際に見て、どう思いましたか? どんな男だったかではなく、貴女自身がどういう印象を抱いたのか、です」
「え?」
彼女は私の言葉に、自分ごときの事など聞いて何の意味があるのかと疑問に思ったようだったが、実直に頭を捻ってくれた。そして、答える。
「変な人だったけど――あんまり、悪い人には思えなかった、かな……? なんだか、その……賢者様に似た雰囲気、というか……」
「――私に、ですか」
……まさか、賢者か?
賢者には良くも悪くも変人が多い。そのような者がいても不思議ではない。というか、妙に納得できてしまう。
だが、近隣諸国にそのような見た目の賢者がいただろうか。ほとんどの賢者と面識を持った筈なのだが、少なくとも私の記憶の中には一致する者がいない。
黙った私を見て、彼女は徐々に顔色を青くしていく。私の気分を害してしまったのではと考えたのだろう。ただ思考に耽っていただけなのだが。
彼女が慌て始める前に、口を開く事にする。
「……なるほど、ありがとうございます。少なくとも即座の危険性は無さそうですね。……ですが、あまりに得体が知れないので、まだ近づくのはよした方が良いでしょう。またその男が現れるような事があれば、敵意を感じさせないようさりげなく離れるようにと村の皆さんにも伝えて下さい」
その助言に大げさに感謝を表してくる少女と別れ、滞在先である村長の家に帰って来た。
白い男のことは気になるが、私は明日1日、魔物狩りでこの村を留守にしてしまう。
もしもの時のために、「備え」をしておかなければならないだろう。
――それにしても。
畑からやって来たということは、途中で私たちと遭遇してもおかしくなかった筈だが。
◆
――目を薄く開けると、杉のような木々に迎えられた。
(はい、最悪の出現地点でーす。ありがとうございましたー)
【リスポーン地点】は森になってしまったらしい。
当面の目標である「畑作り」に向いているとは、お世辞にも言えない地形だ。
俺のメインとなる
昔、海のど真ん中に出た時よりはマシだが……できれば見渡す限りの平原とかが良かった。
(ぐええ、しかも寒いのか……)
視界の端に表示された気温を見ると、14度とかだった。
(寒いが、雪は降ってないな……。春か秋か。それともこの土地の年中通しての気候か)
とりあえず、空を塞ぐ邪魔な木々を無詠唱の爆破魔法でぶっ飛ばした。
高さ10メートル弱はあった数十本の巨木たちが、まるで爪楊枝のように容易くへし折れ、吹き飛んでいく。人間に直撃すれば即死だろう。
――魔法を無詠唱化すると、5倍もの
しかしその代わり、使おうと思った瞬間にタイムラグ無しで発動でき、魔法陣の
……まあ俺はただただ、さっさと木を退かしたいだけで無詠唱化した訳だが。
俺は「攻撃系にステ振りするのが安定」と言われているこのゲームで、「MP全振り」という超特殊ビルドをしている。
5倍ぐらい消費しようが構いはしない。この程度の魔法、100万撃とうが1億撃とうが余裕である。
ポーションという名の回復手段だって、畑を使えば半無限に用意できる。
(――へぇ。随分と青い空だ)
こういうのを、雲一つ無いと言うのだろうか。姿を現したそれは、一面が純粋な青に満たされていた。恐らく気候による差なのだろうが、ニホンの空では滅多に味わえない美しさである。
「【フローティング】」
俺の背後に直径2メートル弱ぐらいの白い魔法陣が一瞬だけ浮き出る。魔法を普通に詠唱して使ったからだ。流石に全く意味が無いのに、5倍のMPを消費する気は無い。
日光を遮る天井が無くなり、明るくなったそこから空へと飛び立つ。
実を言うと、森から一刻も早く抜け出したかった。虫が大の苦手だからである。
(つーかいつも外歩いてると絶対俺に向かって虫が突っ込んでくるのは何なの? リス地が毎回糞なのといい、神様の嫌がらせ?)
周りを囲む木々から抜け出し、少し高度を取って周囲を見渡した。
(――しかもめっっっっっちゃ山じゃねーかッ!!)
それもただの山ではなく、壁のように大地を隔てている、山脈だった。
その山脈の麓でも山頂でもなく、中腹の斜めになった大地に立っていたらしい。拠点と畑を作りにくくなる条件の中から、森、山、寒冷地という3つが同時に俺を襲ってきたのである。本格的に誰かさんの嫌がらせなのではないだろうか。
(まあ、これぐらいなら別になんとかなるけどさぁ……)
プレイ初日に海だったマップに大地を作ったという俺の伝説は伊達ではない。
あとプレイ初日に海のど真ん中に投げ出された運の無さも伊達ではない。更には虫にも神様にも好かれている。
山の向こう側を見るために、更に高度を上げていく。
最初の地上から
(とりあえず整地して拠点作って畑作って――ん?)
山脈の向こう側、数キロメートルほど離れた平野に何かを見つけた。なんとなくだが、村のように見える。
(【ズーム】)
視界をズームして観察する。――やはり村だ。
そしてその周りの平原にはこれ見よがしに畑が広がっていた。ぐぬぬ。
作物収穫ランキング、全
(【マップ作成】)
人里離れた山だけあって、この周辺にはモンスターも多いようだ。まあこれについては、後で
情報の確認が面倒臭いので後回しにして、先程の簡易離陸場まで降りる。
とりあえず【敵性オブジェクト】の接近警告だけ【ON】にしておけばいいだろう。
相変わらず虫が怖いので地面までは降りず、空から【地形操作】のスキルで周りの木々を宙に引き抜いた。周りから見たら念力で浮かせているように見えるかもしれない。
とりあえず、空からの目印の意味もあって直径50メートルぐらいの敷地を更地にしておく。引き抜いた木々は【アイテム作成】スキルで木材に加工し保存する。こういった細かいリサイクルがランキングを上げるコツだ。
作業を終え地上に目を向けると、住処を奪われた虫たちが飛んだり跳ねたり大騒ぎをしていた。空に避難していたのは正解だ。
毒魔法で全滅させ、大量の死骸は地面を整地しつつ地下に埋めた。生態系とかは知らん。
これでやっと、安心して降りられる。
全ての作業を魔法ではなくスキルで静かに済ませたのは、近くに村があることを知ってしまったからだ。
もしかしたら作業音が届いて、
(――【拠点作成】。【家屋28】)
システムから【拠点作成】を選び、作った更地の中央に3部屋風呂トイレ付きの平屋を出現させた。
拠点を建てる資金として所持金が多少減る。所持金が
ほんの今まで山中の森だった場所に、こうして一軒家が建っている。
自分で解決できないことは、颯爽と金で解決。
みんな金に汚いことは良くない事だと言うが、俺は金さえあれば様々な問題が解決できる今の社会を素晴らしいと思う。
家に入る前に、モンスターと虫が新しく入って来ないように結界だけ張っておく。
「そういえばここって地震とかどうなんだろう」と耐震強度に思いを馳せながら玄関に入り、適当に一番奥の部屋を自分の部屋と決めた。
【料理】スキルから適当に飲み物を作り、4人がけのテーブルに着いて今後の計画を立てる。
――さて、今回は「ソロ」で、「ロールプレイ」だ。
まずはあの村に行って、現地……
前半がヒロイン視点、後半が主人公視点でした。
次回が1話です。1話からは少し時間を巻き戻しての主人公視点になります。