九州を掘り下げて世界に行き着く 社会部・長田健吾
ジリジリとセミが鳴く季節だった。私は熊本市で、ある不動産関係者の男性に会っていた。外国人相手の土地取引も手掛けていた彼は、九州の離島の広大な土地を巡り、中国企業から「いくらでも出すから買いたい」と持ち掛けられていると明かした。業界内で外国の客が増えていることを淡々と語り、こう続けた。「外国からすれば、日本の土地なんて簡単に買えます。そういう時代になったんです」
8月29日付の朝刊で、外国資本による日本国内の土地買収が加速している現状を報じた。過去10年間で、外資が取得した土地が判明分だけで4倍に増えたこと、特に中国が日本の土地に目を向ける背景、税制面や公共工事などで今後起こり得る問題を2本の記事にまとめた。
「熊本の湧水地が中国の水企業の役員に買われた」-。取材のきっかけは、関係者から聞き込んだ一言だった。なぜ外国企業が。豊富な地下水が狙いなのか。漠然とした疑問や不安から取材は始まった。
土地の登記を確認すると、確かに熊本市中心部の湖に隣接する湧水地を中国人と思われる人物が取得していた。その後、中国の企業情報が載った資料も入手。登記に記載された住所には水資源の投資会社があり、湧水地を取得した人物は同社の理事だった。
水目的だとしても、どうしてわざわざ熊本の土地を買うのだろう。同僚や先輩記者と共に関係先への取材を進めていくと、こうした土地買収が全国各地で急速に広がっていることが判明。福岡では国定公園まで外資に買収されていた。
データが存在するもののうち約4割は中国。背景には、米中貿易摩擦や中国国内で起きている不動産バブルがあるようだった。見えてきたのは、諸外国と比較しても規制の緩い日本が投資の“標的”になっている現状だった。
今回の取材で意識するようになったのは「ローカルとグローバルはつながっている」ということ。熊本や福岡で起きている出来事も、掘り下げていけば世界的な問題へと行き着き、地域や国が抱える課題を浮かび上がらせることができる。
果たして今回、外資による土地買収の実相にどこまで迫れたか。今後起こり得る事態への警鐘になったのかどうか。正直に言って分からないが、だからこそアンテナを張り巡らし、取材を続けようと思っている。
今後も地域の課題をグローバルな視点で考えるという姿勢は忘れずにいたい。それがローカル紙で働く記者の役割であり、強みだと思っている。
おさだ・けんご 神奈川県出身、2017年入社。社会部、熊本総局を経て8月から社会部で福岡県警を担当。27歳。
15~21日は新聞週間。今、伝えるべきことは何か。紙面で、インターネットで、どう発信していくか。悩みながら、走りながら地域に、社会に向き合う記者たちが思いをつづります。