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原発事故控訴審「二つの争点」…東電旧経営陣の刑事責任、再び判断

読売新聞 / 2023年1月16日 8時19分

勝俣恒久・元会長

 東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、1審・東京地裁で無罪となった東電旧経営陣3人の控訴審判決が18日、東京高裁(細田啓介裁判長)で言い渡される。巨大津波を予測して未曽有の事故を防ぐことはできたのか。同じ論点が争われた民事裁判で結論が割れる中、高裁が刑事責任の有無をどう判断するのか、注目が集まっている。

 「被告らの責任を否定することは正義に反する」

 昨年6月6日に行われた控訴審の公判。結審日となったこの日の弁論で、検察官役の指定弁護士は勝俣恒久・元会長(82)、原発担当役員だった武黒一郎(76)、武藤栄(72)の両元副社長を無罪とした2019年9月の1審判決をそう批判し、破棄するよう求めた。

 勝俣被告ら3人は、同原発に巨大津波が押し寄せるのを予測できたのに対策を怠って事故を招き、「双葉病院」(福島県大熊町)から避難した入院患者ら44人を死亡させたなどとして強制起訴された。

 公判の主な争点は、3人が〈1〉巨大津波を予測できたか〈2〉対策をとって事故を防げたか――の2点だ。

 1審判決は、〈2〉について「事故を防ぐには原発の運転を停止するしかなかった」と断定した上で、〈1〉を検討。福島県沖などで津波を伴う巨大地震が起きる可能性を公表した国の「長期評価」(02年)は信頼できないとし、「巨大津波を具体的に予測できず、原発を停止させるべき法律上の義務はなかった」として刑事責任は問えないと判断した。

 1審が、事故を防ぐ手段を「原発停止」という実現が容易ではない措置に限定したことから、指定弁護士は控訴審で「原発停止は最終手段であり、防潮堤の建設や原発施設の防水化といった基本的な対策でも事故は防げた」と強調。一方、弁護側は「1審の判断に誤りはない」として、改めて無罪を訴えた。

民事割れる

 21年11月に始まった控訴審は3回の公判で結審。指定弁護士は、長期評価の策定に関わった元気象庁職員らの証人尋問や裁判官による現場検証を求めたが認められなかった。一方、長期評価を「信頼できる」とした民事裁判の東京高裁判決(21年2月)は証拠として採用された。

 ただ、最高裁は昨年6月、この裁判などの上告審で、長期評価の信頼性や巨大津波の予測の可否は明言しなかったものの、「津波の規模が想定より大きく、事故は防げなかった」と言及。被告となった国の責任を否定する判決を言い渡した。

 ところが、東京地裁は直後の同年7月、東電の株主が起こした株主代表訴訟で、長期評価の信頼性を認めて「津波は予測でき、事故は防げた」と認定。勝俣被告ら3人を含む旧経営陣4人に計約13兆円の賠償を命じた。この訴訟は今回の刑事裁判とほぼ同じ証拠が使われており、刑事裁判の1審とは逆の結論が導き出された格好だ。

 谷井悟司・中央大助教(刑事過失論)は「個人に刑罰を科すかどうかが問われる刑事裁判は、民事裁判よりも責任を認定するハードルが高くなりうる」とした上で、「長期評価の信頼性に加え、事故を防ぐための措置を原発停止に限るのか、より現実的な防水対策などを含めるのかも、有罪か無罪かを左右するポイントの一つになるだろう」と指摘している。

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