パーム油は、世界でもっともよく使われている植物油だ。ポテトチップスがパリパリなのも、洗剤で汚れが落ちるのもパーム油のおかげ。スーパーマーケットの商品の半分、パーソナルケア商品の7割にパーム油が使われていると言うほどだ。近年ではバイオ燃料としても活躍しており、世界のパーム油の消費量は着々と増加している。(参考記事:「実はここにも!身の回りのパーム油を調べてみた」)
一方で、パーム油需要は問題も引き起こしている。なかでも世界の2大パーム油生産国であるインドネシアとマレーシアでは、パーム油の原料であるアブラヤシのプランテーションのために多くの森林が失われた。森林伐採は、土壌や水質の低下、気候変動など、さまざまな環境問題につながる。生物多様性への影響も大きい。森林を伐採してアブラヤシ農園を作ると、哺乳類の多様性は最大90%減少するという研究もある。(参考記事:「パーム油生産で生息地が減少、“愛すべき森の住人”オランウータンの写真10点」)
このようななか、パーム油の代替となる油が注目を集めている。酵母や藻類などの微生物から作られる、微生物油だ。
技術は古くからあった
「科学者が食用油の代替原料を探しはじめたのは、必然に迫られてのことでした」。ドイツのハンブルク工科大学でバイオ工学を研究する、フィリップ・アブター氏はそう話す。
第一次世界大戦の影響でバターやラードが手に入りにくくなったとき、ドイツの研究者たちは、ある種類の酵母も油脂を生成することを発見した。政府は早速2つの専用工場を建て、高脂肪ペーストを生産した。油脂の代わりにパン生地に入れたり、バターの代わりにパンに塗ったりするものだ。
しかし、戦争が終わって十分な植物油や動物油が得られるようになると、この手法は姿を消したという。
ところが近年になって再び、パーム油の代替として環境に優しい微生物油が注目されるようになった。しかも、代替の可能性は他の植物油よりも高いと見られている。
「実は、この手法はとても古いものなのですが、産業として確立されたことはありませんでした。私はその点をいつも不思議に思っています。とても有望な技術なのですから」とアブター氏は話す。
小さな屋内スペースがあれば、微生物はすぐに増殖するので、質の高い油を作ることができる。実際、微生物を育成してパーム油に近い油を生産しようとしている新興企業がいくつかあり、アブター氏も、「Colipi」という会社を共同で設立している。
とはいえ、パーム油に勝るのはかなり難しい。そもそも、アブラヤシはきわめて収穫効率のよい作物なので、ほかの油よりもはるかに安価だ。1ヘクタールのアブラヤシ農場で生産できるパーム油は年間3.74トンと、他の食用油の6倍以上に相当する。また、熱帯地方のアブラヤシはさまざまな土壌で育つうえ、最大で25年も収穫できる。
さらにパーム油には、ほかにはない特徴もある。パーム油に含まれる飽和脂肪と不飽和脂肪の量がほぼ同じなので、化学的に非常に安定しており、そのため加工食品はとても長持ちする。
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