昨年10月19日に自身のYouTubeでトランスジェンダー(性同一性障害)であることをカミングアウトした、マジシャンの魔法使いアキット(34)のストーリーマジックライブ「魔法使いの頭の中~雪の降る音~」が7日、東京・恵比寿のシアター・アルファ東京で初日を迎えた。11日まで7公演が行われる。
初日公演に先立ち、アキットが会見した。自身のトランスジェンダーについて「生まれてきた心の性と身体の性が違った。男性として生まれたが、心は女性。10代の頃には生きることをやめてしまおうとも思ったけど、4歳の時からマジックをやってきたので、魔法使いアキットを演じて生きようと思ってやってきた。限界が来てカミングアウトしたのではないです。アキットとしてやりやすくなると思ったから」と説明した。
現在では、魔法使いアキット、そして本来の自分である女性の愛樹(あき)として、2つの生き方をしている。
「愛樹というのは、生まれてくる前に女の子だと言われて、母が考えてくれた名前。だから芸名にも『アキ』を入れて、あとは『ポケット』から取ってアキットにしました。普段は女性の愛樹として過ごしていますが、カミングアウトしても、僕にとって一番大切なのはアキット。それは変わらない。身体は1つだけど、舞台に立つ僕と、バックヤードで愛樹として生きる2つの人生がある。愛樹をステージ上で出すことは、まだ出来ない。ただの素人女性ですからね」と話した。
カミングアウト後は昨年12月に故郷・長野公演。東京では初めての公演となる。ステージでは子供たちにマジックを見せるホームレスを演じる。「気合を入れて準備して来たので、たくさんの人に楽しんでもらえるように頑張ります」と意気込んだ。
LGBTQと言われる性的マイノリティー(少数者)に対する社会的な理解が進む中での告白。「保育園の時から何か違うと感じていて、中学生の時に『自分は女なんだな』と思いました。母、姉には16、17歳の頃に言いました。家族は、僕の行動が女性じゃないかと思っていたので『そうなんだな』と受けとめてくれた。女の子として見てくれた。今回、公表するにあたって母に言ったらびっくりしてたけど、納得してくれました」。
LGBTについて「レズ、ゲイ、バイ、トランスジェンダー、クエスチョナーと、多様性と言うかいろいろありますが、僕は男性が好きです。心の中身は、まんま女なのでゲイでありません。女性としてシンプルに男性が好きです」。
この日、会場には男性の格好でやって来た。「僕にはアキットと愛樹のツーパターンがあります。今日はステージ上のアキットではなく、素のアキットとしてやって来ました。イベントが終わっても、素のアキットを生きていることがあると言うことです。告白して楽になったり、世界が変わったこともあります。出来ることが広がった半面、忙しくなったなという感じです。愛樹とアキットはやりたいことが別ですからね。それと、生まれてきたのが男性ということは消えない。戦っていかなくては、やらなくてはという気持ちですね」と話した。
カミングアウトしたことに対するファンの反応について「もともと中性的だったので、変わらないという声もあるし、戸惑う声もある『俺は』より『僕は』という感じでしたからね。みんながいなくなってしまう怖さもあったけど、だまそうと思って生きてきたわけじゃない、正直に生きてきた。逆に皆さんが理解してくれるのが早かった。それにびっくりしました」。
今後の作品作りも幅が広がった。「出来なかったことが出来るようになった。今までアキットとしての活動で、セクシャリティーについては避けてきた。うますぎちゃうと変なので、女性を下手に演じていた。今までは、ひげを付けることも苦しくて避けていたけど、振り切ることが出来た。この舞台の役は『おじちゃん』と呼ばれるんですからね。ホームレスをおじさんとして演じて、楽しくなってきました。エンタメとしても、この自分を生かすことができるんじゃないかと思っています」と話した。
自身の身体のことについて聞かれると「今は、身体のことはお答えはしていません。演じているイメージを崩したくない部分もあるので、今は公表していません。そこが謎なのかしれませんね」と笑った。
ステージ上のパフォーマンスは1時間25分。「今回はマジックと演技。マジックの数として7つくらいのシーンがあります。再演ですけどリメーク。前回と違うマジック、演目がたくさんあります。かなり変わっています。ファンに対して、ここであえて説明することはしません。ホームレスのおじさんの格好で言っても説得力がないですからね。だけど、舞台で新聞を拾って読んで『マジックがトランスジェンダー告白か』というのがあります」
脚本、演出。衣装、セットデザイン、フライヤー制作と全て自分自身、1人でこなす。アキット、愛樹だけでなく、たくさんの人生を生きている。