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2005年8月 7日 (日)

劣等感

 小中学生の時、同級生のTのことを「すげ〜」と思っていた。
 技術の時間、椅子を作った。彼の作っている椅子のホゾは完璧であった。彼が「わははっ」と笑いながら押し込むとじんわり入って行った。しっかりした、売っているような椅子が出来た。
 絵が上手だった。彼が「わははっ」と笑いながら絵筆を振り回すと、サクサク素晴らしい絵が出来上がる。
 Tの家には当時最新鋭のパソコン、シャープMZ80Bがあった。彼が「わははっ」と笑いながらプログラミングするとMZ80Bは彼の意図したように動いた。
 足が速く、運動会ではヒーローだった。スポーツ万能だった。
 彼には無線機と無線免許があったので、世界中と通信が可能だった。
 ギターやドラムが出来た。彼が「わははっ」と笑いながらギターを持つと、ギターがただの物ではなく楽器となる。
 多分一番羨ましく思っていたのは、「わははっ」と笑いながら女の子と屈託なく話していたことである。中学時代の△11にとって女の子はエイリアンに近い生物であり、前向きな内容で意思疎通出来るとは思いもしなかった。

 彼に対しては、ずっと劣等感を抱いていたと思う。
 彼は一体何が「出来ない」のであろうか、彼は「負けた」と思った時どんな顔をするのであろうか、というのが△11が中学生の時無意識に持っていた疑問である。

 Tの内申点はほぼいつもオール5だったと思う。高校は二群からA高校に進学した。名古屋の少し年配の人にしか分からないと思うが、要するに当時の名古屋で一番のエリートコースである。
 △11はそんなコースとは無縁である。それでも「絶対不合格です」と担任に言われながらかなり無理っぽい市立M高校を受験し、合格した。ありがたい気持ちで3年間過ごせた。

 大学受験で、△11はひょんなことから成績が上がり、静岡大学に現役合格した。

 その後会う機会があり進学先の話になった時、彼は一浪で名工大に進学したとのことだった。同レベルの大学で現役と一浪である。初めて「勝った」と思った。△11の進学先を聞いて、彼は全く昔のまま「わははっ」と笑って「良かったなぁ!」と言ってくれた。

 正直「負けた」と思った。

 彼にとって、勝負などはどうでも良かったのである。Tの椅子のホゾが完璧に出来たことはTにとって喜ぶべきことだから笑っていたのである。△11が行きたい学校に行けた、それはT自身にとっても喜ぶべきことだから笑って一緒に喜んでくれたのである。10年前△11の椅子のホゾが完璧でも、きっと彼は「わははっ」と笑って「良かったなぁ!」と喜んでくれただろう。
 そして、この「負け」はとてつもなく気持ちのよいものだった。「勝ち負けなんかどうでも良いのだ」と目が覚めるような思いがした。素直に自分の出来たことを喜び人の出来たことを喜ぶその素晴らしさはいかばかりであるか。以来△11の勝負へのこだわりはぐっと薄まった。

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コメント

△11さん
ほんと、目先の勝負だけにこだわるのって、つまらないですね。
今の中学、高校生は目先の勝負だけに振り回されて、ちょっと将来が心配です。もっとTさんのように大らかにいきましょうよ、と言いたくなりますが、現実にテスト、テストで追いまくられていると、その余裕もなくなるのでしょう。
中学時代に勝った負けたと言っても、卒業して何年も経てば、そんな事はどうでも良くなるのにねぇ、と思ってしまいます。結局最後には人柄です。
もっとも中学生や高校生の頃に、人柄を見抜く力なんてありませんけどね。

投稿: yuko | 2005年8月 7日 (日) 14時25分

》目先の勝負だけにこだわるのって、つまらない

 多分高校生までは目先しか見えないのではな
いですかね。

 今でも同じかどうか知りませんが、当時は文
系の大学は非常に卒業するのが楽で、4年間遊
び呆けることが出来「執行猶予」等と言われ、
一般には批判の対象でした。しかし△11の場
合はこの時間に色々考えて色々なことが分かっ
た、というところがあって「執行猶予」も悪い
ばかりではないと思っています。

 だから今の中学生高校生に関しても「目先」
ばかりに気を取られずに長い目で見て行くこと
が必要かな、とも思います(^_^)

投稿: プリズム11 | 2005年8月 7日 (日) 16時36分

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