1 ホグワーツからの手紙
穏やかな海に面した海岸沿いに、小さな街がある。
活気のある市街地から離れれば、絵のように美しい田園地帯が広がっている、平和そのものといった街だ。
緑豊かな自然の中、春の暖かい空気を切って箒が空を飛んでいる。
箒の上に腰かけているのは、黒いドレスにとんがり帽子を被った
金色の髪をなびかせながら飛ぶ彼女は、家の前に降り立った。
少女が箒と共に着地させると、ちょうど家の中から人が出てくるところだった。
現れたのは彼女によく似ているが、もっと大人びた女性。彼女の母親だ。
その女性はとびっきりの笑顔を浮かべている。
「魔理沙、ちょうど良かった!」
何やら、とっておきのプレゼントがあるようだ。
少女が首を傾げていると、彼女は顔を近づけて耳元でこう囁く。
「ホグワーツから、あなた宛に手紙が届いたわ」
ホグワーツというのは魔法使いの学校のことだ。
イギリスで、いや世界でも由緒正しい魔法魔術学校である。
11歳の誕生日になるまでに魔法の才能を示すと、入学の手紙が届く。
入学を許された生徒は、全寮制のこの学校で7年を過ごした後、晴れて魔法使いとなることができるのだ。
満面の笑みを浮かべる彼女から渡されたのは、一枚の封筒だった。
各学生寮を象徴する4匹の動物が描かれた紋章に、ホグワーツの頭文字『H』の赤い封蝋(封をするやつ)で封がされてある。
間違えるはずががない、これはホグワーツからの手紙だ。
つまり――
「ホグワーツ入学、おめでとう!」
ところで。
今しがたホグワーツ入学を祝福された、幸せ一杯の笑顔を浮かべた少女は一体誰なんだ?
――そう、11歳の私だぜ。
◇
暖炉を抜けると、そこは街の大通りだった。
大きさも形もバラバラな店や家が道の脇にずらりと並んでいる。そこの大通りの至るところに、魔法使いが溢れている。
誰かと食事をしていたり、お買い物をしていたり、人それぞれのことをしている。
こう見ると魔法使いといっても普通の人間、マグルの街で見られる光景とそう大きくは違わない。
もっとも、店に入れば話は別だが。
ロンドンの大通りには絶対にないであろう、フクロウやネズミが愉快に鳴くペットショップや、色とりどりのローブにとんがり帽子の服屋、純金やら真鍮やらの大鍋がいたる店に勢ぞろいしている。
「ここがダイアゴン横丁よ。魔理沙と来るのは久しぶりね」
「ちなみに久しぶりって、どのぐらい前なんだ?」
「10年ぶりぐらいかしら」
私、1歳じゃないか。
そりゃあ、覚えてなくて普通だ。
「とりあえずは制服ね。そこの店よ」
お母さんが指さした先には、『マダム・マルキンの洋裁店』という看板の書かれた店があった。
「採寸の間、私はグリンゴッツ銀行で換金しようと思うのだけど。1人で大丈夫?」
「問題ありませんよ」
私も昨日から11歳なので、もう子供じゃない。
そう答えるとお母さんは「そういう所が子供なんだけど……」とでも言いたそうな顔だったが、笑顔で手を振って去っていく。
「さて、行くか」
私は古めかしい扉を、ゆっくりと開けた。
はじめまして! まずは本作を読んでいただき、ありがとうございます。
ハリポタと東方のクロスオーバーの小説を読んで「私もこんなの作ってみたい!」となりノリで書きました。
楽しんでいただければ幸いです!