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DANGER BRINGER ZINGER【前】

DANGER BRINGER ZINGER【前】 - 70の小説 - pixiv
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10,917文字
ザップと一般人彼女シリーズ
DANGER BRINGER ZINGER【前】
ザの恋人が弟弟子と少年とお出かけする話前編。名前変換あり。
ちょっと長くなったので前後編に分けました。前回よりもザが空気です、すみません。

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https://wavebox.me/wave/9nl53z8mf0q9ot8o/

表紙はらこぺ様のillust/83117578よりお借りしました。
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2022年7月10日 11:10

「何食いましょうかね。今日はなんでもいけますよ」
「そうですね。今日はあの人がいませんから」

 ある日の昼下がり、ライブラの新人であるツェッド・オブライエンは同僚のレオナルド・ウォッチと共に、かつてマンハッタン区と呼ばれた街の一角を歩いていた。旧ミッドタウンの面影を多く残しているという──ツェッドのボスにあたる人物の執事が教えてくれた──このあたりは、大崩落が起きて三年経った今でも多くの商業ビルが立ち並び、ヒューマーもビヨンドもそれなりにしゃんと歩いている。昼休憩のため事務所を出てきたツェッドとレオが浮いている様子もない。
 大通りの信号が赤になった。レオが「今頃スティーブンさんにきりきり働かされてんでしょうね」と笑いながら足を止めた。ツェッドもその隣に並んで立つ。今日はツェッドの兄弟子であるザップ・レンフロが別の仕事でいないため、先日のような悲劇──レオ曰く「フード・パニッシュメン」──は起こらなさそうだ。

 ツェッドはその身の上から、人界・異界共にあまり食に詳しくない。レオのほうも食事の拘りは少ないようだった。そのためなんだかんだで、自己主張の強い──否、自己主張しかしないザップが昼食をとる店を決めることが多かった。
 恐らくレオは今ツェッドに気を遣っており、これといったリクエストもしてこないだろう。しかしまだヘルサレムズ・ロットに来たばかりのツェッドに、パッと頭に浮かぶものはない。
 そもそもこれまでのツェッドには「外食」という習慣がなかった。人生の大部分を伯爵の屋敷の水槽で過ごし、そこを出てからは師匠である裸獣汁外衛賤厳と修行の日々だった。この数年ツェッドが何を食べて……というよりどう生きてきたかは、ツェッドにとってもある意味苦痛を伴うので、記憶を掘り起こすのはやめにしたい。

「あれ、レオじゃん」
「ぉわっ
ナマエさん」
「おいなんだその反応」

 考えるだけで頭痛がしそうな修行の日々からツェッドが我に返ると、一緒に歩いていたレオが見知らぬ誰かに絡まれていた。見た限りではただのヒューマーの女性である。だが白昼、しかも街のど真ん中──それもなかなかの大通りだ──でヘッドロックをかける人間を見たのは初めてだ。
 慌てて間に入ろうとしたツェッドと、レオに腕をタップされている女の目が合った。

「あ、もしかして例の新人さん?」
「そっか、
ナマエさんツェッドさんに会うの初めてですよね」
「うん。噂はすっごい聞いてるけど」

 女はレオの首から腕を離し、ツェッドに向き直った。解放されたレオが首をさすりながら「ナマエさん、ツェッドさんっす。ツェッドさん、この人はナマエさん」と二人に互いを紹介した。名乗ってから迷いなく「ナマエミョウジです、よろしく」と手が差し出され、ツェッドも「ツェッド・オブライエンです」と返し、その手を握り返した。
 手を離したツェッドは失礼には思われない程度に
ナマエを観察した。このヒューマーはいったい何者だろうか? そしてレオとはどういう関係なのだろうか? 一般人のようにしか見えないが、彼女からは何か逆らいがたい“圧”を感じるような、そうでもないような。ツェッドが「お二人は友人ですか?」と聞くと、ナマエとレオが顔を見合わせた。

「友人……なの?」
「俺に聞かないでくださいよ。俺もわかんないすけど」
「知り合いがしっくりくるよね」
「ただの知り合いにヘッドロックかけないでください」
「めんどくさいなー。じゃあ友達で」
「『じゃあ』ってヤメテ! めんどくさがらないで! ちゃんと友達にして!」

 今度はレオが縋るようにナマエに泣きついた。ナマエがそれを見てけらけらと笑った。とにかく二人は友人関係であるようだ。それもかなり仲が良いと見える。
 レオを小突いて遊んでいた
ナマエが「まあこんな感じ。でも仲間じゃないよ」とツェッドに向き直って言った。さりげない一言だったが重要だ。つまり彼女は「ライブラのことを知っている」けれども「ライブラの人間ではない」らしい。上手い言い方である。ツェッドを「新人」と言い当てていたということは、事務所に出入りしている知り合いでもいるのだろうか? その疑問の答えは、すぐにレオから得られた。

「あ、そんでザップさんの彼女っす」

 ツェッドの思考回路が緊急停止した。信号が青になるのが見えたが、ツェッドは微動だにしなかった。いやできなかった。ただ唖然と眼前の女を見つめていた。

「あら、フリーズしちゃった」
「いやあ気持ちはわかりますよ。俺らも初めて聞いたとき、みんな時間止まりましたもん。俺なんてクラウスさん騙すための嘘かなって」
「レオってときどきすごい正直だよね」

 たっぷり五秒かけて再び我に返ったツェッドは、改めてナマエを見た。顔を上げたナマエに「すみません。兄弟子が特定の誰かと交際するとは思っていなくて……というか、あの人と交際する方がいることも驚きで……」と言ってから、ツェッドはハッと気づく。慌てて「今のは貴方にも失礼でした。申し訳ない」と謝ると、ナマエがぱちりと目を瞬いた。そしてふき出すように笑った。

「言われすぎてなんも思わないんだけど、そうだね、今の気遣いは嬉しかった。ありがとうツェッドくん」

 信号はまた赤になり、そして青に変わろうとしていた。ナマエが「昼休憩? わたしもだから、よかったら一緒にどう?」と言った。彼女はレオだけでなくツェッドにも微笑みかけていた。

 その後、ツェッドたちは馴染みの「ダイアンズ・ダイナー」へやってきた。つい先日異界人が乗り込むパワードスーツに突っ込まれて大破したはずなのだが、すっかり元通りになっていた。ビビアンもマスターもいつもと同じように働いている。
 ヘルサレムズ・ロットでは大なり小なり、表立ってなり水面下なりで常に何かしらの事件が起きており──異境都市ではなく「混沌」に振るべきルビである──週に数回はどこかの建物、時には地区が破壊されている。そのため人間・異界人問わず、職人の腕や最先端の建造技術がめざましく進歩しているのだと、ツェッドに教えたのは顔に疵のあるライブラ副官だった。

 ツェッドとレオは出来上がりがはやいいつものセット、兄弟子の恋人であるという女はステーキを頼んでいた。最後に運ばれてきた鉄板に笑顔を見せ、ナマエは両手を合わせた。ツェッドには初めて見る動作であった。レオは特に疑問には思わなかったようで、懸命にハンバーガーを口に押し込んでいた。

「エッじゃあそのヘッドフォンみたいなのないと呼吸できないの?」
「ええ、一応は。他にも方法がないことはありませんが、対策なしに陸での呼吸はできませんね」
「うひゃ~大変だね……そこまでしてヘルサレムズ・ロットにいる理由は、やっぱりミスタ・クラウスの人柄? まさかザップと張り合うためじゃないでしょ?」
「……それは、ですね……」

 師匠のもとを離れ──正確には師匠が勝手に消えたせいで──ライブラに所属した経緯を思い出し、ツェッドはスパゲッティを前にナマエから目を逸らした。人生で一番長かったあの日はそうそう忘れられるものではない(と思いつつも、正直ヘルサレムズ・ロットで起こる出来事は濃度が高すぎて、そのうち埋もれてしまうかもしれない)。
 ツェッドの顔を見たレオが「あっやめたげてください、それ以上掘り返すのは」と言った。
ナマエが「え、ごめん嫌なこと言った?」と狼狽え、心配そうにツェッドの顔を覗き込む。ツェッドは首を振って「いえ、何も」とスパゲッティを食べる手を再開した。レオは既にハンバーガーをたいらげて、パスタをフォークでくるくると巻き始めている。

「えっと……まあ、力になれることがあれば言ってよ。この街はレオより長いし」
「お気遣いありがとうございます」
「いーえー。ザップが世話になってるからね。あ、あいつにムカついたら遠慮なく殴っていいよ」
「いえ、殴りはしませんが……」

 切り分けたステーキを口に詰め込むナマエを、ツェッドはじっと見つめた。まだ出会って数十分だが、やや血の気が多そうな部分を除けば、ナマエは概ねいい人のように思えた。それなのに、何がどうなってあの兄弟子と交際しているのだろう? いくら考えてもツェッドには理解できなかった。しかしそれを正面から聞くのは、些か無礼である。
 不意に
ナマエがぷっとふき出した。肩を揺らして笑うナマエにレオが「どしたんすか」と言った。存外冷静な声だった。

「いや……ツェッドくんさ、あんまり嘘吐けないでしょ」
「え?」
「顔に『こいつなんであんな男と付き合ってんだ正気か?』って書いてあるよ」

 ツェッドはドキリとした。一言一句とは言わないが、疑問自体は正しかったからだ。スパゲッティを呑み込んだツェッドが「そこまで酷いことは思ってません。ただ正直、何故だろうとは思ってます」と言うと、ナマエは「ほんと正直だね」と愉快そうに笑った。もしや今のは否定すべきところだったのだろうか? 本人が話題に出したので、てっきり触れていいものだと思ってしまった。
 しかしツェッドの不安をよそに、レオも「いやーわかる。俺もなんでだろうって思ってますよ」と隣で何度も頷いた。
ナマエは「なんでだろうねえ」と肩をすくめ、つけあわせの野菜を食べた。それが本当に彼女にもわからないのか、適当に誤魔化しているだけなのか、ツェッドには見分けられなかった。

「……あ、そうだ。レオ、今週の土曜空いてる?」

 ふとナマエが思いついたように切り出した。紙ナプキンで口元を拭っていたレオが目を細めてナマエを見た。どこか不安そうに「……なんか用事すか?」と言ったレオに、ナマエが「内容聞いてから判断しようとすな」とチョップを入れる。それとは反対の手で携帯を操作したナマエは、ツェッドとレオに画面を見せた。

「これは?」
「パンケーキ」
「朝食で食うヤツですか?」
「そう。でも最近はスイーツっぽいのもあるんだって」

 差し出された携帯には似たような写真がずらりと並んでいた。どうやらSNSの類のようで「パンケーキ」で検索をかけているらしかった。
 ツェッドがこれまで見たことのあるパンケーキは、目玉焼きやベーコン、ソーセージと一緒に出てくるような、平べったいものだった。ところがこの画面には、生クリームやらチョコレートやらフルーツやらと、様々なトッピングが乗せられている。数枚重ねられているものもあれば、そもそも薄くない──数センチの厚みがありそうなものもあった。

「嫌です」

 ナマエが口を開く前に、レオがきっぱりと言い切った。それを聞いたナマエがすぐに「まだなんも言ってないじゃん!」と抗議した。しかしレオは「どうせこれ食べに行きたいって言うんでしょ。わかってますよ。俺絶対嫌ですからね!」と頑なに拒否の態度を示した。何がなんだかわからないツェッドは、フォークを片手にナマエとレオを交互に見る。

「そこをなんとか……レオ様!」
「嫌ですよお……前回死にかけましたもん」
「あれはわたしのせいじゃないじゃん」
「でも行きたいって言ったのそっちじゃないすか」
「最終的に行くと決めたのはミスタ・ウォッチでは?」
「あんたが有無を言わさなかったんでしょうが!」

 ツェッドは再びスパゲッティを食べ始めた。難色を示し続けるレオに、ナマエが「奢るから!」と両手を合わせた。食事前にやったのとは違う意味を持つらしいことは、ツェッドにも予想できた。するとレオが「……パンケーキでしょ?」と言いつつ、ちらりとナマエの携帯に目をやる。
 好機とばかりに
ナマエが身を乗り出し「見てこれ。ほら、めっちゃボリュームあるよ。探せばスイーツっぽくないのもあるよきっと」と画面をスクロールした。確かにこれを見る限りでは、相当腹に溜まりそうだ。
 風向きは変わりつつあった。レオは明らかにちらちらとパンケーキの写真を見ていた。そういえば日付的には本来土曜であるはずの給料日が、カレンダーの関係で今月は来週の月曜になっていることを、ツェッドは思い出した。

「……午前中はバイトなんで、昼からなら……」

 レオの決意は呆気なく散った。ナマエが満足げに「よし、なら土曜の一時ね」と頷いた。
 ツェッドはそんな茶番を見守りつつ、黙々と昼食を食べ進めていた。綺麗にたいらげたスパゲッティの皿を少し前に押し出し、かわりにハンバーガーを手に取った。そして口を開けたときだった。

「で、ツェッドくんの土曜の予定は?」
「特にないので、図書館へ行ってみようかと」
「じゃあツェッドくんも一緒に食べに行こうね」
「……えっ?」

 ツェッドはハンバーガーを持ったまま固まった。ナマエに話を振られるまで、今の会話にツェッドは一度も混ざらなかった。それなのに何故誘われ……いや強制参加になっているのか?
 レオを説得する間に、
ナマエもまたステーキを食べ終わっていた。物凄い速度と器用さである。水を飲み切ったナマエは空のコップを置いて立ち上がった。ツェッドが慌てて「ちょ、ちょっと待ってください」と引き止めるも、ナマエは「そろそろ戻るわ。レオに連絡するから、ツェッドくんはそっちに聞いてー」と言い、金を置いて——恐らく三人分ある——去っていく。ビビアンと楽しげに挨拶を交わしたナマエは、ツェッドとレオに手を振りダイアンズ・ダイナーを出ていった。

「……僕、行くとは言ってないんですが」
「そういう人なんです……」

 呆気に取られるツェッドの肩を、レオが慰めるように叩いた。ツェッドの手にあるハンバーガーからレタスの切れ端が落ちた。

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