Paperplanes at Twilight.②
イーデンパロのロイヨルのお話の第二話です。
皇帝の学徒ロイド(17)✕教育実習生ヨル(22)のIF。
まだ恋は始まってませんが、今後ロイヨルになっていく予定です。
カレンはロイドの元カノ、一瞬だけ行為の匂わせあり。
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4.Forger.
フォージャー君、お母様からお電話ですよ。寮住まいの職員が部屋のドアを叩くのに呼ばれて降りていく。各寮には多くの寮生が暮らすが、その大半は大部屋や相部屋での共同生活。ただし、皇帝の学徒だけは、個室住まいを許されている。
そろそろ夕食の時間。普段なら少し頭が疲れたタイミングで糖分を補給して調子を整えるが、今日はそれをひとに譲ってしまったから、さすがに食事が待ち遠しい。
……学内で迷子になっていた、教育実習生。いかにも素直で、疑いを知らないような成人女性だ。あんなにあっさりこちらの言うことを真に受けてしまうとは、ずいぶん甘く生きてきたんだろうか。話してみれば真摯で一生懸命だがどこか空回る、歳の割に幼い印象が残っている。
(わざわざ実習先にイーデンを選ぶくらいだ、どこかの資産家のご令嬢とか?)
いずれにせよ、彼女と近づけたのは運がよかった。なにせ、彼女が現在住んでいる教員寮の部屋は、標的の寮長の部屋の真下だ。
監視の厳しい教員棟だが、どうにかして彼女の部屋に行くことができれば、そこから上に上がるのはたやすいだろう。
思案しながら階段を降りて、談話室に備えられた電話の受話器を取る。
「ハイ、マム。なに?」
『こんにちは、あるいはこんばんは、エージェント〈黄昏〉。追加任務だ』
「学校生活に支障が出るようなお願いされても困るよ。ねえマム、ボクの成績下がったらどうしようか」
うんざりとしたため息で、電話の向こうでロイドの義母 シルヴィアが「そのマムと呼ぶのをやめろ」と苦々しい声で言うのに、ロイドは軽く笑うだけだ。
「いやだな、マム。ボクなにか間違ってる?」
『マム』は母親への呼びかけではあるが、女性上官へ向ける敬称でもある。間違ってはいないが、もちろんロイドはそれをわざと口にしているし、向こうもだからこそうんざりしているのだが。
『もちろん皇帝の学徒を維持するためには遅刻欠席素行不良はご法度。だが、野暮用くらいはこなせるだろう? メインの標的への接触も時間がかかっているようだし、お前が暇を持て余して困ってるんじゃないかと思ってな。後で使いを送る、詳細を確認次第動くように』
「あはは、お気づかいありがとう。余計なお世話だけど、ちゃんと受け取るよ。……ところでマム、最近教育実習生が来たんだ。ヨル・ブライアさん、てどこか繋がりあったりする?」
『聞き覚えの無い名だが、必要なら調べておくか?』
「うん、よろしく。あの人に関してはもうしばらく待っててよ、いずれ朗報を届けてあげる」
電話越しの親子の会話はつつがなく終わった。生徒側の受け答えを外から聞けば、であるが。
実際は、彼と義母は親子ではなく直属の上司と部下であり、教官と訓練生だった過去があるだけだ。普段はもう少しは事務的な話し方も何もかも偽装の下に沈めて、その少年は、ほんの少し生意気な上流階級の子息の立ち振る舞いの演技をなぞる。
まあ、ここにいる間くらいは、いつも無茶ぶりばかり押しつけてくる上官への意趣返しに言葉遊びをするくらいは許されてもいいだろう。
西国に、とある組織がある。政府からの支援と一般からの寄付で成り立つ、という建前のその慈善団体の活動には、孤児を保護・育成し各方面へ送り込む、という側面も含まれていた。生活を保証された環境で育った子供たちは、成長と能力に即した仕事の斡旋と住居の確保、働きに応じた賃金が約束され、一人前になれば独立するようになる。
より優れた才を持つ子供には、それにふさう活躍の場を。そのために必要な教育と訓練を。
ロイド・フォージャー。
歴史ある東国の伝統校イーデンの精鋭 皇帝の学徒の席に座る彼は、東国の将来を担う子らの学びの庭に送り込まれた、西国の少年諜報員である。
その夜にはロイドは寮を抜け出して、バーリントのダウンタウンにある労働者層の若者の集まる酒場へ潜りこんだ。無軌道な若者たちの夜の集まりのなかに、流通する新型ドラッグ。それが西から持ち込まれたという噂の真偽を確かめろという指示は、追跡に少々時間がかかりそうだ。