チタン・マグネシウム・ニッケル・鉛の種類・特徴・用途とは~非鉄金属早わかりガイド④

はじめに

この記事では、非鉄材料のなかでもチタン・マグネシウム・ニッケル・鉛に絞ってその性質・用途を紹介します。これまでの記事で、非鉄金属材料・加工方法の基礎知識や、材料選定のポイント、代表的な非鉄金属材料であるアルミニウム、銅について分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。

また、以下の記事では金属材料やプラスチック材料について、種類や性質、用途についてご紹介しています。こちらも合わせてご参考下さい。

チタン、およびチタン合金の種類・特性・用途

①チタンの特徴

チタン(titanium)は、比較的比重が小さく(4.50、室温)、融点が高い(1,933K)金属です。また、熱伝導率(21.9W/m・K)および導電率(42.0×10—6Ωcm)が低く、化学的には非常に活性でありますが、表面に安定なTiO2が生成されるため耐食性が良好です。機械的性質は、強度が高く延性に富み、継目無管は化学装置、石油精製装置などに使用されています。

②チタン合金の特徴

チタン合金(titanium alloy)は、生成組織によりα型合金、β型合金および(α+β) 型合金が知られています。α型は延性があり、β型は強度が高くなります。
実用合金では(α+β)型が多く、JIS規格では、TKYxxxHあるいはTKYxxxCで表示します(xは種類番号を示し、Tはチタンを、Kは製品形状を意味し(Pは板、Bは棒)、Yは主要元素で、Hは熱間加工の仕上げ品、Cは冷間加工仕上げ品を示しています)。

<表1>に主なチタン合金板及び条材の引張特性を示します。合金元素の添加量はいずれも10mass%以下で、比重はほとんど変わらず、強度や耐食性が改善された合金です。主な用途は、医療機器、生体用から建築素材、メガネフレーム等です。
軽量で高強度を必要とする航空機部材では、アルミニウム合金に代わってチタン合金が使われています。特に、軍用機では飛行条件が厳しいため、チタン合金が多用されています。

<表1>主なチタン合金板および条材の引張特性
種類 記号 化学成分(1)
mass%
引張強さ
Mpa
0.2%耐力
Mpa
伸び
%
1種 TP270H,—C Fe:0.2> 270~410 105< 27<
11種 TP270PdH,—C Fe:0.2>
Pb:0.12~0.25
270~410 065< 27<
14種 TP345NPRCH Fe:0.3>
Pb:0.01~0.02
Cr:0.1~0.2
Ni:0.35~0.55
345< 275~450 20<
19種 TP345PCoH,—C Fe:0.3>
Pb:0.04~0.08
Co:0.2~0.8
345~515 275< 20<
60種 TAP6400H,—C Fe:0.4>
Al:5.50~6.75
V:3.5~4.5
895< 825< 10<
61種 TAP3250H,—C Fe:0.25>
Al:2.5~3.5
V:2.0~3.0
620< 485< 15<
80種 TAP8000H,—C Fe:1.0>
Al:3.5~4.5
V:20.0~23.0
640~900 850> 10<

注(1) Ti: 残 (JIS H 4600-2001より抜粋)

★トピックス
チタンは軽くてきれいに長持ちします。独自の表面仕上げ等により独特の風合いや色彩を持ったチタンが伝統的な神社仏閣やランドマーク的な建築物の屋根や壁に使用されています。例えば、<写真1>に示す浅草寺宝蔵門の本堂及び五重塔の屋根には、旧来の日本瓦の風合いを有するチタン製瓦が採用されました。優れた耐食性と約1/5の軽量化により、建物の耐久性や耐震性が高められています。

<写真1>浅草寺宝蔵門(東京都)
<写真1>浅草寺宝蔵門(東京都)

マグネシウム、およびマグネシウム合金の種類・特性・用途

①マグネシウムの特徴

マグネシウム(magnesium)は、比重が1.74で構造用金属の中で最も小さく、強度も高い一方で、電気化学的に卑な金属であるため、酸化しやすい材料です。また、結晶構造は最密六方晶であるので、すべり変形は強い方向性をもち、冷間加工はしにくい特徴があります。熱伝導性はアルミニウムの1/2程度ですが、鉄の2倍ほどの熱伝導率であり、高い振動吸収性と電磁遮蔽性を有しています。
用途としては、最軽量構造材、携帯電話、PC筐体から生体材料まで拡がっています。

②マグネシウム合金鋳物(magnesium alloy castings)の特徴

Mg-Al系、Mg-Zn系、9Mg-Al-Zn系があり、これに結晶粒の微細化や耐食性改善のために、微量のSi、Mn、Zrなどが加えられています。さらに、高温強度を向上するために希土類元素を添加した合金があります。JIS規格では合金鋳物とダイカスト合金があり、それぞれMCx(JIS H 5203)とMDCx(JIS H 5303)のように記述されています(xは種別番号を示す)。
<表2>に主なマグネシウム合金鋳物の引張特性およびそれらの特色を示します。

<表2>鋳物用マグネシウム合金の引張特性とその特色
種類 記号 調質 引張強さ
Mpa
耐力
Mpa
伸び
%
特色
JIS ISO
鋳物1種 MC1 F 180< 70< 4< 強度と靱性がある。鋳造性はやや劣る。比較的単純形状の鋳物に適す。
T6 240< 110< 1<
鋳物2種 MC2 F 160< 70< 靱性があって鋳造性もよく耐圧用鋳物としても適す。
T6 240< 110< 3<
鋳物3種 MC3C MgAl9
Zn2
F 140< 75< 1< 強度はあるが靱性はやや劣る。鋳造性はよい。
T6 235< 110< 1<
鋳物6種 MC6 MgZn T5 135< 140< 4< 強度と靱性が要求される場合に用いられる。
鋳物10種 MC10 MgZn4
REZr
T5 200< 135< 2< 鋳造性、溶接性、耐圧性があり高温での強度低下が少ない。
鋳物13種 MC13 T6 255< 175< 2< 現状のマグネシウム合金の中で、最も高温強度が高い。
ISO1種 MgAl6
Zn3
M 160< 75< 3< MC1よりAl、Znの成分範囲を広くしている。
ISO3種 MgAl8
Zn
M 140< 75< 1 MC2よりAl、Znの成分範囲を広くしている。
TF 235< 95< 2<
ISO4種 TE 140< 95< 2< MC2よりZnの成分範囲を広くしている。
(JISH5203-1998より抜粋)

<表3>に主なマグネシウム合金ダイカスト(magnesium alloy die castings)の化学成分とその特色を示します。

<表3>マグネシウム合金ダイカストの化学成分とその特色
種類 記号 化学成分
(mass%)
特色
JIS ISO ASTA相当
1種B MDC1B AZ91B Al:8.3~9.7
Zn:0.35~1.0
Mn:0.13~0.5
耐食性はやや劣るが、機械的性質はよい
2種B MDC2B AM60B Al:5.56.5
Zn:0.22>
Mn0.24~0.6
伸びと靱性に優れる。鋳造性はやや劣る
3種B MDC3B AS41B Al:3.5~5.0
Zn:0.12>
Mn:0.35~0.7
Si:0.5~1.5
高温強度がよい。鋳造性がやや劣る
4種 MDC4 AM50A Al:4.4~5.4
Zn:0.22>
Mn:0.26~0.6
伸びと靱性に優れる。鋳造性はやや劣る
ISO1種A MgAl8Zn1 Al:7.0~9.5
Zn:0.3~2.0
Si:0.5>
Cu0.35>
種々の用途に適合させるため厳密に成分範囲を規定する必要がない
ISO2種 MgAl9Zn Al:8.3~10.3
Zn:0.2~1.0
Mn:0.15~0.6
Si:0.3>
1種AよりもAl、Znの成分範囲を幅広くしている
ISO3種 MgAl9Zn2 Al:8.0~10.0
Mn:0.1~0.5
Si:0.3>
砂型および金型用合金で国内ではダイカストには一般的に用いていない
(JIS H 5203-1998より抜粋)

展伸用はアルミニウムや亜鉛などを加えた合金です。<表4>に主な展伸用マグネシウム合金棒(JIS H 4203-1998)と、これらに相当する外国規格の合金記号を示します。

<表4>主な展伸用マグネシウム合金棒(JIS H 4203-2000)と外国規格
種類 記号 外国規格(1)
JIS ISO ASTM BS DIN
1種 MB1 Mg-Al3Zn1Mn AZ31B MAG-E-111 MgAl3Zn1
2種 MB2 Mg-6Zn1Mn AZ61A MAG-E-121 MgAl6Zn
3種 MB3 Mg-Al8Zn AZ80A MgAl8Zn
4種 MB4 Mg-Zn1Zr MAG-E-141
5種 MB5 Mg-Zn3Zr MAG-E-161
6種 MB6 Mg-Zn6Zr ZK60A MAG-E-143 MgZn6Zr

注(1)外国規格:ASTM(アメリカ),BS(イギリス),DIN(ドイツ)

ニッケル、およびニッケル合金の種類・特性・用途

①ニッケルの特徴

ニッケル(nickel)は、特殊鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼などの合金元素として多く用いられています。

②ニッケル合金の特徴

ニッケル主体のニッケル合金(nickel alloy)では、展伸性、耐食性(Ni-Cu系、Ni-Mo系)、高磁性、高電気抵抗性(Ni-Fe系、Ni-Cr系)、(Ni-Co系、Ni-Cr系)があります。<表5>に主なニッケル合金板の引張特性を示します。

<表5>主なニッケル合金板(0材)の引張特性
合金番号 合金番号 引張強さ
Mpa
0.2%耐力
Mpa
伸び
NW2200 Ni99.0 380< 100< 30<
NW2201 Ni99.0・LC 345< 80< 30<
NW4400 NiCu30 480< 195< 35<
NW5500 NiCu30Al3Ti
NW0001 NiMo30Fe5 790< 345< 45<
NW0665 NiMo28 750< 350< 40<
NW0276 NiMo16Cr15Fe6W4 690< 275< 40<
NW6007 NiCr22Fe20Mo6Cu2Nb 620< 240< 40<
NW6002 NiCr21Fe18Mo9 660< 245< 35<

(JIS H 4551-2000より抜粋)

③ニッケル基超合金の実例紹介

ガスタービンは、燃焼温度が高いほど効率がよくなります。しかしながら、750℃以上の温度にさらされる場合、汎用材料では対応できず(規格表にない)、経験と努力による合金開発しかありませんでした。このようにして開発された合金の例を<表6>に示します。

<表6>ガスタービン・ジェットエンジンなどに使用されるニッケル基超合金

No. 種類 合金名 特徴
1 Fe基:Ni-Fe基
耐熱合金
A-286
Discalloy,V-57
Ni 25 wt%、Cr 15 wt%l+Ti、Al添加、Ni3(Al,Ti)の析出強化
2 Co基
耐熱合金
HS-21,45
S-816
WI-52
Co基+25 wt% Cr+Ni
3 Ni基
耐熱合金
Nimonico75~120
Hastelloy X
Nimonic115,120
Udmet 700
Astroy,IN-100,B-1900
MAR-M246, 247
現在主流。Ni基+Co、Crの素地、Mo+Wで強化。NiとAl、Ti、Nb、Taなどとの金属間化合物により析出強化したもの

なお、近年におけるジェットエンジンの実用温度の改善は、組織制御(多結晶→柱状組織→単結晶)や融点の高いNi基合金の溶射、冷却方法の工夫に起因しています。

鉛の特性を利用した、製品事例の紹介

鉛は優れた特性を持った有用な金属であり、その特性を利用して、鉛蓄電池・管球ガラス・鉛管・遮音、遮蔽用鉛板等々多方面に使用されてきた人々の生活にとって重要な基礎資材の一つです。
特に、<写真2>に示すようにJIS認証を取得した鉛板は全国の医療施設のあるX線/CT室や手術室、PET/CTなどの遮蔽壁材として長年使用されてきました。一方で、その低融点を利用して、永年使われてきた鉛はんだ(Pb-Snを主体とした合金)は、人体や環境への有害性の主張のもと使われなくなっています。

<写真2>X線装置の遮蔽壁材(鉛板)
<写真2>X線装置の遮蔽壁材(鉛板)

まとめ

ここでは、非鉄材料のなかでもチタン・マグネシウム・ニッケル・鉛に絞って紹介しました。以上、4記事に渡った非鉄金属の基礎知識シリーズでした。試作を考えている方で、金属材料の使用を検討している方は、ぜひ他記事と合わせてご参考下さい。

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