はじめに
この記事では、非鉄金属材料の種類と加工方法と選定ポイントについて解説します。私たちの身の回りには、鉄以外の金属材料として、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、錫およびこれらの合金が使われ、私たちの暮らしを豊かにしています。それぞれの金属の特徴を活かし、使用目的に合うよう上手に加工・処理され、使いこなされています。
非鉄金属材料の選定を行なう際に、押さえておくべきポイントは下記4つです。
(a) 非鉄金属材料にはどのようなものがあるのか
(b) それぞれの非鉄金属材料がどのような性質を持っているのか
(c) それぞれの非鉄金属材料の持つ性質が加工方法や処理方法によってどのように変わるか
(d) 多くの非鉄金属材料の中から目的に適したものを選択するにはどうすべきか
まず、本記事では、上記(a)から(c)に関わる内容であり、非鉄金属材料において適用すべき最適材料と有効な加工方法を選定するに際して必要な基礎知識を紹介します。
なお、非鉄金属は、鉄鋼に添加することによって鉄鋼の特性を大きく変え高度化することができる貴重な材料ですが、本記事では、非鉄金属そのもの及び非鉄金属をベースとする合金を取り上げます。
以下の記事では、金属材料やプラスチック材料について、種類や性質、用途についてご紹介しています。こちらも合わせてご参考下さい。
非鉄金属は、鉄と比べて軽いという特徴を持つ
鉄以外の金属は種類も多く、特徴はそれぞれによって異なりますが、共通して言えることは鉄に比べて軽い(比重が小さい)ことです。そのため、装置・デバイスの軽量化の際に、非鉄金属を用いた軽量化がよく検討されます。それ以外の特徴として、耐腐食性(さびにくい)や、電気伝導率、熱伝導率、加工性等において個性ある特徴を持っています。
私たちが普段使用する硬貨は、実は非鉄金属の合金によって作られていた!
よく知られた非鉄金属として、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、錫およびこれらの合金があります。
一番身近な非鉄金属として、私たちが日常使っている硬貨について紹介しておきましょう。<写真1>に示す日本の硬貨は、一円玉を除いてすべて銅合金です。黄色がかった五円玉は黄銅(銅亜鉛合金)、赤みがかった十円玉は青銅(銅錫合金)になります。五十円玉、百円玉、五百円玉は、どれもおなじ白銀色をしています。これらは同一組成の白銅であり、ニッケル(Ni)が入っているため非常に錆びにくい特徴を持っています。これら硬貨の化学組成を、<表1>に整理しました。
硬貨は大量に造られる為加工し易く、また長い期間に渡って汚れたり変質したりしてはいけません。そのため、かつては金や銀が用いられていましたが、<表1>に示す金属・合金の素晴らしい特性が金・銀の役目を引き継いでいるのです。
合金名称 | 合金の組成 (wt%) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
銅 | ニッケル | 亜鉛 | スズ | アルミニウム | ||
500円玉 | 白銅 | 75 | 25 | ― | ― | ― |
100円玉 | 白銅 | 75 | 25 | ― | ― | ― |
50円玉 | 白銅 | 75 | 25 | ― | ― | ― |
10円玉 | 青銅 | 95 | ― | 4~3 | 1~2 | ― |
5円玉 | 黄銅 | 60 | ― | 40 | ― | ― |
1円玉 | アルミニウム | ― | ― | ― | ― | 100 |
目的に応じて選択~非鉄金属の加工法は代表的なもので6種類に分類される~
こうした非鉄金属材料を用いて部品や装置を試作するには、材料を加工して所望の形状・性質にしなければなりません。<表2>に、代表的な6種類の加工方法の特徴を一覧として示します。
加工 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
鋳造 | (1)小さな部品から大形部品まで製造可能 (2)複雑形状部品の製造可能 (3)対象材料に材質上の制約が少ない (4)比較的安価 |
(1)製品重量が比較的大きい (2)用途によっては仕上げ加工が必要 |
塑性加工 | (1)加工時間が短く、量産品において生産性が高い (2)材料の無駄が少ない (3)機械的性質において信頼性の高い製品が得られる |
(1)金型が必要 (2)加工品の形状に制限がある (3)加工対象材料に材質上の制約がある (4)加工中に大きな騒音が発生する |
粉末冶金 | (1)高融点材料、複合材料による部品の製造が容易 (2)量産品の製造に適す (3)最終形状に近い製品の成形が可能で、切削加工を省略可能 |
(1)金型が必要 (2)成形できる加工品の形状に制約がある (3)粉末原料が比較的高価 |
溶接 | (1)異種材料の接合が可能 (2)肉厚、寸法上の制約がない (3)大形構造物から微細部品まで溶融接合可能 |
(1)局部的な熱影響による材質の変化、変形、残留応力を生じる (2)溶接欠陥が生じやすく、場合によっては検査が必要 |
切削 | (1)寸法・形状精度の高い部品が得られる (2)さまざまな複雑な形状の部品を加工可能 |
(1)切削油剤が必要 (2)工具の折損・摩耗によって寸法精度が変化 (3)切り屑処理が必要 |
研削 | (1)切削よりも表面粗さ、形状精度、寸法精度の高い部品の加工が可能 (2)硬脆材料の精密加工が可能 |
(1)研削液が必要 (2)研削油剤および切り屑の処理が必要 |
放電加工 | (1)高硬度材・難削材の加工が可能 (2)微細形状加工や微細穴の加工が可能 |
(1)加工液が必要 (2)被加工物が導体でなければならない |
それぞれ加工に特徴があり、場合によってはその特徴が長所にも短所にもなることがあります。そのため適正な加工方法の選択には、加工方法毎の原理や特徴を把握しておく必要があるのです。
非鉄金属を選定する際に押さえておくべき、9つの注意点
材料選定は、試作担当者にとって重要な問題です。非鉄金属の種類とその特性は干差万別です。非鉄金属材料の特性情報・知識がベースになることは勿論ですが、試作業者や身の回りの先輩方のアドバイスを得ながら相談して決めていくことになるでしょう。
最後に、材料選択時に留意すべき9つのポイントを<表3>に示します。
No. | 観点 | 留意すべきポイント |
---|---|---|
1 | 材料特性 | 機械強度(強さ) |
2 | ぜい性・硬さ | |
3 | 展延性 (弾性・靭性など)⇒ 加工性に寄与 | |
4 | 減衰能(振動吸収性)⇒(中長期)信頼性に寄与 | |
5 | 耐熱性⇒(中長期)信頼性に寄与 | |
6 | 耐摩耗性⇒(中長期)信頼性に寄与 | |
7 | 耐久性⇒(中長期)信頼性に寄与 | |
8 | 耐食性⇒(中長期)信頼性に寄与 | |
9 | 経済性 | 製品化に必要な最終コスト(原料費・加工費など含む) |
まとめ
ここでは、非鉄金属材料の材料・加工方法の基礎知識について解説しました。他の記事では、代表的な非鉄金属である、アルミニウム、銅、その他非鉄材料(チタン・マグネシウム・ニッケル・鉛)について分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。