東京工業大学は2022年11月10日に、総合型・学校推薦型選抜で143人の「女子枠」を導入することを公表しました。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を目指して2024(令和6)年4月入学の学士課程入試から順次実施するものです。
本学が力強く推し進めているD&Iを実現するための「女子枠」導入について本学の考え方をここに説明します。
学士課程入試の概要
本学の学士課程入学者選抜は主に以下の3種類から構成されます。
一般選抜(前期日程)
大学全体で行われる選抜で、共通テストによる第1段階選抜と本学独自の個別試験による第2段階選抜で構成されます。この選抜では、大学全体で共通の選抜方法、試験科目、試験問題が用いられます。
総合型選抜および学校推薦型選抜
学院ごとに行われる選抜で、志願者は自分の志願する特定の学院に出願します。その選抜方法や試験科目などは学院独自のものです。
2024年4月入学者の入試から性別によらず出願することができる一般枠と、女性のみが出願可能な女子枠という2つの枠を設けます。
2024年4月入学者の入試では4学院(物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院)で新選抜を開始し58人の女子枠を導入、2025年4月入学者の入試では、これに加え残りの2学院(理学院、工学院)で新選抜を開始し85人の女子枠を導入します。
女子枠を導入する意義
多様な人々で構成されている社会の課題解決を進めるためには、異なった価値観・経験・知識を持った人々の叡智を集め、力を合わせることが求められます。そして多様性を互いに認め合う意識と環境が整うことで、一人一人が創造性を生かして活躍することができます。
そのために、入学する学生にとって、本学が自分の考えを述べ、相手の考えを聞き、創造性を育むことができるような場であることを常に最優先と捉えています。たとえば、外形的・内面的双方の多様性を尊重するために少数派とされる人々が自由に活躍できているのだろうか、そのような環境が整っているだろうかということを意識しています。
その中で女子学生比率が約13%に留まり、男女共同参画社会を形成しているべき大学の構成員に人的なアンバランスが大きいことが大きな課題の一つとして挙げられます。本学では、女子学生比率の増加のため、これまで、女性研究者や技術者等のロールモデルの紹介をはじめ、オープンキャンパス
での高校生への説明、「一日東工大生」や女性活躍応援フォーラムなどの女性向けイベントの開催、高校への出張講義、小中学生への理科教室の実施、女子寮をはじめとする各種の学生寮の設置、地方からの学生に対する奨学金の設置など、できる限りの改善策にも取り組んできました。しかし、ここ10年程、大きな効果が見られません。また、日本全体でも学士課程の理工系の女性の割合は2000年以降、低迷しています。
本学のみならず、日本の学士課程の理工系の女性比率が低迷しているのは、その根底に歴史的な男女差別やアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の影響があると考えられます。
男女雇用機会均等法など、性差別を禁じる法制度は整備されてきましたが、その後もしばらくは企業の総合職などで女性の採用や活用は進まない時期もありました。このことからも、現状の法整備などの措置では不十分であることがわかります。社会全体でこの問題を共有し改善に取り組んでいくべきです。
こうした背景、現状分析を踏まえ、学びの環境におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進の第一歩として、理系分野は男性の領域だから、あるいは本学の女子学生は少数派だからなどといったアンコンシャスバイアスにとらわれることなく、優秀な女子学生にぜひ本学に入学してほしいというメッセージを強烈に打ち出す必要があると考え、一般選抜(前期日程)とは異なる総合型選抜及び学校推薦型選抜のなかに、一般枠とならんで女子枠を導入する判断をしました。
「女子枠」導入は、それを是正するためのポジティブアクション(男女共同参画社会基本法第2条に定義される「積極的改善措置」)の一つです。この環境の実現に向けて、性別だけでなくエスニシティなど多岐にわたる配慮を行いつつ、男性が圧倒的多数を占める本学学生数の現状において、男女格差の是正を行うことはD&I実現の一歩となります。
本学の「アドミッション・ポリシー」に則して実施される入学者選抜では、受験者をさまざまな観点で評価します。総合型選抜と学校推薦型選抜は、選抜方法や評価方法の多様化を進め、筆記試験だけでは測れない志願者の能力、適性等を多面的・総合的に評価するものです。新たに実施する総合型選抜と学校推薦型選抜では、評価基準も学院ごとに求める人物像の観点から見直しました。
総合型選抜と学校推薦型選抜の一般枠と女子枠で評価基準は異なりますが、いずれも、本学の「アドミッション・ポリシー」に照らして必要な能力を総合的に評価し、これを身に付けていない人は入学できません。基礎学力も含めた総合的な評価が基準を満たす志願者が募集人員に満たなければ、合格者は募集人員よりも少なくなり、その分は一般選抜(前期日程)に配分されます。なお、総合型選抜及び学校推薦型選抜において、一般枠と女子枠を併願して両方とも合格した場合、女子枠の合格者とします。
一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜等の複数の選抜を設け、いずれの選抜においても基礎学力等の評価を行っており、本学を志望する人の受験の機会の確保と適正な評価基準の設定も含め入試の制度は総合的に慎重に設計されています。
女子枠を総合型選抜と学校推薦型選抜に導入するのは、基礎学力に加え、多様な能力を有する学生に本学に入学してもらいたいと考えたためです。女子枠は、D&Iを推進するため、従来の常識にとらわれずに新たなことに積極的にチャレンジし、社会を身近なところから変えてくれるような女子学生に入学してもらうことを強く希望して設定したものであり、各学院において自身の将来像を踏まえた志望動機を論理的かつ明快に説明する能力等を評価するなど多様な評価方法を設けています。
さらに本学では、アンコンシャスバイアスがもたらす弊害をいかに克服するかが課題であると考え、全学においてD&I推進のための施策や研修を実施しています。とくに、構成員同士のオープンな対話を通じて、一人一人が自らのアンコンシャスバイアスに向き合うことが重要です。そのために、インクルーシブなキャンパスを実現し多様な人々が自分らしく活躍できるような環境を早急に整備し、D&Iの考え方への理解を深めていかなければいけないと考えています。
これから大学に入ろうとする若い皆さんが中心となって活躍する2050年に向けて、カーボンニュートラルなどの未来を今から志向し、様々な課題を解決して新しい社会を作っていくことが重要です。
その未来へ向かって、性別、障がい、性的指向・性自認、 国籍、エスニシティ、信条、年齢等に関わらず、すべての個人が活躍できるような環境を実現するための施策に本学は取り組み、多様な価値観・経験・知識により創造性を発揮できる真のD&I社会を創り出すことを目指します。
本学では、今回の「女子枠」導入にとどまらず、多様性を確保するための諸施策を引き続き実施し、それらの効果について常に検証するとともに、「女子枠」を上記のポジティブアクションとしての特別措置と捉えて、今後も、D&Iの進捗状況に応じて、施策実施期間の設定・選抜方法等を見直していく方針です。
このD&Iを推し進めるための取り組みが、ほかの大学ひいては社会全体に、真に多様性を推進する環境が育つことへの一助となることを本学は期待します。