鉄鋼材料の基礎知識③~ステンレス材の特性、用途、選定ポイントを徹底解説~

はじめに

この記事では、ステンレス材の特性、選定ポイントを解説します。他にも、鉄鋼材料・加工方法の基礎知識や、代表的な鉄鋼材料について分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。

ステンレス材は5種類に分類ができる

ステンレス鋼はその名のごとくさび(stain)がない(less)鋼です。鉄中にCrを約11%以上添加すると、鉄の耐食性(corrosion resistance)は著しく改善され、特に空気中でさびなくなります。これは鉄-クロム合金の表面に不働態皮膜(passive film)と呼ばれる厚さ数nmの薄い緻密な酸化皮膜が形成されるからであり、この11%Cr以上の鉄-クロム合金をステンレス鋼と呼んでいます。耐食性は Cr量の増加とともに向上します。

ステンレス鋼は、Crをおもな合金元素とするCr系と、それに加えてNiを添加したCr-Ni系に大別され、金属組織の点からは、Cr系は(1)フェライト系と(2)マルテンサイト系に、Cr-Ni系は(3)オーステナイト系に分けられます。それに加え、オーステナイトとフェライトの二相組織をもつ(4)二相ステンレス鋼、ステンレス鋼としての耐食性を保持し、析出硬化を利用して強度の向上を図った⑤析出硬化型ステンレス鋼の5種類が良く知られています。

ステンレス鋼は、1,273K程度の高温から液体He温度(4K)まで広範囲の温度域で使用できるものもあり、その用途、目的により多くの特徴ある鋼種が開発されています。現在、規格および各社で製造されているものを含めると、200種類以上の鋼種が存在します。

フェライト系ステレンス鋼の性質と用途

16~18%以上のCrを含む鋼で、通常Niは含みません。<表1>にフェライト系ステンレス鋼それぞれの品種について、組成と特性を示します。代表的なフェライト系ステンレス鋼であるSUS430(16~18%Cr,C<0.12%)の焼なましなどの熱処理は約1,120K以下で行うのが普通です。1,273K以上に加熱すると二次再結晶を起こし、結晶粒が著しく粗大化し、冷却中にマルテンサイト相を生成することがあるので注意を要します。

<表1>各フェライト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性
組成と特性 追加特性と組成 更なる追加特性と組成
SUS 430
18Cr ≦0.12C
SUS 409
11Cr-Ti ≦0.08C
加工性
SUS 409L
17Cr-8Ti ≦0.03C(低C)
+加工性、溶接性
SUS 405
13Cr-0.2Al
耐酸化性
SUS 410L
13Cr 低C
加工性
SUS 429
15Cr
+耐食性
SUS 430F
18Cr 高S
被削性
SUS 430LX
18Cr-Ti/Nb 低C
加工性、溶接性
SUS 430LX
19Cr-0.5Cu-Ti/Nb/Zr 極低(C,N)
+耐食性
SUS 443J1
21Cr-0.5Cu-Ti/Nb/Zr 極低(C,N)
耐食性
SUS 434
18Cr-1Mo
耐食性
SUS 436J1L
18Cr-0.5Mo-Ti/Nb/Zr極低(C,N)
+耐食性
SUS 436L
18Cr-1Mo-Ti/Nb/Zr極低(C,N)
+耐食性
SUS 444
19Cr-2Mo-Ti/Nb/Zr極低(C,N)
+耐食性
SUS 445J1
22Cr-1Mo極低(C,N)
+耐食性
SUS 445J2
22Cr-2Mo極低(C,N)
+耐食性
SUS XM27
26Cr-1Mo極低(C,N)
+耐食性
SUS 447J1
30Cr-2Mo極低(C,N)
+耐食性

フェライト系ステンレス鋼の最大の特質は応力腐食割れ(stress corrosion cracking)を起こしにくいことです。それゆえ、フェライト系ステンレス鋼の耐食性をオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性と同等以上に高め、オーステナイト系ステンレス鋼では応力腐食割れを起こす環境でフェライト系ステンレス鋼が使用されています。
耐食性を増すにはC、Nを減少しCr量を高めMoを添加するのが効果的です。C、Nを減少することは靱性改善にも非常に役立ちます。
最近、製鋼技術の発達により比較的容易に極低C、極低N(C+N≦0.025%)の高Cr鋼が工業的に多量に製造できるようになり、18~19Cr-2Mo(SUS444など)の高耐食フェライト系ステンレス鋼が広く用いられています。さらに、耐食性特に耐孔食性(pitting corrosion resistance)を高めた25~30Cr-1~4Mo鋼(SUS447J1など)も生産されています。
オールステンレスキッチン<写真1(イメージ図)>は、フェライト系ステンレス鋼が用いられた具体例です。これ以外にも、薄板として建築内装材、厨房器具、温水器、自動車用部品に用いられています。

<写真1>オールステンレスキッチン(イメージ図)
<写真1>オールステンレスキッチン(イメージ図)

マルテンサイト系ステンレス鋼の性質と用途

12~13%Crを含むSUS410(0.1%C)、SUS420(0.2%C)が代表的な鋼種で、空気中で不働態化する最小限のCrを含み、空気中ではさびにくいですが、水溶液中の耐食性は十分ではありません。しかし、焼入れ性は良好で、焼入れ時にマルテンサイト組織を得、焼戻しにより靱性をもたせることで優れた機械的性質を得ることができます。<表2>にマルテンサイト系ステンレス鋼それぞれの品種について、組成と特性を示します。

<表2>各マルテンサイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性
組成と特性 追加特性と組成 更なる追加特性と組成
SUS 41013Cr ≦0.15C ≦1.00Si SUS 40313Cr ≦0.15C ≦0.50Si
SUS 410S13Cr -0.08C耐食性、加工性
SUS 410F213Cr -0.1C -Pb被削性 SUS 41613Cr -0.1C -高S+被削性
SUS 420J113Cr -0.2C焼入硬化 SUS 420J213Cr -0.3C+焼入硬化 SUS 440A17Cr -0.7C+焼入硬化
SUS 440B17Cr -0.8C+焼入硬化
SUS 440C17Cr -1.1C+焼入硬化
SUS 440F17Cr -1.1C-高S+被削性
SUS 420F13Cr -0.3C -高S+被削性
SUS 420F213Cr -0.2C –Pb+被削性
SUS 43116Cr -2Ni耐食性、靭性

焼入れは1,220~1,270Kにてオーステナイト化後油冷、焼戻しは920~970Kで行うのが普通です。このような熱処理により、SUS410は引張強さ540MPa以上、伸び25%以上、SUS420では 引張強さ640MPa以上、伸び20%以上が得られます。
主として刃物として用いられますが、硬さと耐摩耗性が要求される用途では423~473K程度の低温で焼戻しを施します。
また、SUS440系は0.60~1.20%のCを含む17%Crの鋼で、ステンレス鋼中最も硬く、刃物、外科用器具、ゲージ類、軸受などに用いられます。
SUS410はバルブシート、ポンプシャフトなど機械部品、刃物、SUS420はばね、ボルト、プラスチック成形用の型、刃物などに用いられます。

オーステナイト系ステンレス鋼の性質と用途

Cr添加による不働態化促進効果と、Niの添加により鉄の活性域における腐食速度低減効果を巧みに組合せた耐食合金鋼で、多くの腐食環境において優れた耐食性を示します。<表3>にオーステナイト系ステンレス鋼それぞれの品種について、組成と特性を示します。

<表3>各オーステナイト系ステンレス鋼(品種)における組成と特性
組成と特性 追加特性と組成 更なる追加特性と組成
SUS 30418Cr-8Ni ≦0.08C SUS 30117Cr-7Ni加工硬化性 SUS 63017Cr-4Ni-4Cu-Nb+析出硬化性
SUS 63117Cr-7Ni-1Al+析出硬化性
SUS 301J117Cr-8Ni+耐食性
SUS 301L17Cr-7Ni-N-低C+耐粒界腐食性
SUS 30218Cr-8Ni-0.1C高強度 SUS 302B18Cr-8Ni-2.5Si-0.1C+耐熱性 SUS XM15J118Cr-1.3Ni-4Si+耐熱性
SUS 30318Cr-8Ni-高S被削性 SUS 303Cu18Cr-8Ni-高S-Cu+被削性
SUS 304L18Cr-9Ni-低C耐粒界腐食性 SUS 304LN18Cr-9Ni-N-低C+強度
SUS 304N118Cr-8Ni-N強度 SUS 304N218Cr-8Ni-Nb+強度
SUS 304Cu18Cr-8Ni-1Cu深絞性 SUS XM718Cr-9Ni-3Cu+深絞性
SUS 304J117Cr-7Ni-2Cu深絞性 SUS 304J217Cr-7Ni-4Mn-2Cu+深絞性
SUS 30518Cr-12Ni-0.1C低加工効果性 SUS 305J118Cr-13Ni
SUS 309S22Cr-12Ni耐熱性、耐酸化性 SUS 310S22Cr-20Ni+耐熱性、耐酸化性
SUS 315J118Cr-9Ni-1.5Si-2Cu耐応力腐食割れ性 SUS 315J218Cr-12Ni-3Si-2Cu+耐応力腐食割れ性
SUS 31618Cr-12Ni-2Mo耐食性 SUS 316L18Cr-12Ni-2Mo-低C+耐粒界腐食性
SUS 316N18Cr-12Ni-2Mo-N+高強度 SUS 316LN18Cr-12Ni-2Mo-N-低C+耐粒界腐食性
SUS 316J118Cr-12Ni-2Mo-2Cu+耐酸性 SUS 316J1L18Cr-12Ni-2Mo-2Cu-低C+耐粒界腐食性
SUS 31718Cr-12Ni-3Mo+耐食性 SUS 317J118Cr-15Ni-5Mo+耐食性
SUS 317L18Cr-12Ni-3Mo-低C+耐粒界腐食性
SUS 32118Cr-9Ni-Ti耐粒界腐食性
SUS 34718Cr-9Ni-Nb耐粒界腐食性
SUS 312L20Cr-18Ni-6Mo-N耐食性 SUS 336L20Cr-25Ni-6Mo-N+耐食性
SUS 890L20Cr-25Ni-4Mo-Cu+耐食性

オーステナイト系ステンレス鋼として、最も典型的な鋼種はSUS304(18%Cr-8%Ni-0.06%C)です。このシリーズとしてSUS316(18%Cr-12%Ni-2.5%Mo)、SUS321(18%Cr-10%Ni-Ti)、SUS347(18%Cr-10%Ni-Nb)があります。
SUS316はMoを添加して耐孔食性、耐酸化性を向上させ、SUS321および SUS347はそれぞれTiおよびNbをC量に対応(Ti/C≧5、Nb/C≧10)して添加し、鋼中のCrを主成分とする炭化物MCの代わりにTiC、NbCを生成させ、熱処理や溶接後の冷却過程で起こるMCの粒界析出による粒界隣接部でのCr欠乏層形成に起因する粒界腐食(intergranular corrosion)を防止するよう合金設計したステンレス鋼です。
粒界腐食に対してはCを減少することも効果があるのでSUS304のCを0.03%以下にした304Lも実用されています。この場合、Cの減少に伴う強度低下を補うため、Nを少量(0.05%程度)添加することがあります。

オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性とともに加工性、成形性、溶接性にも優れ、高温強度も高く、低温でも靱性が良好なため、各種化学装置に広く利用され、また建築、食品製造設備、熱交換器、厨房用品、自動車部品、鉄道等車両、原子炉関係、発電関係など広範囲に使用されています。この系の鋼は、耐力は低いものの加工硬化率が高く、冷間加工により高強度を得ることができます。

SUS301はNi量が6~8%で304と比較してやや低いですが、Cを0.1%前後の高めにし、加工硬化を利用して強度を上昇させ、鉄道車両(電車)の車体などに用いられています。特に、<写真2>に示すJR中央線において、最新型E233車両でステンレス材(SUS301L、SUS304)が使用されていることは有名です。オールステンレス車両は、軽量化による省エネ、メンテナンス性に優れることから1985年に現JR山手線に採用されたことを契機に飛躍的な普及を遂げ、現在も順次改良が行われています。

<写真2>中央線車両
<写真2>中央線車両

また、Seを0.15%以上添加して切削性を改良した鋼種(SUS303Se)も実用されています。高Mn鋼は、非磁性鋼(non-magnetic steel)として、核融合炉部材、磁気浮上高速車用部材などの候補材として注目され、実際に使用されているものもあります。
オーステナイト系ステンレス鋼の最大の欠点は応力腐食割れを起こしやすいことです。応力腐食割れを起こす環境としては、塩化物環境、硫化物(ポリチオン酸)環境、高温高圧水、苛性アルカリなどが主なものですが、これまでに環境因子と材料因子との関連がかなり解明され、高Ni材、高Si材(SUSXM15J1系)、不純物制御材など目的、環境に応じて優れた鋼材が開発されています。

二相ステンレス鋼の性質と用途

オーステナイトとフェライトの二相組織をもつ鋼で、代表的な鋼種はSUS329J1で、成分は25%Cr-5%Ni-2.0%Mo-0.03%Cであり、多くの場合、0.05~0.10%のNを添加しています。オーステナイト相とフェライト相の比は、成分、熱処理により多少異なりますが、4~6:6~4です。<表4>に代表的な二相ステンレス鋼それぞれの品種について、組成と特性を示します。

<表4>代表的な二相ステンレス鋼(品種)における組成と特性
組成と特性 追加特性と組成
SUS 329J1
25Cr -4.5Ni-2Mo
SUS 329J3L
22Cr- 5Ni-3Mo-0.1N-低C
+耐食性
SUS 329J4L
22Cr -6Ni-3Mo-0.2N-低C
+耐SCC(Stress Corrosion Cracking)

引張強さ、耐力はおよびフェライト系、オーステナイト系のいずれよりも大きく、伸びはフェライト系と同程度ですが、靱性はフェライト系よりもかなり高いです。また溶接性もフェライト系より優れています。
一般耐食性は、18-8系鋼と同等以上で、特に高CrでMoを含む SUS329J1はリン酸、有機酸に対して優れた耐食性を示します。また塩素イオンを含む環境での耐孔食性に優れ、海水熱交換器の鋼管として使われています。応力腐食割れに対する抵抗性では SUS304より高くなっています。

析出硬化型ステンレス鋼の性質と用途

ステンレス鋼としての耐食性を保持し、析出硬化を利用して強度の向上を図ったもので、基地の組織により、マルテンサイト系、セミオーステナイト系、オーステナイト・フェライト系、オーステナイト系に分けられます。析出硬化元素として、Al、Cu、Mo、Nb、Tiなどが添加されます。<表5>に代表的な析出硬化型ステンレス鋼それぞれの品種について、組成と特性を示します。

<表5>
組成と特性 追加特性と組成 更なる追加特性と組成
SUS 30418Cr-8Ni ≦0.08C SUS 30117Cr-7Ni加工硬化性 SUS 63017Cr-4Ni-4Cu-Nb+析出硬化性
SUS 63117Cr-7Ni-1Al+析出硬化性
SUS 301J1+17Cr-8Ni耐食性
SUS 301L17Cr-7Ni-N-低C+耐粒界腐食性

17-4PH(SUS630)および 17-7PH (SUS631)が最も代表的な鋼種で、生産量もこの種のステンレス鋼のなかで最も高くなっています。前者はマルテンサイト系で17%Cr-4%Ni-4%Cu-0.06%C-0.25%Nb、後者はセミオーステナイト系で17%Cr-7%Ni1.2%Al-0.07%Cの組成です。析出物は前者ではCuに富む析出相、後者ではNiAl相であり、これらが微細に分散析出して硬化に寄与しています。これら両鋼種の耐食性は18Crのフェライト系ステンレス鋼よりは優れています。

17-4PH は歯車、軸、送酸ポンプのライナ、バルブ、コックなど耐食性と耐摩耗性、高強度を要する部品に、17-7PH は航空機外殻、ジェットエンジン部品、スプリングなどに用いられています。
オーステナイト・フェライト系は、多量のCr、Si、Mo、Beなどを含み、高温からの冷却で約50%のフェライトを含む二相鋼です。析出硬化はフェライト地で起こります。Cr、Si、Moを多く含むため耐食性は著しく改善されています。耐摩耗性、耐食性を必要とするポンプ部品、化学装置部品などに使用されています。

オーステナイト系は、析出硬化のためにC、P、N、Ti、Al、Nb、Vなどを添加し、オーステナイト地に、炭化物、窒化物、リン化物、Ti、Alなどの金属間化合物として析出させ硬化させています。SUH 660(A286)が代表鋼種です。こうした鋼種では耐食鋼としてよりも耐熱鋼としての用途が多く、高温用送風機、高温用ボルト、高温用ばねなどとして使われています。

まとめ

ここでは、ステンレス鋼材について解説しました。ステンレスといっても種類ごとに加工性や物性は異なるため、試作の際にどのような種類がよいかは専門家に相談することをお勧めします。以下の加工事業者では、ステンレス材にこだわらず試作全般に関しての相談対応が可能です。ぜひ、一度ご相談してみてはいかがでしょうか。

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