はじめに
この記事では、金属における実例から見る材料特性を紹介します。これまでの記事で、金属の材料・加工方法に関する基礎知識や、材料選定のポイントについて分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。
金属材料は「どんな所」に「どんな工夫をして」使われているの?~8つの金属材料の使用例~
わたしたちの身近な製品のなかで金属材料が用いられる8つの使用例(①自動車、②航空機、③新幹線車両、④橋梁、⑤軸受、⑥半導体接続用極細線(ボンディングワイヤ)、⑦ハンドル車、⑧鋼製建造物)を紹介します。
① 自動車 (Automobile)
燃料であるガソリンの高騰と将来的な化石燃料の枯渇、および二酸化炭素による地球温暖化などの環境問題が重要な課題となっています。そのため、低燃費化、軽量化、リサイクルしやすい材料の選択などに併せて、鉛などの環境に有害な添加材料を使用しない代替材料の開発などの研究が積極的に行われています。そのなかで、近年電気自動車や電気モータとガソリンエンジンを複合した自動車(ハイブリッドカー)の研究開発も進んでいます。
部品の標準化は、部品点数や管理コストの低減につながりますが、消費者の高級志向もあり現在の車では、構成部品数は3万点以上とも言われています。自動車の構成材料の比率は鉄鋼材料が約70%、銅やアルミニウム合金などの非鉄金属が約9%、プラスチックが約8%、ゴム・ガラスが約7%で残りはセラミックスや塗料などです。
<図1>に示す自動車の外板は冷間圧延鋼板であり、その構成割合は約40%と大きく占めます。軽量化のため、板厚を薄くするために、強度の高い鋼板が多用されており、具体的に高張力鋼(High tensile strength steel)、(通称、ハイテン(HT)という)が用いられています。
エンジンの排気系部品には耐食性と高温強度の面からステンレス鋼が使われています。電子制御や電気系統の接続線には、銅のワイヤハーネス(組電線)が使われています。ピストン、シリンダヘッドや熱交換機には軽量であるアルミニウム合金が使われています。
② 航空機 (Aircraft)
航空機は自動車よりさらに軽量化が必要です。民間航空機の機体重量の約80%がアルミニウム合金でできており、その他鉄鋼材料が約13%、チタニウムが約4%と言われています。また、空気抵抗の低減や塗料の重量を低減するため、アルミニウム合金の外板を鏡面仕上げのままにするといった工夫や化学的な腐食による加工法のケミカルミリング(Chemical milling)などもなされています。
<図2>に示す飛行機に用いられる機体外板は超ジュラルミンA2024に純アルミニウムをクラッド(複合)した材料が多く使われています。また、高靭性、長寿命が期待できるA2524あるいはA7150などのアルミニウム合金が大幅に使用されています。さらに最新型の飛行機では、運行中の低燃費特性が重要との判断から、従来機に比べ繊維強化プラスチック材料の使用割合を高め、CFRPが主構造材料として利用するまでに至っています。
③ 新幹線車両 (SHINKANSEN rolling stock)
新幹線の営業開始は1964年であり、当時の車体(0系)の材料は普通鋼でありながら最高速度は220km/hでした。その後高機能を求められるに伴って後継車体には、ステンレス鋼やアルミニウム合金が一部使われてきました。近年では軽量化の要求からアルミニウム合金の使用比率は非常に高くなっています。1992年には、270km/hの最高速度を出せる300系車両を用いた東海道新幹線「のぞみ」が登場しました。
<図3>に示す新幹線には、A6N01合金、A7N01合金およびA5083合金の薄肉でかつ幅広・長尺の押出し形材が使用されたことが知られています。これらの合金は強度が高く、かつ耐食性や溶接性がよく製造時の工数低減が可能というメリットも備えています。従来の鋼製車両重量は約1,000トンでしたが、アルミニウム合金使用により約30%軽量にすることができたとのことです。
その後開発された500系車体(1997年)やN700系車体(2007年)には、ハニカムパネル(Honeycomb panel)などの構造や制振材が使用され、さらなる改良が加えられて機能性や快適性が向上しています。
④ 橋梁 (Bridge)
兵庫県神戸市と淡路島を結ぶ明石海峡大橋が、1998年に完成しました。
<図4>に示す明石海峡大橋は、橋塔高さが283m、スパン(支間)が1991mという巨大吊橋です。橋梁の構造材には焼入れ、焼戻し処理された最高レベルの80キロ級の高張力鋼板が使われています。
また、<図5>に示すように橋を吊っている2本のメインケーブルは、線径5mm、Si 0.9%、引張強さが1,800MPa級の鋼線を127本束ねたストランドを290本(合計36,830本)束ねて直径が1.2mとなったものでした。この1本1本の内部に、ナノメートル(nm)サイズのケイ素(Si)で強化されたフェライトとセメンタイト層状構造がつくり込まれ、長さ4km、総計5万トンのケーブル重量になったとのことです。
⑤ 軸受 (Baring)
軸受とは機械類における回転物の軸あるいは直動する軸を支持する部品です。軸受に使用される材料は、主として軸受鋼SUJ2やクロムモリブデン鋼(たとえばSCM420)です。高荷重、高速運転のもとで高精度を保ち、かつ摩擦、摩耗、騒音が少なく、長期間の使用に耐える必要があります。そのため、材料中の酸化物、硫化物、炭化物や非金属介在物を限りなく低減する必要があります。
軸受の構造・用いられる材料については、軸受提供メーカのHPをご確認ください。例えば、以下の「NTN株式会社」では玉軸受などの構造が詳しく紹介されています。
http://www.ntn.co.jp/japan/products/rollingbearing/radial_ball.html
⑥ 半導体接続極細線(ボンディングワイヤ) (Bonding wire for semiconductor)
パソコン、自動車の電子制御機器や携帯電話およびICカードなどには集積回路が入っています。その回路の接続線の材料は、純金や高純度の銅、アルミニウムが使われていますが、品質の面から従来は、そのほとんどが99.99%の金(Au)です。高集積と省体積化が求められ、金線の直径は年々細径化が要求され、現在では15~30µmの線材が多く使われています。
ところが、近年、高価な金ボンディングワイヤに替わり、大幅なコストダウンが可能な銅ボンディングワイヤが登場しています。しかし、従来の銅ボンディングワイヤは、ワイヤの表面酸化により2ndボンディング性、作業性、使用期限に課題があったため、最近ではパラジウム(Pd)などの貴金属でコーティングされた安価な銅(Cu)ボンディングワイヤが提案されています。
⑦ ハンドル車 (Hand wheel)
ハンドルは古くから移動機器を制御する部品として、様々な機械で使われています。有名なものでは、ダムの水門や貯水槽の水の出し入れの弁を動かすのに使われています。ハンドル車の形状は複雑であり、バルクから機械加工で製作することは非経済的です。このような製品は、鋳造により製造されることが多く、代表的な材料としてねずみ鋳鉄があげられます。
⑧ 鋼製建造物 (Steel construction)
<図6>に示す「東京スカイツリー」は、2012年に東京都墨田区に建設されました。その素材として新開発の高強度円形鋼管P-400T、P-500T、P-630T総量8300トンがJFEスチールから納入されました。また、ツリー上部「ゲイン塔」には新日本製鐵(株)が開発した降伏強度 700MPa級の高降伏点鋼管「PHYP700PB」が、採用されました。本体塔での降伏強度400MPaの「PHYP400PB」、500MPaの「PHYP500PB」に続き、建築構造用鋼管として国内最高レベルの設計強度(降伏強度)を持つ鋼管が、高さ634mの電波塔を支えています。
また、ゲイン塔の中で最も大きな荷重を支える脚部には、設計強度630MPa級の鋼材が求められており、ここには、降伏強度700MPa級のプレスベント鋼管が採用されました。尚、ここでプレスベンド鋼管とは、厚板をプレスにより円筒形に成形した後、継目を溶接してできる鋼管で、建築構造用としては、主として極厚な柱や外径の大きな柱に用いられるものです。
まとめ
ここでは、金属材料にフォーカスし、実例から見る材料特性について解説しました。他の記事では、鉄鋼材料や非鉄金属について、種類や選定ポイント等の基礎知識をご紹介しています。こちらも合わせてご参考下さい。
私たちの身の周り・社会インフラなど様々な場所で、様々な金属材料が特性を活かして使用されています。皆様の試作にあたっても、必要となる金属材料およびその加工方法の選択に役立てていただければ幸いです。