石炭火力と原発が停電危機救う 何か言え毎日新聞

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

 石炭火力発電は二酸化炭素を多く排出するとして嫌われている。ところが、その石炭火力が今の日本の停電の危機を止めたことを、多くの人は知らない。(元記事は&ENERGY嫌われもの石炭火力が停電危機を止めた

◆石炭火力発電が新規稼働し電力不足解消

常磐共同火力の石炭火力発電プラント(撮影・石井孝明)

 2022年から23年の冬に大規模停電が確実視されていた。電力を見る際に「予備率」という指標がある。予想の電力需要に対しどの程度の供給能力があるかを示すものだ。この予備率が東京電力管内では、昨年6月の時点で今年1月、2月にマイナス、その他の地域でもゼロに近いと予想されていた。つまり電力が足りないと見込まれていた。政府は今年冬の節電要請を夏時点にしていた。

 ところが問題は解消しそうだ。電力会社が頑張って供給を増やし、12月の予備率は全国で5%前後に回復した。5%以下は大事故や災害が起きれば電力供給が止まりやすい危険な状況であるが、それでも危機は脱した。

2023年初頭の電力予備率の予想。22年6月と同12月段階(経産省・エネルギーの安定供給確保 から)

 この理由は嫌われものである石炭火力発電、原子力発電が新規稼働、再稼働して供給が増えたためだ。22年の8月には、JERAの武豊火力発電所5号機(107万kW、愛知県)、同11月には中国電力の三隅発電所2号機(100万kW、島根県)が営業運転を開始した。

 JERAは東電と中部電の合弁火力発電会社だ。神戸製鋼所も22年度中に神戸で65万kWの石炭火力の営業運転開始を予定している。これらはすべて高性能の石炭火力発電だ。

 さらに21年3月の福島県沖地震で破損して一時停止した東電の広野火力発電所の石炭火力である5号機、6号機(いずれも60万kW、福島県)も、運転を再開している。また関西電力は美浜原子力発電所3号機(82万kW、福井県)を22年8月から再稼働をしている。

◆日本の石炭火力の技術力は世界トップ

 いずれの発電所も、当初の稼働予定を前倒ししている。そのために経産省の昨年6月からの見通しが大きく変わった。真冬の停電の危機から日本を救った、電力会社の人々に深い敬意と感謝を述べたい。電力会社の人々の頑張りと成果を誰もほめないのは、気の毒すぎる

 ただし電力会社が、こうした事実の広報に積極的ではない。石炭と原子力を活用することへの、変な批判を受けることを避けようとしているのかもしれない。またメディアや専門家は調査不足で、もしくは自分らが石炭火力と原子力を否定したことの自己矛盾を指摘されるため、この事実を指摘しないのだろう。

 石炭火力は、評判が悪い。二酸化炭素の排出量が多いため、なぜか欧米の先進国のNPOが石炭火力を攻撃している。日本には石炭火力に優れたメーカーが多いため、日本企業も標的になっている。

 日本のプラントメーカーの石炭火力の技術力は世界一だ。私はかつて勿来にあるIGCC(石炭ガス化複合発電)のプラントを見た。三菱日立パワーシステムズと常磐共同火力の技術だ(協力したNEDO・石炭をガス化して高効率化を実現「石炭ガス化複合発電(IGCC)」

 このプラントは高温で石炭を燃やし、またそこからのガスを利用して、エネルギーを活用し尽くして発電する。「送電端効率」という発電での熱効率を示す指標(投入エネルギーを電力エネルギーにどれだけ変換できるかを示す)では50%前後となり世界最高クラスの技術だ。世界の普通の石炭火力発電のそれが30%台であることを考えると数値が2倍近い。IGCCでは、さらに60%を目指して技術開発は進む。石炭火力につきものである燃焼による大気汚染物質も除去フィルターと組み合わせてほとんど出ない。ただし、二酸化炭素の排出量は同程度の出力の発電所と比較して数%しか減らせない。

 この方式以外でも日本の石炭火力発電では、メーカーと運用する電力会社の技術、操縦能力の高さによって汚染物質排出量は低く、効率性は高い。それなのになぜか、謎の勢力によって攻撃されている。この嫌がらせで利益を得るのは中国やロシアのエネルギーやプラントメーカーだ。

◆意識高い系の人たちの奇妙な日本企業攻撃

 一例だが、石炭火力をめぐる、おかしな状況を示す変な新聞記事があった。最近はおかしな行動の多い毎日新聞の2021年11月の「斉藤幸平の分岐点ニッポン:資本主義の先へ 「気候不正義」に異議 若者のストに同行 おかしなことには声を上げる」という記事だ。リンクはしない。「マルクス主義者」(21世紀に?!)の斉藤幸平氏を毎日は最近、売り出そうとしている。高校生が住友商事やJBIC(国際協力銀行)の仙台事務所に押しかけた。そのデモに斉藤氏と記者が同行したという内容だ。

 これはバングラデシュのマタバリ石炭火力発電所の拡張プロジェクトの支援を批判するものだ。高校生たちは、「フライデー・フォー・フューチャー」という、スウェーデンの活動家少女、グレタ・トゥーンベリさんの関連団体だ。しかし、その背景の絵を描いている勢力や資金の流れは不明だ。この集団は日本企業と石炭火力を執拗に全世界で攻撃している。

 こうした抗議は軽視できない。住友商事とJBIC、そして日本政府は批判を受けて22年春にこのプロジェクトから撤退してしまった。記事は公表された20年11月に大して話題にならなかった。その撤退に際して私が変な行動の一例として指摘したところ、遅れてプチ炎上してしまった。

「途上国の重要な問題は電力不足」「石炭火力は一番安い」「なんで日本企業が利益を出すことを妨害するのか」「日本の石炭火力の効率は世界一なのに」「なんで仙台で」「登場人物すべてが意識高い系の無責任な人たち」「学生なら、学者なら、もっと勉強して」。この記事にそんな批判が並んだ。いずれも妥当なものだが、騒いだ高校生も、斉藤氏も、毎日新聞も、答えなかった。

 この人たちにもう一つ聞くことが増えた。「今の日本の停電危機は、石炭火力と原子力で、避けられました。それをどう思いますか」。どうせ答えないだろう。

◆正確な情報と政府の戦略で石炭火力を活用する

停電回避で電力会社に感謝(提供写真)

 この事実を見れば、日本は、電力の安定供給を確保するために、また世界的なエネルギー危機の影響を少なくするために石炭火力発電が当面は一定量必要だ。実は石炭の価格も上がっているが、発電コストはまだ原子力以外の天然ガスや石油などの発電に比べて安い。他のプラントよりも建設は早くできる。日本の高効率の石炭火力発電システムを輸出すれば、二酸化炭素は大きく減らせなくても、世界の人が大気汚染や電力不足に苦しまなくてすむ。日本国内でも石炭火力が増えれば、社会に多くのメリットがある。

 気候変動も大切な論点だ。しかしエネルギーで日本と世界の「今そこにある危機」は、電力の安定供給である。その問題をある程度解消するのが、エネルギー源としての石炭と原子力だ。民間事業者は、世論、いや「変な人たちの作る世論だと称する抗議」に弱い。ノイジーマイノリティ(うるさい少数者)たちが、勉強もせず、不透明な背景を持ちながら、民主主義を「ハッキング」することが頻繁に起こる。気候変動、エネルギー問題もそうだ。

 そうした状況を避けるには、国がぶれずに「今の日本はエネルギー危機にあるから、石炭火力を使う」ことを宣言すること。民間においては、変な人たちの騒音をみんなではねつけ、民間企業が合理的な選択をできる状況を作ることが必要だ。身近なことを考えると、石炭火力がなければ、私たち日本国民は停電の危機、つまり真冬や真夏の健康被害、最悪の場合は死の危険に、今後も晒され続けるのだ。そしてノイジーマイノリティは、自分の価値観を社会に押し付けないでほしい。最後の願いは、いつも無視されてしまうけれど。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「嫌われもの石炭火力が停電危機を止めた」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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