性犯罪規定見直し 「同意が必要」認識共有を

 人の尊厳を踏みにじり、心身ともに深く傷つける性犯罪の処罰はどうあるべきか。刑法の規定を見直している法制審議会の部会に先日、法務省が試案を示した。

 規定を巡っては、前回2017年の改正で強制性交罪の法定刑の下限が懲役3年から5年に引き上げられるなど厳罰化された。だが、改正後も性犯罪の無罪判決が相次ぎ、全国にデモが広がった。被害者団体を中心に法の不備を指摘する声は依然根強い。

 現行法では、相手の意に反して性交を強いても、それだけでは処罰されない。強制性交罪は加害者による「暴行・脅迫」があったことを証明せねば成立せず、被害者がいかに強く拒んだかが問われる。その解釈は曖昧で司法判断にもばらつきがあった。

 試案は、処罰できる要件として現行の「暴行・脅迫」に加え「上司・部下、教諭・生徒といった関係性を利用する」「不意打ち」「アルコール・薬物を摂取させる」「心身の障害に乗じる」など計8項目の行為や状態を挙げた。これらによって被害者を「拒絶困難」にして性交などした場合が処罰の対象となる。

 「恐怖で声が出なかった」「相手の立場が上で逆らえなかった」といった被害の実態を踏まえ、刑罰の適用範囲を分かりやすく示したのは評価できる。

 一方、被害者団体などが外国にも例があるとして強く新設を求めてきた「不同意性交罪」は、今回採用されなかった。被害者の内心によるところが大きいため何が罪に当たるかの客観的な線引きが難しく、冤罪(えんざい)が生まれる可能性も否めないためだ。

 ただ、これでは見直し議論のきっかけとなった「同意のない相手への性行為は許されない」との被害者側の切実なメッセージが十分に反映されたとは言い難い。当事者らは「抵抗できたかどうかの証明を被害者に求める運用は変わらない」と反発している。

 法制審の部会は今後、試案に基づき改正要綱案をまとめる。相手の意思に反する性交を絶対に強いてはならないという最も大切な理念をどう具体化するかを含め、丁寧に議論を重ねてほしい。

 深刻な子どもの被害への対応も急がれる。性交に同意する能力があるとみなす年齢の下限を現在は13歳としているが、試案では16歳へ引き上げた。13歳は主要国で最も低いとして問題視されてきた経緯がある。

 性被害を未然に防ぐため、前段階に受けやすい行為も新たに犯罪化された。16歳未満に対し、わいせつ目的を隠し、金銭提供を約束するなどして手なずける「グルーミング」や、性的部位の盗撮などが新たに処罰対象となる。

 法整備と同時に欠かせないのは社会の意識を変えることだ。「望まない性行為は決してあってはならない」との認識を、性教育などを通じて共有していく必要がある。

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