法務省が、法制審議会の部会に、刑法の性犯罪規定見直しの試案を示した。

 強制性交罪などで処罰できる要件に関し、現行法の「暴行・脅迫」のほか、不意打ちや恐怖・驚(きょう)愕(がく)させる、上司・部下といった関係性の利用など8項目を例示した。

 それらの行為によって被害者を「拒絶困難」な状態にさせた場合を処罰の対象としており、処罰の範囲が広がる可能性がある。

 「暴行・脅迫」が処罰要件とされる現行法では、被害者が激しく抵抗したかどうかが問われる。

 しかし実際には、恐怖で声を上げられなかったり、不意打ちで動けなかったりした事例が多数あり、法の不備が指摘されていた。

 一方、試案では「同意のない性交」を処罰要件とする案は見送られた。

 「同意」という心の内を図ることは難しく、冤罪(えんざい)につながりかねないとの懸念は理解できる。

 ただ、海外では同意の有無を重視する国が増えている。英国やカナダなどでは、同意がない性行為も処罰対象となっており、スウェーデンでは自発的な性交でなければ犯罪と見なす規定がある。

 「拒絶困難」を処罰の要件とすれば、結果としてこれまでのように、被害者がどのように拒絶したか否かが問われる運用が続く恐れもある。

 同意のない性交は罰するというメッセージが伝わる条文にすべきだ。

 具体的な要件をより幅広く例示するなど、加害者を適切に処罰できる規定が求められる。

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 公訴時効は、強制性交罪などが10年から15年に、強制わいせつ罪などは7年から12年に延長された。18歳未満で被害を受けた場合は、18歳になるまでの年月を加算し、時効をさらに遅らせる。

 幼少期から性的虐待を受けた40代の女性がこのほど、広島地裁に70代の父親を訴えた裁判では、除斥期間を理由に請求が棄却された。

 女性は「こんな判決は理解できない。被害者は一生被害者だ」と述べた。

 性暴力は「魂の殺人」とも言われる。性被害に遭ってから訴えるまでに時間を要するケースは多い。

 特に性暴力に関する知識が乏しい幼少期には、恋愛や日常だと思い込まされるなど、犯罪だと気付くのに時間を要することがある。

 人を長期間苦しめることを考えれば、時効撤廃も視野に検討する必要がある。

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 性犯罪を巡っては2017年、女性だけだった対象を広げたり、法定刑を引き上げるなどの改正が行われた。

 しかし実態には程遠く、19年、性犯罪事件の無罪判決が相次いだことをきっかけに始まったのが「フラワーデモ」である。現在も沖縄を含め各地で続いている。

 試案の改正点の多くは、17年時点で被害者や支援者から指摘があったことを考えれば、国や国会の責任は重い。 規定の見直しはもちろんだが、相手が望まない性行為は犯罪であるとの認識を社会で共有する施策を取るべきだ。