(社説)性犯罪対策 確実に罰する法整備を

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 人を心身ともに深く傷つけ、「魂の殺人」とも呼ばれる性犯罪は、表面化しにくく、被害を訴えても、加害者が刑事責任を負うことなく終わることが少なくないと言われてきた。すべき処罰をもれなく行うための法整備を急がねばならない。

 刑法の性犯罪の規定を見直している法制審議会の部会に、法務省がおととい試案を示した。

 刑法の下では、相手の意に反して性交を強いても、それだけでは処罰されない。強制性交罪は、加害者による「暴行・脅迫」を要件とし、被害者の激しい抵抗があったかが問われてきた。しかし現実には「恐怖で声も出ない」「加害者の立場が上で逆らえない」などで抵抗できないことがあり、法の不備が指摘されてきた。

 試案は、不意打ち、恐怖・驚愕(きょうがく)させる、雇用主や教師などが地位・関係性を利用するといった要件も明示し、そうした行為によって被害者を「拒絶困難」にして性交した場合に処罰対象とすると規定している。強制わいせつ罪も同様にする。

 当事者がはっきり「ノー」といえない被害実態があることをふまえ、法の網から抜け落ちてきた被害をすくいとろうという方向性は評価できる。

 一部の市民グループが求め、外国にも例のある「不同意性交罪」は「何が罪に当たるか明確でない」として入らなかった。被害者の内心によるところが大きく、罪の規定があいまいになるとの説明には理がある。

 ただ、とりわけ「ノー」と明確に示している人に性交を強いる行為は重大な性的自由の侵害で、性犯罪の核心部分だ。確実に処罰が及ぶと誰にでもわかるようにはっきり示せないか、さらに検討してほしい。

 受けた行為をすぐに理解できないこともある子どもの被害にきめ細かく対応できるようにすることも、急ぎの課題だ。

 現在は、13歳未満へのわいせつ行為は同意の有無を問わず犯罪だが、試案は13歳以上16歳未満に対して5歳以上年長の者が行為に及んだときも同様の扱いとした。また、16歳未満にわいせつ目的で面会を求める「懐柔(グルーミング)行為」も犯罪と位置づけた。より深刻な犯罪につながりうる行為だが、社会に理解が浸透しているとはいえず、広く議論する必要がある。

 試案の改正点の多くは、性犯罪を厳罰化した17年の刑法改正の過程で被害者・支援者から求めのあったものだ。改正後も性犯罪の無罪判決が相次ぎ、デモが広がった。政府・国会の対応が後れをとったことは明白だ。

 不処罰を封じることは、将来の被害の防止にもつながる。部会に課された責任は大きい。

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