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この作品「白冽のマリスガイン 第3話 大人たち」は「オリジナル」「一次創作」等のタグがつけられた作品です。
白冽のマリスガイン 第3話 大人たち/レジェメントの小説

白冽のマリスガイン 第3話 大人たち

3,272文字7分

「もし本当に、子供の操縦する、ワンオフの、人型巨大ロボットが、現代の地上で動いたら?」

注意事項などは第1話の説明文を参照してください。

2023年1月8日 12:39
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 国会・衆議院予算委員会。

 その日は、JACEIRAジャセイラの行っているアクター募集について、与党が質問攻めを受けていた。野党議員が質問し厚労相や総理が答える。



「――JACEIRAの募集しているアクターですが、説明では業務内容が『ロボットの体の動きを担当する』となっています。これは、研究中建設機械の"運転"ではないでしょうか」

「アクターの募集条件は14歳以上17歳以下となっています。つまり、18歳未満の者が建設機械を運転するという事です。これは労働基準法第62条で禁止されている、『満18歳未満の危険な業務への就業』に当たるのではないでしょうか?」


<――厚生労働大臣>

「JACEIRAのアクターが労働基準法第62条に抵触するのではないか、という事ですが、JACEIRAの建設機械は、次世代建設機械研究整備法に基づき経産省に申請・受理されています。ですので、省令で掲げられた内容に当てはまるものだったとしても、その制限を受けません」


<――君>

「内容的に当てはまるのに18歳未満が従事できてしまうというのは危険ではないでしょうか」


<――厚生労働大臣>

「申請されている研究中建設機械の運転は、都道府県労働局長登録教習機関が各研究に個別に用意する技能講習を修了することで可能になります。技能講習の受講自体に年齢制限はありませんので、18歳未満でも技能講習を修了すれば運転可能です。JACEIRAのメンバー企業の中には登録教習機関がありますので、そこを通じて技能講習が行われると思われます」

「技能講習の内容は受講者の年齢によらず一定です。大人も受講する内容を修了できた者ならば、それが18歳未満でも従事に問題は無いと考えます」



「――高校生以上はいいとして、14歳・15歳の中学生はこれ児童労働になります。JACEIRAの事業は、労働基準法第56条で児童労働が禁止されている『工業的な事業』ではありませんか?」


<――厚生労働大臣>

「会社の事業を絶対的に分類する法律や機関はございません。例えば日本標準産業分類なら、JACEIRAの事業内容は『学術・開発研究機関』に分類され、これは労働基準法で"非工業的"とされる『教育、研究又は調査の事業』に当たると考えられます」

「工業的な事業なのか、最終的に判断するのは所管する労働基準監督署です。政府としては、労働基準監督署の判断を尊重したいと思います」


<――君>

「でも建設機械を運転するのは工業的ではありませんか?」


<――厚生労働大臣>

「児童の使用の制限は事業の種類によって判断されるので、建設機械の運転を理由に制限することは無いと思われます」

「そもそも、JACEIRAの募集しているアクターが研究中建設機械の運転者と同一なのか、運転者と言えるのかは不明です。アクターの業務内容がJACEIRAの説明通りなら、そこに工業的要素・危険性は無いと考えられ、映像作品や演劇の子役と同様の『児童の健康福祉に有害でなく軽易な労働』と言えると思われます。これも、最終的に判断するのは労働基準監督署です」



<――さん>

「いくら合法であってもですね、このJACEIRAのアクターが『危険を伴うかもしれない児童労働』という事には変わりありません。児童労働はSDGsの8番の目標の達成基準にも反します。それを、日本の有名企業達が公然と行おうとしている。世界から批判を受けるのは避けられません」

「国として看過せず、JACEIRAを止める必要があると思いますが?」


<――内閣総理大臣>

「えー児童労働と言っても、児童自身の家の経営する店の手伝いや中学校の職場体験学習、子役などがあり、一概に悪いとは言えません。社会的理由・経済的理由などではない児童本人の純粋なやる気があり、児童の健康や福祉に有害でなければ、問題は無いと考えます」

「次世代の建設機械の研究に参加できる事は、児童にとっても大変貴重な経験になると思います。JACEIRAは批判などのリスクを承知で、子供達に参加してもらい未来の一端を担ってほしいと考えているのではないでしょうか」

「いずれにせよ、国が介入すべき問題ではないと考えます」


 野党議員達の不服そうなぼやきが聞こえた。







 時は2018年に遡る。

 11月21日、『機動戦士ガンダム』の放送開始40周年を記念したイベントの発表会で、横浜山下ふ頭に"動く実物大のガンダム"を作る事が発表された。プロジェクトは2014年から存在しており、世界中の研究者から技術案を募るなど、動くガンダム実現に向けた準備は水面下で行われていた。技術的な目処が立ち公開場所が決まった上での、今回の再発表だった。


 そして、このニュースは工業系企業の間でも話題となった。自動車メーカーの人間と建設機械メーカーの人間が話す。2人とも、会社ではそれなりの地位だ。


「お台場に像ができただけで満足だったけど、ガンダムが今度は動くと言うんだから凄い。何でもやってみるもんだ!」
「いやぁ…… それはたぶんね」

「思ってるほど自由に動かない」
「えぇ?」

「そもそも18mの人形を立たせて動かすなんて物理法則的に無理がある。18mもの大きさならかなり重くなるし、それをアクチュエータで駆動しないといけない。さらにその重い18mが転ぶ倒れるとなれば、それに耐えられるよう作らないといけないし、倒れたら周囲に甚大な被害が出るからその対策もする必要がある」

「じゃあ"動く"ってどういうこと?」
「たぶん、股間や背中から支柱で固定して手足だけぶらぶら動かせるとか、必要最低限の剛性で作って軽くしてマリオネットみたいにワイヤーで動かすとか」

「そうなのか……。がっかり」


「でも人型の巨大ロボットって技術的には作れるって聞いた事あるけど?」
「高さが大体10m以下なら作れると言われてる。それでも、背が高いほど重量や素材の強度の問題が出てくるから、巨大サイズは難しい」

「あの新素材が使えるんじゃない?」
「あっ、あー……」


 新素材とは、自動車メーカーの材料部門と仕入先のファインセラミックス会社が共同で開発した金属基複合材料の事だ。高強度合金鋼を超える強さ・硬さ・剛性を持ちながら、セラミックスの脆性を克服し鋼並みの靭性を備えていた。アルミニウムなどの軽元素が主成分のため比重が鉄鋼の約1/3で軽い。
 添加元素の価格が高く、製造工程が複雑なのもあって量産品の構造材には向いていない。局所用途に使おうにも性能が器用貧乏で、チタン合金や単体のセラミックスなど他材料で十分足りてしまう。開発したものの使い道が無かった。そのため、自動車メーカーはグループ外まで範囲を広げてこの材料の使い道を探していた。

「たしかに例の素材なら、強度を確保しながら重量に余裕を持てる」
「ロボット数台作る程度の量なら用意できるでしょ」


 こうして、新素材の使用を前提としたロボットの開発案が各社に持ち帰られた。


 その後、主に自動車メーカー・建設機械メーカー達で正式に協議が行われ、協力して人型巨大ロボットを作ることで合意。2019年4月に、人型巨大ロボットの開発を専門で行うジョイントベンチャー「JACEIRA Ltd.」が設立され、本格的に研究・開発が始まった。
 JACEIRAを構成するメンバー企業達は、自分らの持つ政界とのパイプを使って政治家達に巨大ロボットの為の法律を整備させた。動く実物大ガンダムの設計で壁となった法規制も回避できるように施されている。


 そして、JACEIRA設立から約3年の月日が経った今、初の本命機であるJACEIRA-1-M30が完成しようとしていたのだった。





― 第3話 終わり ―

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